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  小売店舗のセルフサービス戦略でライフスタイルは変わるか
(IT アナリスト 新井 研氏)
2004年7月1日号

 RFIDによるスーパーマーケットなど小売店舗の自動化は、欧米ではプライバシ侵害の恐れから実験中止に追い込まれており、当面在庫管理などの物流面での利用にとどまりそうだ。しかし小売店舗にとってはITによるセルフサービスで競争力を高める夢は捨てたわけではなく、RFIDを使わないセルフサービスでサービスをいかに向上させるかの取り組みが行われており、我々のライフスタイルはこれによって何がしか影響を受けそうだ。今回は小売業界のセルフサービスへの取り組み状況やその方向性を紹介しよう。

■顧客ニーズは種種多様
 スーパーマーケットなどの小売業者は数多くのセルフサービス手法を実験してきており、ショッピングがもっと楽しく充実したものになり、同時にレジ・カウンタの人員を削減できないかを検討している。スマートトロリと言われる買い物カゴにPDAとハンドヘルドスキャナをつけ、セルフサービス・チェックアウトやインタラクティブ・キオスクの利用などの実験が進められている。しかし客のニーズは様々で、たとえば日本の買い物客は小売店舗側に買い物の“迅速性”を要求し、欧米はむしろ「金額を事前にチェックできる機能」や「セルフサービスのプロセスをマイペースで行いたい」など様々だ。心地よいセルフサービスの提供と引き換えに店側はいかに人件費をカットできるかが重要だ。

■実現しそうなセルフサービス技術
 まず、現在欧米で実験が進められているセルフサービス技術を整理してみよう。
スマートトロリー:キャスター付の買い物カゴにタッチスクリーンとバーコード・スキャナがついている。買い物客が商品のバーコードをスキャンするとスクリーン上に買い物リストと合計金額がでる。また追加的な情報、たとえばワインの産地や飲み頃の時期、生産者名を確認したりできる。欧州のスーパーチェーン、メトロ社ではこの仕組みをドイツで実験している。ドイツではPSA(Personal Shopping Assistant)、米国ではカートバディと呼ばれている。
セルフ・スキャニング:買い物客は入り口でハンドヘルド型のバーコードスキャナを受け取り、事前に登録してあるクレジットカードを読み込ませ、自由に店内を歩き回り必要な商品をスキャンする。スキャンのたびに商品価格と合計金額が表示される。最後は店のオペレータにスキャナを渡し、簡単なチェックを受け支払を済ませる。英国のWaitrose、米国のJewel Osco、フランスのCarrefoureがこの種のセルフスキャニングシステムを採用している。
セルフ・サービス・チェックアウト:買い物客は従来どおり(あるいはハンドヘルド型スキャナで)買い物をしクレジットカード決済を行い、無人のチェックアウトを行うもの。個々のラベルには重量情報が入っており、最後に買い物カゴの総重量とスキャナの合計重量が合致すればOKだ。あるいは監督者がいくつかのセルフサービスチェックアウトを監視して不正を無くすというケースもある。

■スマート・トローリが一番人気
 いくつかの調査の結果、3つの中で最も人気があったのがスマートトローリだ。全ての年齢層と全てのタイプの買い物客が有益性と便利さを感じ、「使ってみたい」といったコメントを出した。小さな子供連れの客の中にはタッチスクリーンを好んだが、これで子供達を楽しませるようだ。ただしハンドヘルドスキャナよりもこのトローリ・マウント型スキャナの方が多少使い勝手が悪いと感じられたようだ。この感覚は高年齢層の客も同様に感じていた。
 付加価値を与える機能としては、会員カードでログインすることで買い物客に好みの商品を見せたり、前回来店時の購入品目をリストアップが出来る。メトロ社はこういった機能のさらなる強化を意図している。たとえば買い物客があらかじめ自宅のパソコンや外出先の携帯電話から思いついた買い物リストをWebにアップしておけば、実際の購入時に自分のトローリのディスプレイにダウンロードして表示するような機能を考えている。

■今後の展望
 スマートトロリのようなシステムは有効な手段として今後も引き続き小売店での研究が続けられるだろう。しかしこれらのシステムへの設備投資は店側にとってかなりの負担であり、現状では数えるほどの有力店しか導入できず、結果的に当面はセルフサービス・チェックアウトに焦点が当てられることになるだろう。しかし、将来的なセルフサービス・テクノロジの導入と同時に、ワントゥワン・マーケティングを実現することも重要な課題だ。パーソナル・スキャナやスマート・トローリはまさにこの課題に適したデバイスだ。店内のシステムが個々の商品がスキャン(購入)された時点でリンクされたメッセージを出すことは大変効果的であり、クロスセリングやアップセリングにつながる。セルフサービステクノロジの重要な点は店のコスト削減にも売上向上にも役立つものでなければならないが、消費者のライフスタイルを極端に変えてしまうものは受け入れられないようだ。



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