DRI テレコムウォッチャー  from USA

このシリーズは毎月20日に掲載!!


AOL Time WarnerのCase会長の引退

2003年1月20日号 (ブロードキャスティングレビューシリーズ No.1)

 3年前の2000年1月にニューヨークで行われたAOLとTime Warnerの合併の発表はコンピュータ業界とエンターテイメント業界の統合の前触れと見られ,大きな話題となった。世界最大のISPであり,マイクロソフトへの挑戦者であったAOLと映画,TV番組,音楽等の大手供給会社であり,ケーブルTV事業者としても全米2位のTime Warnerの合併は非常に大きなインパクトをもたらすものと思われた。

 しかし,予想されたような統合は起きなかった。インターネットはTime Warnerの豊富なコンテンツの新たな流通経路にはならず,AOLはそのコンテンツを生かしたオンラインサービスを提供する事は出来なかった。異なるビジネスプランは統合を困難として,そのメリットは殆ど生まれなかった。メリットにならないだけでなく,AOLはTime Warnerの負担になり始め,AOL創立者であり,AOL Time Warnerの会長であったSteve Caseは引退に追い込まれた。Case会長の辞任はAOLとTime Warnerの離婚の前兆であり,AOLは売りに出されるとの噂もある。

 AOLは依然として最大のISPであり,米国で2670万人の加入者を持っている(2002年11月)。AOLの他,数年前に買収したCompuServe(300万人),それにTime WarnerのケーブルモデムサービスのRoad Runner(230万人)を加えればその加入者数は3200万人となり,2位のMSNの900万の3倍以上の規模である。しかし,その台所事情は厳しい。AOLのビジネスモデルはその加入者ベースの拡張に基づいている。収益を支えるには常に加入者数を増やす必要がある。しかし,サービスを辞めていく加入者の率は高く,脱退を上回る新規加入者が無ければならない。そのために,AOLは膨大な数のAOLソフトウェアのCDをばらまいている。この積極的なプロモーションでAOLはその成長を維持してきた。

 しかし,加入者を増やし続ける事は不可能である。さらに,AOLの足下には大きな穴が空いている。それは,AOLにはブロードバンド戦略が存在しないと言う事である。AOLは一時インターネットバックボーンの会社を買収し,さらにCompuServeの買収で同社のネットワークも得た。しかし,AOLは通信事業者ではなく,コンテンツ会社になる道を選び,自らのネットワークをすべて手放した。そのISP事業の差別化はネットワークでは無く,付加価値の部分(コンテンツ)で勝負する事を決めた。Time Warnerとの合併は提供するコンテンツの幅を増やすためにも重要であった。有料のサービス,コンテンツを加えることで差別化を図り,さらに加入者からの収入を増やす戦略であった。だが,市場はこの予想どおりには動かなかった。ISP事業の差別化はコンテンツではなく,その速度(ブロードバンド化)に進んでいる。

 ブロードバンド化により,ケーブルTV事業者,地域電話会社などのネットワークを持つISPが強くなっている。AOLはADSLなどを再販し,ブロードバンドサービスも提供しているが,積極的ではない。全地域のユーザに対してブロードバンドを提供する事は出来なく,ブロードバンドをすすめる事により加入者が他のブロードバンド事業者に移る可能性がある。AOLはアクセスとサービスをアンバンドルし,アクセス無しの15ドルのサービスを提供している。しかし,他のブロードバンドISPに移行した加入者がAOLのために毎月15ドルも払い続けるであろうか。例え,ブロードバンドに移行する加入者がアンバンドルされたサービスを続けたとしても,加入料金は40%減り,その分収入が低下する。

 Time Warnerに取って,AOLがそのコンテンツの新しい流通にならないのであれば, AOLを持っている魅力はない。特に,それが株価を低迷させる原因になっているのであれば,手放した方が良いであろう。AOL Time WarnerはAOLサービスの建て直しに力を注ぎ,年末になっても好転しなければ別な道を考えると語っている。だが,この離婚は容易ではない。AOLには大きな負債があり,さらにその事業評価は下がっており,AOLをスピンオフする事は難しい。売りに出すにして買い手はだれか。シナジーのある会社は地域電話会社等の通信事業者である。しかし,市場独占の立場からSBC等の大手がAOLを購入する事は司法省が納得しないかもしれない。

「from USA」 のバックナンバーはこちらです





COPYRIGHT(C) 2003 DATA RESOURCES, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.