DRI テレコムウォッチャー


業績好調なDT、年内に復配へ

2004年10月1日号

 DT(ドイツテレコム)は、2004年8月12日、2004年第2四半期の同社決算報告を行った。
 決算発表に当り、同社CEOのRicke氏は、「DTは成長を続けており、またDTの利益は増え続けている」と同社の将来について強い自信を示した。
 同氏は2002年11月、大幅な赤字転落のさなかにDTのCEOに就任、以来同社の業績改善に当ってきたが、2003年次の決算では黒字を回復、今回の決算で黒字基調の定着を明らかにした。この好調な決算を背景に、Ricke氏は年内に昨年ストップしていた株主への配当(しかも応分の配当)を行うと約束している。
 第2四半期決算発表後のDTの大きな戦略策定上の動きとしては、組織の統合が上げられる。
 DTはこれまで、T-Com(固定通信)、T-Mobile(携帯電話事業)、T-Online(ISPブロードバンド事業)、T-System(大口加入者事業)の4事業部門を柱として事業運営を行ってきた。
 しかし、部内事業であるT-Comと一部株式を発行しており分離子会社化しているT-Onlineとはいずれも、ブロードバンド(DSL)の販売が成長分野になりつつあり、次第に双方の利害の対立が明らかになってきた。最近DTは、T-ComのCEOに、部外からReizner氏(現ドイツIBMのCEO)を11月に登用すると発表した。同氏はDTにおいて、固定部門及びブロードバンド担当の役員も兼任する。これは、DTが将来T-Com、T-Onlineを統合する布石だと見られており、早晩DTは両部門の統合を実現することとなろう。
 もっとも、ブロードバンド事業、携帯事業等の成長事業分野を旧来の固定通信部門と共に運営し、シナジー効果を計っていこうとする戦略はDT独自のものではない。すでに本年春、テレコムウォッチャーで解説したように、FT(フランステレコム)は2003年後半以来、携帯電話会社のOrange及び、ISPであるWanadooの株式購入による事業部門化を推進しているさなかである(注1)。DTとFTは、諸種の面で似通った通信企業であって、国際競争を行いつつも、相手の戦略を研究し、導入し合う関係にある。事業統合の面では、DTは約1年間の差でFTの後を追っているといってよかろう。
 本文では、さらに詳しく上記の点を紹介する。

2004年第2四半期決算に見るDTの好業績

 次表に、2004年第2四半期DT決算における主要数値を前年同期と対比して示す(注2)。

表 DTの収支状況等(2004年第2四半期、単位:100万ユーロ)
項目
2004年第2四半期
2003年第2四半期
2004/2003(%)
収入 総収入
14412
13593
+6.0
   T-Com
6882
7153
-3.8
   T-Mobile
6237
5557
+12.2
   T-System
2625
2567
+2.3
   T-Online
500
449
+11.4
   本部等
1154
1079
+7.7
   部門間調整
-2786
-3204
+6.8
経常利益
2406
598
+402.3
純利益
728
227
+349.8
投資
1,517
1,019
+26.8
負債
466
563
-5.9


 上表から汲み取れる主な事項は、次の通りである。
  • 収入は、前年同期に比し6.0%と堅実な成長を示した。DTは、未だに収入の絶対額においては、固定音声通信を主体としたT-Comがもっとも大きいが、この分野は、2003年6月以来、イコール・アクセスをベースにした利用者からのプレセレクション(わが国のマイラインに相当する)を導入したこともあり、加入者数の減、収入減(2004年第2四半期-3.8%)が続いている。しかし、T-Mobile(携帯電話)、T−Online(インターネット、ブロードバンド部門)が前年比2桁を越す高率で成長しており、T-Comの収入減を補って余りある。
  • 純利益は、このような収入の伸びを背景にして、前年同期に比し約3.5倍に伸びた。また後述するとおり、DTは過去2年間ストップしてきた配当を復活すると約束した。同社は、2003年にようやく回復した黒字基調を今後も継続できる模様である。
  • DTの財務が健全化していることは、堅実な投資、負債の軽減の状況からも明らかである。投資は前年同期に比し26.8%増えたし、またまだ絶対額こそ大きいが、負債の軽減も順調に進んでいる。

 なおDTは、決算報告において、国内事業、海外事業の分計資料を提示していないが、T-Com、T-Mobileにおける海外事業のウェイトの高さを指摘しておく必要があろう。
 上表に示したとおり、T-Comの2004年第2四半期における収入総額は6882百億ユーロであるが、その内訳は、国内が5905百億ユーロ、海外が966百億ユーロであって、海外の比率は総額の14%を超えている。しかも前年同期に対する比率は、国内が-4.5%とかなりの減少を記録したのに対し、国際では+1.0%とわずかながら収入増となっている。総計は-3.8%であって、この数字は国内における赤字の大きさを国際事業によって、多少ともカバーしていることを示す。
 T-Mobileにおいては、海外業務に対する依存はもっと大きい。2004年6月末におけるT-Mobile加入者総数は7160万であった。ドイツのT-Mobile部門は、依然最大であるが、その加入者数は2710万で37.8%とシェアは案外低い。つまりT-Mobileは、1000万を超える加入者を持つ米国、英国の子会社(米国のT-Mobile USAは、1540万、T-Mobile UKは1490万の加入者を持つのを始め、多くの国際市場の加入者に支えられて、DTの一大市場部門を形成している。換言すると、当初危ぶまれたT-Mobileの海外戦略は大成功を収めているのであって、欧州においてVodafoneに次ぐ第2の携帯電話会社に成長したわけである。いまやT-Mobileは、フランスの携帯電話部門Orangeを抜いて、Vodafoneに次ぐ欧州第2の携帯電話会社に成長した(注3)。

 決算の発表と同時にDTは、2004年次の業績見通しを発表した。その概要は次の通り。

   純利益:25億ユーロ
   復 配:配当率は2004年第3四半期に発表
   投資額:限度額75億ドル
   DSL架設数:560万(2004年6月末現在470万)
   T-MobileUSAの架設数、400万

統合に向かうT-ComとT-Mobile

 2004年9月上旬、DTはT-Com及びT-Onlineの人事異動を発表した。
 T-OnlineのCEOには、現ドイツIBMのCEO、Walter Raizner氏が2004年11月に就任する。このポストは、Josef Braumer氏が2004年3月に辞任して後、Ricke氏がDTのCEOと兼任していたものである。なおRaizner氏は、同時にブロードバンド・固定通信の両分野を所管するDT役員職(新設)も兼任する。また、T-OnlineのCEO、Thomas Holtrop氏は9月30日付けで辞職し、後任にはT-Online経理担当役員のRainer Beaujean氏が就任する。
 Ricke氏はIBMから引き抜いたRaizner氏について、「DTが将来のマス市場で最大限の業績を収めて行くのに必要とされるDTの方向付けを行うに当り、Raizner氏は最適の国際・戦略・企業経営の経験を備えている」と同氏に大きな期待を寄せている(注4)。
 前々からDT内部では、T-ComとT-Onlineとの統合が論議されている経緯があった。今回、役員が担当する所管の分野において、両部門の統合が果たされるわけであるから、今後T-ComとT-Onlineと統合が行われるのではないかとの観測が高まるのは無理からぬことである。
 DT自体も今のところ、組織改革の可能性を否定していない。ただDTの代表者は、組織改革を行うか否か、また行う場合どういう方法で行うかを部内で議論している段階だと述べている。ところがCredit Swiss First Boston(CSBF)によれば、実はBTは組織改革を実施することは決定済みであって、決めていないのはその方法、時期だけだと報じている。またその方法については、DTは、部外株主に放出しているT-Onlineの株式(総株式数の26.1%)を買い戻すやり方(株式会社であるT-Onlineを事業部門化し、従来から事業部門であるT-Comに統合する)を取るものと推測している。今後6ヶ月の間に統合が実施されるのではないかという(注5)。
 ところでDSLにおいてT-ComとT-Onlineとの関係は、インターネットの出現により、両部門の業務遂行の利害が相反する側面が出てきた。T-ComはDSLのトランスポート(伝送能力)を売り、利益を上げているのであるから、T-Online以外のISP業者(Arcor、AOl、Lycos等々)への販売にも当然熱意を示している。これに対し、T-Onlineにとっては、DSLはインターネットサービスの提供が業務であり、DSLはその目的のための重要なツールである。したがって競争業者に対し、T-Comにトランスポートをあまり有利な条件で提供してほしくないという動機が働く。両部門統合の必要性が議論されるようになった主な理由はここにある。


(注1)テレコムウォッチャー2004年3月15日号「FT、好調な財務を背景として経営の一元化を推進へ」
(注2)表は、2004年8月13日付けのフランクフルター・アルゲマイネに掲載された記事 "Die Telekom verspricht eine 'attraktive' dividend" によった。そのほかの数値は2004年8月12日付けDTの決算報告から引き抜いた。
(注3)DTは最近(2004年8月末現在)、51%の株式を有するポーランド最大の携帯電話会社、PTCの残りの株式49%(ポーランドの電力会社Elektrimとフランスの通信会社Vivendiが合弁会社を通じて所有)を13億ユーロで買収することで合意した模様である。DTが、PTCの全額株式を所有したあかつきには、社名はT-Mobile Polandになろう。このようにDTは、未だ466億ユーロもの負債を抱えながらも、着々と東欧圏(拡張ユーロ圏というべきかもしれない)への投資を強めている点は注目すべきである。2004年9月1日付けYahoo News, "DT to buy Polish Telecoms Operator"
(注4)2004年9月4日付けDTのニュースレリース、"Neuer Vorstand Breitband/Festnetz"
(注5)2004年9月9日付けBloomsberg.com, "Deutshe Telekom is checking whether to 'Reintegrate' T-Online"

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