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DRI テレコムウォッチャー |
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失速を始めたノキア
2004年6月1日号
携帯電話の人気は、全くグローバルなものとなった。
ほんの数年前まで、音声からテキスト、ビデオへの携帯電話の機能アップが、欧米のユーザーに受け入れられるかどうかが議論されていた。ところが最近では、世界的にインターネットへのアクセス、カメラ機能付き電話が大変なブームを呼んでおり、2004年には、携帯電話機の出荷数は2003年を大きく上回るだろうとの予測がなされている(強気のIDC社の予測では2004年に6億万弱)。第3世代の携帯電話(3G)のサービス・インは、当初予定より大きく遅れているものの、2004年後半には欧州の主要ベンダーが、おおむねサービス開始に踏み切る予定である。この新世代サービスが順調に推移すれば、携帯電話業界はさらに一層の活気を呈することとなるだろう。
ところで、最近の携帯電話業界の大きな話題は、世界最大の携帯電話ベンダーのノキアが急激にそのシェアを減らし、収入も減少、同社自体が、その回復は2004年後半を待たなければならないとの弱気の見方をしていることである。
ノキアは、モトローラ、エリクソン、シーメンス等の他の大手携帯端末ベンダーが、電気通信不況の下で軒並みシェアを減らした1999年から2002年に掛けて、大きく売り上げを伸ばし、その市場シェアは1997年末の21%から、2002年末の35,1%にまで、大きく伸びた。利益率も抜群であり、競争業者の追随を許さなかった。
ところが、同社の業績は2003年後半頃から振るわなくなり、2003年のシェアは34.7%へと少し下がった。さらに後述する通り、ノキア社の2004年第1四半期の決算報告、アナリストの分析からすると、最近の同社の端末の売り上げの伸び悩みはさらに深刻になっている。
これまでノキアは、製品の技術の卓越性はもとより、そのデザインのスマートさ、若者に受けるファッション性の取り入れにおいても、他社を圧倒してきたと評価されてきた。
ところが最近のアナリストたちの評価では、ノキアは従来、同社が秀でているといわれて来た端末の機能性、デザイン性の点において、競争業者に劣っていると批判されている。
なお、ここ数年間、業者間の激しい競争を通じて、ベンダーの地位に多くの変動が生じている。なかでも、ここ数年の間にめきめきと力を付け、シェアを大きく伸ばし、業界2位のモトローラに迫る勢いを見せているサムソン電子(韓国)の躍進が目覚しい。
本文では、ノキアの不振の状況、その原因等について説明する。
大幅に落ち込んだ携帯電話部門の売り上げ
表1 ノキアの部門別収入、利益(単位:億ユーロ)
| 2004年第1四半期 | 2003年第1四半期 | 増減率(%) |
携帯電話 | 42.51 | 49.89 | -15 |
マルチメディア | 7.76 | 4.84 | +60 |
ネットワーク | 14.15 | 12.17 | +16 |
企業用ソリューション | 1.89 | 0.97 | +95 |
総収入 | 66.25 | 67.73 | -2 |
純利益 | 8.16 | 9.77 | -16 |
この表が示すように、収入の大勢を占めるノキアの携帯電話部門が、2004年第1四半期は大きく売り上げが落ち込み、同社の収入は昨年同期を2%下回った。また、純利益も総体で16%と大きく減少している。
実のところノキア社は、この四半期の期間に、グローバル市場における携帯電話売り上げ総台数は、前年同期に比し、29%と大幅な増加を示したのにもかかわらず、同社の売り上げ増は19%に過ぎず、競合他社に遅れをとったことを認めている。しかも、競争激化のため価格が低下し、同社の収入は15%も減少したというのである。
同社は低位機種に力を入れる余り、高位機種への転換に乗り遅れ、現在、鋭意高位機種の出荷に力を入れているが、それが軌道に乗るのは2004年後半期であり、回復には未だ期間が掛かることを認めている。ただ、同社は、グローバル・シェア40%の確保を長期目標に置いており、早晩必ずやこのシェアを達成すると、同社の将来については強気の姿勢を崩していない(注1)。
売れ行き伸び悩みの原因
最新のファイナンシャルタイムズ紙(2004.5.7付け)の解説によると、ノキア社の売り上げが他社に遅れを取っている原因は以下の通りであって、単純、明快である(注2)。
驚いたことに、同社が今、市場に提供している機種のほとんどは、形式において棒型(キャンディー・バー)、画面は白黒、カメラ機能なし、対話者の画像を伴ったピクチャー・ホーンの機能なしというもので、まったく旧態依然たるものだという。現在、携帯電話は、グローバルに開閉式(クラム・シェル、カラー画面、カメラ機能付き、ピクチャー・ホーン機能等へと移行しつつある。またこれにより、売り上げ単価も上がっているのに、ノキアはこの顧客需要の大きな流れを読みきれず、低位機種の安値販売に甘んじて、三星電子、モトローラ、ソニー・エリクソン等の競争業者の後塵を拝するようになったという。
これらの諸機能を具備した新機種は、ノキアでは「Nokia7200」であるが、この機種は未だ出荷が順調に進んでおらず、市場に大量に提供されるのは2004年の下半期になる模様である。
ノキアが立ち遅れているのは、主として欧州、米国市場であり、中国、中南米では売り上げが好調のようであるが、ともかくこれまで、性能の卓抜さとデザインの斬新さで、圧倒的な優位を誇ってきた同社がどうしてこのような苦境に追い込まれるようになったかは、不思議という他はない。
またノキアは、3G用の端末の開発でも立ち遅れている模様である。これは、ベンダーと大手サービス提供業者との契約の問題とも関係がある。3G提供にからみ、すでにサービスを提供しているHuchison Whampoa、Vodafone、T-Mobile等の業者は、大量発注のメリットと引き換えに、自社の求めるスペックを端末機器ベンダーに受け入れさせるテイラー・メード方式を推進しているが、これまでノキアはこの方式を拒み、このため他社に端末の契約を取られるケースが多いといわれる(もっとも現在は、この方針を改めた模様)。
2003年から始まったノキアのシェア低下
表2 携帯電話ベンダー10社の売り上げ、シェア(注3)
ベンダー |
2003年 |
2002年 |
端末数(万) | シェア(%) | 対前年成長率
(%) | 端末数(万) | シェア(%) |
ノキア | 18,070 | 34,7 | 19,3 | 15,142 | 35,1 |
モトローラ | 7,520 | 14,5 | 3,2 | 7,285 | 16,9 |
サムソン | 5,450 | 10,5 | 30,6 | 4,168 | 9,6 |
シーメンス | 4,380 | 8,4 | 26,4 | 3,462 | 8,0 |
ソニー・エリクソン | 2,670 | 5,1 | 15,5 | 2,311 | 5,3 |
LG | 2,620 | 5,0 | 90,0 | 1,380 | 3,1 |
パナソニック | 1,680 | 3,2 | 56,1 | 1,077 | 2,5 |
NEC | 1,350 | 2,6 | 66,9 | 808 | 1,9 |
アルカテル | 720 | 1,4 | -39,2 | 1,189 | 2,7 |
Sagem | 620 | 1,2 | 31,6 | 474 | 1,1 |
その他 | 6,920 | 13,3 | 18,0 | 5,866 | 14,8 |
計 | 52,000 | 100 | 20,0 | 43,163 | 100 |
表2(Gartnerの調査による)を見ると、ノキアのシェアの低下が、すでに2003年から始まっていたことが明らかである。すなわち、ノキアは2003年に前年より3000万近く多い約1億8000万の携帯端末を販売したのであるが、そのシェアはグローバル市場総販売数万の34,7%であり、前年シェアの35.1%から多少下がったのである(ノキア自体は、この事実を認めたがらず、2003年末のシェアは35%であったと称しているが、多分、Gartnerの数値が正しいのであろう)。
またノキアの2003年の成長率は、前年対比19,3%であったが、この数値は携帯端末総体の成長率20%を下回っている。これに対し、サムソン電子(30,6%)、シーメンス(26,4%)、LG(90%)、パナソニック(56.1%)、NEC(66.9%)の各主要ベンダーは軒並み、前年に比し、平均より高い成長を示した。つまりこれらベンダーは、ノキアのシェア減少をもたらすほどに勢いが強かった。
ついでながら、2003年に売り上げを大きく減らしたアルカテルは、今後端末部門をTCL(中国の通信機器ベンダー)との合弁会社(TCLとアルカテルがそれぞれ55%、45%の株式所有)に委ね、さらに将来はネットワーク機器に専念するため、端末分野から撤退する方針を定めている(注4)。
表2によれば、上位10社外のベンダーのシェアは14.8%から13.3%へと2003年の1年間で1.5%も下がっている。アルカテルの事例が示すごとく、競争の激化に伴い、ベンダーの淘汰も進んでいる。
厳しいノキアのシェア奪回
表3 大手5携帯電話ベンダーの出荷数とシェア(2004年第1四半期)
ベンダー | 出荷数(単位:万) | シェア(%) |
ノキア | 4,470 | 29,3 |
モトローラ | 2,530 | 16,6 |
サムソン | 2,000 | 13,1 |
シーメンス | 1,280 | 8,4 |
ソニー・エリクソン | 880 | 5,8 |
その他 | 4,110 | 26,9 |
計 | 15,270 | 100 |
上表はIDCによる推計資料であって、表2に紹介したGartnerの資料とニュースソースは異なるが、ここでは両資料に誤差は少ないものと仮定して、比較分析を行っておく(注5)。
両資料によれば、すでに2003年に顕在化していたノキアのシェアを他の携帯電話ベンダーが侵食するという現象が、2004年第1四半期にはさらに鋭く進行していることが、明らかである。ノキアが、34,7%から29,3%台へと大きくシェアを減らしたのに対して、他の4ベンダーはいずれもシェアを高めている。
とりわけ、10,5%から13,1%へと大きくシェアを伸ばし、モトローラのシェアに接近、早くも業界2位の地位を狙う勢いを示しているサムソン電子の躍進は目覚しい。
このような状況から、4月初旬以来ノキアの株価の低落は止まらず、年初以来20%以上下落し、ヘルシンキでは11.15ユーロ程度になっている。またアナリストたちは、ノキアの株価がどうすれば回復するかの議論が盛んに行われているところである。
ノキアは、依然世界最大のベンダーであり、財務内容は抜群に優秀、研究開発力も優れている。従って、安値により攻勢を掛ければ(現に安値政策を採用している)、短期的にシェアを多少、回復することは可能であろう。
しかし前述したとおり、同社のシェアの急激な低落は、白黒→カラー、キャンディーバー→開閉式端末 カメラ機能無し→カメラ付へと急速に移行しつつある市場を見事に読み誤ったことを主原因として生じているのである。この根本原因を解決しなければ、同社の失速に歯止めが掛からないという点で、辛口のアナリストたちの意見は一致しているようである(注6)。
競争が極めて激しい携帯電話業界では、ベンダーの栄枯盛衰のテンポが速い。現在、トップ業者の戦略誤りの虚を突いて勢いに乗っている競争業者の猛追を振り切れるか、衰退の一途を辿るか、ノキア社は正念場を迎えたようである。
(注1) | この部分の説明は、ノキア社の第1四半期決算報告、"Nokia in Q1 2004"によった。 |
(注2) | 2004.5.7付けファイナンシャルタイムズ、"Not so mobile: will Nokia now get the message of changing consumer tastes,new technology and stronger rivals?" |
(注3) | Gartner社の調査による統計資料であって、http:press.gartner.comから入手したものを多少加工した。原資料は、千単位まで端末数を表示しているが、これを四捨五入で万単位に留めた。また、2003年の成長率の欄は、計算することにより付加した。 |
(注4) | 2004.4.27付けFTDeutchland, "Alcatel steigt aus Handygeshaft aus" |
(注5) | 2004.5.8付けhttp://home.business ,"Despite Seasonal Drop ,Worldwide Mobile Phone Market Grows 29% Year Over Year, Says IDC" |
(注6) | 例えば、その代表的なものとして、2004.5.14付けForbes,"Analysis Nokia's sickly share hostage to new phone,outlook" |
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