BTによるInfonetの買収 - 一つの時代の終焉か?
2004年11月20日号
2004年11月8日、BTはInfonetを買収することを発表した。株主の議決および反トラスト規制当局の承認、FCC(米連邦通信委員会)の承認を前提としたものである。
BTによるこの買収については、多様な角度から論じることができる。例えば次のようなことである:
- Infonetはなぜ、買収されることが自社のメリットになると考えるのか
- Infonet株を保有するキャリア株主であるKDDI、KPN、Swisscom、Telef溶ica、TeliaSoneraおよびTelstraは、なぜInfonet売却がメリットになると考えるのか
- BTはなぜ買収することが自社のメリットになると考えるのか
- なぜ過去3年間にInfonetの収入が落ち込み続け、また利益はもっと速く下落してきているのか
- 売却の財務的側面
- 買収の財務的側面
- 顧客への影響
- BTの国際展開と販売チャンネルに与える影響
- 他の国際的なサービスプロバイダーからの競争上の反応
- Infonetを販売パートナーとしてきたがBTについては競争上の脅威と見なしているような、既存事業者からの反応
限られたスペースではこれら考えられる角度の多くを網羅することはできないので、ここでは最も顕著で興味深いと思われる以下のポイントに着目する:
- BTの当初の国際戦略への逆行
- インフラを持たないマネージド・ネットワーク事業者の時代の終焉
BTの国際戦略
記憶が正しければ1991年、BTによるTymnetの買収について、BTのブリーフィングに参加した。Tymnetは国際的なマネージド・データ・ネットワーク・サービス(MDNS)事業者であった。世界中にあるTymnet の拠点が、BTにとって(キャリアサービス市場とは対照的に)エンドユーザー市場向けでは初の国際展開となった。
それ以来、BTはAT&T およびNTTと提携を結び、その後MCIとも提携し(後にMCI買収に失敗)、そして再度AT&Tと手を結んだが(Concert設立)、最終的には単独路線に戻った。しかし、その時点までに、BTが保有していた海外の資産は、Tymnetの買収によるものを含み、その多くが希薄化されてしまっていた。特にConcertの整理に伴う処理である。
BTによる国際サービスへの早期参入は、おそらく当時は時代を先取りするものであったのだろうが、戦略的な決定が不適切であったため、せっかくの先見性が失われてしてしまうことになり、残念なことに思われる。以前は綿密に目標が定められていた戦略は、過熱して値段が高騰した1990年代後半のブームの戦略に取って代わられ、結果的には重い負債を抱えて方向性をなくすことになってしまった。
新しい経営陣の下、BTは再び進むべき道を見つけている。そして、(少なくとも部分的には)独立のマネージド・サービス・プロバイダー買収という、恐らくはBTにとって初めての主要な、国際市場への戦略的な進出の事実を繰返そうとしているのは奇妙なことのように写る。これは更に、BTが痛感するはずの落胆を浮き彫りにするものである。その落胆とは、BTは以前の時代を先取りする戦略による買収からは持続的なメリットを引き出すことがなかったことと、13年後の今になってまた同じ轍を踏まざるを得ないということである。これは、BTによる失敗を重ねた国際拡大戦略の時代が終わりを迎えたということである。BTにとっては結局、その時代を始めた時点に戻ってしまった。
一時代の終焉
国際マネージド・サービスの分野を幅広く見通してきた立場からすると、旧来の事業者によるInfonetの買収は、一時代の終焉を現すように見える。時代が間もなく終わりを迎える兆しはあったが、今その時が来たのである。
Tymnet(後にBTが買収)やTelenet(後にSprintが買収、現在はおそらくGlobalOneを経由してEquantとFrance Telecomの一部)、Equant(FTが買収)、Racal Network Services(現在Global Crossingの一部)、そしてIBM Network Services(後にAT&Tが買収)のように、Infonetはマネージド・サービス事業者であり、また国際付加価値通信網(IVAN)事業者としても知られていた。
IVANは、小売価格で専用回線を買い、また需要があってもその国の大手キャリアが提供できないようなサービスを提供していたため、ほとんどの国で規制当局による規制がなかった。国際的な側面がIVANを容認する必要性に重みを増した。互換性の問題のために、その国の大手キャリアが他の国々にある大手キャリアと相互操作することが困難になる中で、IVANは国際的なビジネスから必要とされ、そのために経済にプラスの影響を及ぼしたのである。したがって、国際VAN事業者は、他の通信市場が自由化されるずっと前に、たいていの国で容認されていた。
自由化以前の市場で国際事業者としての地位を活かすためには、独立であることが重要であった。全ての国際事業者が独立系であったが、ただしInfonetについては、いくつかの国内航空会社によって保有されていたSITAと同様、各国の大手キャリアいくつかによって保有されていた。1995年になっても、Infonetの株主にはFrance Telecom、Deutsche Telekom、Telstra、PTT Telecom Netherlands(現KPN)、Telia、Swiss Telecom PTT(現Swisscom)、KDD、Telefonica、 Belgacomなどが名を連ねた。多数のキャリア株主を持つことで、Infonetは独立系と見なされるほどにまで株式保有による力関係が薄れていた。
独立であることには多くのメリットがあるが、大きなデメリットもある。
IVANにとっての大きなデメリットのひとつは、非自由化あるいは部分的に自由化された国々の大手キャリアによって、競争相手としてではなくパートナーとして見受けられた。そうした国には、全てではないにしろ何社かのIVAN事業者向けに“B-end” のサポートを頻繁にすすんで提供するような大手キャリアがいた。こうしたパートナーシップの位置づけは主に、独立IVANがケーブルや無線のインフラを自社で一切持たず、その国の大手キャリアから提供された専用線をIVAN自身の設備のノードにつないで利用していたことで出来上がった。しかし、インフラを持たないことは、最近になって大きなデメリットを呈するようになったのである。これについては後述する。
もうひとつのメリットは、IVANはコスト面だけよりも国際的なサービス・マネジメントという重要な差別化要素を持つことで、狭い領域のサービスに集中できたことである。このサービス領域の狭さは必然的な優位性というよりもむしろ戦略として受け止められていたのかもしれない。しかし、この位置づけは市場にニーズがあった、あるいは実際にはそれを求めていたから可能になったものであり、サービスプロバイダーによる戦略的決定というよりはむしろ選ばれた市場に対してサービスすることの優位性であったと言えよう。しかし、この狭いポジショニングも今では不利な状況に転じてしまった。
従来、IVAN事業者の市場は、海外に拠点を持つ中規模企業であった(また数社の小規模企業でさえある)。IVANはまた、大手企業の小規模部門で、その企業の主要部門とは別の場所に海外拠点を持つところもサービスの対象としていた。しかし、大手多国籍企業の主要部門にとって、IVANが提供するサービス範囲の狭さや、バンド幅の狭さ、比較的高い価格というサービスの位置づけは適切なものとは言えなかった。
しかし、何がIVAN事業者の位置づけをもはや維持できなくするほどに変えたのであろう? いくつかの要因があるが、次にその主なものを挙げる:
- 国際的な企業ではデータのニーズが高まり、また再販専用線上で運用するには非常に高価なボイスなど、マルチメディア向けのネットワークを利用することを望んでいること
- キャリアの整理統合により、インフラを有する大手の国際キャリアが旧IVAN市場へ参入するという結果を招いたこと。そうした事業者とはMCI、 France Telecom、Deutsche Telekom、AT&T、Cable & Wirelessそして当然ながらNTTなどである。現在はBTも同市場に再参入している
- IPが、一般企業によるデータのシェアや移動について飛躍的な効果をもたらしたこと。またIPのおかげでネットワークの提供のされ方に関しては、一般企業向けでも事業者向けでも同様に利用できるオプションが相当広がったこと
- 以前のIVANに代わるものとして安価なVPNが登場したこと。特にマルチメディア・アプリケーション向けを含むxDSLブロードバンドアクセス上での、インターネットVPNや分割されたIP VPNのどちらも提供するために、ローカルあるいは全国的なISPを“B-end”のパートナーとして利用する事業者がいくつか現れたことによる。このトレンドによる影響をあなどってはいけない
- バンド幅要求の自然な高まり。理由としては、IPの影響や、PCやオフィス向けソフトウェアなどでの技術面に関するコストが下がったこと、リアルタイムのERP(統合業務パッケージ)プラットフォームへの移行、ムーアの法則に則るかのようにMicrosoftや他のソフトウェア開発会社がバンド幅は無料であるかのごとくアプリケーションが必要とするバンド幅を広げ続けること
- インターネット・ゲートウェイを含む、ホールセール価格での大規模IP容量へのアクセスが必要不可欠になってきていること
- 大手国際キャリアが持つ、いずれの顧客にも適用できるような首尾一貫した拡張性のあるIPベースのサービスを提供したいという要求
こうした考えを基にすれば、独立系“IVAN”事業者の末路が独立性を失い、大手インフラ保有者に助けを請わなければならなかったというのは自明の理であり、恐らくは避け難いことでさえあったようだ。それが他の大手キャリアではなくBTであったということは、主要な戦略的事実というよりもどこであったかに関係ないように思われる。BTにとっては重要なことであるが。
当初のIVANの成長は、大手キャリアが成長した土壌とは別のところで起こった。 IVANが栄えた背景には、ネットワーキング・ソフトウェアの開発、ネットワーキング・ハードウェアの開発と製造、および特に政府向けのコンサルティングとデータサービスなどがあった。知性と自らが選んだ市場への集中度を通じてキャリアより先んじた場所に留まっているIVANにとっては、先見性が最も重要であった。しかし今日、IPのユビキタス性やキャリアによるコア・ネットワークへのIPの採用は、容赦なく進むグローバル化の中で、ネットワーク層で付加価値をもたらすような、あるいは幅広いが厚みがない国際プレゼンスを持つ専門的な事業者の余地を狭めている。そして、価格が再度注目されてきたのである。
これは完全に一時代の終焉なのであり、それを迎えてしまったことは悲痛である。
(C) 2004 Telecommunication Ltd.
(原文)
BT Buys Infonet - Could it be the end of an era?
2004.11.20
On 8 November 2004, BT announced that it is buying Infonet, subject to a shareholder vote, to antitrust regulatory approvals and to approval by the FCC (US Federal Communications Commission).
There are many angles we could take in writing about this acquisition by BT, including:
- Why Infonet believes it is in its interests to be bought
- Why Infonet's carrier shareholders KDDI, KPN, Swisscom, Telef溶ica, TeliaSonera, and Telstra believe it is in their interest to sell Infonet
- Why BT believes it is in its interests to buy
- Why Infonet's revenues have been falling and its profits falling faster in the last three years
- The financials of selling
- The financials of buying
- The impact on customers
- The impact on BT's international portfolio and channels
- The competitive response from other international service providers
- The response from incumbent operators that have been distribution partners to Infonet but that see BT as a competitive threat.
As space prevents us from covering most of the possible angles, we will focus on those issues that we find the most significant and interesting:
- BT's reversion to its original international strategy
- The end of the era of infrastructure-free managed network operators.
BT's International Strategy
If memory serves well, it was in 1991 that we attended a briefing by BT on its acquisition of Tymnet, an international managed data network service (MDNS) operator. It was Tymnet's offices around the world that gave BT its first international footprint in the end-user market (as opposed to the carrier services market).
Since then, BT has been involved in alliances with AT&T and NTT, then with MCI (then failed to acquire MCI) then with AT&T again (Concert) and finally reverted to going it alone. However, by this time, many of BT's earlier international assets, including those acquired from Tymnet, had been diluted, particularly through the closure of Concert.
It seems a shame that BT's early entry into international services, perhaps visionary at the time, has been diluted by poorer strategic decisions in the meantime. Early, narrowly targeted strategy had been overtaken by the overheated, overpriced boom strategies of the late 1990s, resulting in massive debt and a lack of direction.
Under its new management, BT is finding direction again, and it seems odd that it is repeating what was probably BT's first key strategic move into the international market; buying an independent (well, partly at least) managed services provider. This further highlights the disappointment that BT must feel; that it did not get to derive sustained benefits from its early and visionary strategic acquisition, and now 13 years on must repeat the exercise. It is the end of an era of failed international expansion by BT, culminating in a repetition of the action that started the era for BT.
The End of an Era
Having worked extensively in the international managed services sector, we feel that the acquisition of Infonet by an incumbent operator represents the end of an era. There were indications that an era was soon to end, and now the end has come.
Infonet, like Tymnet (later acquired by BT), Telenet (later acquired by Sprint, possibly now part of Equant via GlobalOne and France Telecom), Equant (acquired by FT), Racal Network Services (now part of Global Crossing) and IBM Network Services (IBM's network was acquired by AT&T) was a managed services operator, also know as an international value-added network (IVAN) operator.
IVANs were permitted to exist by regulators in most countries because they bought leased lines at retail prices and provided services which business wanted but which were not available from the national operators. The international dimension added weight to the need to permit IVANs; they were needed by international businesses and thus had a positive economic impact, while compatibility issues made it hard for national operators to inter-work with their counterparts in other countries. Consequently, international VAN operators were permitted in most countries long before other telecoms markets were liberalised.
To enjoy this position as an international operator in a pre-liberalisation market, it was important to be independent. All were, except that Infonet was owned by a number of national telecoms operators in the same way that SITA was owned by a number of national airlines. As late as 1995, Infonet's ownership included France Telecom, Deutsche Telekom, Telstra, PTT Telecom Netherlands (now KPN), Telia, Swiss Telecom PTT (now Swisscom), KDD, Telefonica and Belgacom. Having so many carrier owners diluted Infonet's ownership to a point where it was considered independent.
Independence gave many advantages, but also one major disadvantage.
One of the major advantages for the IVAN was being seen as a partner and not a competitor by national operators in non-liberalised or partially liberalised countries, with such national operators often willing to provide 'B-end' support for a number of, if not all, IVAN operators. This partnership position was largely the result of the independent IVAN not owning any cable or radio infrastructure of its own, and using leased lines provided by national operators to link the IVAN's equipment nodes. However, not owning infrastructure has in recent times also become a major disadvantage, discussed below.
Another advantage was that the IVANs could concentrate on a narrow service area, with international service management being a key differentiator rather than cost alone. This narrowness of service offering might be considered a strategy rather than a natural advantage, but we would argue that this position was only possible because the market would support it, indeed called for it, and therefore it was an advantage of serving the chosen market rather than a strategic decision made by the service provider. But this narrow positioning has also more recently become a disadvantage.
Historically, the IVAN operators' market was that of Medium Enterprises (and even a few Small Enterprises) that had an international office footprint. IVANs also served smaller divisions of Large Enterprises where those divisions had a different international office footprint to the enterprises' major divisions. But for the major divisions of Large MNCs, the narrow range of services, the narrow bandwidth and the comparatively high price positioning of the services offered by IVANs made them quite unsuitable.
But what has changed whereby the IVAN operators' position is no longer sustainable? There are a number of factors, some of the key ones being:
- International enterprises have increasing needs for data and are wishing to use their networks for multimedia services including voice, which are very expensive to run over resold leased lines
- Carrier consolidation has resulted in entry to the former IVANs market of major infrastructure-owning international operators such as MCI, France Telecom, Deutsche Telekom, AT&T, Cable & Wireless and of course NTT. And now BT has re-entered this market
- IP, which has had a dramatic effect on how enterprises share and move data, and on the options available to enterprises and operators alike in terms of how their networks are provided
- Emerging low cost VPN alternatives to the former IVANs, with some operators using local or national ISPs as 'B-end' partners to provide both Internet VPNs and partitioned IP VPNs, especially over xDSL broadband access, including for multimedia applications. The impact of this trend should not be underestimated
- General growth in bandwidth requirements, partly because of the impact of IP, partly because of falling costs of technology such as PCs and office software, party because of a move to real time ERP platforms - and partly because of Moore's Law enabling Microsoft and other software developers to continue increasing the bandwidth applications require, almost as if bandwidth were free
- Access to large scale IP capacity, including Internet gateways, at wholesale prices, is becoming essential
- The desire by major international carriers to offer a coherent family of scalable IP-based services which can be applied across the full spectrum of customers.
Given the considerations presented above, it seems obvious, perhaps even imperative, that the last of the independent 'IVAN' operators should lose its independence and seek refuge with a major infrastructure owner. That it is BT rather than another major carrier seems more a detail than a key strategic factor - except for BT.
The original IVANs grew from different soil to that in which the major carriers grew. The backgrounds enjoyed by the IVANs included networking software development, networking hardware development and manufacture, consultancy and data services - especially provided to government. Ingenuity was often the keyword, with IVANs having to stay ahead of the carriers through their intellect and closeness to their chosen market. But today the ubiquity of IP and its adoption by carriers in their core networks, coupled with the relentless pace of globalisation, reduces the scope for specialist operators adding value in the network layers or through a broad but thin international presence, and price once more becomes the focus.
For us it is definitely the end of an era, and we are sad to see it pass.
(C) 2004 Telecommunication Ltd.
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