DRI レポート
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      北米で盛り上がるWLP/SiP
中島 和宏  K-NETS コンサルティング社長

2004年12月1日号

 北米では昨年来よりWLP(WLCSP)、SiP等に対する関心が急速に高まっている。少なくともシリコンバレーでは頻繁に、それら技術に関するセミナーやシンポジウム等が開催され、筆者も何度か足を運んで参加してきた。
 7月に開催された「SEMICON West 2004」でもバックエンド関連企業の集うサンホゼ会場におけるホットなトピックの中のひとつはWLPであった。「Wire」の文字よりも「Bump」の文字の方が目に付いた参加者も多いであろう。SEMI によれば、この先2〜3年の間にウエハーレベル(WL)でBumping処理されるデバイス・チップは市場全体の2〜3割になるという。この数字はFlip-Chipも含まれたウエハーレベル・プロセシング全体のことであるが、実際、ウエハーレベル・パッケージングに対する興味は高まっている。
 8月にはMEPTEC (Micro-Electronics Packaging and Test Council)主催による技術シンポジウム「Wafer Level Packaging Interconnects: Wafer Fabrication vs. Package Assembly」が開催された。タイトルからも推察できるように、「WLPはどこで作られるのか?」を基本的な命題とした4セッションのパネルディスカッションが一日かけて行なわれた。すなわち、そのプロセスをFab.(半導体メーカー、ファウンドリ)が工程の延長上とするのか、それともAssy.(アセンブリ・ハウス、サブコン)が実施するのか、参加者に問いかけ、議論されたのであった。

WLPは前工程か後工程か?

 口火を切ったのが米Tessera, Inc創業者の一人であり、現在米Centipede System社長のTom Di Stefano氏である。「いわゆるフロントエンドが、いずれWLPプロセスを吸収する。しかし、開発・少量生産レベルは検査・試験も含めて、当面バックエンドが牽引役を引受ける。」とした。セッションに先立つKeynoteスピーチにおいて彼はWLPを「着飾ったフリップチップ(Dressed-up Flip-Chip)」と呼び、約20年毎に出現する革新的な半導体パッケージング技術として位置づけている。
 また、MCMの時代より必要とされながら、かつ課題となってきたKGD (Known Good Die)の代替技術のひとつとしてWLPがその役割を果たし、SiP技術の今後の展開に大きく貢献するという。こうしたWLP/SiPの量産は、日本が先行していると述べた。

 一方、米Unitive, Inc. (8月26日米Amkor Technology, Inc.への買収手続が完了)、VP Sales & MarketingのDavid Hays氏は「WLPプロセスはバックエンド、サブコンが将来的にも製造責任を引き受ける領分である」とした。彼は長年半導体の設計・製造畑を歩んできた経験から、WLPプロセスは現行の半導体製造プロセスとは材料や寸法、生産量や収率の点で大きく異なることを指摘、半導体ファウンドリへの導入は困難と説明した。
 確かに、WLPに必要な再配線層はその構造設計から各工程の設定にいたるまで、半導体の製造プロセスから見ればまさに巨大な別世界と言えよう。
 バンピング・サービス創生期よりWLP分野で経験の長い同社は、パッケージング信頼性と技術を背景としたコストソリューションを掲げており、再配線層のコストは、現状ウエハー製造コストの約15%程度(8〜12インチ、一層当たり)であるという。

 これに対し、National Semiconductor Corp.の技術マネージャー、Luu Nguyen氏は別な見方をしている。同社の「mSMD」はCSP成長期から純粋なWLPとしてその地位を確立してきた。現在では36バンプを最大として、10バンプ前後あるいはそれ以下を中心におよそ1000製品、2002年からの累積出荷数は10億個以上に達する。この実績を踏まえ、同氏は「半導体メーカーによる自前の設計と製造が、顧客のニーズとコストに応え、また次世代構造の開発に役立つ」と言う。
 IEEEのWLP技術委員会TC-WLPでも活躍し、数少ない「市場実績」を背景とした彼の発言には重みが感じられた。ただしこれには、mSMDの構造が単純で、前工程への導入に対するハードルが比較的低いという利点を(それがまた同製品のサイズやバンプ数の制限となりうるのだが)考慮する必要もあるだろう。

 確かに「WLPはどこで作られるのか?」を語る場合、多種多様な構造が可能なWLPを一括りにして考えること自体、難しいのかもしれない。
 台湾ASE, Inc. (Advanced Semiconductor Engineering) USAのシニア技術アドバイザであるBill Chen氏は「WLPは半導体メーカーとアセンブリ・ハウスが知恵を出し合って築いた究極の低コスト・高性能パッケージである。今後も、より一層の協力が必要であろう」と力説した。同氏はIBM技術アカデミーの一員として活躍していた頃から半導体パッケージングの研究・開発分野における重鎮である。
 付加えて彼は現状のWLPがバンプ数の少ない、サイズも精々10 mm角未満(5 mm角前後にひとつの技術的ハードルがあるとも言われる)に過ぎない状況を指摘、フロント、バック両分野が設計、材料やプロセス、さらに装置類や検査・試験に至るまで、研究・開発レベルで引続き協力していかなければ、メモリーやそれ以外の爆発的な市場展開は成し得ないと述べた。

先行する日本の技術

 米IPAC Twin Advance社CEOであるVictor Batinovich氏は日本の技術に着目している。同氏は、「日本市場から押寄せるWLP/SiPの波は、日本の技術レベルと製品ニーズの先進性に依るところが大きい。しかしChen氏の語る協力が比較的実践しやすい垂直統合型の企業体系も一つの理由である」という。
 長年に渡り数社のサブコンを創業させてきた同氏が創業者の一人であった米IPAC (Integrated Packaging Assembly Corporation)社は一時台湾OSE Ltd. (Orient Semiconductor Electronics)の一部門となったが、彼の再買収により復活、日本の材料技術(ピーアイ技術研究所)と印刷技術・装置(南工学株式会社)を活用して新規WLPを開発・製造、WLP市場に参入してきた。

 何組ものパネラーによりWLP実例として挙げられていた日本市場からは、カシオマイクロニクス株式会社の若林猛氏が唯一日本人パネラーとして壇上にいた。同氏は既存の同社民生製品と、それらに用いられているWLPやSiP技術を具体例として次々と紹介、会場を唸らせ注目を集めていた。
 例えば、腕時計型カメラやG-shock等ではマイクロ・プロセッサに利用。デジタルカメラや携帯電話等ではイメージセンサ・ドライバ、小型ASIC、DSP、メモリー等に利用されている。10 mm角近い、バンプ数が30を超えるデバイスにさえWLPが利用されていた。特にメモリー・デバイスは多くのパネラーが「WLP化はこれから」と評していたデバイスである。また同社のSiP構成のひとつであるE-WLP (Embedded WLP)も紹介された。
 同氏によると「同社製WLPのようにバンプ下に銅ポストを立て樹脂封止した構造は、従来から言われている応力緩和だけではなく、テストプローブやハンドリングの機械的なダメージを緩和する効果がむしろ高い」という。大量生産を歩んできたからこそ解り得た、自信を持って表現できる特長であろう。パネルセッション後も、同氏の周囲に参加者の集まっている光景が見られたのは言うまでもない。

CSPの二の舞にならない?

 ここ最近のように、新規のパッケージング技術が北米で盛り上がり、多くのプレゼンター達が似たような一般論を唱え、掲げる実例は日本発信、といった状況は遡ることおよそ10年前にも経験した。CSP上陸(?) の頃である。当時CSPという言葉より先行して、日本製の様々な構造を持つ超小型パッケージ技術が開花、実用レベルとなって海外に向けて発信された。そして北米でも注目の的となった。そこには現在のFBGAやQFN等のいわゆるCSPと呼ばれるもの、さらにはいくつかのWLPの原点が存在していた。ところが時を置かずして米Tessera, Incの「μBGA」が、先行していた日本のいくつかのCSP構造等も巻き込み、あたかもCSPの代名詞がごとく世界を席巻していった。
 果たして、今回のWLP/SiPブーム、「WLPはどこで作られるのか?」という問いかけに対する回答がいずれであれ、日本の優れた技術・製品が名実ともに主導権を握り、世界市場で展開していくと信じたい。

注:本レポートは「日経マイクロデバイス」2004年10月号43ページより一部転載を含んでいます。
   (日経BP社の許可を得て掲載:2004/11/29)

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中島 和宏   (K-NETS コンサルティング社長)

電気通信大学(東京都 調布市)大学院材料科学専攻 修士課程 1985年修了
住友金属鉱山株式会社電子材料研究所入社以来、電子・光通信事業部門に17年間在籍
1993年から2001年まで米国nCHIP社・Flextronics社にて業務従事
光通信デバイス、半導体パッケージング部材、アセンブリ、基板実装技術の研究開発、事業化、およびマーケティング活動に従事
現在は独立、技術マーケティングおよびコンサルティングとして米国シリコンバレーにて活動中
これまで、大河内記念技術大賞、日経産業新聞優秀製品賞受賞
関連特許30件以上、学術論文・雑誌記事等執筆30件以上



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