| DirecTVがWinkとの契約を解消 - 危うくなるWinkの将来 |
2003年12月20日号 (ブロードキャスティングレビューシリーズ No.9)
DirecTVは今年の12月で切れるWinkの契約更新しないことを発表した。これを受けてWinkを運営しているOpenTVは12月22日付けでDirecTVの加入者が持つ1040万のWink対応のSTBのWink機能を無効にすることを明らかにした。Winkは1994年に登場したITV技術のパイオニアの1社であるが,その技術を広めることは成功できなかった。同社の売上げは1999年から2000年で340万ドルから690万ドルへ増えたが,その間赤字は1999年の1920万ドルから2000年には1億ドルへと膨らんだ。2002年にWinkはLiberty Mediaに買収され,Libertyの子会社,OpenTVの一部になっている。
Winkは1994年にGeoworksのスピンオフとして誕生した。Winkはマイクロソフトに競合するOSとして登場したが,市場を得ることに失敗したGeoworksを使い,低コストなインタラクティブTVのシステムを開発することを目的で誕生した。Winkのシステムは1996年に東京テレビで初めて採用される。その後,STBメーカーのGI(Motorola),Scientific-Atlanta等との契約を結び,さらにケーブルTV,衛星TV事業者のAT&T,Time Warner,Comcast,DirecTV,EchoStar等とも契約する。Winkは比較的簡単にITVを提供する事が出来るため,既存のインフラ内でITVを広める技術として注目される。しかし,双方向サービスの市場はITVでは無くインターネットの方向に進んでいく。ブロードバンドインターネットの普及,ウェブの高度化と共にWinkのシンプルさは逆にマイナスの作用なって行く。
現在,アメリカでWinkを採用したSTBを導入しているのはDirecTVとCharter Communicationsだけである。Winkを使った放送はABC, NBC, The Weather Channel, ESPN, Bloomberg, E! Entertainment Television, TBS, Showtime, TechTV, The Discovery Channel等が行っている。
Winkは2002年にLiberty Mediaに買収される。Liberty Mediaは1991年にFCCのプレッシャーでプログラミング事業と一部のケーブルシステムへの投資を手放すことになって作られた会社である。規制の緩和で1994年にTCIはLiberty Mediaを買い戻し,子会社になった。TCIを買収したAT&Tは2001年にLiberty Mediaをスピンオフし,TCIの元会長のJohn Maloneが会長となる。現在,Liberty MediaはCourt TV,Discovery,International Channel,STARZ等のケーブルネットワークへの投資,ドイツのTeleColumbus,日本のジュピター等の海外のケーブル事業者への投資を主体の事業を行い,2002年で20億ドルの売上げがあった。
LibertyはWink買収に前後してOpenTVも買収する。OpenTVは1994年にThomson Consumer ElectronicsとSun Microsystemsのアライアンスとして誕生し,プラットフォームから独立したスケーラブルなSTB向けのOSを開発している。LibertyはWinkをOpenTVの一部とし,さらに2003年にはやはりITVの技術を開発しているACTVをも買収し,ITVの技術を集め始めている。しかし,LibertyがOpenTV,Wink,ACTVの技術により,いかなるシナジーを作っていくかは明確にされてい。OpenTVによるWinkの今後の計画が不明瞭であったことがDirecTVがWinkとの契約を解消した理由の1つになっていると思われる。
DirecTVは2003年6月にCanal+ Technologiesのミドルウェア,MediaHighwayを次世代のSTBに採用する事を決めている。MediaHighway上でDirecTVが提供するITVサービスとしては,DirecTVの買収を予定しているNew Corp.の子会社のNDSの技術が有力視されている。
OpenTVはDirecTVがWinkとの契約を更新しない事による売上げの減少は100万ドル程度であり,それはOpenTVの20億ドルの売上げの2%でしかなく,同社の経営には大きな影響であるものでは無いと発表している。しかし,DirecTVがWinkとの契約を解消するとWink対応の世帯数は一挙に1130万から90万世帯へと落ちる。もし,短期間でOpenTVがDirecTVをリプレースする大きな契約を結ばないと,これまでWink対応の番組を制作,放送してきたネットワークもWinkから離れていくのは必然的である。これにより,Winkの存在が脅かされる事になり,それはOpenTVの戦略性への疑いを招くことになる。
(この記事はNSI Research社出版のニュースレター,The Compassからの転載です。The Compassに関してはhttp://www.dri.co.jp/dri_f/watcher/compassindex.htmをご覧下さい。)
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