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  PCI-Expressが機器のフォームファクタに与える影響
(IT アナリスト 新井 研氏)
2004年8月1日号

■概要
 2004年後半のトピックのひとつにPCI-Express対応パソコンの登場がある。おそらく年内には有力パソコンメーカーから発売されることは確実であり、2004年はPCI-Express元年というわけだ。PCI-Expressとはインテルが主導するPCと周辺機器を結ぶ次世代のデータ伝送技術で高速・小型が特徴。パソコンやモバイル情報機器などのフォームファクタを変えてしまうと期待されている。本稿ではこのPCI-Express技術がなぜ重要か、また最終的に我々のライフスタイルをどのように変える可能性があるのかを考える。

■PCI-Expressとは
 PCI-Expressが小型化できるのはシリアルインターフェイスであるためだ。従来の高速バスはISAにしてもグラフィック専用のAGPにしてもハードディスクで使われるSCSIにしてもすべてパラレル伝送技術であった。複数の伝送路(32ビットパソコンであればほとんど32本の伝送路)をもち同時に32個のデータを同時に送るため、伝送路が1本しかないシリアルインターフェイスよりも高速であるのが常識であった。ただし、パラレル系は一昔前のパラレル・プリンタ・ケーブルやハードディスク接続のSCSIにみられるようにピン数が25本(D-sub25)、MOなどの50本(D-sub50)とあり横幅が40ミリ〜60ミリ、ケーブルも太く重たく使いまわしは不便であった。

 大容量のデータをデバイス間で高速に転送するには動作速度、すなわち動作周波数(クロック、タイミング)を上げることが要求されるが、動作周波数1秒間にギガ(10億)クラスになってくるとパラレルの場合、隣接した伝送路が互いに干渉し合い同期を取ることが困難になり、転送速度は上がらない問題に直面した。コンデンサのようになるのだ。つまり同期の必要のないシリアルの方が動作周波数の向上に追随できるだけ有利と言うわけだ。現行の主流の伝送技術PCIが1Gbpsが限界なのに対し、PCI-Expressは単線では最低でも2.5Gbps、最大で32本のレーン(上り/下りの2本での双方向で1単位)を束ねることができるため80Gbpsまで高速化が可能だ。台湾のASUSTeKが開発した試作品では、内部バスとして16レーン、外部バスとして4レーンのワークステーション用マザーボードを発表している。

■フォームファクタに一大変革か
 PCI-Expressはパラレル・インターフェイスのようにタイミングを取る線も不要でピン数はシリアルなだけに大幅に少なくなる。パソコンのマザーボード上に6本のPCIバスを搭載すると、約1000本のピンが必要になるがPCI-Expressでは400本で済む。マザーボードの配線も外部インターフェイスのコネクタも従来のPCIの40%で済むため、マザーボードの面積も従来の40%程度で済むといわれている。またピン数が少なくなるとCPUが送出する信号もパワーが必要になるためCPUの発熱にも作用し、ヒートシンクも小ぶりでよくなる。実はこの点が最も重要なポイントであり我々が扱う情報機器のフォームファクタに影響が出ることになる。

 現在でもシリアルインターフェイスの恩恵には既に浴している。たとえばUSB(ユニバーサル・シリアル・バス。USB2.0は480Mbps)の一般化でプリンタの接続が細いケーブルで済むし、双方向性も確保されているためインク切れなどの情報がパソコンからモニタできるようになっている。また、USBから微弱な電源も供給されるため小型の周辺機器であれば電源ケーブルも不要で我々のパソコンの周辺はずいぶんとすっきりとなった。そこで今度はギガビットクラスのPCI-Expressでどのようなライフスタイルの変化を起こすのだろうか。

■マルチメデイアがより身近に
 まずパソコンのマザーボードの小型化はパソコン・モジュールがテレビやビデオなど他の製品への組み込みが楽になり、新たな定義のデジタル家電が出現する可能性が出てくる。最近のパソコンはよりビジュアルに、より小型におしゃれになりリビングルームに溶け込んでいるが、一般のリビングルームにはテレビ、ビデオ、DVD、セットトップボックスなどであふれ、できるだけ余計なボックスは減らしたいところだ。パソコンが組み込まれるのかパソコンに何かが組み入れられるのかは別として、高速バスの登場は機器のハイブリッド化を促進する可能性がある。

 もちろんノートPCなどのモバイル機器もよりいっそう小型になるが、携帯電話やPDAなどでも十分使われるだろう。今携帯電話でもテレビが見られるようになったが、こういった大容量のデジタル動画の録画、編集、処理なども携帯電話やPDAのようなもので楽にできるようになり、スムーズな動画コンテンツのやり取り、モビリティが高まるものと考えられる。そうなると今後動画コンテンツに触れる機会が広がり、様々な局面で動画、音声などの真のマルチメディア社会実現の一助になるかもしれない。もちろんこのPCI-Expressだけでは不十分だが、少なくともこのシリアル技術がデバイス間のデータ伝送のボトルネックを解消させることだけは明らかだ。



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