車両位置監視サービスで使われる無線データネットワーク - 必ずしもブロードバンドだけではないニーズ -

ブロードバンドが主流になって来ている現在，低速のデータネットワークは不必要になっているように思える。AT&Tワイアレスはアナログセルラネットワーク上でデータ通信を提供してきたCDPDサービスを今年の9月いっぱいで終了すると発表している。VerizonはCDPDの終了予定は発表していないが，長期の新規契約の受付を行っておらず，終了への準備を進めている様である。AT&TのCDPDの終了はCingularとの合併が完了するまで延期され，その時点で再検討される可能性もある。しかし，Cingular自身はCingular Interactiveと言う名称で，パケット無線通信のサービスを提供している。これはEricssonのMobitex規格を使ったもので，1989年にRAM Mobile Data NetworkとしてIBMとMotorolaが始めたARDIS（現在はMotient）に対抗するものとしてスタートした。Cingular Interactiveの利用の多くはEメールであり，CingularはCingular Interactiveの電子メールユーザをデジタルセルラネットワークに移行させようとしている。Cingularは業務用車両の遠隔監視（テレマティックス）等の新しいアプリケーションを増やすことでCingular Interactiveを残す計画であるが，CDPDとCingular Interactiveの両方を続ける可能性は少ない。

ブロードバンドが大きな話題である現在，CDPD，Motient，Cingular Interactive等の低速の無線データ通信サービスは耳に入ってこない。しかし，その必要性はまだ残されている。建物のセキュリティー監視，空調等の遠隔監視／操作，車両の位置／状況の監視にはブロードバンドは不要である。1回の通信でのデータ量は少なくても，低コストで通信が出来る事が重要な条件である。テレマティックスを始め，無線を使った遠隔監視／操作のアプリケーションは今後増えていき，この様なネットワークサービスの需要は今後増えていく可能性もある。

AVL（Automatic Vehicle Location）と呼ばれる車両の位置監視サービスは約100万台の商用車に搭載されている。その40%程度は長距離トラックであり，その殆どには米国全土をくまなくカバーするだけでなくカナダ，メキシコまでも監視範囲に入れることの出来る衛星通信が使われている。衛星を使ったAVLではQUALCOMMのOmniTRACSが圧倒的なシェアを持っている。QUALCOMMはGTE Spacenetの衛星のトランスポンダーをリースしてサービスを提供している。

衛星以外では，AMPS（アナログセルラ），デジタルセルラ，CDPD，Cingular Interactive，Motient，Aeris.netのMicroBurst，NumerexのCellemetry等がある。MicroBurst，Cellemetryは名が知られているサービスではないが，遠隔監視での利用は多い。どちらも通信にはアナログセルラ網のコントロールチャンネルの空きを使い，短い（最大50ビット）の信号を送ることが出来る。車両，建物監視のGPS，センサー等から送られたデータはAeris（あるいはNumerex）のデータセンターに送られる。データセンターがそのデータに関わるサービスプロバイダー（例えばビルセキュリティーの会社）を識別し，そのプロバイダーにインターネット，あるいは専用線などで送られ，サービスプロバイダーがエンドユーザに対して，インターネット，携帯電話など指定された方法で通知を行う。

アナログセルラネットワークをベースにしているので，このサービスはほぼ全主要地域はカバーされている。情報量は少なく，また3〜5秒の遅れがあるが，MicroBust，Cellemetryの魅力は低コストであり，デバイスあたりの通信費は月額5ドル程度ですむ。

アナログのAMPSサービス，あるいそれを使ったCDPD，MicroBurst，Cellemetryの最大の魅力は幅広いサービス地域である。FCCはAMPSの提供を2007年まで義務付けているが，利用者は減っており，2008年以降は終了されて行くであろう。デジタルセルラ網を使うAVLも登場しているが，アナログと違いデジタルには多種の規格があり，利用可能範囲が限られてしまう問題がある。広いアメリカでAVLを含めた自動車向けの位置ベースのサービスを提供するには，速度以上に広範囲で提供可能なネットワークが求められる。