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アナログ放送終了を早める方法  - FCCのパウェル会長のセンセーショナルな提案
 (ブロードキャスティングレビューシリーズ No.11)

2004年3月20日号

 デジタル放送におけるもっとも困難な決定はアナログ放送の終了のタイミングである。アメリカでは2006年12月31日がアナログ放送終了の予定日になっている。しかし,その前提条件としてデジタルテレビが85%の世帯に普及している事がある。デジタルテレビを受信する事が出来るテレビが85%の世帯に普及するまではアナログ放送を終了させることは出来ない。デジタルテレビの普及はまだ8%以下であり,普及率が2006年末に85%に達する可能性はほぼゼロである。

 しかし,アメリカにはデジタルテレビの普及をのんびりと待っている余裕がない。放送局に対してはデジタル放送専用の周波数帯域が提供されている。アナログ放送終了の時点で放送局はアナログで使っていた帯域を返還し,政府はこれを競売する予定になっている。周波数帯域には余裕が残されていなく,この帯域が返還されないと次世代の無線通信サービスを開始する事が出来ない。さらに同時多発テロ以降,非常時の通信に使われる帯域を増やすことが求められており,この要求を満たすのにもアナログ放送の帯域を出来るだけ早い時期に返却させる必要がある。

 FCCのパウェル会長は最近,デジタルテレビの普及率が85%に満たなく,ずるずるとアナログ放送が続くことを避けるセンセーショナルな方法を提案した事で大きな話題になっている。パウェル会長の提案はデジタルテレビを普及を加速させる施策ではなく,単純に計算法を変えるだけの事である。現在の定義ではデジタル放送の浸透率はデジタルテレビの普及で計られている。パウェル会長はケーブル事業者がデジタル放送をアナログで再送信した場合,その視聴世帯も「デジタル対応」として計算しようとの提案である。見ているテレビはアナログのままであるが,番組自体はデジタルで放送され,それが途中でアナログに変換されていても,番組を見ることが出来るのであればデジタル対応と見なしても良いという理論である。

 アメリカのテレビ視聴世帯の約85%はケーブル,あるいはデジタル衛星放送に加入している。もし,この新しい計算方法を使えば,ケーブルTV事業者とデジタル衛星放送事業者がデジタル地上波放送をダウンコンバートして再放送さえすれば,ほぼ直ぐにデジタル放送浸透の目標に達し,アナログ放送の帯域を放送局から巻き上げることが出来る。ケーブルTVの普及率が低い地域は多少の時間がかかるとしても,デジタルテレビが売れるのを待っているより確実に早い。

 放送局はこの新しい計算方法が受け入れられれば,地上波アンテナに頼っている15%の世帯が放送を無料で受ける事が出来なくなるとして,大きな反対をしている。また,アナログ放送の帯域を早く返還させる事に熱心な議会も,無料放送を無くすことになり兼ねないこの提案の受け入れには難色を示している。

 しかし,無料放送を15%の視聴世帯から奪うことはデジタルテレビの普及が85%に達するのを待っていてでも同じである。ケーブルTV,あるいはデジタル衛星放送に加入しているのは経済的に余裕のある世帯であり,デジタルテレビに買い換える事が出来る世帯と同じである。どちらの方法で計算しても,結局はアナログ放送終了の時点で経済的に余裕のない世帯が無料放送を見られなくなることには変わらない。

 デジタルテレビの普及をこのまま待っていても,85%に達した時点でアナログ放送を終了させようとすればその時点で反対が出るのは必然的である。計算方法がどうであっても,はたして15%の世帯から放送を奪う事が出来るか,あるいは,どのような条件を満たせば良いのかを議論する必要がある。パウェル会長の今回の提案は受け入れられないとしても,この議論の引き金になれば,その価値は十分にあったと言えよう。

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