今月のMarket Snapshotでは、ブラウザ業界で台頭しつつあるFirefoxに焦点を当てる。ブラウザと言えば、現在、Microsoft社のIE(Internet Explore)が圧倒的に市場を占有しているが、それを僅かではあるが徐々に獲得し始めているのがオープンソースを基盤としたFirefoxである。その誕生の軌跡は、AOLがNetscapeを100億ドルで買収した1999年に遡る。買収後、AOLの傘下となったNetscapeの勢力はさらに弱まり、IEによるほぼ完全主導型の市場が確立した。Netscapeの共同設立者Marc Andreesen氏が「Windowsを打ち負かす日が来る」と断言的に予測したのが1995年。現状はこの予測と反するものだが、全く的を得ていないわけではない。
AOL社のNetscape Communications部門で、オープンソースを利用した製品開発に勤しむエンジニアを中心に非営利団体のMozilla Foundationが設立された。2002年9月、Phoenixのコードネームでリリースされたブラウザに前向きな感触を得たAOLは、同団体に僅か一年足らずの内に200万ドルの投資を行い、Mozillaプロジェクトの存続に努めた。財政面での支援はもとよりこの「前向きな感触」の背景には、Blake Ross氏の技術的貢献がある。同氏がインターンとしてNetscapeに参加したのが若干14歳。19歳になった現在、Stanford大学の学生と同時に、Firefoxのリードアーキテクトを務める人物だ。さらに、コード開発者であるDavid Hyatt氏と共に「IEのマーケットシェアを揺るがすブラウザ」創りが本格始動の態勢に入った。そして今年6月、Firefoxに改名した新バージョンブラウザの発表とほぼ同じくして、もうひとつの朗報がMozilla Foundationに舞い込んできた。IEに新たなウィルスが発見されたのである。これを受けて、U.S. Computer Emergency Readiness Teamは米国の政府組織に対しIEの利用停止を促した。この時期を境目にFirefoxの勢いは、一般のMozilla擁護者からフォーチュン100企業へと急速に拡大しはじめた。
Firefoxの市場機会は、こうした大手企業ユーザの増加に留まるものではない。今後、ユーザベースが確立していけば、Firefoxを利用した各種プログラムの開発に乗り出す新興企業が出てくる。確かにMicrosoft社でも新しいOS−Longhornには(Firefoxのように)ウエブアプリケーションを構築し易いフレームワークを含むと強調しているが、実際の出荷は2006年とまだ先の話だ。従って、Longhornが発表されるまでの今後2年間がブラウザ業界にとって非常に興味深い時期になると思われる。
10月に発表されたZdnetの調査によると、Mozilla FoundationではFirefoxが獲得するブラウザ市場のシェアは、2005年までに10%に達すると見込んでいる。この予測は、以下Firefox各バージョンのダウンロード回数に裏付けられている:
−0.8バージョン:4ヶ月間で330万回
−0.9バージョン:3ヶ月間で650万回
−プレリリースバージョン:1ヶ月間で500万回
ウエブサイトに関する調査会社WebSideStory社によると、ブラウザ市場におけるMicrosoft社のシェアは、6月の95.6%から9月には93.7%に縮小。一方でMozilla Foundationの新しいブラウザは同期で3.5%から5.2%へと増加したとの報告がある。では、何故メジャーのIEからFirefoxへ利用者が移行しつつあるのか。その主な理由には:@独自のタブブラウズ機能(ひとつのウィンドウ内に複数のウエブページを開けることが可能)やポップアップ広告のブロック機能を標準装備することで、高速化を実現していること、A長年の間、攻撃の対象となってきたIEは、スパイウエア等をダウンロードしてしまう危険性がより高いこと、Bボランティアの技術者や支援する学術関係者、一般ユーザらの協力と実体験に基づく推薦が口コミで広がったことの3点が指摘される。特に、セキュリティ問題については当初から力を入れてきた。その一環として、今年夏に開設されたMozilla Security Bugs Bounty Programでは「深刻なセキュリティバグを報告した人物に500ドルの賞金を払う」というユニークな発表を行った。それから僅か一ヵ月後の9月。セキュリティ分野の研究員および専門家が共同で初のバグを報告した。このように、Firefoxはその存続、向上を擁護する人々の前向きな姿勢に支えられて今日に至るのである。そして今月、いよいよ待望のFirefox1.0バージョンが発表される 。
(c) 2004 KANABO Consulting