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  いよいよ始まった音楽配信のインパクト    (IT アナリスト 新井 研氏)
2004年11月1日号

 前号ではiPodなどデジタル音楽デバイスの視点から音楽配信について取上げたが、今回は音楽配信を正面から取上げる。折しも10月からマイクロソフトが日本でも音楽配信サービスを開始、欧米のように本格開始とはいえないが、徐々にではあるが音楽配信の環境が整備されつつある。このような動きは音楽ファンのライフスタイルにどのようなインパクトを与えるのだろうか? また普及にどのような問題点があるのだろうか?

■出揃った大手配信事業者
 マイクロソフトは音楽配信サービス「MSNミュージック」を10月20日より開始した。楽曲提供レーベルは東芝EMI、ワーナーミュージック・ジャパンなど10社、サービス開始当初より5万曲を用意、2004年内には10万曲へと拡大する予定という。
 これにより2004年は日本国内で主な音楽配信サービスが出揃った。4月のMora(国内主要レーベル29社)、5月にはExciteMusicStoreと米国の音楽検索サイトListen.comとトランスコスモス、サントリー、マイクロソフト等が出資するListenMusicStore、6月にはOCNMusicStore、8月に有線ブロードネットワークスのOngen、そして10月はマイクロソフトのMSNミュージックだ。欧米で大成功を収めているアップルのiTuneMusicStoreの国内でのサービス開始が気になるところだが、これらのサービス事業の内容は規模、サービス単価とも大差なく、横並び的なところが気になるが、数だけを見れば2004年は音楽配信元年となった。

■物足りない配信サービス
 しかし、これで多くの人々が音楽配信のサービスを受けてエンジョイしているかというと、そうではない。どのサービスも1曲あたり200円〜300円、アルバム単位でまとめ買いすると物によっては80円程度になるものもある。ListenMusicStoreでアリスの30曲入りのアルバムは2400円で買うことができるので、曲単価は80円となるが1曲だけの購入だと270円になってしまう。米国での音楽配信の曲単価99セントには及ばない。どうしても2000円〜3000円のCDビジネスへ影響を与えないようなビジネスにとどまっているようだ。いずれのサービスでもダウンロードした曲はiPodなどの携帯デバイスには転送できるが、CDに焼くことはできない。今ひとつ物足りなさを禁じ得ず、利用者サイドに立った音楽配信とはほど遠く、せっかくの音楽配信元年も色あせていると言わざるを得ない。

■au着うたフルの衝撃
 そうこうしているうちに、携帯電話サイドから新たなサービスが登場した。KDDIがau「CDMA 1X WIN」の新サービスとして11月下旬に開始する1曲フルにダウンロードできる音楽配信サービスEZ「着うたフル」だ。「着うた」は30秒間の曲のサビの部分だけだったが、これはフル楽曲。着うたの拡張版と思えばよい。High Efficiency AACという新しいコーデック方式で1曲あたりのファイル容量をMP3のほぼ半分の1.5Mバイトに抑えたのが特徴。48Kbpsのビットレートということだが、MP3でこのビットレートだと筆者の経験ではAMラジオで聞いているような音質に思える。実際の音質は聞いてみないことにはなんともいえないが、同社ではそこをうまく改良しブラインドテストによるとオリジナルの75%まで高めたという。CDMA 1X WINは2.4Mbpsの高速通信なので、3〜4分の曲であれば30〜40秒でダウンロードできる。パソコンの音楽配信と違うところは、携帯電話でダウンロードしてそのまま聞けると言うことだ。現時点でダウンロードしたSDカードなどからPCへの転送はできないという。曲単価は1曲数百円ということでまだ詳細は明らかではないが、PCを介さない携帯電話で完結する音楽配信という点で注目される。また、現時点では対応する携帯電話の機種が限られており、多少割高だが、携帯電話のおまけとしてiPodのような機能がついてくると考えればお買い得感が出るかもしれない。

■不完全燃焼のインパクト
 このサービスの配信元は、レーベルゲートの子会社でありauの着うたへの配信を一手に引き受けてきたモバイルレーベルが行っており、au以外への配信はまだ行っていないことから、先ごろ独禁法の疑いで当局から査察を受けたばかりだが、他のキャリアへの配信は技術的障害を理由に未定だ。この当たりややきな臭さもある。
 いずれにしても、音楽配信はPCだけでなく携帯電話での利用も含め、利用環境が整ってきたが、どうもCDビジネスへの影響を回避したといった考え方が引っかかり、本格的な音楽配信には程遠い感じがする。曲単価を米国並に引き下げ、CDへの転送を認めない限り本格的なデジタルミュージックライフはこの国では満喫できないのかも知れず、そのインパクトはかなり限られた不完全燃焼気味のものになりそうだ。


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