| 強まるデジタルマルチキャストへの関心 |
2004年1月20日号 (ブロードキャスティングレビューシリーズ No.10)
デジタル放送に対するアメリカ議会の考えとしては新しいデジタル向けの周波数帯域はHDの為に提供された物であり,HD放送の代わりにSD(Standard Definition)の番組をマルチキャストで放送する事はこの基本方針に逆らう物であった。1987年にABC,それに局グループのSinclairがマルチキャストの構想を語った事で議会ににらまれ,裏切り者とまで呼ばれた。
しかし,状況は大きくと変わっている。最近ではNBCを始めに各ネットワークはデジタル放送でのマルチキャストの計画を明らかにし始めており,すでに200に近い局がマルチキャストの放送を行っている。技術の進歩により,HD放送を犠牲にする事無く,SD番組のマルチキャストが可能になっている。HD放送には19.4 Mbpsが割り当てられているが,エンコーダー等の進歩により,現在では約14MbpsでHD放送が可能になっている。残りの約5.5MbpsはSD,あるいはデータキャストに使うことが出来る。現在の技術ですでに5.5Mbpsで1つの通常のSDチャンネルともう1つ,天気予報等の動きの少ない番組を放送するSDチャンネルを提供する事が可能であり,技術の進歩によりより多くのチャンネルのマルチキャストが可能になる。
地上波デジタル放送ではもっとも先進的であるノースカロライナ州のWRAL(CBS)とWRAZ(FOX)は共にマルチキャストを開始している。WRALはCBSのHD放送に加えて24時間のニュース番組とデータキャストを提供している。WRAZはHDNetの提供するHD番組を放送し,同時に24時間の天気チャンネルとFOXのアナログ放送をデジタルで再送信している。
マルチキャストのリーダーは非営利ネットワークのPBS(Public Broadcasting Service)である。現在,マルチキャストを行っている局の多くはPBS系であり,PBSの提供しているマルチキャストチャンネルであるPBS-Kids(子供向け),PBS-U(教育)等をHD放送に加えて提供している。
NBCはHD放送に加えて,ローカルの天気予報チャンネル,映画のプレビューチャンネル等を提供する計画を発表している。1987年にマルチキャストの可能性を発表したABCはまだ具体的な計画は明らかにしていないが,ABCのカリフォルニア州フレズノのKFSNはローカルニュース,天気,地域の政治の話題のチャンネルを提供し,マルチキャストをテストしている。
CBSに加え,UPNをも持つViacom社はそのCBS系の局に対してUPNの放送をマルチキャストすると言うユニークなオプションを提供している。CBS系の局だけでなく,他のネットワーク局にもこのオファーはされており,現時点で8つのCBS局,3つのABC局,それに2つのNBC局がUPNのマルチキャストを行っている。
これらマルチキャストを受信して見る事の出来るデジタルTVを持っている世帯は少ない。また,デジタルTVが普及をしても多くの世帯は地上波アンテナを持っていなく,ケーブルTV,あるいは衛星TV事業者から地上波の再送信を受けており,ケーブルTV,あるいは衛星TV事業者がマルチキャストのチャンネルも再送信をしてくれないと無意味である。FCCはケーブルTV,衛星TV事業者に対して,一般にMust Carryと呼ばれる,サービスを提供してる地域のアナログ放送の局はすべて再送信をしなければ行けないと言う規制を設けているが,デジタル放送に対するMust Carry法はまだ決まっていない。デジタル化されたケーブルTVに対してメインのHD放送を再送信させる規制が出来る事は確実であるが,マルチキャストされるチャンネルもケーブルTV,衛星TV事業者が再送信する義務があるかが大きな争点になっている。ネットワーク,地上波局は19.4 Mbpsの枠内で提供される放送はすべて再送信されるべきだと言っているのに対して,ケーブルTV,衛星TV事業者は再送信の義務はメインのチャンネル1つであり,それがHD放送をしていない時間に余っている容量は事業者が自由に使って良いはずだと反論している。
地上波デジタル放送のマルチキャストが成功するかはケーブルTVと衛星TV事業者に対して再送信の義務をFCCが与えるかにかかっており,ネットワーク,地上波局には自ら道を作ることの出来ない不満がある。この事からマルチキャストを使い,ケーブルTV,衛星TVに対抗出来るサービスを開発し,視聴者を地上波に奪い返す構想も出ている。このモデルとして注目されているのが英国のFreeViewサービスである。
FreeviewはBBC,BSkyB,それに送信機メーカーのCrown Castleのジョイントベンチャーであり,地上波デジタル放送で約30チャンネルのビデオと15の音楽チャンネルを提供している。2002年10月に始まったFreeviewは毎週10万台のSTBを売っており,視聴世帯は250万に達している。その名の通り,FreeviewはSTBを買えば無料で見ることの出来るサービスである。コピー保護等の問題のある映画の様なコンテンツは放送しないことからSTBにはコピープロテクション等は無く,単純なデジタル/アナログコンバーターであり,80ドル程度で購入する事が出来る。もし,このようなサービスがアメリカでも成功をすれば,地上波局はケーブルTV,衛星TV事業者と競合する事が可能になる。地上波放送局を代表するNAB(National Association of Broadcasters)はFreeviewのモデルを使ったサービスが米国でも可能かの調査を始めている。
(この記事はNSI Research社出版のニュースレター,The Compassからの転載です。The Compassに関してはhttp://www.dri.co.jp/dri_f/watcher/compassindex.htmをご覧下さい。)
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