今月のMarket Snapshotでは、オンラインDVDレンタルサービス市場における主要プレイヤーの動きを追ってみる。概してDVDレンタルと言うと、店内を歩き回って借りたいものを探す、店の会員カードとDVDを持って列に並ぶ、ストックの多い新作でも週末の貸出しは困難なケースがある、キズや汚れなど何らかの障害で鑑賞できない、返却日を逃したため延滞料を徴収され結局2本分の貸出料に近い金額を支払う等、誰でもこの内のどれかを一度は経験、実感するだろう。国内最大手のレンタルショップBlockbusterによると、2002年における映画レンタル料は総額$80億で、オンラインレンタルは$2000万弱とされるが、実際、これには消費者が負担する年間$12億の延滞料も含まれている。
全世帯の40%強が最低一台のDVDプレイヤー(ちなみにVCRの浸透率は92%)を所有する米国では、こうした利用者側のフラストレーションを払拭するDVDのオンライン・レンタルサービスが急速に人気を集めている。その代名詞とも言えるNetflix(本社:カリフォルニア州Los Gatos)は、1998年のサービス開始以来、主に利用者の口コミで150万人の有料会員を獲得し(2004年3月現在)、オンラインを使ったDVDレンタルサービスを行っている。仕組みを簡単に説明すると、会員登録をwww.net-flix.comのサイトで済ませ、様々なジャンルに及ぶ15,000作品の中から借りたいビデオを選択すれば、自宅の郵便受けに無料配達される。一度に最高3作の貸出しが可能で、観終わった作品は同封の返却用先付封筒に入れ、ポストに投函する。返却する毎に、原則として事前にオンラインで希望リストに登録しておいた次の作品が届くため、延滞料は課金されず、月額$19.95で無制限に貸出しできる。米国のレンタルショップにおける貸出し料(税金抜きで1本当り平均$4)をNetflixの月額に換算すると、月当り約5本のレンタル料に相当する。実際、Netflix会員の貸出し本数は月平均で5本〜6本とされているが、店舗でのレンタルに要する時間(貸出し、店内での待ち時間、返却)、ガソリン代、延滞の可能性、DVDの障害等を総合的に考慮すれば、オンラインサービスの利点は際立ってくる。
このNetflixは次々と崩壊していった「ユニークな」ドットコム企業の中でも生き残り、今なお成長を続けている会社である。同社の発表によると、2004年第一四半期における売上は$19億3000万と前年同期比で84%の増加を見せており、2009年までには米国内全世帯の5%が有料会員になるものと予想されている。また、2005年をめどにカナダおよび英国でのサービス展開を進めている。
当然のことながら、同社のこうした好業績は同市場に新たな参入者を迎える結果となった。年間売上$2440億を誇る米最大手のディスカウントストアWal-Martでも2003年6月からNetflixと近似したビジネスモデルでサービスを開始。Wal-Martが抱える作品数は13,000作とNetflixより少ないが、貸出し本数に応じて料金体制が異なる点(2本:$15.54、3本$18.76、4本:$21.94)と若干割安な点で差別化を図っている。また、顧客ベースについても、利用者間の評判で自然に拡大していったNetflixとは反対に、Wal-Martでは自社サイトを利用して膨大な数の顧客へ積極的な宣伝活動を展開している。こうしたビジネスモデルとその成功劇は、老舗レンタルショップのBlockbusterですら納得するものであった。Blockbusterでもこの動きに乗じるよう、2002年に小規模ながらもNetflixの競合であったFilm Caddyを買収し、現在、全米8500件の店舗をPRに利用しながら、インターネットによるメールオーダーでDVDのレンタルサービスを開始した。
オンラインでのレンタルサービスが成長の一路を辿る事実は、米国におけるブロードバンド技術の進展と一般利用者への普及を反映したものであり、同時に、ユーザのオンラインサービス利用に対する馴れ親しみも窺える。恐らく、主力プレイヤーNetflixへの次なる脅威は、ビデオ・オン・デマンドサービスであろうが、家庭におけるDVD機器の浸透率が、現在のVCRのそれと肩を並べるまでは、右肩上がりの成長は充分期待できるだろう。
(c) 2004 KANABO Consulting