FCCは、2004年10月22日、RHCに対する競争業者へのアクセス規制を差し控える
(規制権限は保留するものの、実質的に規制を撤廃)裁定を下した(注1)。この裁定は、RHCが新たに設置する光ファイバーについて、競争業者へのアクセス義務を負うことなく、光ファイバー投資を行える自由を与えたものである。現在、光ファイバーの敷設において、RHCは、ケーブルテレビ事業者に大きく遅れを取っている状況にある。RHCに対し、投資の誘因を与え、ケーブルテレビ事業者とRHC相互間、さらにはこれら両事業者の他、衛星通信事業者、無線事業者、電力事業等をも含めた数多くの事業者相互間のブロードバンドサービスの相互競争(いわゆる異業種相互間のInter Modal競争)によって、米国のブロードバンドの飛躍的な発展を図ろうというのが、今回のFCC裁定の狙いである。
また、今回のFCC裁定は、2003年7月に制定された市内アクセスについてのFCC規則のブロードバンドアクセス分野の規定と関連しており、その論理的帰結でもある(注2)。
この規則(現在ワシントン連邦地裁の判決によって失効中)においてブロードバンド回線のアクセスについては規制撤廃の方向が示され、事実、ビジネス用のブロードバンド回線については規制撤廃が実施に移されたが、住宅用ブロードバンド回線については幾つかの規制が残されることとなった(例えばFTTHはアクセス義務を解除されたものの、FTTCに対する義務が存続された等)。
その後、FTTCにより光ファイバー敷設を計画しているSBC Communication、BellSouth等からの強い規則改定要求等があった。今回のFCC裁定により、この案件は本格的な決着を見たものである(注3)。
米国大統領選の報道にかき消されてか(うがった見方をすれば、FCCのPowell委員長はこの絶好のチャンスを捉え、重要な裁定をくだしているとも取れるが)、今のところ米国のジャーナリズムのこの裁定に対する反応はほとんど見られない。しかしPowell氏は、FCC委員長に就任以来、かねてから目標としている「自前設備所有業者間の競争により、最小限の規制の下での市場主導の業界秩序の形成」(注:筆者が氏の目標を要約したもの)に向けての規制撤廃が、ブロードバンドアクセスの分野で実現したことの意義はきわめて大きい。FCCが2004年末に向けて、鋭意アクセス規制の制定作業を進めているさなかであるだけに、今回の裁定は、来るべきアクセス規則の制定において、銅線市内アクセス回線についても、今回と同様の「規制差し控え」方式による事実上の規制撤廃が行われるのではないかと推測させるものである。
さらにFCCは、この裁定が下されたのと同日に、電力線を使用するブロードバンドアクセスに関する規則を制定した。多分、米国においても、未だ商用化に持ち込めるかいなか、はなはだ不透明なこの件について早々と規則を制定したことからも、FCCがInter Modalな競争促進によるブロードバンド発展に掛けた熱意が窺える。
本文では、上記についてさらに詳しく解説する。
FCC、光ファイバーの競争業者へのアクセスについて規制差控えの裁定を下す
FCCは、2004年10月22日、光ファイバーの競争業者へのアクセスについて、規制を差控える裁定を下した。賛成4対反対1。反対は、民主党Copps委員である。今一人の民主党委員、Adelstein氏は、結論を出すに当っての分析が不十分であるとの批判を行ったものの、裁定の結論には賛成した。裁定の骨子は次の通りである。
- 新規架設の光ファイバーの競争業者とのアクセスについて、コストに基づいた公正料金の下で、競争業者とのシェアリングの義務を課する規制を差控える。
- 規制差控えに関する1996年電気通信法の下での規定は、同法251条(アクセスをアンバンドリングにより行う条項)及び同法271条(アクセス回線所有市内通信事業者が長距離通信事業に参入する場合の条件を定めた条項)である。
- 今回の裁定の対象となる回線・設備の対象には、FTH(Fiber-to-the-home-loop)、FTC(Fiber-to-the-curb-loop)、銅線光ファイバーループの他、パケット機能、パケット交換を含む。
この裁定は、2003年7月に制定された市内アクセスに関する規制を踏まえた記述であるので上記のような書き方になっているが、端的にいえば「光ファイバーのアクセス規制を事実上撤廃した」ということである。
ただ、「規制の差控え」は、FCCがこの案件に関し、依然、管轄権を有する点において、「規制の撤廃」とは異なる。Abernathy委員(共和党)はこの点について、「そのような事態が生じるのを予期するものではないが、もしこの規制差控えにより、逞しい競争自体が生じないとか、市場の失敗といった事態が生じれば、然るべき措置を取る用意がある」と述べている(同氏の声明)。
Copps委員は反対声明のなかで、多数派の裁定は、サービスの実態を分析してもいなければ法解釈も強引であり、必ずや不幸な事態を招くことになると強くFCC裁定を批判した。
幾つかの項目について、多数派委員の意見(Powell委員長とAdelsten委員の両氏の意見。なおMartin氏は今回、意見を発表していない)と少数派Copps氏の意見との比較を次表に示す。
表 ブロードバンドアクセス規制差し控えについてのFCC多数派、少数派の意見
論 点 | 多数派委員の意見 | 少数派委員の意見(Copps氏) |
競争促進となるか | ブロードバンド分野には、すでにケーブル事業者、衛星通信事業者、無線モバイル業者などのInterModal競争業者が存在する。 従って、投資が高まり、サービスは多彩となり、競争は促進される。 | 中小の通信事業者が、競争市場から締め出されることにより、光ファイバー市場は寡占化していく。 衛星、ワイアレスからのブロードバンドのシェアは、現在わずか1.3%に過ぎない。 Inter Modal競争は実体がなく、将来も実現しない。 |
ユーザーの利益となるか | ユーザーは、この裁定による競争促進の恩恵を受ける。 | 中小の通信事業者が、競争市場から締め出されることにより、光ファイバー市場は寡占化していく。 競争は進展しないから、ユーザーは、安く、品質の良いサービスの提供を受けることができない。 |
国際競争に資するか | 現在、米国は、国連統計でブロードバンド発達が世界11位に留まっている。今回の裁定によりこの順位を高めることができる。 | 最新のITU統計では、最近米国の順位は13位に落ちた。 規制の枠組みが間違っているため、競争の進展が望めない。従って今後、順位はますます下がる。 |
1996年電気通信法との関連 | 1996年電気通信法第251、271両条について、規制の差し控えを行ったのは妥当である。 | 適正な料金により、RHCの回線を競争業者にリースさせることにより、競争を促進させるとの電気通信法の精神を逸脱している。1996年電気通信法の根幹にかかわる今回のような改正をFCCが行うのは、越権行為である。 |
FCC、AccessBPLについての規則を制定
FCCは、2004年3月、総合的なVOIPに関する規制のあり方を定める調査を開始した。
この調査は広範囲な内容のものであり、AccessBPLについての規則制定の提案もこの調査告示に含まれていたものである(注4)。
今回のFCC裁定は、委員5名全員の賛成により行われた。また、FCCのPowell委員長は裁定に当り、公益事業(電力会社、電力事業体を含む)を所管する連邦エネルギー規制委員会(Federal Energy Regulatory Commission)委員長のPat Wood, III氏と合同で声明を発表した(注4)。
この声明のなかで、両氏がAccess BPL利用によるサービス提供に期待するメリットは次の諸点である。
- ブロードバンドの普及は、米国の経済、教育、社会、医療、文化にとり肝要である。従って、国策に基づき、Access BPLをも含めすべてのブロードバンド技術の利用を早急に行わなければならない。
- AccessBPLによる高速通信容量の提供は、ユーザーにはブロードバンド利用の選択肢の増大を、また公益事業体には電力供給システム経営の拡大をもたらす。
- AccessBPLの普及により、電力システムの通信・コントロール能力が増大し、信頼性、効率性が改善される。
上記の理由により、両委員長は公益事業に対し、AcessBPL技術の開発とこの技術導入に当ってのコストの分計を要請している。
- ブロードバンドに対するユーザーの選択肢を高め、電力管理システムのより効果的な運営をも当たらし、さらに運用に当っての信頼性の増大を保証する新技術(BPL等)の探求
- 規制分野、非規制分野間における収入、コストの適正な配分
実のところ、AccessBPLは、米国だけでなく、わが国も含め幾つもの国で商用化が可能かいなか、これまで検討、実験が行われ、結局断念してきたという経緯がある(注5)。
FCCは、本件の規則制定採告示のなかで、“広汎にわたる調査、分析の結果、他の無線サービスへの干渉の問題は解決できるとの結論を得た”と述べているのであるから、米国だけは、他国に先駆けてこの技術導入に当っての最大の隘路を打開したということなのであろう。
(注1) | 10月22日付けFCCプレスレリース、"FCC further spurks advanced fiber network development" |
(注2) | DRIテレコムウォッチャー2003年9月1日号「FCC、市内アクセスの枠組改定についての規則を発出」 |
(注3) | 10月14日付けFCCのプレスレリース、"FCC removes more brozdband development in residential neiborhoods"。10月14日に下されたFCC裁定は、光ファイバーと銅線ループの分岐点から、宅内引き込み点までの距離が300フィート以内であるFTC
(Fiber-to-the-curb)について、競争業者へのアクセス義務を解除したものであった。この裁定は、FCCは明示してはいないが、その後にだされた10月22日の裁定に吸収されたものと、私は理解する。 |
(注4) | 2004.10.14付けFCCニュースレリース、"Joint Statement on Broadband Over Power Line Communications Services by Chairman Pat Wood, III, of the FERC, and Chaireman Michael Powell of the FCC" |
(注5) | 例えば、Report.com,"Power-line Broadband Worldwide"は、検討の結果、技術開発を断念した国として、日本、フィンランド、シンガポール、オランダ、オーストラリアを挙げている。しかもそのほとんどが、無線(とりわけアマチュア無線)への干渉問題がクリアできないとうものであった。 |
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