| CiscoのLinksys買収 これまでのCiscoの買収とは異なるパターン |
2003年4月20日号
Ciscoはその製品開発にAcquisition & Development(買収開発)を使っている事で知られている。同社は買収相手を短期で同化させ,その製品/ノーハウの取り入れを容易にするために下記の5つの条件をベースに考慮している。
* 買収対象の企業は市場,製品の将来に関してCiscoと同じビジョンを持っていること
* 買収対象の企業は12ヶ月以内の短期にCiscoに対するメリットを提供できること
* それと同時に,長期的なメリットもなければならない
* 買収対象の企業はCiscoの会社カルチャーと相補性のあるカルチャーを持っていること
* 買収対象の企業が大きい場合は近距離にあること
* 同等規模の会社との合併は行わない
Ciscoは1993年以来80回に近い買収を行っており,買収は珍しい物ではないが今回のLinksysの買収は注目出来る物である。Linksysは1988年に設立されたSOHO向けに通信機器を開発,販売している会社である。Ciscoの製品はエンタープライズ向けであり,直販,あるいはインテグレータ等を経由で販売されているのに対して,Linksysの製品は殆ど小売チャンネルで売られている。
同じ通信機器と言え,エンタープライズ向けとコンシューマ向けでは製品開発,販売,そしてサポートを含めて全く異なる物である。Ciscoはこれまで買収相手を独立した部門として残すことは絶対にせず,短期で同化させることを信条とし,その方法もマニュアル化して来た。しかし,今回のLinksysの買収ではCisco側にコンシューマ向け製品を受け入れる器はなく,Linksysは独立した部門として運営される。LinksysのトップにはVictorとJanie Tsaoの夫婦が残り,短期的にはCiscoには同化されない予定である。Linksysは従業員約300人で2002年の売上げは約4.3億ドルであった。本社はカリフォルニアのIrvineにある。
Ciscoが独立した部門として買収先を残すことは初めてである。しかし,対象市場としては大きな差があるが,カルチャー的にCiscoとLinksysは類似点が多い。CiscoはLeonard BosackとSandra Lerner,LinksysはVictorとJanie Tsaoと,どちらも夫婦チームが設立した会社である事は偶然であろうが,共に積極的であり,素早い動きをする会社である。
Linksysの素早さとその積極性をよく表しているのがそのIEEE 802.11gの製品化である。家庭向けの無線LAN製品は売れており,高速化への要求が高い。Linksysは昨年9月にまだ802.11gの規格がまだドラフトであった時点で,ドラフト規格をベースに製品化を決定した。この結果,2002年のクリスマス商戦時に小売店の棚に54 Mbpsの製品を並べる事が出来たのはLinksysだけであった。また,Linksysは802.11gの製品をハイエンドとして売るのではなく,それまでの802.11bと同じ値段に設定した。この積極性は的中し,Linksysは今年の1月から3月の間に50万台の802.11bを売った。
Ciscoも積極性,素早さ,そして柔軟性をモットーに,競合の激しい通信機器分野でトップに躍り出て,その地位を守り通している。だが,Ciscoも大企業になった事で素早さにかげりが出ているとの批評もある。数年前のCiscoであれば,無理にでも短期にLinksysを同化させたかも知れない。しかし,Linksysのコンシューマ市場での強みを生かすのには同化させないことが大切であれば,これまで貫いてきた同化のポリシーを捨てることも柔軟性の表れである。
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