DRI テレコムウォッチャー


新事業分野の成長が著しいRHC4社

2004年8月15日号

 RHC4社は、7月末から8月初頭に掛けて、それぞれ2004年第1四半期の決算を発表した。
 今回の決算においては、次の4点が特徴的である。

  1. 4社とも、長距離回線分野、DSL、携帯電話分野の成長が著しく、旧来の「地域通信」中心の営業活動から、音声・携帯・DSLを単独あるいはパッケージで販売する総合電気通信企業への脱皮が進んでいる。
  2. 新分野への移行が進捗した重要な指標として、SBC CommunicationsとVerizonの両社が今期、前年同期に比して、わずかながら増収になった点が上げられる。
  3. Verizonは今期、固定・携帯を込みにした統合決算で、前年を25%上回る高度成長を遂げたが、実は固定のみでは、今回の収入は依然として前年同期を下回っている。ただし同社は、光ファイバー、VOIP分野等では、他の3社に抜きん出た投資、サービス実施を行っており、同社の将来性は明るい。
  4. 2002年以来、光ファイバー幹線への過大な投資に失敗し、業績が失墜したばかりか、粉飾決算による訴訟にも巻き込まれたQwest Communicationsは、ようやく2004年次から、他社並みに四半期決算を発表できる段階までこぎつけた。しかし前期も当期もともに赤字となり、特に今回の赤字額は大きく、株価は大きく低落している。

 なお、7月末に、AT&Tは、住宅市場からの撤退(VOIP含まず)を発表したが、RHC各社は、これを好機として同社の住宅用加入者獲得に大きく力を入れ出した。6月中旬、米国司法省のワシントン連邦裁判所の判決を上告しない決定にも見られるとおり、ブッシュ政権は明らかに米国におけるブロードバンド推進の担い手として、RHCに大きな期待を寄せている。市内アクセスについてのFCC規則不在の下にあって、すでにRHC各社は、自社に有利な規制環境を活用するため激烈な活動を行っている。近々発表される予定のFCCの「地域電話競争規則」は、アクセス料金の規制撤廃を原則とし、これに何らかの料率アップの歯止めを掛けた項目が中心となろう。
 幾つもの不安定要素があるにせよ、2004年中Qwestを除く3社は、引き続き業績回復して行く可能性が高い(これは、とりもなおさず長距離電話会社、CLECにとっては、サバイバルが難しくなることを意味する)。
 以下本論では、具体的な数値を基にして、上記の諸点をさらに詳しく紹介することとする。

長距離・DSL回線の成長及びパッケージ・サービスの進展(注1)

表1 RHC4社の主要サービス指標(2004年6月末、単位:万)
項目
Verizon
SBC Com
BellSouth
Qwest
アクセス回線数
5,440(-4.0%)
4,863(-6.2%)
2,180(-3.7%)
350(-4.0%)
長距離回線数
1,680(+21.4)
1,840(+63%)
*3 510(53.5増)
1,600
DSL回線数
290(+52.5%)
430(+54%)
*3 170(12増)
85.3
ワイアレス回線数
4,040(+16.8)
*2 1,500(+10.6%)
*2 1,000(+10.6%)
81.6
*1 バンドル化率
50%
54%
40%
36%
*1RHC4社は、程度の差こそあれ、市内サービスをベースにして、これに長距離サービス、ワイアレス、インターネット・アクセス等のサービスを付加し、定額月極め料金で提供するパッケージ・サービスを提供している。ここでバンドル化率(筆者の造語)とは、いずれかのパッケージ・サービスを契約している加入者の比率を指す。
*2SBC CommunicationsとBellSouthの両社は、携帯電話会社CingularWirelessの株式をそれぞれ60%、40%所有している。ここでは、CingularWirelessの回線数2,500万を株式比率により両社に配分、計上した。
*3括弧内の数字は、前期(2004年第1四半期)に対する増加数である。
*4Qwestはアクセス回線数を除き、前年同期、前期に対する増減率を発表していない。

 以下、表1の各項目について説明する。

アクセス回線数
 アクセス回線数の減少は依然として止まっていない。しかしQwestを除く3社は、もはやこの減少を従来のように深刻に受け止めてはいないようである。それは、(1) 2003年から2004年の春に掛けて実施された携帯電話、固定電話のナンバー・ポータビリティーの実施によって、固定電話から携帯電話へのある程度の移行は、必然の事態として捉えられるようになったこと(2)パッケージ・サービスの実施により、アクセス回線当りの収入は増大しており、固定電話収入の増が特にSBC Communications、BellSouth 両社に生じていること等によるものと考えられる。

長距離回線数
 2002年末から2003年初頭に掛けて、FCCはRHC4社に対し長距離市場への参入実施を全面的に認めた。以来、特に大手RHCのVerizon、SBCCommunications2社の長距離市場への参入は目覚しいものがある。
 現在、4RHCの長距離回線総数は5630万であるが、この数字は多分、長距離電話会社3社(AT&T、MCI、Sprint)の総数にほぼ匹敵するものであろう。しかも最近のAT&Tによる住宅用長距離回線市場からの撤退宣言を契機として、同社の旧来の市場は、RHC4社の格好の草刈場になりつつある。さらに、AT&T以外の長距離電話会社2社(MCI、Sprint)がきわめて脆弱である点からすると、早晩、長距離電話会社はその存在理由を失うことが懸念される。

DSL回線数
 特に、SBCCommuinications、Verizonの両社は、過去1年にわたり、DSLの架設を大きく進めた。米国におけるブロードバンドは、未だにケーブル会社が圧倒的に優勢であるが、2004年第2四半期におけるRHC4社のDSL架設実績はケーブルテレビを上回ったとみられている。

ワイアレス回線数
 米国最大のワイアレス事業者は、Verizon傘下のVerizon Wirelessであって、その規模、ネットワークの品質、利用者からの評価において他の業者の追随を許さない。年末に予定されているCingularWirelessによるAT&TWirelessの統合により、一時期CingularWirelessは米国最大の携帯電話事業者となるだろうが、VerizonWireless(16.8%)、CingularWireless(10.6%)の成長率の格差が今後も持続するものとすると、数年のうちに再びVerizonWirelessが最大の携帯電話会社に復帰するであろう(注2)。

バンドル化率
 RHC4社は最近の決算報告で、このパッケージ・サービスの契約獲得率を計上するようになった。この率の大半は市内通話+長距離通話のパッケージによるものであろうが、それにしてもこの比率が予想外に高いこと、つまりRHCとケーブル会社の競争が顧客の囲み込みを拡大している事態が進行していることが読み取れる。
 またパッケージ・サービスの組み合わせの究極は、音声電話+インターネット+ビデオ(放送を含む)のいわゆるトリプル・プレイを狙うものであって、Verizonがこのサービスの本格的実施を意図して、光ファイバー分野への大々的進出を開始した点については前回のテレコムウォッチャーで紹介した(注3)。

Fios導入の狙いは本格的な“トリプル・プレイ”の実施

 表2に2004年第2四半期におけるRHC4社の収入・利益を示す。

表2 2004年第2四半期におけるRHC4社の収入・利益等(単位:億ドル)
項目
*1 Verizon
SBC Com
BellSouth
*3 Qwest
収入
178(+5.9%)
103(+0.8%)
51(+1.0%)
34(-4.3%)
純利益
18(+530%)
17(-0.6%)
9.4(+3.4%)
-7.8(-0.6)
投資額
*2 57(+11.2%)
*2 21.4(+8.6%)
7.3(+7.3%)
4.9(-2%)
*1Verizonの数値はVerizon Wirelessを含んだものである。同社はVerizonの固定電話、ワイアレス収入を分計していない。
*2Verizon、SBCの投資は2004年上半期の数値である。
*3Qwestの純利益の欄の括弧の数値は、2004年第2四半期の実績値を示す。

 以下、RHC4社について、それぞれの財務の特徴を記述する。

Verizon
 Verizonの成長率は4RHCのなかで最も高い。これは、VerizonWirelessの25%に及ぶ高い成長(収入は、2003年同期の55億ドルから68億ドルに増大)に支えられたものである。固定通信部門は、前年同期比2.9%の減である。この点、固定通信部門にのみで前年同期に比しプラスの成長を果たしたSBC、BellSouthに劣っている。
 また、利益率がSBC両社に比し低いことにも注目すべきである。
 ただ利益率の低さは、VerizonがRHCのトップを切って光ファイバー、IPネットワークの構築を進め、群を抜いた投資を行っていることにより説明できるだろう。

SBC、BellSouth
 SBC、BellSouthの両社は、携帯電話Cingular Wirelessを共有しており、同盟関係にあり、表2が示すとおり、財務の面でも類似した特徴を有している。今期、両社ともに2003年第2四半期に比し、わずかながら増収を計上することができた点は注目に値する。なお、規模の小さいBellSouthが財務面ではもっとも堅実であり、最近の株式市場は同社の業績を評価し、株価は上がっている。
 両社ともにアクセス回線減少による収入の伸びを長距離、DSL分野での収入増、これと関連することではあるが、パッケージサービスの進展によりカバーできた点で、2004年第1四半期は転機となる可能性が高い。

Qwest Communications
 今期決算で、Qwestは前年同期に引き続き、しかも前期を上回る大きな赤字を計上し、RHC4社のなかで最大の問題児であることを露呈した。これまで3ドル台(破産寸前の企業レベルを示す株価水準)を低迷していた同社の株式は8月9日現在2.69ドルを記録し、同社の将来には暗雲が立ち込めている。
 同社は、IPグローバルネットワークによる世界通信市場の制覇の夢が破れ、その後、地域電話市場(旧RHCのUSWestが地盤であった)をベースにして、他のRHC 3社同様に、地域。長距離・DSLをパッケージで提供する電気通信会社として、再起を狙っているのである。
 アクセス回線の減少とビジネス部門における料金引き下げが大きく、Qwestの収入に打撃を与えた。しかも粉飾決算訴訟のため、3億ドルの予備費を計上したため、これが大きく同社の赤字を増加させた。
 要は、かつて同社のNaccho会長が強引に推進したなんらの合理的根拠のない超拡大路線のつけを現CEOのNotebaert氏以下の同社従業員が支払っているのである。
 同社の状況は、2004年第1、第2四半期に同様に赤字を計上し、依然、将来の展望が描けないMCIの場合に酷似しているが、MCIが米国破産法の洗礼を受けて債務を免除されたのに対し、Qwestが164億ドルもの巨額の債務を有している点で、MCIより事態は深刻であるとも言える。

難航が予想されるFCCの新アクセス料金規則

 最後に、現在、FCCが策定中の新アクセス料金規則の進捗模様について、触れておく。FCCのパウエル委員長は、6月13日に司法省がワシントン連邦地裁の判決の上告を見合わせる決定を行った直後、今後、数週間の間に新地域電話規則を制定すると言明したが、以来2ヶ月が経過しており、作業が遅れている。
 2、3の米国の情報記事によると、FCCはアクセス料金の引き上げ上限を15%とする点を含めた暫定規則を賛成3、反対2の多数で可決したものの、反対する民主党FCC委員および消費者団体を中心とした強い反対を考慮し、さらに検討を続けているとのことである(注4)。
 現に、規制環境が自社に有利に展開していると見て、競争業者には高いアクセス料金を、利用者には安い地域電話料金を提供することにより、長距離電話事業者、CLECを扼殺を意図したRHCの事業活動が展開されている折から(注5)、大統領選挙の前でもあり、消費者にも充分考慮した規制策定という難しい作業とFCCは取り組んでいるわけである。
 この件については、FCCの暫定規則が公表された時点で、詳論することにしたい。


(注1)今回の4RHCの事業、財務の分析に当っての資料は、すべて4社が2004年7月末から8月初めに掛けて発表した2004年第2四半期決算の資料によった。資料名の紹介は省略する。
(注2)米国の携帯電話業界の近況については、別途改めて紹介することとしたい。
(注3)2004年8月1日付けテレコムウォッチャー、「住宅用市場から撤退するAT&T、追撃するVerizon」
(注4) 例えば、最新のものとして、2004.8.4付けCRMBuyer, "FCC Urges Compromise on phone Line Lease Rates"
(注5)例えば、2004.8.3付けI won money, "Bells mount Two-way Assault On Local market"

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