トニー・デンチのユーロレポート


通信会社のサービスの悪さを解剖する
 - 通信会社のサービスが最悪なのはなぜか?

2004年2月15日号

1980年代に経済学者のSchmemmer氏がサービスの「産業化(効率化)」について初めて執筆にあたったとき、今後の企業にとって、新興の技術プラットフォームはサービス効率化の流れの中で必要なものであるとしている。しかし、それをサービスレベルの低下に接した顧客からのクレームに対抗する防衛手段として使おうとは、彼自身思っていなかったであろう。

また、1990年代にLovelockらが、サービスの提供の流れの一環として顧客を位置づける考え方−例えばオンライン注文やIVR(インタラクティブ ボイス レスポンス)での通話ルーティングの選択−について著したとき、サプライヤが品質管理を顧客にまかせるようになるという見通しは持っていなかっただろう。

通信業界におけるサービス提供について科学的に調査し、また実践的なコンサルティングを行う立場にあって、サービスの産業化を可能にしたこの業界そのものが、自らの事業分野においてこれほどサービスが悪くなると予測した者はいない。しかし、実際にサービスは悪い。こんな業界と関わりがあるのは面目ないことである。

下記に挙げるのは、弊社の回線のうち一本をISDNからADSLに単純にアップグレードする話である。この話は恐ろしいというよりは、滑稽だと言えよう。しかし信じ難いことは、これはほんの序の口にすぎないということである。

経過
日数
曜日
 
1
月曜
アップグレードについて弊社のISPに電話。納品には約1週間かかり、(同社の場合は)ISDN回線をアナログにダウングレードすることについては弊社側でBTに連絡し、支払いをしなければならないとのこと。
BTの請求書に(今なお)印刷されている営業用電話番号宛に電話。そこには夜20:00まで営業と宣伝されている。しかし、オフィスの営業は18:00までであることを告げる録音メッセージであった。
2
火曜
BTの営業に電話、弊社の回線はBT Wholesaleによるサービスであり、BT Retailではないと言われる。事実であるとは思えないが、いずれにしてもBT Retailに戻すように、弊社からBT Wholesaleに電話しなければならないとのこと。
BT Wholesaleに電話、変更について依頼。
数時間後、BTの営業に再度電話。しかしRetailへの変更はまだ行われていないとのことであった。
BT Wholesaleに再度電話。BT Retailの顧客になる依頼をするために、弊社アカウントの詳細など全てをつけてEメールで送信しなければならないと言われる。
BTの営業に再度電話。ISDNからアナログへの‘ダウングレード’についての申し込みをする。
7
日曜
オフィスに出社(土曜日は不在であった)。BTからの手紙があり、物理的な変更をするため次の日に来るとのことであった。この手紙は水曜日の消印であったが普通郵便であり、また誰も手配の電話をしてこなかった。都合がいいのではあるが、間違ったISDN番号が新しい回線に当てられることが懸念された。
手紙には注文の処理状況はBTのウェブサイトでチェックできると書いてあった−しかしURLとしてはwww.bt.comが記載されていただけである。約10分後チェックのためのページに当たりをつけ、更に登録などのために10分くらい費やした末、弊社の注文番号はオンラインでは見られないというメッセージのページに行き当たった。しかし、注文の進捗状況のための電話番号が書かれていた。そこに電話したが、その番号はもう使われていないことが分かっただけであった。
8
月曜
開店と同時にBTの営業に電話、正しい電話番号を表示するよう注文を変更。しかし、作業命令が既に出されてしまっていたので、来社したBTのエンジニアに番号の変更を依頼しなければならなかった。
エンジニアに依頼、同氏は正しい番号を使い、‘取り外し’作業はうまく運んだ。
ISPの営業に電話したが、問い合わせの処理に繁忙なため、オンラインで申し込むように言われる。
オンラインにて申し込み、ADSLのルータ/モデムを選択。
12
金曜
進捗状況を聞くためISPに電話(Surefish、慈善団体系のISP)、全て順調であるとの確信を得る。
15
月曜
ISPから、一律価格でのサービスに対する前払い料金を課す旨の通知が届く。このサービスはADSLのためにキャンセルしようとしているものである。ISPにEメールをして支払いを止めたが、その過程でADSLサービス(既に1か月分前払いが完了済み)が稼動していない段階で一律料金サービスの利用ができなくなった。
18
木曜
ISPに電話、機器は本日配送されることになっていて、明日には弊社に届くだろうと言われる。
19
金曜
機器の配達はなし。ISPに電話、そのモデム/ルータは本日配送されることになっており、月曜日には弊社に着くだろうと言われる。
22
月曜
間違った機器が到着−しかもマイクロフィルタはなし。
ISPに電話。正しい機器の配送には時間がかかりすぎることが分かり、弊社がいつも使っている機器サプライヤから直接購入することに決定。ISPは機器の回収を手配するために電話すると言う。
機器の注文をする。イーサネットポートが4つのルータ/モデムを1台、翌日配送で。サプライヤからはマイクロフィルタは入っていないと言われたので、注文した。
24
水曜
ルータ/モデムが1日遅れで機器サプライヤから到着。イーサネットポートは注文した4つでなく1つしかついておらず、またマイクロフィルタはルータに入っていた。 配達業者はルータ/モデムのパッケージをビルの1階受付に置いていったが、ISPから間違って配送されたモデムの回収には我々のオフィスまで上がってきた。ISPは弊社のことについて電話で伝えていなかったので、我々は回収についての詳細などを持っていなかった。
モデムをインストールして、サービスの利用を試みたが、弊社のパスワードは拒否された。
ISPに電話したが、我々が使うべきユーザ名とパスワードがよくわからなかった。ISPはいくつか言ってきたが、どれもうまくいかなかった。ISPは障害チケットを出し、弊社はチケット番号が入った確認Eメールを受け取った。
25
木曜
ISPからの連絡はなし。こちらから電話したが、何の進展も、今後のスケジュールも聞けなかった。
26
金曜
何の連絡もないため、午後の遅めの時間にISPに再度電話。いつ連絡できるかの時間的なことは明言せず。
27
土曜
ISPからもうひとつのユーザ名で試すよう、Eメールが届く。このユーザ名で先日の水曜日に試したがうまくいかなかったし、今回もだめであった。
修復についてのスケジュールを決めるよう催促するか、誰かに障害がひどくなったことを伝えようと試みたが、徒労に終わった。ISPは今後どう進めるか、どんなスケジュールなのか、何も受けあおうとはしなかった。
午後の遅い時間になっても何も連絡してこないので、注文をキャンセルして、他のISPにサービスを移管するための(BTへの)参照番号を問いあわせるためのEメールを送った。
29
月曜
ISPからは障害についてもキャンセルについても何の連絡もないので、こちらから電話して一つずつ処理していく方法をとった。それには提供されなかったサービスと機器についての料金の返金依頼も含んでいる。
電話に出た人は、電話をかけるには複数の上司の特別な許可が要り、このことが弊社に電話がなかったひとつの理由であると言った。かかってくる電話は1分間75ペンス(毎分約145円)であるが、電話をかけることについてはしないようにかなり強く促されている。
このISPのサービスがキャンセルされたか、それがいつであるのかを知って、(更に1週間待って)弊社が次のプロバイダーに申し込みするために、弊社は毎日このISPに電話しなければならない。
30
火曜
ISPは弊社に電話をかけ、モデムの配送にどんな問題があったかを調べて、状況を修復しようとした。間違ったモデムは22日に配達されて、24日に回収された。連絡が少し遅くはないだろうか。
31
水曜
ISPから連絡がないので、我々から電話してキャンセル状況を尋ねた。ISPは状況を把握しておらず、状況を確認していつか何らかの連絡をくれると言った。
これが弊社の1回線についてのこれまでの経過である。これから何が起こるかまだ分からない。最初の問題がどうして起こったのか、未だに分からない、また、いつ、どのように解決されるのかも分からない。こんな自由放任主義の顧客への接し方は理解し難い。特にブロードバンドサービスはISPのナローバンドサービスよりももっと収益性が高いものだからである。

弊社としては、こんなことを始めてしまったことを深く後悔しており、元のISDN回線のままでいれば良かったと思っている。顧客をサービス提供の流れの一環に組み込むというコンセプトにはメリットがあるかもしれない。しかし、アップグレードのコストの中に含まれてしまうのであれば、決して手を付けようとはしない。我々が参加することのオポチュニティ・コスト(機会原価)は、おそらく何か月分もの生産性上昇分よりも高いであろう。

イギリスの通信業界に蔓延したサービスの質の悪さについて、もうひとつ残念な側面を挙げれば、イギリスのコンサルタント(弊社を含めて)は、世界の他の国・地域からサービス向上について助力するよう依頼を受けることである。こうした通信企業たちは、我々コンサルタントがヨーロッパ人、とりわけイギリス人であるから、レベルの高いサービスを受けることに慣れていると思い込んでいる。最近アジアの顧客と接していて、彼らから受け取ったプリペイドでのインターネット接続製品上での連絡先番号がもはや使えないと分かったとき、ぞっとした。しかし、これと同じことがBTにも起こったではないか。ヨーロッパが他国に何をアドバイスできるというのか?

しかし、優しい見方をすれば、古くから‘靴屋の子供はいつもぼろ靴を履く(紺屋の白袴)’と言う。悲しいかな、イギリスの通信業界は全くその通りである。でもなぜそうでなければならないのか。なぜ通信業界は自分たちのサービス供給を、他の業界のために達成し得る好例として使えないのか? 疑問が残るばかりである。

(C) 2003 Telecommunication Ltd.




(原文)
Anatomy of a Service Failure
Why are telecoms companies among the worst for service quality?

Feb.15, 2004


When the economist Schmemmer first wrote of 'industrialising' services in the 1980s, we doubt he intended that companies would use the merging technology platforms so necessary for the industrialisation of processes as defences against customer complaints in the face of reducing service levels.

When Lovelock and others wrote in the 1990s of the concept of using customers as part of the service delivery chain - for instance through online ordering and IVR (interactive voice response) call routing selection - we doubt the expectation was that suppliers would leave quality control to their customers.

Being involved in both the academic study of and practical consulting in service delivery in the telecoms industry, we cannot believe anyone would have expected that the very industry which has made the industrialisation of services possible would perform so badly in this area itself. But it does - and we are ashamed to be associated with the same industry.

Below is the story of a simple upgrade from ISDN to ADSL access for one of our lines. If it was not so frightening, it would be funny. And, although hard to believe, the picture below is only a high-level summary.

Elapsed Day No.
Day
 
1
Monday
We called our ISP about upgrading. They advised that delivery would take abut a week but (in their case) we had to arrange and pay for BT to downgrade the ISDN line to analogue.
We called BT on the sales number (still) printed on their bills advertised as being open until 20:00 in the evening. Got a recorded message saying that the offices were open only until 18:00.
2
Tuesday
Called BT sales and were told that our line was serviced by BT Wholesale, not BT Retail. We don't believe this to be the case, but we were told we had to call BT Wholesale to be reverted to BT Retail in any case.
Called BT Wholesale and requested the change.
Called BT sales again some hours later, but were told that the reversion to Retail had not taken place.
Called BT Wholesale again and were told we had to send an email with all our account details etc requesting that we be made a BT Retail customer.
Called BT sales again and placed the order for a 'downgrade' from ISDN to analogue.
7
Sunday
Go into office (having not been in on Saturday) and find letter from BT saying they are coming to make the physical change the following day. The letter was posted on Wednesday using second class postage and no-one called to make the arrangements. Although it was convenient, more worrying was that the wrong ISDN number was being kept for the new line.
The letter said that order progress could be checked on the BT website - although only www.bt.com was given as the URL. After about ten minutes we found the route to the page - and then after about another ten minutes of registering etc we got through to a page saying that our order number could not be viewed online. However, an order progress line phone number was given. We called the number, only to find the line is no longer in service.
8
Monday
Called BT sales as soon as they opened and changed the order to show the correct line number. However, the work order had already been issued and we had to advise the visiting BT engineer of the number change.
We advised the engineer and he used the correct number and the 'de-installation' went smoothly.
Called our ISP's sales line and they said they were to busy handling sales enquiries and could we please order online.
We ordered online and took the ADSL router/modem option.
12
Friday
Called our ISP, (Surefish, an aid charity-based ISP), for a progress update and were assured everything was on track.
15
Monday
Receive notification from our ISP that they are going to draw the advance subscription fee for the flat rate service we are cancelling in favour of ADSL. Email the ISP and get the payment stopped, but in the process lose use of the flat rate service without yet having the ADSL service (for which we have paid the first month in advance) working.
18
Thursday
Called our ISP and were told the equipment was being shipped today and would be with us tomorrow.
19
Friday
No equipment delivered. Called our ISP and were told that the modem/router was being shipped today and would be with us on Monday.
22
Monday
Wrong equipment delivered - and with no micro filters.
Called our ISP, found that the correct equipment delivery would take too long and so decided to buy directly from our usual equipment supplier instead. Our ISP said they would call to arrange equipment collection.
Ordered the equipment, a four Ethernet port router/modem, for delivery the next day. Supplier said no micro filters included, so we them.
24
Wednesday
Wrong equipment delivered - and with no micro filters.
The router/modem arrived from our equipment supplier, a day late. It only had one Ethernet port, not four as we had been told, and a micro filter was included with the router.
The courier left the router/modem package at the serviced office reception on the ground floor, yet came up to our office to collect the modem incorrectly delivered by our ISP. The ISP had not called about us and so we had not delivery details, etc.
Installed the modem and tried the service. Our password was being rejected.
Called our ISP and they were not sure what username and password we should use. The ISP offered several but none worked. The ISP raised a fault ticket, we received an email confirmation with the ticket number.
25
Thursday
Nothing heard from our ISP. Called the ISP; no news and no timescale in which we might hear something.
26
Friday
Called our ISP again in the late afternoon, having heard nothing from them. They would not commit to any timescale to hear back from them.
27
Saturday
Had an email from the ISP suggesting we try another username. We had tried this particular username the previous Wednesday; it did not work then and it did not work now.
Tried pressing for a timescale for repair or the possibility to speak to the people the fault had been escalated to - but with no success. The ISP would not commit to any course of action or timescale.
Having heard nothing back in the late afternoon, we emailed to cancel the order and requested a reference number (for BT) for migrating the service to another ISP.
29
Monday
Having heard nothing back from our ISP regarding either the fault or the cancellation, we called the ISP and went through the step by step process - including having to request repayment of fees for services and equipment not provided - on the phone.
The contact person indicated that they have to get special permission from managers to make outbound calls, and this is one reason why we may not have been called. Inbound calls cost 75p per minute (about JPY 145 per minute), but outbound calls are actively discouraged.
To find out if and when the service has been cancelled, whereby we can order from another provider (another week's wait), we have to call our ISP daily.
30
Tuesday
Our ISP called to find out what the problem was with the modem delivery, intending to implement remedy. The wrong modem was delivered on day 22 and collected on day 24. Perhaps a little late to be calling?
31
Wednesday
Having heard noting from our ISP, we called to find the status of the cancellation. They did not know the status, said they would 'escalate' it again, and would let us know something, at some time.
This is as far as we have got with this one line, so we have to wait to see what happens. We still have no idea why the initial problem occurred, and when and how it might have been remedied. Such a laissez faire approach to customers is very hard to understand, especially as broadband services ought to be more profitable than the ISPs narrowband services.

We deeply regret starting this whole process and wish we had remained with the particular ISDN line. The concept of having the customer form part of the delivery chain may have some merits, but if we were to have included it in the cost of the upgrade we never would have started. The opportunity cost of our participation probably outweighs many months' productivity gains.

Another uncomfortable aspect of this prevalent poor service quality in telecoms in the UK is that UK consultants - ourselves included - are asked by operators in other regions of the world to assist them in improving their services. These operators assume that, coming from Europe - and perhaps the UK in particular - we are used to receiving and receiving high levels of service. Working with an Asian client recently we were horrified when the contact number they gave out on a prepaid Internet access product was no longer in service, yet we have just had a similar occurrence with BT. Where does that leave Europeans in advising others?

However, in mitigation, there is an old saying that the cobbler's children always have the worst shoes. Sadly for the UK telecoms industry, how true. But why does this have to be the case? Why cannot the telecoms industry use the supply of its own services as an example of what it can achieve for other industries? Sadly, we have only questions, and no answers.

(C) 2003 Telecommunication Ltd.



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