DRI テレコムウォッチャー/「IT・社会進化論」

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  グーグル Gmailサービスの向こうに見えるもの    (IT アナリスト 新井 研氏)
2004年9月1日号

■概要
 8月18日、グーグルのNasdaqへのIPOが行われた。売出し価格は一株85ドル。当初予想されていた100〜130ドルを下回り、その後の値上がりもアナリストや市場の期待を裏切ったものとなった。ITバブル時とはかけ離れた落ち着いた展開は、アナリストも投資家もどうやらグーグルの戦略や将来像をつかみかねていた感じがしないでもない。Gmailの向こうに見えるものはかなり面白そうだけど、かなり時間がかかりそうだから。いずれにしても彼らは16億6000万ドルを手にした。

■大きな武器になるGmail
 グーグルはもともと高速で質の良い検索サービスをしてくれるとあって評判は高かった。実際1万台のサーバーで並列処理を行ってくれるまさにスーパーコンピュータであり、我々はそのスーパーコンピュータのユーザーだ。なるほど検索が速いはずだ。それよりも話題となったのは、無料で1ギガバイトのディスクスペースを提供してくれるフリーメールシステム、Gmailだ。
 フリーメールは1996年マイクロソフトがHotmailを、翌1997年にはYahooMailがスタート、現在全世界で1億人以上がアドレスを登録、MSNやYahooの有料会員サービスへの重要な橋渡しの役割を果たしている。しかし、有力2社とも有料サービス会員には100メガバイトや1ギガバイトを提供してきたが、無料ユーザーには数メガバイトしか与えず、グーグルの1ギガバイトも無料のユーザーに提供する手法は脅威であった。最近マイクロソフトもヤフーもあわてて1ギガバイトを無料ユーザーにも提供すると宣言せざるを得なくなり、“グーグルショック”はこの2社を襲ったが、かなりの数のGmailユーザーが誕生することは間違いなく、人集めにはまずは大成功といえる。

■広告付きメールの是非
 もうひとつGmailの特徴はメールの内容をグーグル側がスキャニングして、頻繁に出てくる言葉や文脈を解析し、内容に即した広告が添付されることだ。要するにスポンサー付きの電子メールシステムであり、これが無料サービスと引き換えにユーザーが差し出すものだ。もちろん、グーグルのメンテナンス担当者がメールを読むわけではなく、プログラムがスキャンするだけなので必ずしもプライバシーの侵害に当たらないし、なによりも利用者が事前に承諾すれば問題はないと思われるが、これについては賛否両論、議論百出である。
 カリフォルニア州議会では「本人が承諾していても、蓄積された膨大なメッセージ情報を第3者へ開示してはならない」とするなど厳格な運用を求めている。なるほどデータはひとつでは単なるデータだが、データベースとして集積するとパワーを持つようになる。警察や監視当局が閲覧できるようになると、人々の言論活動に影響を与えるという趣旨だ。
 一定の規制はかけられるものの、広告つきのGmailは大人気で、アカウントネームがオークションで取引される騒ぎまで起きたことを鑑みると、ユーザーからの評判は芳しいと見てよさそうだ。サッカーの話題が多い利用者には国際試合のチケット発売の広告や、試合の有料放送の案内広告などが来たり、映画好きの人であればDVD新作の案内広告などがついて来るというものだ。

■人間の脳を補助してくれるアプリ
 こういったパーソナライズされた広告の仕組みは特に目新しいものでもなく、たとえばアマゾンドットコムで本を買いつづけていると「おすすめの作品」などとしたアップセリングやクロスセリングの顧客サービスを我々は既に体験している。
 ただ、好みはある程度固定しているので画一的な広告には辟易するが、ときどき、ハッと思わせるお勧めの品があるとうれしくなる。おそらく自分の気づかなかった意外な一面を他人に指摘されたような感じで新鮮味を覚えるからだろう。
 Gmailは1ギガバイトもあるため利用者にとっては無尽蔵に近く、いちいち消してしまうことはないであろう。要するに膨大なマーケティングデータベースが出来上がることになる(その分危険も高まるが。。。)。そもそも、コンピュータの本質は人間の脳の役割を補助してくれることにある。電子メールが切り口とはいえ、膨大なデータベースから自分の脳のどこかにある楽しい何かを引き出してくれたら、これは実に面白いアプリケーションではないか。
 自分の思考を助けてくれる使い方をすれば単なるメールではない。その先にはおそらく、たとえば過去の食事のメニューを記録しておくデータベースができて、そこから体調や季節に合った今夜の献立を考えてくれたり、音声入出力機能を介在させることでもっと身近に、悩みごとの相談や、さびしい一人暮らしの老人の相手をしてくれるなど、我々のライフスタイルとコンピュータが深く関わってくることになる。
 実現性といった点ではそう簡単ではなさそうだが、今回のIPOで得た16億6000万ドルがその第1歩に投資されることを期待したい。Gmailの向こうには面白いものが見えてきそうだ。



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