| デジタルケーブルSTBミドルウェアの争い
- OnRamp対MicrosoftのFoundation Edition - |
2004年7月20日号 (ブロードキャスティングレビューシリーズ No.14)
1996年の通信法改正でケーブルTVのSTBのアンバンドルが求められるようになった。しかし,互換性が存在しないことからSTBを家電店で売ることは現実的では無かった。特にデジタルSTBに関しては異なるコンディショナルアクセス(CA),オペレーティングシステム,インタラクティブ・プログラミングガイド(IPG)が存在し,アンバンドル化はさらに難しい。
ケーブルTVのデジタルSTBを家電店で直接にコンシューマに売るには、これらの異なる技術をカバーできる標準規格が必要になる。MSOの共同研究開発機関のCable Laboratories(CableLabs)はこの標準化のためにOpenCableプロジェクトを始めた。それ自体に加え,OpenCable規格には2つの重要なコンポーネントがある。1つは異なるCA(MotorolaのMediaCipherとScientific-AtlantaのPowerKEY)に対応するために,CA部分をPCカードに独立させるPOD(Point of Deployment)カードのCableCARDと標準アプリケーションインタフェースのOCAP(OpenCable Application Platform)である。
OCAPはOpenCableのソフトウェア部分の標準化だけでなく,インタラクティブTV(ITV)の今後の普及に大きな影響を持っている。これまでITVのアプリケーションが普及しなかった理由の1つに標準規格が存在しないことから,個々のシステム環境用にITVアプリケーションを開発する必要があり,開発が高価であったことがある。1つのMSOでも異なるシステムでは異なるハードウェア/ソフトウェア環境があり,同じITVアプリケーションを全システムで使うことは出来ない。
OCAPはANSIに認証され,新しい世代のSTB向けの標準規格になっている。今後導入されるOpenCable対応のSTB,それにデジタルケーブル対応のテレビは全て,OCAPベースのITVアプリケーションを走らせることが出来る。
問題は既存のデジタルSTBである。すでに2200万以上の世帯がデジタルケーブルサービスに加入しており,数多くの非OCAPボックスが設置されている。これらのSTBをOCAP対応の新世代STBに置き換えるには膨大なコストがかかる。しかし,これらの旧世代のSTBが大多数である限り,OCAPベースのITVアプリケーションを開発しても無駄であり,新世代のSTBの機能は使われない事になってしまう。
その解決法として注目されているのがOnRampインタフェース規格である。OnRampはOCAPアプリケーションを旧世代のSTBでも走れるようにトランスレートするJavaベースのソフトウェアエンジンである。OnRampはSTB上で実行され,IPGを含めた全てのアプリケーションを管理する。これまでのデジタルSTBの限定された処理能力,メモリー環境でOCAPアプリケーションを走らせるためにアプリケーションは小刻みにヘッドエンドからSTBに送られ,処理され,使ったコードはメモリーから消去される。OnRampはCableLabs,Cox,Charter,Time Warner,Liberate Technologies,Motorola,Philips,Sun Microsystems,GoldPocket Interactive,Vidiom Systems等が参加しているJava Community Process Expert Groupにより開発されている。
個々のSTB向けのOnRampミドルウェアはLiberate等のSTB向けソフトウェア会社が開発する事になる。MotorolaのDCT2000等のシンプルなデジタルSTBでもJavaを走らせる環境を持っているが,OCAPアプリケーションを本当に旧世代のSTBで走らせることが出来るかに対する疑いも多くあった。しかし,今年のNCTAのNational Showにおいて,LiberateはそのMotorola,S-A,パナソニック向けのOnRampミドルウェアのプロトタイプをデモし,OCAPアプリケーションがこれらの旧世代のSTBでも走らせることを実証した。
MSOは100%デジタルな環境に移行するために低コストのSTB開発に大きな関心を持っている。CableLabsはOnRampを標準規格をして申請する予定は無いと言っているが,OnRampがローエンドのSTBでのOCAPアプリケーションを走らせることが出来るなら、業界のディファクトスタンダードになっていく可能性もある。
デジタルSTBのソフトウェア環境を狙っているMicrosoftがこのOnRampの動きを黙って眺めているはずはない。同社はそのFoundation EditionをOCAPとリンクさせ,既存のSTBでもOCAPアプリケーションを実行可能にする事を狙っており,5月にCableLabsに対してFoundation Editionの基礎になっている.NETプラットフォームをOCAP規格にリンクさせるインタフェースをOCAP規格に含めるための申請を行った。
米国最大のMSOであるComcastはOnRampには参加していなく,最近MicrosoftのFoundation Editionを5万台のSTBで採用する契約を行った。CableLabsはまだ.NETインタフェースをOCAPに取り込むかの決定は行っていないが,ComcastがMicrosoft陣営に入れば,OnRampとFoundation Editionの両方が標準ミドルウェアとなるであろう。ケーブルTVは全米67%の世帯に普及しており,多くの世帯は複数のテレビを保有している事から、デジタルSTBは設置台数が1億台以上になる可能性を持った製品であり,そのミドルウェアの争いは今後さらに激しくなる。
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