DRI テレコムウォッチャー


PUCを通じ市内回線卸売り料金の値上げを進めるSBC

2004年10月15日号

 FCCは、2004年8月20日、市内アクセスに関する暫定規則を制定し、この規則により市内アクセス料金の6ヶ月間の値上げ停止を定めた。しかしこの裁定は、この期間、RHCが料金値上げを行う手段をすべて奪ったものではない。注1に示すように、むしろ州公益事業委員会による料金値上げを奨励する側面を有している点に注目すべきである。
 このような新たな規制環境下において、SBC CommunicationsはPUC(各州の公益事業委員会)に市内回線卸売り料金の引き上げを申請し、PUCの料金引き上げ認可を通じて、市内回線卸売り料金の引き上げを実現する戦略を取っている(注1)。
 SBCは、自社13州の営業エリア内のうち、これまでにオハイオ、インディアナ両州においてアクセス料金の値上げの承認を得ていたが、9月末、さらに市内電気通信の競争がきわめて激しいミシガン、カリホルニア両州において市内卸売り料金の引き上げの認可を得た。
 以下、本文では、SBCCommunicationがミシガン、カリホルニア両州で獲得した市内アクセス料金値上げの概要、この戦略の意図、2004年末に予定されているFCCの正規アクセス規則制定との関連等について解説する。

MPCS(ミズーリ州公益事業委員会)、SBCが提供する住宅用市内回線卸売りの料金の最大15%値上げを認める(注2)

 MPCSは2004年9月21日、SBCが競争業者に対して提供している住宅用市内回線卸売り料金を5%から15%まで(地域により値上げ幅が異なる)値上げすることを認めた。SBCによる値上げが実現するまでに書類申請等いくつかの手続きが残っているものの、今後45日以内に料金値上げが実施に移されるものと考える。
 表1に示すとおり、ミシガン州は市内通信分野の競争がニューヨーク、ロードアイルランドに次いで最も激烈な地域である。本来この州で独占的に市内通話を提供してきたSBCは、1999年の81%から2003年の57.7%へと大きくシェアを失った。

表1 ミシガン州における市内通信事業者のシェアの推移(1999と2003の比較)
通信事業者
1999年次(%)
2003年次(%)
SBC Communications
81.0
57.7
Verizon Communications
11.5
11.2
CLEC
4.0
26.5
*その他事業者
3.5
4.5
その他事業者は、SBC、Verizonがサービスを提供する地域外のエリアでサービスを提供している業者である。

 ミシガン州における市内回線の卸売り料金は月額平均14.28ドルであって、おそらく米国でもっとも低い水準である。表1に示すSBCのシェア低落は、競争業者からみてきわめて有利なこの低廉な卸売り料金が原因となって生じたものである。この点については、同州CLEC利益団体のMIACT(Michigan Alliance for Telecommunications Competition)も認めている。
 ところで今回の料金値上げについては、値上げ幅が比較的低かったこともあり、料金値上げを申請したSBC Commuinicationsはきわめて不満であると批判している。これに対し、競争業者側は比較的冷静であり、1、2の業者が加入者の料金値上げに転化する必要はなく、現行料金のままで乗り切って行けそうだとの見解を示している。

値上げ水準自体に不満を持つSBC Communications
 SBCが要求してきた料金水準は回線当り月額26ドルであって、現状の14.28ドルに対し82%増の大幅引き上げである。
 同社は、競争業者に卸売りする回線の維持費は月額25ドルであって、今回の5%から15%までの小幅値上げでは到底コストを償うに至らないと称している。
 SBC MichiganのTorrreano会長は、「この料金水準ではネットワーク投資への意欲が削がれる。また、ミシガン州民の失業者が増え、消費者は競争の恩恵に浴すことができなくなる」とMPCSの今回の決定を非難し、法的手段に訴えるオプションも考えるとの意向を示している。

消費者団体は抗議、競争業者は比較的冷静
 これまで強硬に料金値上げに反対してきた競争業者団体のMICTは、競争業者はきわめて低いマージンで営業を続けているので、競争業者の事業運営はますます難しくなるといっている。
 しかし競争業者は、比較的今回の事態を冷静に受け止めている。
 例えば、3000人ほどの顧客を有し、一部ネットワークのリースをしている小規模業者のQuick Connect USAの会長ユーリ氏は、コスト節減によりやりくりし、料金値上げはしないつもりだと言明している。
 中堅競争業者であるTalkAmericaも、2004年末に予定されているFCCの裁定で競争業者に有利な裁定を求めながらも、同社が近い将来、RHCに頼らず、すべての設備を自前で持つ方向に転換しつつあることを明言している。

CPUC(カリホルニア州公益事業委員会)、市内回線卸売り料金19%の値上げ承認(注3)

 MPCS(ミズーリ州公益事業委員会)が、市内回線卸売り料金の値上げを承認した翌日の2004年9月22日、CPUC(カリホルニア州公益事業委員会)は、SBC Communicationsの引き上げ申請(現行13.93ドルの料金を30.33ドルへと倍増する)に対して、平均19%の料金引き上げを認めるとの裁定を下した。
 この裁定は、公益事業委員の賛成3、反対2の多数決により行われた。採決された案を起草したのはWood委員であったが、反対に回った委員2名(委員長Michael Peevey氏を含む)は最大50%の値上げを提案していたのであって、今回の決定がいかに激烈な討論を委員相互間にもたらしたかを推測させるに充分なものであった。
 今回の引き上げによって、平均料金は現行の月額13.93ドルが16.56ドルになるのであるが、そもそもカリホルニア州では、2002年に大幅に市内回線の卸売り料金水準を引き下げたのであって、他州に比し、相当に料金水準が低く抑えられた点に問題があった。
 この点について、より大幅の料金値上げを主張した少数派のSusan Kennedy委員は、「卸売り料金水準がこの程度の引き上げに留まったのでは、ネットワークの品質が次第に劣化し、技量のある技術者の保守が減少し、雇用にも影響が及ぶであろう」と述べている。
 表2に示すように、コスト増の負担を受けるAT&T、消費者代表はもちろんのことであるが、料金引き上げの申請を行ったSBC Communicationsも、今回のCPUC裁定に大きな不満を有している。

表2 CPUC裁定についての利害関係者の意見
事業者、団体
意見
SBC Communications卸売りに伴うコストをカバーするに要する料金水準は29.92ドルである。今回の裁定による料金値上げ額はあまりにも低い。
AT&TCPU裁定は、市内サービス分野における競争の終焉を意味する。SBC Communicationsは、電気通信市場で再度独占的地位を得るゴーサインを得た。
*CTC130万のカリホルニア州民の家計に影響が及ぶ言語道断の裁定である。またこの裁定により、CPUCは、CLECの倒産、これに伴う従業員の失業になんら配慮していない事実が明らかとなった。
* Californians for Telecommunications Choice(カリホルニア州を地盤とした電気通信分野の事業者団体)。この団体は略号を使用していないが、見出しには、便宜上CTCにより表示した。

市内アクセス料金について、戦略を異にするSBCとVerizon、Qwest

 SBC Communicationsが、PUCを通じアクセス料金を引き上げる戦略を推進しているのは、当面、「PUCは暫定期間においてアクセス料金の引き上げを認可できる」とのFCC暫定規則を極力利用し、できるだけ速やかにアクセス料金引き上げの利益を得ようとの思惑に基づくものである。
 すでに述べたように、SBC Communicationsは、料金引き上げ幅が5%から15%に過ぎなかったMPCSの裁定に対しても、Verizon Communicationsによる平均19%の料金引き上げに対しても、コストがカバーできないと不満の意を表してはいる。しかし、8月20日の暫定裁定によれば、もし期日どおりにFCCの本裁定が実施されないならば、料金額はさらに15%引き上げられるはずである(DRIテレコムウォッチャー2004年9月15日号「FCC、UNE-P体制の消滅を推進へ」参照)。こういう事態が生じれば、SBC Communicationsは、総合的に見てかなり有利な料金引き上げを勝ち取ることができたといい得るであろう。換言すればSBC Communicationsは、2004年末までにFCCは本格的な料金裁定を出すことができない可能性をも考慮に入れて、掌中の鳥を手にしておこうと考えたのであろう。
 これに対しVerizon Qwestの両社は、暫定規則を不満として、ワシントン連邦地裁に控訴したことからも明らかな通り、現時点でPUCを通じての料金値上げを申請するよりも、将来暫定規則を通じて、より有利な料金値上げを獲得することができるとの長期的な視野に立ったものと見られる。そして、このような判断を下した背景には、ワシントン連邦地裁が2003年9月に制定された前アクセス料金規則が現に無効となっている絶好の機会を利用して、できることならアクセス料金規制の全面撤廃を獲得するとの目標実現を追及したいとの意図を有していると考えられる(注4)。また、市内アクセス料金についての発言、行動がさほど見られないBellSouthも、多分Verizon、Qwest両社と同様の思惑を有しているはずである。

期待される2004年末のFCCによる本格的なアクセス料金改定

 ところで、2004年10月7日ワシントン連邦地裁は、8月末にVerizon、Qwest、USTAから提起されていたFCCの暫定裁定を無効にしてほしいとの訴えについて回答を行った。その内容は、現にFCCは2004年末を目途に本格的なアクセス料金についての規則を制定する作業を行っている最中であるから、2005年1月まではこの訴えの提起を差し止めるというものである(注5)。
 提訴した3者は、そもそもFCCが本格的市内規則制定を行った後、自由に訴えを提起できる。従って、上記のワシントン連邦地裁裁定は、訴受理の時期を繰り延べるとの形式を取っていながら、事実上は訴えを却下したに等しい。FCCは、今後数ヶ月、利害関係者からの干渉なしに規則制定作業と取り組めることとなった。
 ただし、現時点で関係者の誰しもの脳裏にあるのは、「選挙戦でブッシュが負けて、2005年度にケリー民主党政権が出現したら」という最大のifであろう。
 規則制定作業は、それでなくとも困難(1つはFCCの共和党、民主党委員相互の基本的対立の激しい相違のために、また1つには、短期間に複雑な内容を成文化することの技術的な困難さのために)なのである。11月2日に民主党候補ケリー氏が勝利したとすれば、その困難さはさらに増幅されることとなろう。
 いすれにせよ11月2日の米国総選挙、さらには12月末までに予想される新アクセス料金規則に関する裁定が待ち望まれるところである(注6)。

 最後に強調したいのは、アクセス料金値上げ及びそれに引き続く市内通話料金値上げの趨勢は、来るべき本格的規則制定の実施をまつことなく、現に実施されている暫定規則の内容に折り込まれているというべきである(9月15日のテレコムウォッチャーではこの点についての筆者の理解は不足していた)。
 仮にケリー氏が大統領になり、2005年にパウエル委員長が辞任し、民主党のFCC委員長が就任したとしても、この趨勢を容易に覆すことはできまいと考える。


(注1)この点については、DRIテレコムウォッチャー2004年9月15日号「FCC、UNE-P体制の消滅を推進へ」の資料を参照されたい。ここで再度、FCCの市内アクセス料金についての考え方を整理すると、1.アクセス料金は6ヶ月凍結する。ただし、次の2つの場合には例外とする。(1)当事者が個別契約を結んだ場合(2)州公益事業委員会が、引き上げの方向でアンバンドルのアクセス料金を定めたとき(なお回線、交換機を含めた卸売り料金もアンバンドリング料金の範疇に含まれるものと考えられる)。つまりここで凍結されたアクセス料金とは、実のところ、RHCが州公益委員会の承認を得ず、一方的に実施するアクセス料金に他ならず、しかもこれについては、FCCが先にRHCから念書により誓約を得たものの規則化に他ならない。
(注2)2004.9.22付けThe Detroit News Bulletin,"Metro phone bills may rise"
2004.9.24付けDetoit Free Press,"SBC gets OK to boost rates it charges rivals"
2004.9.16付け MIAC.com,"Michigan Alliance for Competitive Telecommunications"
(注3)本項の記述に当っては、いずれも、2004年9月23日付けの次の資料を使用した。  Business Journal,"CPUC approves phone rate hike to chorus of complaints"
The Miami Herald,"SBC wins right to raise local wholesale prices by 19 percent"
CBS MarketWatch,"Wholesale rate hike in California"
Californians for Telecommunications Choice,"CPUC Commissioners Doom millions of Californians to Life of Higher Phone and No Choices"
AT&TのWebsite,"Consumer Choice to disappear"
(注4)Verizonを初めとする一部RHCがこのような考え方を有するのは、決して欲が深いとばかりは言い切れない。FCCは、暫定規則が制定される前の2004年4月から、RHCに対し個別契約による市内アクセス料金の設定を推奨しているのであるが、理論的にはこの好意は意味深長であり、アクセス料金規制の撤廃に強くつながる。かりにFCCが料金キャップ制などの強い規制条件をつけなければ、個別契約方式の認定は、料金規制撤廃に限りなく近づくからである。
(注5)2004.10.7付けYahoo!news,"Court Delays Request to Block Telephone Rules"
(注6)Powell委員長は12月末の裁定を誓約しており、すでに最終方針を決定するための委員会開催を12月15日に予定している。しかし、関係者の一部(そのなかにはもっとも強くFCCパウエル氏の政策に反対しているFCC民主党コップス氏を含む)は、果たして予定の期日が守れるかを疑問視していることも確かである。

テレコムウォッチャーのバックナンバーはこちらから



<< HOME  <<< BACK  ▲TOP
COPYRIGHT(C) 2004 DATA RESOURCES, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.