米国でアップルのポータブルデジタル音楽プレーヤーiPodの売れ行きがよく、好調に飛ばしている。パソコンに楽曲データをダウンロードし楽しむライフスタイルが浸透してきたことが背景にあり、さらにその音楽機能だけをパソコンからを切り出したのがiPodだ。iPodはこの7月日本国内でも発売が開始されたが、どのようなインパクトをもたらすのだろうか。
■アップルの決算 iPodが牽引
米アップルコンピュータ社の2004年度第3四半期(2004年4-6月期)決算で、ポータブル・デジタル音楽プレイヤー「iPod」の出荷台数が86万台で前年同期比183%増、累計で300万台を突破した。また、音楽配信事業iTunes Music Storeなど音楽関連事業も7300万ドル。同社CEOのSteve Jobsは「音楽ベースの売上げは162%増という驚くべき結果」に、笑いが止まらないようだ。
iPodとは、パソコンと連動し、AACといったアップルのフォーマットやオープンなMP3など圧縮された音楽データを1〜1.8インチの小型ハードディスクに記録させ、ヘッドフォンで聞く小型のポータブル機器だ。いわばソニーのウォークマンのデジタル世代版とでも言おうか。小型ながら大容量のハードディスクのおかげで、1つのiPodに5000曲〜1万曲も記録できるため、ウォークマンのようにカセットなどメディアを入れ替える必要がないのが特徴だ。また、音楽ファイルだけでなく文書ファイルなども記録でき、外付けのハードディスクとしても使える。
■iPodとiTune
初代iPodは2001年1月、399ドルで発売された。音楽ファイルを再生するには、当時はシリコンオーディオなどといわれたメモリチップを搭載したMP3プレーヤーなどがあり、ソニーやソニックブルー(当時ダイアモンドマルチメディア)などから発売されていた。その後ハードディスクタイプが登場、東芝が発売したが今ひとつ伸び悩んでいた。その最大の理由は、当時デジタル音楽普及を巡って様々な問題が渦巻いていたからだ。ひとつはナップスターに代表された“違法”なファイル交換の問題、デジタル配信を巡る既存のCD販売との折り合いなどであった。デジタル音楽プレーヤーの普及と音楽配信は車の両輪であり、それがなかなかうまい具合に回転しなかった。
その問題を米国で一変させたのが、アップルが2003年6月に始めた音楽配信事業iTuneだ。iTuneは1曲99セントでダウンロードでき、MP3フォーマットのように勝手に他人にあげたりはできないが、ホームネットワークに対応するため「3台までのPCで利用可能」、「10回までCDにコピーできる」といった制限を設け、WinMXやかつてのナップスターのような、違法なファイル交換には歯止めをかけている。CDを丸ごとダウンロードしても9ドル99セントと、CDをショップで購入するよりも安くしたことだ。これで音楽愛好者にとっては最新の音楽が安く、しかもアルバムで聞きたい曲だけを選んで購入できるようになったことから大ヒットとなり、2004年7月にはスタート14ヶ月目で1億曲のダウンロードを突破した。累計100億円以上の売上だ。今年6月に欧州でiTuneサービスが開始されたが80万曲/週のダウンロードがあり、順調に推移している。
CDが売れなくなったのは日本同様世界的な傾向のようだが、米国ではこのようにiTuneで音楽産業の復活に成功しており、音楽産業は違法なファイル交換ソフトの影におびえる必要もなくなり、同様の音楽配信事業がますます発展しようとしており、米国の音楽愛好者はPCでダウンロードしてiPodに記録して戸外で楽しむというライフスタイルが徐々に定着しつつある。
■さて日本では
さて、日本であるが、実はiTuneの成功は内外価格差を改めて浮き彫りにするものとなった。日本では音楽コンテンツを握るエイベックス、ソニー、ポニーキャニオンなど18社が出資したMORAというサイトがあるが、ここでは1曲あたり180円〜240円。最新のCDではダウンロードできる曲が指定され全曲ダウンロードはできず、CDにも落とし込むことはできない。要するに既存のCDビジネスを守る仕組みになっており、好きな曲がダウンロードできないことがあるし、安くないし、CDには焼けないしで、日本にはこのような客の方を向いていないサイトだらけだ。
ただ、米国で99セントにできた背景には、通常のCDが1枚16ドル〜19ドル程度と、CDの曲単価と大きな開きはない。音楽産業側としても、これでファイル交換ソフトにおびえなくて済むのであれば99セントはやってみる価値のある価格であった。
日本のPCからiTuneのサイトを開くと「あなたの国ではまだこのサービスが始まっていないので購入はできません」といった趣旨の悲しいメッセージがでる。それでもどの曲も30秒間の視聴がただでできる、絶版になった古い曲など、古い洋楽ファンにはたまらないサイトだ。
日本ではiPodが7月に発売になったが、iTuneサービスが使えないのにもかかわらず品切れ続出の状態だが、これは一過性の現象だろう。アップルブランド好きのオタク青少年がわれ先に購入しているに過ぎず、一巡すれば売れなくなる。iTuneのような値ごろ感のある音楽配信があって初めて価値をもつ商品だからだ。
■ジャニスの主張
いずれにしても、わが国でもCDビジネスが危機的状況であることから、早晩値ごろ感のある音楽配信ビジネスが登場するだろう。iPodの本格普及はそれまでおあずけになりそうだ。ではその突破口は何か。音楽のWeb配信に深い関心をもつアーティストで日本でも1970年代に「Love is Blind」「In the Winter」などのヒット曲のあるジャニス・イアンは、業界がナップスターの問題に直面していたころ面白いことを言っている。「Back Street BoysのCDを買いたい人はクールなビデオ映像のおまけが欲しいのよ」。つまり、ナップスターにはそれがない。CDを高く売りたければそれ以上の付加価値をつけるべきと示唆し、巨大寡占にあぐらをかいていた音楽産業を批判している。
なるほど日本ではCD新譜は2400円〜3000円。2時間のDVD映画は3000円〜5000円。どうも納得がいかない。iPodはまずは我々のライフスタイルを変える前に、この国の音楽産業の構造を変えようとしているのかもしれない。
もうひとつ、彼女の古い曲がナップスターなどファイル交換ソフトでやり取りされたことで、かえって彼女のCDの売上が伸びたといっている。iTuneなどには絶版になった曲や忘れてしまった古い曲がどっさりある。このことは特に若いときにお金がなくて買えなかった今の中高年層を再び音楽市場に引き戻す効果がある。iPodの本当のインパクトは、ここにこそあるのかもしれない。
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