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"3"サービスのグローバル展開に社運を賭けるHuchison Whampoa

2004年4月15日号

 2004年の後半には、ようやく欧州諸国の主要携帯電話事業者による3Gサービスが開始の運びとなろう。
 カンヌにおける携帯電話の会議で、なお前途に幾つかの隘路が報告されたのにもかかわらず、主要携帯電話事業者は、おおむね2004年内のサービス実施について、自信を示した。
 ところで、香港最大のコングロマリット、Huchison Whampoa (注1)は、2000年における欧州各国における3Gライセンス付与の時期から、巨額の資金、人材を投入して、"3"のブランド名による3Gサービス提供を他社に先駆けておこなう努力を続けている。同社は、2003年5月の英国、イタリアにおけるサービス提供開始を皮切りに、現在、香港、オーストラリア、オーストリア、デンマーク、スエーデンを含む7カ国でサービスを提供している。2004年後半には、さらにイスラエル、アイルランド、ノルウェーにもサービスを拡大するという。
 ただ、これまで莫大な投資を行ってきたのにもかかわらず、その成果ははかばかしくない。同社の発表によれば、総加入者数は、ようやく100万を越えた程度である。しかも、同社が加入者数を発表しているのは、英国、イタリア、最近にサービスを提供し始めたばかりの香港の3カ国だけである。他の4カ国におけるサービス加入者の獲得が難航しているためであろう。1000万から1500万程度の加入者を獲得しなければ、単年度での収支均衡はできないとみられており、"3"サービスの離陸にはほど遠い。
 最近の発表で、同社はようやく幾つもの難関をクリアして、今後事業は発展軌道に乗る自信が付いたこと、特に当初予定より大きく遅れてスタートした香港における加入者の獲得が順調に進んでいることなどを力説している。
 Huchison Whampoaの他の事業は、依然として好調であることは間違いないとしても、赤字続きで、しかも2005年にも、2004年を上回る赤字が予定されている"3"サービスの事業を抱えていくことは大変な重荷である。
 加入者獲得の予想外の低調は、同社の戦略にも齟齬をもたらしているように思われる。すなわち、同社が拙速を敢えて覚悟し、他社に先駆けて春から逐次、欧州主要国におけるサービス実施に踏み切った背景には、早期に市場を抑え主要加入者を囲いこむことにより、他社より優位に立とうとする意図が強く働いていた。ところが、2004年後半に、他の業者による3Gサービスが開始が始まることになると、このサービスの早期実施のメリットを生かすことができなくなろう。
 他面、同社が新サービス実施の過程で嘗めた幾つもの失敗体験(料金設定、端末・ネットワークの欠陥、故障、ユーサーの反応等)は、絶好の他山の石として、競争業者に利用されかねない。
 なお、NTTDocomoは、UK3G(Whampoaの英国における携帯電話提供子会社)に、出資をしているし、またNECは、"3"提供会社に対するネットワーク、端末の主要提供ベンダーであるなど、Huchison Whampoaとわが国の電気通信業界の関連が深いことも、付記しておく(注2)。
 以下、3Gサービス提供のため、資金調達に苦慮するHuchison Whampoa の状況、英国、イタリア、香港における同社"3"サービスの提供状況について、説明することとする。

懸命に"3"サービスによる投資、欠損をカバーするHuchison Whampoa

ようやく100万を超えた加入者数

 表1は、最近、Huchison Whampoaが発表した"3"の加入者数である。同社は、2003年末に、英国、イタリアの市場でそれぞれ100万の加入者数を獲得する目標を立てていたがこの目標には到底およばず、表で見る通り、ようやく総体で100万を少し超えた加入者(103.8万)を得たに留まった(注3)。

表1 Huchison Whampoaの"3"加入者数(2004年3月中旬現在、単位:万)
サービス実施国
加入者数
サービス開始時期
英国
36.1
2003年3月
イタリア
45.3
2003年3月
香港
3.6
2004年1月
その他
18.8
-
103.8
-

 Huchison Whampoaにとって2003年は苦難の年であった。他社とのローミングの際の通話切れなど故障が相次ぎ、顧客の苦情も絶えず、その上、ベンダーに注文した携帯端末も出荷の遅れが大きく、加入者獲得は難航した。このため、2003年末の総加入者数は60万に留まった。
 2004年に入ると、ネットワーク、端末の問題がおおむね解決され、同社3Gの展望はやや明るくなった模様である。
 李会長は、現在、加入者数が毎日、1万の比率で伸びており、最悪の時期は脱したと述べながらも、3G事業の黒字化にいたる道は険しいことを認めている。

Huchison Whampoaの収益を大きく圧迫する"3"事業
 Huchison Whampoaが2004年3月中旬に発表した同社の2003年次純利益は、143.8億Hドル(18.5億米ドル)であって、これは、2002年次の純利益、143.6億Hドル(12.4億ドル)とほぼ、横這いの水準である。
 他方、同社の"3"G提供部門の財務状況は、表2に示すとおりである(注4)。

表2 Huchison3Gの財務状況
項目
2003年末
2002年末
収入
20億Hドル(272億円)
なし
損失
96.7億Hドル(1315億円)
78.1億Hドル(1062億円)
投資
180億ユーロ(2兆3000億円)

 このように、"3"事業は、2003年に、収入の5倍近くに達する多額の損失を出しており、しかも同社は、この損失は2004年にはさらに増えると発表している。
 他の事業がすべて好調であるとはいえ、Huchisonが、これだけの"3"事業の欠損を埋め合わせるだけの前年同期並の利益を営業活動だけで、確保できるだけるわけではない。同社は、資産売却益に大きく頼った。これは、伝統的に強いキャッシュ・フローを誇ってきた同社が、ついに、資産売却により、利益水準の維持を図る手段に訴えざるを得なくなるほど、財務が悪化したことを示すものである。
 同社は、数年前、Vodafoneに対しOrangeを、またDTに対しVoiceStreamを売却して得た金額の一部78億香港ドル(帳簿外に留保していた)を充当し、欠損の大部分をまかなった(注5)。
 最近の"3"サービス提供会社の資金繰り悪化の状況は、Huchison WhampoaのUK3G(英国におけるHuchison Whampoaの"3"提供子会社)に対する資金援助にも見られる。同社は、最近、UK3Gが金融シンジケート団に負っている15億ポンドの社債を肩代わりした。同様の措置は、イタリアでも起こるのではないかと観測されている(注6)。
 このようにHuchison Whampoaは、"3"サービスを継続するために、度重なる資金需要に応じなければならない事態に追い込まれている。2004年における新たな資金調達政策が、次項で述べる同社の電気通信諸社の再編制による株式放出である。

Huchison Whampoa、電気通信関係会社の再編と株式放出により、2004年分の資金調達へ
 Huchison Whampoaは、2004年3月末、同社の電気通信関係の資産をまとめて、新会社を設立、新株を市場に出して、資金を調達すると発表した。
 設立されるのは、Huchison Telecommunications Internationalである。この新会社には、香港の固定通信会社、2G、3Gの携帯電話会社(Hongkong3Gを含む)の他、7カ国における同社携帯電話会社の株式持分が、組み込まれる。欧州におけるモ3モ提供会社(例えば、3GUK)は除外。
 欧州のある銀行のアナリストは、Huchison Whampoaは、これら携帯電話会社で、計1000万を超える携帯電話加入者を有しており、株式発行により、10億米ドル程度の資金を手にすることができると見ている。
 Huchison社は、新会社の設立目的を、電気通信諸会社の資産・金融・営業の諸資源を統合し、業務活動の強化を計るとしているが、株式発行により得られる金額と、2004年における赤字見込み金額(2003年の12.4億ドルを超えることは、同社自体が認めている)が、おおよそ見合っている。これは、この組織変革が、3G事業遂行のための資金調達を目的にしたものであることは、明らかである(注7)。
 Huchison社は、2005年末までには"3"事業を黒字にすると確約しているものの、これが実行できないとなると、2005年から2006年に掛けて、同社は大きな減益の財務を発表せざるを得なくなる危機に陥る。その意味で、2004年は、Huchison Whampoaが将来、今後、グローバル市場に続々と参入してくる他の3Gサービス提供事業者の急追をしのいで、将来、"3"事業を維持できるかいなかを左右する重要な年となろう。

参考 主要3市場における"3"Gのサービス提供状況

 すでに、表1に記したように、現在のところ、"3"サービス提供の主な市場は、いち早くサービスを提供した英国、イタリアと2004年1月にサービスを開始したばかりの香港の3市場である。
 3市場は、それぞれの市場における競争業者の状況、利用者の利用特性に応じ、それぞれ多少とも異なった動きを示しているようである。以下、表3に、これら3市場におけるサービス状況を示す(注8)。

表3 英国・イタリア・香港における"3"Gの提供状況
項目
サービスの状況
英国
 英国は"3G"サービスの導入がもっとも早かった市場である。しかし、2003年3月のサービス導入後、通話切れ、ビデオサービスの伝送の遅れ、端末提供の遅れ等々、問題が山積し、6月末の加入者数は、2.5万に留まった。
 Whampoaは、2003年末までに、大幅なインフラ投資により、ネットワークを強化し、同社は、インフラの水準(人口の70%、音声サービス98%(ローミングを含む)において、競争業者に追いついたとしている。
 インフラ構築に当ったのは、NEC及び、モトローラ。端末には、NEC、モトローラをはじめ、数社のベンダーが提供している模様。
 ただし、加入者獲得に難航している点は、最近も情勢は好転していない。
イタリア
 英国の場合と同様、幾つもの問題を抱えているもののユーザー受容度は、英国より良好である。これは、イタリア人が、新しい物好きである点が、与っている模様。
 最大手携帯電話業者のTIM(TelecomnItariaの子会社)とサービス協定を結んでいる。
香港
 Huchison Whampoaは、当初、英国、イタリアに続いて2003年6月にサービスを提供する計画であった。ところが、ネットワーク・インフラの設置をめぐり当初、これを受注したNokiaとの間にトラブルがあり、受注会社を急遽、NECとSiemensに変更するとか、端末の供給が遅れるとか、多くの支障が生じ、サービス・インの期日は、8月に延期、翌年1月にと再三提供時期が遅れ、最終的にはようやく、2004年1月末に、サービス開始の運びとなった。サービス提供会社は、3Hong Kongである。
 香港市場は、Huchison Whampoaの本拠地であり、英国、イタリアでの経験(しばしば、苦い経験)を踏まえ、満を持したサービス実施であっただけに、問題は少ないようである。もっとも、3Gから2Gへのローミングの際に通話切れになる故障は後を絶たず、同社は、この問題を2004年8月末までには、解消したいとしている。ただ、全般的には、ユーザーから、好評を持って迎えられている模様である。同社は、2004年3月現在、日に約1000の割りで加入者を獲得しており、今後、この加入者獲得のテンポを倍にするとしている。
 端末の納入は、数社行っているが、NEC、Motorolaの両社が、有力である。

(注1)Hutchison Whampoa(長江実業)は、立志伝中の人、Li-ka-shing(李嘉誠)氏が一代で築き上げた巨大コングロマリット(主事業は、港湾・不動産・電気通信・小売業)である。同社の事業は、華僑の伝統的な商法による商業資本的な色彩が強いものだと評されてきた(事実、携帯電話の分野では、英国のOrange、米国のVoice Streamの株式をそれぞれ、FT、DTに売却し、巨額の利益を取得した)。
従って、2000年から、同社が欧州各国で高価なライセンス料を支払い、また、新たなインフラ構築を始めることにより、グローバルな3G携帯電話事業に乗り出したのは、予想外の事業展開として、受け止められた。計算高い李氏のことであるから、成算があっての決断であったろうし、すでに70台半ばの高齢に達しているので、多分、同氏最後の大仕事として、異常な決意を持って取り組んだ事業なのであろう。
(注2)3UKは、NTTDocomoから資本20%の供与を受ける見返りとして、同社にiモードを採用する約束をしていた。しかし、この約束が履行されないため、NTTDocomoは、現在、Huchison Whampoaへの出資を打ち切る交渉を行っている。
(注3)2004.3.18付け3G News.com, "Profits stable for Huchison but 3G to get worse in 2004"
(注4)2004.3.18付けFT.com, "Huchison sees flat profit"に掲載された数値から作成した。
(注5)2004.3.18付け3G News.com, "Profit stable for Huchison but 3G to get worse in 2004"
(注6)2004.3.9付けFT.Com, "Huchison to take _1.5bn loan off 3G arm"
(注7)本稿はいずれも2004.3.30付けの次の2つの資料によった。
Telecomasia.net, "Huchison to spin off emerging-market units"
Thester.online, "Huchison to spin - off Hong Kong telecoms Operations"
(注8)表の記述はすべて、3Gに関する専門ニュースレター、3GNews.comの記述によった。レファランスは省略。

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