DRI テレコムウォッチャー  from USA

このシリーズは毎月20日に掲載!!


主流に乗り始めたVoIP

2004年4月20日号

3月の末にAT&TはCall Vantageと呼ばれる家庭ユーザ向けのVoIPサービスを発表した。サービスは現在,テキサス,ニュージャージー,カリフォルニア等の地域で始まっており,AT&Tは今年の末までに100の都市にサービスを広め,2005年末には100万の加入者を得る予定だと発表している。新規事業者ではなく,電気通信事業者としては老舗のAT&Tがコンシューマ向けのVoIPに本格的に参入したことで,VoIPは大きく前進をした。

AT&TのCall Vantageは,キャッチホン,自動転送,ボイスメール等の通常電話サービスではオプションの機能を無料で含むほか,PCから通話記録を見るサービス,重要通話以外をブロックする機能などのサービスを加えて,通話無制限で月額39.99ドルで提供されている(プロモーション期間中は最初の6ヶ月間は月額19.99ドル)。通話にはこれまでの受話器を使うことが出来るが,サービスを受けるにはDSL等のブロードバンドサービスが必要になる。まだブロードバンドサービスに加入していない世帯は,別途ブロードバンドサービスに加入する必要があり,通話が無制限であっても,特に電話代の節約にはならないであろう。また,ブロードバンドが不通,あるいは停電の時にはサービスが利用出来ないことから,完全にアナログ電話の代替にはなっていない。

VoIPの利用にはブロードバンドが必要なため,DSL上のサービスとしてISPが提供することで機会が登場するとの見方もある。AT&TのCall Vantageの発表と同じ時にLevel 3 Communicationsはホースセール向けの家庭用VoIPサービスを発表した。同社は,付加価値製品としてVoIPに関心はあるが,自ら技術を導入したくないISP,キャリアに対してサービスを提供する戦略で,年末までに300以上の都市で提供の予定である。

ブロードバンドの事業者としてケーブルTV会社もVoIPには強い関心を見せている。ケーブルTV事業者のCox Communications等は以前から電話サービスを提供してきた。2003年9月の時点で,ケーブルTV事業者の提供する電話サービスに加入している世帯数は250万であった。これまでのケーブル電話サービスは回線交換型であったが,最近始まっているサービスは全てIPベースである。Time Warnerはメイン州ポートランドで昨年にIPベースの電話サービスを始め,新たに家庭向けの電話サービスを専門とする子会社のTime Warner Cable Voice Service社を作っている。

ケーブルTV事業者の殆どはIPベースの電話サービスに積極的になっているが,サービスがIPベースであることを強調していない。これは通常のVoIP事業者がVoIPであることをマーケティングの前面に出しているのとは大きく異なる。ケーブルTV事業者は「ケーブル電話」,あるいは「ケーブルデジタル電話」とそのサービスを呼び,VoIPをマーケティング用語には使っていない。ケーブルTV事業者はその電話サービスを既存の電話サービスに代替する物として位置付けており,VoIPが持つインターネット上の低コストのサービスと言うイメージと一緒にされることを嫌っている。ケーブルTV事業者はその電話サービスを既存の物より若干安くする,あるいはTV画面に発信者番号を表示する等,通常の電話サービスでは不可能な機能を加えることで既存と同じ程度の料金で提供することを狙っている。

インターネットを使い,無料で電話をすることから始まったVoIPは進歩し,一般に提供可能なサービスになってきた。AT&TがCall Vantageの発表の時にVoIPは「キラーアップ」になりえるとの発言をした様に,VoIPは実用的な技術になっている。しかし,ブロードバンドアクセス上のオプションとして普及するのか,あるいはケーブルTV事業者が狙うような既存の電話サービスを完全に代替するものとして普及するのか,サービスとしてはその方向はまだ不明瞭である。

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