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明暗を分けた長距離通信事業者3社の業績 - 危機的状況のAT&T、MCIと好調なSprint

2004年6月15日号

 通信・ITバブルの後遺症はほぼ克服されたものの、業種間の垣根がすっかり取り払われ、競争はますます激化し、サービス料金は低下し続けている。また、2003年実施されたFCCの新たなUNE-P規制に対し、ワシントン連邦控訴裁がFCCに再検討を命じる判決を下したこともあり、電気通信規制が混迷しており、これが通信諸会社の戦略決定を躊躇させる大きな要因にもなっている。このため経済の好調が続くなかで、米国の電気通信会社の業績がいまだ低迷している。
 なかでも収入の著しい減少が引き続き、将来が懸念されるのは、長距離通信事業大手会社である。2004年5月に発表された2004年第1四半期の決算によれば、AT&T、MCI両社は、依然として収入の減少に歯止めがとまらず、AT&Tは限りなく収支ゼロに近い黒字計上となった。またMCIは、破産宣告を解除されハンディの付かない普通企業としてスタートして発表した最初の決算で、早くも欠損を出すこととなった。
 これに対し、予想外に好調な成果を収めたのはSprint Corporationである。同社は、携帯電話部門(Sprint PCS)における収入を大きく伸ばすかたわら、地域通信の分野での収入減を適度にコントロールすることにより、業績を伸ばした。
 従来から、AT&T、MCI(旧WorldCom)、Sprintの3社は、米国の3大長距離通信会社であったが、バブル期を経過した現在、最大手の2社が収入減に悩み、最も弱小であるとされていたSprintが今後単独の通信会社として生き残れる公算が強くなった。
 なお2004年4月20日から、SprintCorporationは、これまでSprintFON、SprintPCSの両種のストッキング株を発行していたが、これを統合し、同社の株式はすべてSprintFONの名称で発行することに切り替えた。
 通信会社、ケーブルテレビ会社でのサービス競争は、音声通信(地域通信、長距離通信を含む)、インターネット、テレビの3種のすべてをパッケージで提供する、いわゆるトリプル・プレイに移行している。最近、Sprint Corporationは、衛星テレビサービスの提供開始をはじめ、ようやくトリプル・プレイのクラブに仲間入りできることとなった。
 この観点からしてみると、長距離通信一本で終始しており、現在携帯サービスの卸売り先を物色していると見られるMCIはもとより、インターネット、携帯サービス(Sprintサービスの小売)を提供しているもののテレビを欠き、またこれらサービス提供多角化の実績でも立ち遅れているAT&Tは、ともに今後、バイアブルな企業として生き残っていけるか否か、疑問が持たれるところではある。
 本文では、2004年第1四半期の決算を中心に明暗が分かれた3社の業務状況を一瞥することとする。

AT&T:著しい業績の落ち込み

 2004年第1四半期におけるAT&Tの収入、利益を表1に示す。

表1 2004年第1四半期におけるAT&Tの収入・利益(括弧内は前年同期に対する増減比)
項 目
収入(単位:億ドル)
利益(単位:億ドル)
ビジネス部門
59.1(-9.1%)
営業利益 0.83(-87%)
住宅部門
21.0(-16.2%)
営業利益 3.71(-42%)
80.0(-11.0%)
純利益 3.04(-47%)

 今回のAT&T決算は、3点において危機的な様相を示している。
 第1に、AT&Tの収入はこれまでも落ち込みが大きかったのであるが、遂に前年対比で11.0%の減と減少が二桁の大台に達してしまったことである。第2に、ビジネス部門の利益が営業利益段階で87%と激減し、純利益段階では多分、赤字になっていると推測できることである。第3に、ビジネス部門、住宅部門の営業利益の総和(4.54億ドル)に比し、純利益が多すぎる。決算報告のなかでも、(1)前年同期との対象項目ガ異なること(2)新会計報告による累積利益の計上を認めているが、特に、(2)がなければ、同社の収支は、ゼロに限りなく近づいていたのではないかとの疑念すら抱かれるほどである(注1)。
 参考までに、同じ項目についての前年同期の数値を表2に示す。

表2 2003年第1四半期におけるAT&Tの収入・利益(括弧内は前年同期に対する増減比)
項 目
収入(単位:億ドル)
利益(単位:億ドル)
ビジネス部門
64(-1.4%)
営業利益 6.0
住宅部門
25(-17.8%)
営業利益 6.32
90(-5.9)
純利益 5.71

 2003年同期と比較すると、収入減がトータルで年間5.9%から11.0%へとほぼ倍増しており、これまで減少率が少なく同社業務の支柱であったビジネス部門も大きく劣化していることが明らかである(注2)。
 ドーマン会長は、VOIPやワイアレスなどのサービスの多角化に力を入れ、財務を改善して行きたいと述べている。

新生MCI:赤字決算からのスタート

表3 2004年第1四半期におけるMCIの収入・利益(括弧内はEmbratelを除いたもの)
項 目
2004年第1四半期
2003年第1四半期
収入
62.95(54.43)
72.28(66.13)
利益
-3.88(-3.87)
0.52(0.62)
(上表の単位は、億ドル)

 旧WorldCom は、2004年4月20日から米国破産法第11章の制約を離れ、正式に名称を改正して、MCIとしてスタートした(注3)。
 新生MCIが発表した最初の四半期決算報告では、上表の通り、かなり大きい赤字計上を出すこととなった。なおMCIは、2004年内にブラジルの電気通信会社、Embratelに有する株式を売却する予定であり、表1では、Embratel分を除いた収入、利益を括弧に示している(注4)。
 MCIの2004年第1四半期における過去1年間の収入の落ち込み率は13%であって、AT&Tの11%を上回っている。しかし、経営破たん宣告を受けた企業の落ち込みとしては、このハンディのなかったAT&Tに比して少なく、よく健闘したとの見方もできる。
 MCIが収入落ち込み理由としてあげているのは、激化する競争下での料金の低落、携帯電話、Eメール、RHCの長距離通信への移行等であって、AT&Tの主張と共通している。
 両長距離電話会社ともに共通の悩みを抱えている。
 なおMCIは、2004年下半期には、以下の施策を講じることにより、黒字に転じたいとしている(注5)。

  • 国際トラヒックの利用増
  • 事業用加入者に対するIPベースのサービス販売の強化
  • 7500名の従業員レイオフ(2004年3月に4500名のレイオフを行ったので、総計12000名のレイオフとなる(注6))
  • ネットワーク・オペレーションの統合と最適化

予想以上に好調な業績を上げたSprint Corporation

 表4に、Sprint Corporationsの業績を示す(注7)。

表4 2004年第1四半期におけるSprint Corporationの利益、収入(単位:100万ドル)
項 目
Sprint Corporation
Sprint FON
Sprint PCS
収入
6,707(6,339)
3,438(3,581)
3,437(2,947)
利益
222(1,668)
308(1851)
-86(-182)
(表4の括弧内の数値は、2003年第1四半期を示す)

 表4でまず注目されるのは、Sprint Corporationの収入が前年比5.8%とかなりの増加を見せていることにある。この理由は、携帯電話を提供するSprintPCSが今期きわめて好調で、前年同期に比し16.6%と大きく収入を伸ばしたことにある。
 Sprint PCSは、今期97.2万と大きく加入者数を伸ばした。その内訳は、直接販売によるもの41.4万、卸売りによるもの42万、関連会社を通じて販売するもの13.8万と販売チャネルが多様化している点にも特色がある。
 地域通信、長距離通信を取り扱うSprint FONの分野では、4%程度ほどの減少を示しているが、AT&T、MCIに比し、収入の落ち込みは少ない。これは同社が、800万の市内加入者をベースに、市内、長距離サービス、さらには携帯サービスの組み合わせ販売を行い、ユーザーの流出を食い止めていることによる。
 なおSprint Corporationsは、2004年6月1日から衛星テレビサービスの販売も開始した模様である。これは、Sprint Corporationsが他のRHC各社、一部ケーブルテレビ会社に倣って、いわゆるトリプル・プレイの分野でのプレイヤーになったことを意味する(注8)。

買収対象になりやすいMCI

 AT&T、MCI、SprintCorporations3社の2004年第1四半期の業績を紹介してきたが、ここで注目すべきことは、いつのまにかSprint Corporationsの収入がMCIを上回ってしまったことである。最盛期の旧WorldComがSprintの取得を狙い、米国、英国の規制機関から拒絶されてこれを断念したのは、まさに2000年6月末、わずか4年前のことであった。通信事業者の栄枯盛衰の激しさに、いまさらながら驚かされる。
 ついでのことながら、Sprint Corporationは2004年4月20日に、Sprint FON、Sprint PCSのトラッキング株を廃止し、現在SprintFONの名称で統合株式が発行されている。この現象が示すように、Sprint Corporationsは、今やトリプル・プレイのパッケージ・サービスに参加した総合メディア企業となり、旧来の長距離電話会社から脱皮することができた。またそれだけに、将来のバイアビリティー(生存性)が、3社のなかでは高いといえよう。


(注1)2004.4.22付けAT&Tのプレスレリース、"AT&T Announces First-Quarter 2004 Earnings"
(注2)AT&Tの住宅部門の減少率は、2004年次には2003年次を少し下回った。これは、UNE-Pを利用しての地域通信市場への進出が多少ではあるが、プラスに影響していることによるところが大きいと思われる。同社によれば、2004年3月末現在で、利用しているローカルアクセス回線は450万を超えるとしているが、2004年第1四半期に増えた回線数は8.5万に留まっている。しかも規制環境の激変により、幾つもの州公益事業委員会は、RHC各社からの申請に基づき、市内回線の卸売り料金を続々値上げする姿勢にあり、このためAT&Tは、インディアナ、オハイオの2州において市内回線の販売を中止した(2004.5.19付けCnet News.com,"AT&T hangs up on some local plan")。
2004年3月3日に連邦控訴裁判所が、FCCの新UNE-P規則を違法であるとFCCに差し戻したため、FCCは現在、RHC、長距離電話会社、CLECに対し、相互に事業者協定により、ローカル回線、施設のリース料を定めるよう指示しているところである(DRIテレコムウオッチャー2004年5月15日号、「市内アクセスの枠組み変更(規制から事業者交渉へ)を推進するFCC」。
ところが上記の判決、FCCの指示の及ぼしたインパクトは大きく、Cnetの記事から推察するに、RHCはFCCの指示に従って、CLEC、長距離通信事業者との交渉を行うと同時に、州公益事業委員会を通じて、UNE-P料金の値上げを勝ち取る戦略を実行に移し始めた模様である。この件については、最高裁への上訴がなされるか否かが明確になった時点(多分6月15日)以降に再度、論じることとするが、この最大の規制問題がどのように解決されようと、すでに規制環境は同社にとって、きわめて不利な方向に展開していることだけは確かである。これは、AT&T、MCIの将来がさらに厳しくなることを意味する。
(注3)DRIテレコムウォッチャー2004年5月1日号、「新生MCI、破産法第11章の適用を免除され戦線復帰へ」
(注4)5月12日付MCIのプレスレポート、"MCI Announces First Quarter 2004 Results"
(注5)黒字にするのは、2004年下半期といっているだけであって、通年で黒字にするといっていないことに注意されたい。この点は、今期辛うじて、黒字決算で留まったAT&Tの場合も同様である。両社とも、それほどまで自社の経営について自信がない模様である。
(注6)MCIはこの従業員削減により、年間6億ドルの経費を削減できるとしており、その削減を2004年後半の同社の黒字化の大きな根拠としている。2004年5月11日付けYahoo!News,"MCI Plans to Cut 7,500 Jobs This Year"
(注7)Sprintのプレスレリース、"Sprint Reports First Quarter Results"
(注8)2004.6.1付けCnet News.Com,"Sprint sells satellite cableTV"

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