DRI テレコムウォッチャー


堅実経営で成果を上げるテレフォニカ

2004年7月15日号

 スペインの電気通信事業者のテレフォニカは、独自の経営方針を推し進め安定した成長軌道を歩んでいる。その成果は、2004年4月に同社が発表した決算の数値にも現れている。
 すなわち、テレフォニカは、主要部門である「国内部門」、「中南米部門」、「携帯電話ビジネス」の3つの部門において、すべて前年同期の2003年第1四半期より業績を伸ばしており、利益率においても欧州の他の同業者を大きく引き離している(例えば収入に対するEBITDA−償却、投資前の営業利益―で比較すると、FT(37.5%)、DT(32.8%)、BT(10.8%)であるのに対し、テレフォニカは44.7%である)。この好調な業績は、株式の高さ、時価総額にも端的に反映されている(注1)。テレフォニカの事業戦略は、次の3点に集約されるだろう。
 先ずテレフォニカは、国内において競争の進展が、他の欧州先進国、英国、ドイツ、フランスほど熾烈でない利点を利用して、既存の固定通信からのサービス(それでも微減しつつある)を維持するとともに、新分野であるDSL架設を推進し、収入の増を図っている。
 次に、中南米分野では、スペイン・ポルトガル語圏において同社が有しており、他社の追随を許さないノーハウを駆使して、欧米企業のなかで独走体勢にある。中南米の電気通信分野では、各国で他国からの直接投資が盛んに行われているが、同時に集中化も進んでいる。携帯電話では、テレフォニカとAmerica Mobile(紛らわしい名称にもかかわらず中南米資本であって、大富豪Salim氏が支配している)両社による寡占的な支配が進んでいるといっても過言ではない。2004年3月、テレフォニカは、米国RHCのBellSouthから、同社が有する中南米諸国10カ国の携帯電話の利権をすべて買収する協定に調印した。  
 これによりテレフォニカは、僅差ではあるがAmerica Mobileを抜き、中南米随一の携帯電話企業となる。
 第3に、テレフォニカはコアビジネスに重点を置いており、過去の投資が見込みがないとなるとただちに撤退するというドラスチックな戦略を追求している。
 テレフォニカ・グループを統率しているのは、在任3年を迎える同社会長のアリエルタ氏である。前任者ベラスケス会長の跡を受けて、未だその事業規模はDT、FT、BTに及ばないにせよ、テレフォニカを欧州でも有数の安定・成長企業に育てたこと、とりわけ為替変動、政治の不安定等から、ガバナンスが難しいことで定評がある中南米地方の固定・携帯市場に大きな事業基盤を築き上げた点で、その力量は大きく評価されている(注2)。
 本文では、さらに詳しくテレフォニカの財務、事業の特色、特に中南米諸国への進出状況を見ることとする(注3)。

手堅い成長を続けるテレフォニカ・グループ

 2004年第1四半期、テレフォニカ・グループは、表1に示すように収入(7.7%)、 EBITDA(10.4%)、営業利益(+29.1%)、純利益(5.58億ユーロで+2.7%)と前年同期より、それぞれ良好な成果を収めた。

表1 2004年第1四半期におけるテレフォニカ・グループの業績(単位:億ユーロ)
グループ
収入
EBITDA
営業利益
国内部門
26.35(+1.7%)
12.06(+4.2%)
5.75(+19.3%)
中南米部門
16.30(+8.8%)
7.23(+5.8%)
3.10 (+21.8%)
携帯電話ビジネス
26.47(+20.4%)
11.40(+12.2%)
7.58(+18.4%)
その他
8.06(+19.2%)
4.46(-19.4%)
-0.32(-1.07%)
グループ総計
69.59(+7.7%)
31.12(+10.4%)
16.24(+29.1%)
注:1
テレフォニカの主要グループは、国内部門(Telefonica de Espana Group)中南米部門、(Telefonica Latino America Group)、携帯電話部門(Cellular Business)である。Telefonica は、その他の5つのグループ(番号簿、ISPのTerra Lycos等)の数値も発表しているが、これらは「その他」の項目に集約した。表1で各項目の計とグループ総計の数字が合わないのは、部門間の取引があるためである。
注:2
括弧内は、前年同期対比の増減率を示す。
注:3
その他のEBITDA、営業利益の括弧内の数値は、前年同期の実数である。

 表1から、テレフォニカ・グループの事業構成、財務の特色が伺える。
 第1に、中南米部門のウェイトが高いことである。もっとも「国内部門」には携帯が含まれていないから、表1の携帯ビジネスから、スペイン国内の携帯の収入分(18.8億ユーロ)を差し引き、この分を国内に加えると、固定・携帯を加えた実質的な国内部門収入、中南米部門収入は、それぞれ45.15億ユーロ、23.97億ユーロとなる。つまり、テレフォニカ・グループは、固定・携帯電話収入の3分の1強(35%)を中南米諸国から得ているのであって、海外市場での成功が同グループの事業を大きく支えている。第2に、携帯電話部門のウェイトが高い点が上げられる。表1で明らかなように、今期、テレフォニカ・グループの携帯電話ビジネスの収入は、国内部門(固定通信)の収入を上回った。これは、固定電話事業、携帯電話事業のそれぞれの成長率の差からして、この傾向は今後ますます顕著なものとなろう。

特に成長が著しい携帯電話ビジネス

表2 テレフォニカの固定・携帯回線数(単位:万)
項目
2004年3月末
2003年3月末
2004/2003(%)
 固定回線数
  中南米諸国等
1,913
1,862
2.8
  スペイン本国
1,927
1,879
2.5
   計
3,840
3,741
2.6
 携帯回線数
  中南米諸国等
1,435
1,046
37.2
  スペイン本国
1,843
1,728
6.7
   計
3,278
2,774
18.2
注:1
原資料は千単位であったが、四捨五入により万単位とした。
注:2
中南米等には、モロッコの携帯電話数約200万、ドイツにおけるADSL32万を含んでいる。
注:3
中南米等の数字は、通信会社へのテレフォニカの資本比率による加重平均値である。
注:4
最下欄の総計には、ペルーにおけるケーブル加入者数が含まれている。

 表2は、テレフォニカ・グループの固定回線数(DSL、ケーブル回線数を含む)と携帯電話数の現在、及び1年前の数値をスペイン、スペイン外の別に比較したものである。この表によれば、表1の収入で見る以上に、両地域の数値が拮抗していることが分かる。すでに述べたように、収入では、中南米の占める地位は3分の1程度であるが、回線数で見ると(1)固定回線数では、中南米がすでに本国を追い抜いており(2)また、携帯電話数でも、中南米地域は本国に迫っている。さらに後述する通り、年末までには、テレフォニカは2004年春に、ベルサウスとの協定により獲得した携帯電話数1050万(加重平均によらぬ実数を取得することになるので、携帯電話回線数で本国を上回ることとなる(注4)。

国内固定部門 - 一般電話収入の減少を合理化・DSL回線の増で補う政策を推進

 スペインでも、一般電話回線数の減少は進んでいる。2004年第1四期には、前年同期に比し電話回線数は2.5%減少(1536万から1500万へ)した。しかし、まだ電話料金体系の変更(通話料を下げ、基本料を上げる)が進んでいる段階であり、収入減への影響はさほどのものではないようである。しかも、DSLは急増している(2004年第1四半期は、前年同期に比し113万加入から185万へと62.6%の増)。さらに、一般の電話回線利用のインターネット利用料金は、休日・早朝・夜間を除き、まだ従量制であって、これによる収入増も大きい。従って、収入面では2004年第1四半期、前年同期に比し1.7%の増を達成できた。
 EBITDA、営業利益が、それぞれ4.2%、19.3%増加したのについては、従業員削減による支出減が大きく貢献している。テレフォニカは、2003年から2004年までに、過剰となっている従業員を希望退職による従業員削減計画を遂行しており、2004年第1四半期までの1年間で、従業員数は約42,000から36,000名へと6000名(14.4%)減少した。このため営業支出は、前年同期比0.4%縮小することができた。

中南米固定部門 - 政治不安・為替の不利を克服し利益拡大へ

 テレフォニカは、ブラジル、アルゼンチン、チリ、ペルーの諸国で、主として他社との合弁により、海外固定電話事業を運営している。表1、表2で明らかな通り、回線数において、また利益率において、ほぼ国内固定事業に匹敵する業績を収めている。
 中南米諸国では一般的に、未だ通常電話の架設が飽和に達していないため、成長力は高い。反面、一部の国では、政治、経済の面で不安定性があるため、投資にはリスクが伴う。また、現地政府が採用する過度の料金規制政策により、利益を上げることが難しい場合もある。数年前、アルゼンチン経済がデフォルトに追い込まれるほどに危機に陥った時期には、テレフォニカはTASA(Telefonica de Argentina )の事業で大きな欠損を計上した。また、2004年第1四半期の決算でも、チリ、ペルーの両国では収支が償っていない。
 しかし、テレフォニカが、このような厳しい事業環境にあって、中南米地域での事業経営で毎期、利益増を継続させている事実は特筆に価する。

コアビジネスへの精力集中 - 採算の取れない事業は切り捨てへ

 テレフォニカは、ここ数年来、コア事業(固定通信、携帯事業、DSL事業)への傾斜を強めており、過去に進出したが、その後早急に利益が上がらなくなった部門の切捨てに力をいれている。通信とデータとの融合、回線交換からパケット交換への移行、一般電話からIP電話への移行といったグローバルな通信の変化の流れに逆行した路線だと批判することも可能であろうが、相対的に規制環境が同社にとって有利な特殊な環境の下に、成果を収めていることは否定できず、きわめて現実的な戦略ともいえよう。
 2004年にテレフォニカが明らかにした従来分野からの大きな撤退は、ISP企業、Terra Lycosの米国部門、Lycos売却方針の決定である。2000年5月、テレフォニカは米国の大手IPSのLycos社を買収した。その後、Lycosは収入こそ伸びているものの依然として黒字を計上するに至っていない。すでに買収のオファーは4社から来ているといわれている(注5)。
 また、テレフォニカは、欧州の他の通信事業者と同様、3Gのライセンスの取得に力を入れたが、この分野からの撤退を決意したのも早かった。同社は、すでにQuam(フィンランドの通信事業者、Soneraとのドイツにおける3G運営のためのコンソーシャム)から撤退したし、2004年1月にはオーストリアのMobilcomに対し、同国における3Gライセンスの権利を譲渡することで合意した。最近テレフォニカは、念願であったイタリアにおける3G事業からの撤退も実現するようである(注6)。
 テレフォニカは、スペイン本国においては3Gサービスを近々提供すると発表しているが、正確にいつから始まるのかは明らかにしていない。Vodafone社はスペインにおいて、一足先に、本年6月1日に同社の3Gサービス(Live!TM 3G)の開始を始めた(注7)。スペインにおける3Gサービス提供は、同国の規制機関が、強くライセンス上のサービス実施期日の遵守を要求しているため、これに対し、テレフォニカがしぶしぶ対応している側面もあるようである。ここにも、採算重視(裏を返せば、新サービスについてリスクを犯さない)とのテレフォニカの基本戦略が読み取れる。


(注1) 例えば、2004年6月30日現在のテレフォニカの時価総額は、世界電気通信会社中9位の737億ドルであり、20位のBTグループ(314億ドル)、11位のFT(631億ドル)を抜いている。また、収入において欧州最大の事業者、第8位のDT(743億ドル)に肉薄している(Yahoo! Finance, Washingtonpost Quotes and News より)。
(注2)アリエルタ氏の戦略(特に、中南米への投資)については、簡潔なものながら、2004.5.24付けビジネス・ウィークに良い解説記事("Spain's New EmpireBuilder")がある。筆者の今回のレポ−トの主調は、この記事に負うところが大きかった。
(注3)テレフォニカは、毎年4半期ごとにきわめて詳細な決算報告を発表している。今回の筆者のレポートは、そのほとんどを同社の2004年第1四半期の決算報告(Telefonica:2004 Quarterly Result January-March)によった。
(注4)TelefonicaMovilesは、2004年3月8日、BellSouthが中南米10カ国(アルゼンチン、ペルー、チリ、ベネズエラ、グアテマラ、コロンビア、エクアドル、ニカラガ、パナマ、ウルグアイ)に有するすべての携帯電話の権益を58.5億ドル(これら諸国の携帯電話会社が有する負債15億ドル分を含む)で買収することで合意した。この合意内容は、各関係諸国において、逐次、2004年上半期末までに実施されることになる(未だ終了したとの報道はない)が進行中の模様である)。2004年3月8日付け、BellSouthのプレスレリース、"BellSouth Signs Definitive Agreement To Sell Its Latin America Operations To Telefonica Moviles"
(注5)2004.7.20付け"Revolution, "Lycos under offer as Telefonica weighs four bids for portal"
(注6)2004.3.9付け"http:www.3G.co.uk, "3G Shakeout Continues in Europe"
(注7)2004.6.9付け"http:www.3G.co.uk,"3G Phone Launch for Vodafone Spain"

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