RHC3社(Verizon Communications、SBC Communications、BellSouth)は、2004年1月末にそれぞれ2003年次の決算を発表した。
今回は、この決算から読み取れる主な事項を紹介する。
詳細は本文を読んで頂きたいが、主要点は次の3点である。
- 2003年は、前年同期に比しRHC3社とも経営体力が大きく改善された(この点については、特に最後の表7を参照されたい)。これは、3社による並々ならぬコスト削減、新規分野への進出努力によるものである。
- 事業の中心は明らかに、固定通信→移動通信・データ通信、単体のサービス→パッケージサービスへと移行しつつあり、3社は程度の差があるものの、意識的に新事業分野への適応を進めている。ただ今回、ケーブルテレビ会社の決算を参照できず分析は行えなかったが、3RHCによるケーブルテレビ会社に対するブロードバンドの競争はRHC側の敗北に終わったようである。これは、ブロードバンドに占めるケーブルテレビ諸社の勢力の今後一層の増大を暗示するものであり、今後項を改めてこの問題を論じてみたい。
- RHC別に見ると、明らかに経営体力の差が出ている。Verizonは米国最大(世界でも収入においてNTTに次ぐ第2位)の電気通信会社ではあるが、経営体力は同社が喧伝するほどには強くない。ここ数年、純利益の額は、各社とも大きく変動するので一概にはいえないが、同社の利益率はSBC Communications、BellSouthに比し低い。規模がもっとも小さいBellSouthがもっとも体力が強い。SBC Communicationsがその中間に位置する。
2004年の見通しについては、RHC3社ともにきわめて慎重であり、いずれの社も増益、増収を確約していない。ウォールストリートが一様にRHC3社を評価しないのは、まさにこの点なのであって、3社とも株価は依然横這いもしくは下がり気味に推移して 今後もパッケージサービス提供による加入者囲み込み競争の激化、規制の先行き不透明(FCCによるアクセス裁定は下されているものの、裁判所との関係で確定されたものになっていない)、VOIPがもたらす今後のインパクト(現在激しい議論が行われている)等により、RHC3社の苦難の道は続くであろう。
なお戦列から脱落したRHCとしてQwest Communicationsがある。同社は、バブル崩壊の影響を最も大きく受けたこと、経理不正の追求を受けていること等もあり、2003年決算の発表が遅れている。Qwest Communicationsについては、また折を見て論ずることとしたい。
Verizon Communications
まず、Verizon Communicationsの2003・2002年通期及び2003年第4四半期の数字を表1に示す(注1)。
表1 Verizon Communicationsの2003・2002通期及び2003年第4四半期の収入(単位:億ドル)
| 2003年通期 | 2002年通期 | 2003年第4四半期 |
総収入 | 678(+0.7%) | 670 | 173 |
国内通信 | 396.0(-3.0%) | 408.4 | 99.1 |
携帯電話 | 203.0(+5.3%) | 192.6 | 59.8 |
インフォメーションサービス | 41.1(-4.2%) | 42.9 | 10.1 |
国際通信事業 | 19.5(-12.2%) | 22.2 | 4.8 |
さらに、表2に「国内通信」の内訳を示す。
表2 Verizon国内通信部門の2003・2002年及び2003年次第4四半期の収入内訳
| 2003年通期 | 2002年通期 | 2003年第4四半期 |
市内サービス | 195.4(-3.7%) | 202.7 | 48.3 |
アクセスサービス | 127.2(-5.3%) | 134.3 | 30.7 |
長距離サービス | 37.9(+19.3%) | 31.7 | 10.1 |
その他サービス | 39.6(+0.3%) | 39.7 | 10.0 |
上記の2つの表からVerizonの最近の業績についてさまざまな読み取りが可能であるが、その主要点は次の3点である。
- 総収入は0.7%増と微増に留まった。事業の主体である国内通信が3%の減と依然減少(2002年次は前年比3.3%の減少であり、やや向上)しているものの、携帯電話サービス、長距離サービス、DSL等の新規サービスにより、この減少を辛うじて食い止めた形になっている。この体質は2002年次決算のそれと変わらない。長距離通話の伸びが著しい点は注目される。
- 携帯電話部門(Vodafone Wireless)は、米国で群を抜いた携帯電話会社(英国のVodafoneが40%の資本参加をしている合弁会社)である。Verizonはいまや、この部門に多くの収入・利益増を頼っている。
- 表には計上しなかったが、Verizonの利益は、前年の40億ドルから31億ドルへと大きく落ち込んだ。ただしこの原因の多くは、20000名を超える従業員の削減による経費の計上(34億ドル)が大きく影響している。特に、2003年次になって急に同社の財務体質が弱化したわけではない。
SBC Communications(注2)
表3 SBC Communicationsの2003.・2002年通期及び2003年次第4四半期の収入
| 2003年通期 | 2002年通期 | 2003年第4四半期 |
総収入 | 408.4(-5.3%) | 431.3 | 100.6(-10.3%) |
固定通信 | 364.0(-5.2%) | 383.9(-5.6) | 89.49(-3.0%) |
電話帳 | 42.54(-0.1%) | 44.51(+0.4%) | 10.70(-42.1%) |
国際通信事業 | 0.30(-14.3%) | 0.35(-81.1) | 0.07(-22.2%) |
表4 SBC Communications 固定通信部門の2003・2002年通期及び2003年次第4四半期収入の内訳
| 2003年通期 | 2002年通期 | 2003年第4四半期 |
市内音声 | 220.8(-10.7%) | 247.2 | 52.6(-11.4) |
データ | 101.5(+5.3%) | 96.4 | 26.0(+9.3) |
長距離音声 | 25.6(+10.2%) | 23.2 | 7.0(+27.6) |
その他 | 16.28(-5.7%) | 17.1 | 3.8(+7.3%) |
計 | 364.0(-5.2%) | 383.9(-5.6%) | 89.49(-3.0%) |
表3、4から読み取れる主要事項は、次の諸点である。
- まずSBC Communicationsは、BellSouthと資本を60%対40%の比率で共同所有しているCingularWirelessの収入分を2003年次収入に、意識的に含めていない(注3)。2003年、2002年次の同社のCingular Wireless持分の収入は、2003年次、2002年次にそれぞれ92.9億ドル、89.4億ドルであるから、これを合算してVerizon Communications、BellSouthと同じ次元で2002年、2003年次の収入を比較すると、2002年次に対する2003年次の収入減は、公表値5.3%減より狭まり3.7%となる。しかし携帯部門を含めても、同社の収入は前年を下回っている。
- 表4から明らかな通り、SBC Communicationsの長距離音声通話は大きく伸びている。特に2003年第4四半期の伸びが大きく(前年比26.0%)将来に期待が持てる。また、確かに市内音声は大きく減少しているが、長距離音声通話をはじめ、データ、その他通信の伸びが大きく、この動向が続けば、将来、固定通信の伸びが期待できるかもしれない(SBC Communications自体、そのような趣旨の説明をしている)。
- 表には計上しなかったが、SBC Communicationsの2003年次の利益は85億ドルと前年2002年次の56億ドルから大きく伸びた。もっともこの増益のほとんどは、会計の変更(2002年次には利益に対する控除)に伴うものである。従って実質的には利益は昨年並みであったと見てよい。
Bell South
BellSouthの2002・2003年次通期及び、2003年次第4四半期の収入を表5、6に示す(注4)。
表5 BellSouthの2003・2002年次及び2003年次第4四半期の収入
項 目 | 2003年通期 | 2002年通期 | 2003年第4四半期 |
総収入 | 286.6(+0.3%) | 285.7(-3.9%) | 72.6(+5.7%) |
コミュニケーショングループ | 180.84(-0.5%) | 181.8(-0.5%) | 45.28 (+2.0%) |
国内携帯 | 61.93 (+3.9%) | 59.61(3.9%) | 15.65(+5.7%) |
ラテン・アメリカ | 22.94(+2.7%) | 22.33(-22.3%) | 6.35(+30.7%) |
国内広告・出版 | 20.33(-4.7%) | 2.134(+0.5%) | 5.18 (-5.5%) |
その他 | 0.54(-8.5%) | 0.59(-56.8%) | 0.14(-6.7%) |
(注:国内携帯には、SBC Communicationsとの合弁事業Cingular Wirelessの持分40%分の収入が計上されている)
表6 BellSouth communicationsの2003・2002年次及び2003年第4四半期の収入内訳(単位:億ドル)
項 目 | 2003年通期 | 2002年通期 | 2003年第4四半期 |
音声サービス | 126.2(+1.0%) | 125.0 | 31.3(+2.5%) |
データサービス | 43.7(+22.1%) | 42.8 | 11.0(+4.0%) |
その他 | 14.5(-15.2%) | 17.1 | 3.9(-5.1%) |
表5、6から、次のことが読み取れる。
- 2003年通期の総収入は、昨年同期に比し微増である。またコミュニケーショングループだけについてみても、前年に比し−0.5%と微減であって、ほぼ横這いと見てよい。しかし、2003年次4四半期には、前年同期の2.0%増になっている。つまり、固定通信の分野では、Verizon Communications、SBC Communicationsに比し、収入減を最小に押さえており、良好な業績である。BellSouthは、その理由の主なものは、同社が加入者減少による収入減を長距離加入者及び、DSL加入者の獲得に力を入れたことによるものであるとしている。
- 上記の表には計上しなかったが、BellSouthは2003年に純利益39億ドル(2002年同期の13.2億ドルに比し約3倍)へと大きく業績を伸ばした。
- 総じてBellSouth の業績は従来から良好であったが、2003年は特にVerizonCommunications、SBC Communicationsに対し、差をつけた感じである。
次項では、さらに、2003年通期、2003年末の3社の幾つかの経営実績を紹介することにする。
2003年末における3社の経営実績 - 地道に進んでいる長距離、ブロードバンド部門への進出 -
次表に、RHC3社の幾つかの経営実績を示す。
表7 RHC3社の経営実績(2003年第4四半期末)
項 目 | Verizon Com | SBC Com | BellSouth |
長距離通話加入者数 | 1,660(+33.3%) | 1,440(2.3倍に増加) | 134(+44.1%) |
アクセス回線数 | 5,800(-5.2%) | 4,710 (約-7%) | 2,390(-2.3%) |
DSL加入者数 | 230(+38.9%) | 350(+59.8) | 146(+43%) |
パッケージ契約比率 | +41% | 44%(+76%) | 不明 |
負債額(単位:億ドル) | 447(-14%) | 17.9(-17.9%) | 14.9(-12%) |
従業員数 | 20(-10.5%) | 17.6(-3.9%) | 7.7(-1.7%) |
(注:上記各項目の数値の単位は、負債額を除きすべて万である)
以下、表7について多少のコメントを付け加えておく。
長距離通話加入者数
FCCは数年来、RHCによる自社営業エリアからの長距離通話の申請の認可を進めてきた。その作業は、2002年から2003年に掛けて急速に進み、予定通り2003年12月、Qwest Communicationsに対する州における提供認可をもってすべて終了している。
上表に示すとおり、3社ともに長距離通信加入者数が大幅に伸びているが、これは上記のFCCによる認可の促進によりもたらされたものである(注5)。
特にこれまで圧倒的に優位を誇っていたVerizon Communicationsに次いで、SBC Communicationsが2003年次において、飛躍的に加入者数を伸ばした点が注目される。
現在、加入者数による通信事業者の順位は、AT&T、MCI(旧WorldCom)、Sprintが依然御三家であるものの、Verizon CommunicationsはSprintを激しく追跡している。また2003年末の実績により、SBC Communicationsが5位以内に入ったことは確実である。
他方AT&Tは、2003年末で390万の市内通話加入者を獲得したと発表しているし、ケーブルテレビ会社による市内通話加入者の獲得もピッチを早めている模様である。
アクセス回線の減少
上表の数字は、狭義のアクセス回線数で算出した結果である。RHC各社はアクセス回線の減少を発表するのを嫌い、ときには競争業者にリースした回線数を含めた数字を出すこともあるが、ここではこれら数字を含めない純減の数字(Verizon Comの数値は推計)を計上した。この計算によると、一般にRHCアクセス回線の減は年間4%程度といわれていたが、Verizon Com、SBC Comでは2003年末の時点でかなり高くなる。
特にSBC Communicationsの場合が際立って高いが、これは同社がFCCによるナンバーポータビリティーの実施前から、自社アクセスラインのCingular Wirelessへの移行をむしろ誘導する政策(よその携帯電話に移行するよりは自社の携帯電話に移ってもらう)という政策を導入している事実と関連がある模様である。米国では今後、大きく同一RHC内での携帯電話と固定電話の移行(一種のキャニバライぜーション)が進むものと見られるので、そのうちに固定電話加入者数の減少のみを論じる価値が薄れるのかもしれない。
DSL回線数の伸び
2003年次にVerizon Wireless、SBC Communicationsの両社は、ケーブルテレビ会社のブロードバンド加入者に追いつくように、料金を引き下げてDSL回線の増設に力を入れた。先鞭を切ったのは、Verizon Wirelessであり、同社は2003年6月、月額料金を大幅に月額39.95ドルに引き下げ、加入者の獲得に努力した(注6)。
この結果、両社のDSL加入者数は、確かにかなりの伸び率を示したものの、初期の成果を上げることができなかった模様である。(注7)。
パッケージ契約比率
競争の激化により、競争は個別のサービス競争から、固定通信(市内・長距離・国際)、携帯通信、データ通信、インターネットアクセス等のサービスパッケージを月単位の定額料金により提供し、加入者を囲い込む競争が主体となってきた。これに伴いVerizon Communications、SBC Communicationsの両社は、2003年次におけるこれらパッケージ加入者数あるいは総加入者に対するパッケージ加入者の比率を今回初めて表示したので、この数値を上表に示した。
パッケージには諸種のものがあり、そのいずれのものを含んだ比率がというが、両社の数値がいずれも40%を超えているのは、少し高過ぎる感じもする。
負債額
Verizon Communicationsが他の2社に比し、倍額以上の債務を抱えていることに注目されたい。収入において、NTTに次ぐ世界第2位の通信事業者であり、この負債額の多さ(米国企業で有数)が同社の利益率を押し下げ、また思い切った行動にでる足枷になっていることは否めない。
従業員数の削減
3社とも2003年に従業員の削減に努力した。もっとも従業員数を減らしたのはVerizon Communicationsであり、同社に比すればSBC Communications、BellSouthの従業員削減(実数にしてVerizonの2万人に対し、それぞれ0.7万、0.2万と非常に少ない)。
2003.2.1付けテレコムウォッチャー「AT&Twireless、オークションにより他社への売却を決意」のフォローアップ
ファイナンシャル・タイムズの最新の記事(2004.2.16付け、"Vodafone makes $35bn bid for AT&TWireless")によれば、AT&TWirelessに対し、少なくとも、Cingular Wireless及びVodafoneの両社が同等の価格(約350億ドル)で、買取の応札を行った模様である。この他、Nextelも応札したのではないかと見られている。
ファイナンシャル・タイムズ紙は、資金調達(200億ドルをVerizonによるVodafoneのVerizon Wirelessの持分44.3%の買取に依存しなければならないが、この金額は即金で入手は難しい模様)、自社株主への説得(リスクを避け、利益を配当に回すべしとの株主の意見もかなり強い)等の点で、Vodafoneの方が無理であると論じている。
成り行きがどうなるかは、真に興味深いが、今回のVodafoneの応札は、同社CEOのSarin氏が、前任者のGent氏(携帯電話の成長に賭け、欧州を中心として、各国の携帯電話会社を片っ端から買収し、今日の世界最大の携帯電話王国を築いた)に劣らず、なかなかの勝負師であることを示した点でも、興味のある出来事である。
(注1) | 2003年のVerizonの業績については、2004.1.29 付け同社の決算(2003年第4半期及び2003年通期)のプレスレリース、"Verizon Reports Solid Overall Fourth Quarter and Year-End Results, Based on Strong Fundamentals"、その他の決算資料を使用した。資料に掲載された数字は、小数点の切り上げ、切り下げ等多少、加工したことをお断りしておく。
また、2002年の業績については、2003年2月15日付けテレコムウォッチャー、「縮んで行く米国RHCの収入 - 2002年第4四半期・2002年通期のRHC決算から -」を使った。 |
(注2) | 2003、2002年通期のSBC Communicationsの業績については、Verizonの場合と同様、同社の決算報告を使用した。 |
(注3) | 現在SBC Communicationsは、BellSouthと共同で、AT&TWireless取得に向けて応札を検討中である。SBC Communicationsがこれまでの慣行を止め、CingularWireless収入の繰り入れを行わなかったのは、この応札の件と関連があるのかもしれない。 |
(注4) | 2003、2002年通期のBellSouthの業績については、Verizon Communications、SBCCommunicationsの場合と同様に同社の決算資料によった。 |
(注5) | 2003.12.23付けFCCニュースレリース、"FCC Authorizes Qwest to provide long distance service in Arizona" |
(注6) | 2003年7月1日付けテレコムウォッチャー、「米国のRHCとケーブルテレビ会社、ブロードバンド分野で本格競争へ」 |
(注7) | Yankee Groupの発表によれば、2003年末のケーブルモデムによるブロードバン ド加入者数は1,460万、DSL加入者数は740万であって、両者の比率2:1はここ1両年変わっていない。つまり、RHCの努力にもかかわらす、ケーブルテレビ会社はRHCの倍の加入者を獲得して、追撃を一蹴しているということになる。この動向が続けば、RHCはいつまでもブロードバンドの分野でリーダーシップをとることができなくなり、将来重大な結果を招きかねない。(Yankee Groupの数字は、2004.2.5付けForbes,"Telecom's Bundles Of Joy"からの孫引き) |
テレコムウォッチャーのバックナンバーはこちらから