DRI テレコムウォッチャー


大手RHC2社、社運を賭して光ファイバーブロードバンド推進へ

2004年12月1日号

 VerizonとSBC Communications2社は最近、DSLブロードバンドと並行して、光ファイバーによるブロードバンドを大々的に推進する意図を明らかにし、その計画を発表した。
 両社が、光ファイバーへの大々的進出を決意した背景としては、次の2点が挙げられる。
 第1は、ケーブルテレビ事業者との激しい競争の当然の帰結である。ここ数年来両社は、ブロードバンドへの先行投資を進めていたComccast、TimeWarner、Cox等の大手ケーブルテレビ会社(MSO)から激しい攻撃を受けてきた。このため、ブロードバンド分野ではDSLにより2003年以来反撃を開始し、かなりの成果を収めているものの、なお加入者数、品質の両面でMSO諸社の後塵を拝している状況である。しかも、MSOが提供するケーブル電話(ケーブルを使っての市内・長距離通話)の利用者数も250万程度には達しているものとみられ、この面でも大きな脅威を受けている。 
 第2に、投資環境が好転した点が挙げられる。FCC規制の転換が明確になったため、両社の収益拡大基調はすでに2004年第2四半期から明らかになっている(FCCのブロードバンドリース義務解除の裁定については、2004年11月15日付け本ウォッチャー"FCC、異業種間競争によるブロードバンド推進へ"を参照)。このため、これまでRHCの最大のライバルであった大手長距離電話会社2社( AT&T、MCI )は、これまでのような低廉な料金でのアクセス料金によるRHCからの回線のリースができなくなり、毎期減収を重ねており、両社ともに企業存亡の危機に立たされている状況である。両社の減収のかなりの部分がRHCの収入増に回っていると推定される。従って、Verizon、SBC Communicationsは、この収益向上分をブロードバンドへの投資に充当できる見通しが立った。
 このように、VerizonとSBC Communicationsは大きく光ファイバーへの投資に向かうことになったわけであるが、この方向はケーブルテレビ会社との死闘を意味する。両社の成功は、とりもなおさず従来の電話事業からのビデオ事業への大幅進出(換言すれば通信事業からビデオ・通信事業への転換)が成功すれば、ケーブルテレビ事業が衰退することとなる。しかし、通信回線の運用あるいはリースを長年にわたり本業としてきた電気通信業者にとって、“コンテンツ”で勝負するビデオ業界で成功を収めることは至難のわざであって、この前代未聞の試みが成功するかどうかは未知数である。
 早くも、他のRHCに先行して光ファイバーによるサービス提供に入るVerizonの初期の成果が、RHCによる光ファイバー敷設の成否を左右することになるとの意見も出ているほどである。
 本論では、上記の議論の背景について、さらにデータを基にして解説する。

VERIZONとSBC Communicationsの光ファイバーによるブロードバンド推進計画

 Verizon及びSBC Communicationsの光ファイバーによるブロードバンド推進計画を表1で紹介する(注1)。

表1 Verizon、SBC Communicationsの光ファイバーによるブロードバンド推進計画
項 目
VerizonCommunications
SBC Communications
目 標
2005年末までに、9つの州(テキサス、フロリダ、カリフォルニア、メリーランド、バージニア、デラウェア、マサチューセッツ、ニューヨーク、ペンシルバニア)に光ファイバーを敷設する(プロジェクト名、Fios)。
これにより、300万を超える世帯が光ファイバーを利用できることになる。
所要費用は24億ドル。計画遂行にともなう要員増、5000名。
2007年末までに、1800万世帯に光ファイバーの利用ができるようにする(プロジェクト名、Light Speed)。
所要費用は、40億ドルから60億ドル。
使用する
光ファイバー技術
FTTP(Fiber to the premise、加入者まで直接に光ファイバーを引き込むものであり、ファイバー・ツー・ザ・ホームと同じ)。
架設費用は高い(1加入当たり800ドル)がスピードは速い(最高100メガ)。
FTTC(fiber to the curb、直接引き込みではなく、近接地点まで引き込んだ光ファイバーを銅線に接続し、加入者宅まで引き込む)。
架設費用は安い(1加入当り300ドル)が、スピードは遅い(最高2.5メガ)。
コンテンツに対する準備
当面、提携先の衛星通信会社、DirectTVのコンテンツが利用できる。この他、コンテンツ入手については、多くの手段を講じている模様。なお、最近、第9位のケーブルテレビ会社、Insight Communications社から、ケーブル番組編成担当の役員、Terry Dason氏をスカウトした。提携先の衛星通信会社、EchoStar及び、Yahoo!のコンテンツを利用できる。また、最近、マイクロソフトとも提携し、ソフト料に4億ドルを支払う契約を結んだ。11月上旬、ビデオ・オン・デマンド企業、iN DENANDの上級副社長のDan Yorkをスカウトして、ビデオ・コンテントの責任者に任命した。

 上表に示すように、VERISONとSBC Communicationsは、採用する光ファイバー技術こそ異なるものの、両社とも同様の準備体制により光ファイバー利用のブロードバンドサービスを大掛かりに展開する意図を明確にし、競い合うこととなった。もっとも、Verizonはすでに、2004年7月に、同年内におけるテキサス、カリホルニア、フロリダ3州における光ファイバー利用のビデオサービス提供を発表しており、このサービスはすでに実施に移しているところである。この点については、すでに本ウォッチャー(2004年8月1日テレコムウォッチャー住宅用市場から撤退するAT&T、追撃するVerizon")で説明したので、参照されたい。
 また、他のRHC2社、BellSouth、Qwest Communicationsも巨額の投資にたじろぎながらも、将来生き残る道が高速ブロードバンドの導入しかない点は認め、それなりの努力をしている。その取り組み状況は次の通り。
BellSouth
 BellSouthは、SBC Communicationsと同じのFTTC方式により光ファイバー提供を計画している。ところが、同社はこの件について、まだプレスレリースで発表していない。早晩、この計画を発表することは確実とみられる。
Qwest Communications
 Qwest Communicationsは、未だバブル期の後始末で大幅な投資ができる状況にない。同社は、光ファイバーへの投資をあきらめ、代わりに最新のワイアレス技術、MiMaxに期待を掛けている(注2)。

両社が大掛かりの光ファイバー投資を決断した理由
業務多角化の一応の成功
 表2でVerizon、SBC Communicationsが現在、各種サービスの加入者をどの程度獲得したかを見てみよう(注3)。

表2 VErizon、SBC Communicationsの2004年9月末における主要サービス加入者数(単位:万)
項 目
VerizonCommunications
SBCCommunications
アクセス回線数
5390 (5440)
4837 (4867)
長距離回線数
1730 (1680)
2160 (1840)
携帯電話回線数
4210 (4040)
2810 (2710)
DSL回線数
390 (290)
470 (317)
総 計
11660 (11450)
10277 (9738)
(括弧内は2004年6月末の数字)

 ここ数年来、Verizon CommunicationsとSBC communicationsは、本来業務である地域電気通信事業のほか、長距離通信、DSLによるブロードバンドへの進出に力を入れ、同時に従来からサービス提供を行ってきた携帯電話事業の投資にも力を入れて来た。2004年第3四半期末のこれらサービス提供回線の数字は、現時点におけるこれらサービス拡大の一応の成果を示すものである。すなわち両社とも、これら回線数の総計は1億を超え、アクセス回線数の比率は50%を切る状況となっている。
 現在両社は、特にケーブルテレビ会社との競争において、これら回線によるサービスをパッケージで販売することに全力を挙げている。こういう状況からすると、これまでのようにアクセス回線の多少の減を恐れる必要はなくなった。それより、パッケージサービスの構成要素である上記の各種回線数の拡大、バランスが重要になったわけである。
 Verizon CommunicationsとSBC Communicationsの業務拡大が最近、収益面でも一応の成果を収めたことは、表3にも反映されている。

表3 2004年第3半期におけるにおけるVerizon、SBCの収入・利益(単位:億ドル、括弧内は前年同期)
項 目
VerizonCommunications
SBCCommunications
収 入
182(+6.7%)
*1 102.9(+1.4%)
純利益
*2 18.0(不明)
20.9(12.1%)
*1 携帯電話Cingular Wireless分を含まず、固定通信のみの数値である。
*2 Verizonは、不思議なことに、純利益について前年同期対比を今期決算では発表していない)。

 2002年において、RHC各社は、長距離通信会社(特に、AT&T、MCI )からの市内市場への進出の影響を受けて、軒並み減収、減益決算を計上した。以来、2年未満でRHCと長距離電話会社の力関係は様変わりし、Verizon、BellSouthは増収、増益基調に転じつつあることが、上記決算から伺える。

両社を光ファイバー導入に踏み切らせたMSO(大手ケーブル会社)との競争
 表4に、DSLおよびケーブルモデムでそれぞれ最大の加入者を有するRHC3社、MSO3社の2004年9月末における加入者数を示す(注4)。

表4 RHC・MSO大手3社のブロードバンド加入者数(2004年9月末、単位:万、括弧内は2004年6月末)
RHC
加入者数(DSL)
SBC Com
470 (419)
Verizon
330 (290)
BellSouth
190 (177)
加入者数計
990 (886、11.9%増)
MSO
加入者数(モデム)
Comcast
650 (606)
TimeWarner
370 (353)
COX
243 (225)
加入者数計
1264 (1184、6.6%増)

 表4(それぞれ3社ずつの比較に過ぎない資料であるにせよ)によると、従来2:1の比率であるといわれてきたケーブルモデムの加入者数対DSLの加入者数の比率は1.3対1程度へと大きく変化している。これは、RHCによるDSL販促、料金値下げ、品質アップ(スピードアップが主体)による努力が実を結んだ結果、多分2004年第2四半期からDSL加入者の純増がケーブルモデム加入者の純増を上回ったためと考えられる。
 しかし、Verizon、SBCommunicationsとしては、それでもMSOのケーブルモデムによるブロードバンドに対抗することができない。MSO諸社は、そもそもビデオの伝送が主たる業務であって、そのため巨額の投資を行い、高速のケーブルを敷設してきたのであって、DSLがいかに努力しても、MSOが提供するブロードバンドに対抗できるはずはない。結局、ビデオをも含めた最大のパッケージサービス(市内・長距離を含めたすべての通信、インターネット、ビデオ)分野の競争においてMSOを打ち負かすためには、DSLでは不十分であって、どうしても品質においてMSOサービスを凌駕する光ファイバー技術によるビデオサービスに切り替えざるを得ないとの判断に基づいたものである(注5)。

VERIZON、SBC Communication両社の光ファイバー計画は大きな賭け

 RHC大手2社のVerizonとSBC Communicationsの両社が、光ファイバーの大幅な投資を決意したことは、米国の電気通信の歴史において銘記される事柄となろう。
 光ファイバーを米国全土に張り巡らし、米国民に豊富な通信、ビデオのサービスを提供する計画は、1990年代初頭、当時のゴア副大統領が提唱した“情報スーパーハイウェー構想”として提唱された。また、1996年電気通信法ももちろん、ブロードバンドの急速な普及を前提として構想されたものであった。
 その後、幹線部門における光ファイバーの投資は、過大な予測に基づき周知の通り通信バブルを生み、特に通信事業会社の倒産、現在に引き続く業績の悪化を招いている。
 既に述べたように、強力なFCCの規制政策のサポート(FCC政策の根拠は、これまで当ウォッチャーで幾度も触れたように、異業種間―インターモーダルーと自前回線による競争の推進、さらに国際的な米国のブロードバンドの立ち遅れの克服)を得た大手RHC2社の決断により、“情報スーパーハイウェー構想”は、市内回線部門を準独占しているRHCのMSOへの挑戦という形で再復活、実現の方向に向かうこととなった。  両社はビデオ提供に当り、MSOが提供するビデオとの差別化として、超高速サービスによる一層の高品質、一層パーソナライズされたサービスの提供(随時、好みのビデオ番組をビデオ・オン・デマンド方式で呼び出す等)、さらには大型パッケージでMSOが有していない『携帯電話サービスの機能』等を際立たせ、MSOとの熾烈な加入者争戦には知るものと見られる。
 ただし、ビデオの提供一筋に長年月専念してきたMSO各社の巨大な壁を突き崩し、予期したとおりの成果を収めることができるかは、全く未知数である。他に選択肢はなかったとはいえ、両社は大きな賭けにでたと言えよう(注6)。


(注1)本表作成に当っては、主として以下の資料を参考にした。
2004.10.21付けCBS MarketWatch, "Verizon to add more fiber,hire workers"
2004.10.14付けSBC プレスレリース、"SBC To Rapidly Accelerate Fiber Network Deployment In Wake Of positive FCC Broadband Ruling"
2004.10.31付けThe Daily Item, "Verizon ,SBC taking different approaches towawd TV service"
2004.11.1付けBusiness Week, "Cable VS Fiber"
(注2)2004.10.11付けBusiness Week, "Cable VS fiber"
(注3)表2、表3の数字は、いずれも各RHCの2004年第3四半期における決算報告の資料を使った。資料名は省略。
(注4)COXを除き、いずれも2004年第3四半期の決算報告の資料を使った。COXの数値は、2004年11月1日付けCable Datacom, "Comcast&Cox Record Gains for New Services"によった。
(注5)パッケージサービスを利用するユーザーの数は期を追うに増えており、Verizonは2004年9月末で全加入者の54%が何らかのパッケージサービスを利用していると述べている。また、Yankee Groupによる調査では、通信、インターネット、ビデオのすべてを網羅した大型パッケージに対するユーザーの志向も強いものがあり、しかもこのサービスをMSOからよりも電気通信会社からの提供により望む人の比率が高いとのことである。すなわち、電気通信会社からの提供を望むもの39%に対し、MSOからの提供を除くもの19.5%。
(注6)Verizon及びSBC Communicationsの光ファイバー部門への進出についての批評はかなりの程度、解説、批評がでているが、そのうちもっともすぐれたものとして、2004.10.21付けManaging Technology, "Verizon Ratchets Up Stakes in the Cable-Telecom War"

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