FCCは2004年8月20日、市内アクセス規制についての命令及び調査告示を發出した。
命令は、暫定措置(今後6ヶ月間の市内アクセス料金を凍結するとの内容で、すでにRHC各社とFCCの間で得られている合意を確認したもの)と経過期間措置(今後6ヶ月間に正規の新アクセス規則が制定されない場合の一部データ回線についての値上げ提案等)の2つの部分からなる。
FCCのパウエル委員長は、かねてから念願とする設備所有事業者相互の競争による新たな規制体制を確立しようとしている。2005年5月に任期を終える同氏としては、在任中にこの大改革を是が非でも実施に移し、これを花道として次の要職を狙いたい。来るべき本年11月初旬の大統領選挙をも睨み、2004年末までには是非とも本格的なアクセス料金の仕組みを構築したいところである。他方ブッシュ政権からは、NTIAを通じ、11月初旬の大統領選挙までの期間、電気通信料金値上げを凍結してほしいという強い注文が付いている。このFCC、ブッシュ政権の双方の要請を折り込み、とにかく当面、今後6ヶ月ないし1年間の新体制移行までの過渡期を乗り切ろうというのが、今回のFCC規制の命令の趣旨である。いわば、本格的なアクセス命令制定までの暫定措置を定めたものと理解すべきである(口の悪い論者は絆創膏を張っただけだといっている)。
従って、FCCは現在、本格的な規則制定に向けての作業を行っており、上記命令に合わせ、それに関する規則制定に向けた調査告示も發出した。2003年7月に制定された前アクセス料金規則も、2002年初頭に發出された調査告示に基づいたものであった。ワシントン連邦地裁により、前規則が無効であるとの判決に従っての規則制定のやり直し審理であるから、今回改めて調査告示を發出したのは当然の措置である。
今回の命令及び調査告示の發出は、FCC委員3対2の多数決で可決された。反対したのは、民主党FCC委員のCopps、Adersteinの両氏である。前回のアクセス規則決定の際、造反してPowell委員長の反対側に回ったMartin議員は賛成派に転じた。これは、この案件についてのPowell委員長の指導力(少なくとも共和党委員2名については)が回復したことを証明する。
ただし本文で紹介するとおり、民主党委員2名の反対は、当然のことながらきわめて強硬である。
8月24日、Verizon、Qwest、USTA(既存市内電話事業者の利益を代弁する業界団体)は、その内容を不満として、ワシントン連邦地裁にFCCの命令及び調査告示を無効にするようにと訴えを起こした。主な理由は、今回の裁定が、結局すべて経過措置に終始しており、市内アクセスについての規制方針がなんら示されず、先が読めないということにある。具体的にFCCに求める内容は正反対のものであるにせよ、同趣旨の反対は民主党2名の委員からも出されている。
ワシントン連邦地裁がこの訴えに対しどのような判断を下すか、もう3週間を経過して同地裁の判断が下されない点からすると、少なくとも細部の1、2の修正を求めるのではないかとも考えられる。多分今回は全面的にFCC裁定を覆すことはしないと筆者は考えるが、予断はできない。
このように、市内アクセスをめぐる規制環境は依然不透明であるが、当テレコムウォッチャーでしばしば紹介してきたように、現に、UNE-P体制(FCCが定める個々のアンバンドルされたネットワーク要素を低料金で長距離電話業者に提供する方式)は、1つには、業者間協定の締結(今のところ未だ数は多くないが)により、また1つには、RHCの競争者である長距離通信事業者、CLECの戦意喪失さらには、一部州公益事業委員会のUNE-P規制からの脱却の動きにより、UNE-P体制は回線・交換設備をセットにしたリセールと自前設備により置き換えられつつあるという事実に注目すべきであろう(注1)。
今後、FCCによる新たな規則制定がどのようなものになろうと、その時期が多少遅れようと、あるいはその間にケリー民主党大統領候補が大統領に当選して、2005年5月から民主党の新FCC委員長が出現しようと、この方向は非可逆的であるように思われる。
意図が判断しにくい移行期間のFCC政策
本文末の「参考 FCCが市内アクセスに関して下した命令および調査指令の骨子」をご覧いただきたい。
FCCが命令で規定している暫定期間、移行期間、移行期間以降の3期間のうち、「移行期間」の一部市内アクセス項目についての料金凍結あるいは料金引き上げの規定は、その意図の忖度が難しい。
そもそも、移行期間(transition period)という名称自体が紛らわしい。参考に示したように、FCC命令の字句に即して訳すと、FCCの新アクセス規則が仮に6ヶ月の期間内に制定されなかった場合に行使されるとの規定になっている。
例えば、ビジネス回線の市内ループ及び専用線は、この命令による料金凍結期間6ヶ月を過ぎた後、新料金規則が制定されていない場合には15%引き上げられることになり、しかも新規事業者に対しては料金規制がなくなる。
この点については、裁定に対する反対意見で、民主党のCopps委員が、「Powell委員長は一部料金値上げを人質にして、委員に対し規則の年内成立に向けて圧力を掛けている」と述べている点が参考となる。つまり、FCC委員長自身がこのような水準の料金値上げを望んでいるのか、Copps委員の主張するように、FCC少数委員を裁定案の審議に巻き込む囮に過ぎないのか、定かでない。
察するに、FCCでは、今後のアクセス料金の設定方法について民主党の両議員が強硬に反対しており、成案の目途がつかない。しかし、Powell委員長にしてみれば、どうしても年内の制定に持ち込みたい。従って今回の暫定裁定を出すに際し、ギリギリの、これまた暫定の決着方法として、仮定の下での異例の料金決定措置を記した(Copps委員の反対表明にもかかわらず、今後の審理での巻き返しに期待を置いた妥協であったとも考えられる)ものであろう。
今ひとつ注目すべきであるのは、これも「参考」に示しているように、州公益事業委員会に対しては、すでに暫定期間(すなわち現在)に、特定アンバンドリングのネットワーク・エレメントについて、料金引き上げの決定権を委ねているのである。筆者は、今回の裁定でもっとも重要であるのはこの規定であると考える。後述するように、一部の州委員会はこの規定を利用し、要請のあったRHCに対し料金値上げ申請を受け入れているからである。仮に、すべての州公益事業委員会がこの規定に従って、アンバンドリングのネットワーク・エレメントについて暫定期間内に決定を行えば、FCCの正規アクセス裁定を待たず、新たなアクセス体制は州公益事業委員会の権限行使により実現したということになろう。
しかし、ワシントン連邦地裁が旧アクセス規定の無効あるいは差し戻し判決を下した主な理由は、本来FCCが行使すべき権限を州に移管してしまったというところにある。
今後予想される一部RHCからの訴えに対し予想される同地裁の判決は、この問題にどのような見解を下すか、興味深い点である。
Powell委員長の声明と民主党Copps、Adelstein両委員の反対意見(注2)
設備所有事業相互間の競争を支持するPowell委員長の意見
私は、音声分野での競争を推進する上での手段として、UNE-Pのファンではない。
UNE-Pは、長期にわたり消費者の利益に資することが証明されていない競争方式である。
私は、政府の政策は、異種業種間(intermodal)及び同種業種間(intramodal)の設備を所有する業者間の競争を促進すべきであると信じる。その理由は次の通り。
- この競争により、業者は消費者に対し、別種のサービスを提供できる(筆者注:他社の設備を借りてのこれまでの競争は、他社の設備の制約を受けるため、結局、設備をリースする会社と同種のサービスしか提供できないという意味)。
- 競争業者は、一層のコストの管理ができるため、消費者に対し低廉な料金を提供する潜在性を与える。
- 設備所有者は、回線のリダンダンシーをもたらし、異常時における代替サービス提供の措置に資する。
将来における料金引き上げの潜在性以外の何も定めなかったとする民主党議員の反対意見
- 今回の裁定は、1996年電気通信法の競争促進ビジョンを破壊しようとするものである。
また、消費者に料金の引き上げと選択の減少を押し付ける。電話料金を支払っている人々はもっと報われて然るべきだ(Copps氏)。
- 今回の命令では、競争業者がどのアンバンドリング・エレメントをどのような料金で利用できるかを明確にしていない。すべての人に多少の物を与えるような意図を有しているが、その内容があいまいになっている。従って、これでは安定性がもたらされない(Adelstein氏)。
- ビジネス市場の市内アクセス料金、専用線伝送料金は、6ヶ月後15%値上げになるとされている。しかも、新規のアクセスリース業者に対する料金には規制がなくなり、多分3倍程度の料金値上げが見込まれる。これは小企業にとって、大きな打撃となる(Copps氏、Adelstein氏)。
- この料金値上げ提案は、われわれ少数派委員に対し、最終規則制定を期間内に行わせようと圧力を掛けるためのものだろう。しかしそのような目的のために、特定事業部分を人質にするようなやり方をとってはならない(Copps氏)。
- ともあれ今回の決定については不満であるが、短い期間でわれわれの要求ができるだけ取り入れられるようなアクセス規則を制定するため努力する(Copps氏、Adelstein氏)。
市内住宅用アクセス・サービス分野でUNE-Pの導入が後退し、事実上、新たなアクセス規制への過渡期が進行している兆候の実例
すでに述べたように、FCCの今回の裁定は、FCC規制と並んで、業者同士の協定の締結、州公益事業委員会の裁定によるUNE-Pの不要化、RHCが競争業者に提供する料金の引き上げを狙っているので、この過程はFCC規制の先行き不透明にもかかわらず、進行している。以下、その実例を紹介して、今回の論説を締めくくりたい。
RHC、CLEC相互間の回線、設備に関する協定の進行
FCCは、ワシントン連邦地裁が料金アクセス規制を無効と判決してまもなく、RHC首脳陣に呼びかけ、RHC、CLEC相互間での回線、設備のリースに関する協定締結を呼び掛けた。
筆者がフォローしたところでは、以降2004年6月中旬までに成立した協定は10件に留まっており、比較的少ない。ただ、今回のFCC暫定裁定の發出によって、今後、当事者間協定は増える可能性がある。FCCは、6ヶ月後のビジネス回線のリースについて、それまでに新アクセス規則が制定されない限り、15%の引き上げを定めているが、これはRHCがCLECに対し、長期の相互協定締結を勧奨する大きな誘引となろう(例えば3年間、5年間の契約を締結するなら、料金は現状に留める等の条件提示)。
もう始まった州公益事業委員会による卸売り料金引き上げの動き
FCCによる州公益事業委員会へのRHCからCLECに対する回線・設備セットの販売(つまりUNE-Pによらぬ卸売り)の料金値上げの権限付与が今回の暫定裁定により解禁となるや、すでに一部の州公益事業委員会では料金値上げを実施する動きが見えている。
オハイオ、インディアナ両州では、SBC Communicationsによる幾種ものビジネス加入者向け料金の引き上げが認められた模様である。また、ミシガン州公益事業委員会は、2004年9月1日、2001年12月に定めたUNE-Pに関する規制を撤廃し、RHCからの料金引き上げ申請に備えた。同年9月7日には、SBC Communicationsがこの州公益事業委員会の措置に呼応するかのように、ビジネス加入者用のサービス料金の引き上げを申請した(注3)。
上記の値上げ実施、値上げ申請において、卸売り料金のみならず、小売料金も含められている点は示唆的である。これまでFCCのパウエル委員長をはじめ一部の評論家たちは、「アクセス料金が引き上げられても、即小売料金の引き上げにつながるとは言えない」と論じてきたが、この論理は早くも一部RHCの行動によって裏切られているわけである。なお現在行われているSBC communicationsによる料金値上げの推進は、ビジネス分野におけるこれまでの最大の競争相手、AT&T、MCIが、ビジネス分野においてもその力が衰えている事実を反映するものかもしれない。
最大のRHC、Verizonは、現にアクセス案件で提起している訴えが決着すれば、SBC Communicationsと同様の料金値上げ攻勢に転じる可能性は充分にある。
参考 FCCが市内アクセスに関し下した命令及び調査告示の骨子(注4)
命令
各期間の要件 | 骨子 |
暫定期間 | 本命令が調査告示に記載されて後、6ヶ月あるいは、正規命令の効力発生時点のいずれか早期に、市内電話会社は、自社に課されているアンバンドリング義務を以下の通り、引き続き履行する。
- とりわけ、交換機要素へのアクセス義務、ビジネス市場の市内アクセス義務、専用線伝送のアクセス義務は、2004年6月15日の料金により引き続き提供する(つまり凍結する)。
- 次のものは、例外として凍結しない。
(1)当事者相互間の協定
(2)特定のアンバンドリングに対するFCCの介入
(3)州公益事業委員会による特定ネットワーク・エレメントについての料金引き上げ命令
|
移行期間 | 最終裁定において、電気通信法第231条(c)(3)項に基づき、上記のアクセスの規定が定められない場合、FCCは、次の要件を提案する。
(1) | 交換アクセス規定がない場合の料金据え置き
2004年6月15日時点の料金あるいは州公益事業委員会が2004年6月15日以降正規命令が登録されてから6ヶ月を経過するまでの期間のいずれか早い時期に、州公益事業委員会が定めた交換・伝送を含めたリース料金(筆者注:すなわち、アンバンドリングによらぬ卸売り料金)を据え置く。 |
(2) | ビジネス回線の市内ループおよび専用線の双方あるいはそのいずれかに対するアクセス規定がない場合の料金の引上げ2004年6月15日時点の料金あるいは州公益事業委員会が2004年6月15日以降本格命令が登録されてから6ヶ月経過するまでに定めた料金の115%(筆者注:すなわち、15%の引き上げ)のうち高い料金に引き上げる。 |
(3) | 新規事業者は適用外
上記(1)、(2)は、新規事業者には適用されない。 |
(4) | 代替的な事業者協定は自由
通信事業者は当命令に代替する規定を自由に締結することができる。 |
|
移行期間を過ぎてからの期間 | 既設市内通信事業者は、FCCの最終命令により定められたネットワーク・エレメント条件に基づき、アンバンドリング・ベースにより、サービスを提供できる。 |
調査告示
FCCは、上記調査告示の發出と同時に、正規のアクセス規則の制定に向けて、その調査告示を發出した。
FCCは、この調査告示の発表に際して、調査の目的を第1に、2004年3月に下されたワシントン連邦地裁の裁定の要件に従うこと、第2に1996年電気通信法251条(c)(3)項の要件を満たすことの2点を強調している。
(注1) | 本年3月に、ワシントン連邦地裁がFCCのアクセス規則を無効として以来の米国の規制の動き、それに伴う利害関係者の動向について、テレコムウォッチャーは逐一解説を加えてはこなかったが、多少のコメントは加えてきたので、これらについては以下のバックナンバーを参照頂きたい。
2004.5.15号、「市内アクセスの枠組み変更」(規制から事業者交渉へ)
2004.7.1号、「一部地域市場から撤退を始めたCLEC」の特に、注1
2004.8.1号、「住宅市場から撤退するAT&T、追撃するVerizon」
|
(注2) | 2004年8月20日付けのFCCのプレスレリース、
Statement of Chairman Michael K. Powell
Dissenting statement of commissioner Michael J. Copps
Dissenting statement of commissioner Jonathans S. Adelstein
なお、特に、Powell氏の声明は短いものであるが、内容は充実している。ここでは、現在のアクセスに関するFCC政策が、同氏のかねてからの主張に基づいて推進されている点を示す意味で、同氏の基本哲学である設備所有業者間競争の必要性だけの紹介に留めた。 |
(注3) | 2004年9月7日付けTMC net, "SBC Hikes Michigan Business rates in wake of FCC Decision to Kill Phone Competition" |
(注4) | 2004年8月20日付けのFCCのプレスレリース、"Order and notice of proposed rulemaking In the matter of unbundled Access to Network Elements" |
テレコムウォッチャーのバックナンバーはこちらから