| TiVoの今後 - 自社が作り出した市場で成功する事は出来るか |
2004年6月20日号 (ブロードキャスティングレビューシリーズ No.12)
デジタルビデオレコーダー(DVR)はまだ早期にあり,利用者も少ない市場であるが,話題には事欠かない市場である。アメリカではDRVの市場はTiVoとReplayTVが始めた。2社の製品は共に1999年3月に製品を出荷した。TiVoはその年の9月にはIPOを行い,市場でもReplayTVをリードし始める。
ReplayTVは2001年にMP3プレーヤのRioで有名になったSONICblue(設立時の社名はS3)に買われる。ReplayTVはテレビ番組をハードディスクに録画するだけでなく,ネットワーク上でそのファイルを送る事を可能にする機能を搭載する。RioはMP3を広めた製品であり,その会社のSONICblueが今度は映画のコピーと交換を可能にした製品を出したことは映画スタジオを代表するMPAA(Motion Picture Association of America)にとっては大きな問題である。MPAAはSONICblueを訴える。MPAAはSONICblueを敵と見なし,ReplayTVだけでなく,そのデュアルVTRデッキのGo-Videoも不正コピーを助ける製品として訴える。SONICblueはRioに続くヒット製品を出せず,さらにMPAAに狙い撃ちされ,2003年に会社更生法の適応を受け,ReplayTV,Rioの資産を日本のD&M Holdingに売る。
この間,TiVoはDVRの代名詞になるほど著名になっていくが,製品は売れない。しかし,デジタル衛星事業者のDirecTVがTiVo内蔵のSTBを安い値段で提供する事で状況は変わる。DirecTVに取り,高機能なSTBを提供する事は顧客あたりの料金を増し,さらにチャーンを減らす事にも貢献する。2004年第1四半期ではTiVoの利用世帯数は160万世帯で,内90万世帯はDirecTVからの加入者であった。2004年第1四半期の新規利用者数は前年同期の3倍に増えた事でもTiVoの上昇は明らかである。
しかし,TiVoの将来は明るいとは言えない。DirecTVの親会社であったHughesはNews Corp.の一部となっている。News Corp.社はHughesの社名をDirecTVに変え,衛星TVサービスに専念させようとしている。News Corp.社の子会社にはDVR機能をSTBに持たせる技術をもっているNDS社があり,その英国の衛星TV事業のBskyBではNDSを採用している。TiVoとの契約が切れる2007年以降はNDSを採用すると考えられる。
TiVoが2004年第1四半期の好成績を発表した直後,DirecTVは同社が持っていたTiVoの株(全体の約4%)を売りに出した。DirecTVは,すでにデジタル衛星ラジオ事業者,XM Satelliteの株,HughesのSTB事業等,コアでない物を手放しており,TiVoの株を売ったのもその一環であり,TiVoとDirecTV間の契約には全くの影響は無いと発表した。しかし,このニュースでTiVoの株価は15%近く下がった。
TiVoに取り,DirecTV以外の事業者と契約する事は重要であるが,可能性は低い。DirectTVの直接の競合,EchoStar(Dish Network)は独自の技術でDRV機能を組み込んだSTBを提供している。ケーブルTV事業者のTime WarnerとCoxも独自のDVR内蔵STBを使っており,他のComcast,Adelphia,Charter等はDigeo社のMoxiを採用している。
デジタル衛星,それにケーブルTV事業者が付加価値サービスとしてDVRに積極的になることはTiVoに取り,プラスであると同時に急速に自社の手が届かない場所でDVRが普及してしまう可能性もある。市場は作り出すことが出来たが,自社が儲かる以前に市場を奪われてしまうことになる。
TiVoはSTB組込型のDVRにはない高度な機能を開発していくことで,ハイエンドの層を狙おうとしている。その一つとして,テレビ放送の録画だけではなく,有料の音楽,映画等のダウンロードの機能がある。しかし,TiVoがコンテンツサービスの分野に入り込むことはデジタル衛星,ケーブルTV事業者と競合することになっていく。デジタル衛星,ケーブルTV事業者に取り,ペイパービュー,ビデオオンデマンドは重要な収入源であり,TiVoの映画のダウンロードサービスは競合となり,これに力を入れるとDirecTVとの関係をも危なくする可能性がある。
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