DRI テレコムウォッチャー


業績回復が著しいDT、FTの両社

2003年12月15日号

 欧州第1位、第2位の電気通信事業者であるDT(ドイツテレコム)とFT(フランステレコム)の両社は、2001年以来、同様に似たような苦難の道を辿り、今日に及んでいる。2001年は、両社のバブルがはじけた年であった。両社とも、欧州企業のなかでは最大と目されるほどの赤字を抱え、また莫大な借財を背負った。2002年には両社ともに、旧最高責任者(DTのゾンマー会長、FTのボン会長)が経営悪化の責任を取り辞職し、代わりに外部での企業経験に富んだ若い会長(DTのリッケ氏とFTのブレトン氏)がそれぞれ就任、事業の再建に取り組んだ。両社とも、支出の徹底的な縮減と増収が最大のスローガンとなった。
 2003年は、2002年の成果が問われる年となった。すでに、本年6月末までの2003年上半期の業績発表で両社の予想を上回る好調な収支が示されたが(注1)、最近発表された2003年第3四半期の決算により、両社ともに年度内の幾つかの達成目標をすでに年初めから9ヶ月間で達成したことが明らかになった。
 以下、DT、FT両社の2000年第3四半期の業績の状況、および米国、日本で電気通信事業者の業績が振るわないのに、どうしてDT、FTの業績が好転したのかの理由について述べる。

携帯、ブロードバンドの伸びが、優に固定通信の減少を補っているFT

表1 FTの収入(単位:100万ユーロ)
項 目
2003年第3四半期
2002年第3四半期
増減率(%)
総収入
11,641
11,971
-2.7
Orange(携帯電話サービス)
4,588
4,401
4.2
 Orange France
1,998
1,870
6.8
 Orange UK
1,472
1,543
-4.6
 その他のオレンジ
1,118
988
13.2
Wanadoo(ISP)
639
498
28.3
アクセス、ポータル、電子商取引
396
265
49.4
電話帳
243
233
4.3
フランス国内通信
4,338
4,606
-5.8
 固定電話
3,279
3,359
-2.4
 ビジネス・サービス
769
753
2.1
 放送・ケーブルテレビ
101
269
-62.5
 その他収入
189
225
-16.0
フランス外電気通信サービス
2,081
2,466
-15.6
 Equant(多国籍企業サービス)
548
661
-17.1
 固定電話サービス
1,088
1,273
-14.5
 Orange外の携帯電話
292
298
-2.0
 その他のサービス
153
234
-34.6

 まず、上表(注2)では、前年同期に比し収入実績が2.7%落込んでいるが、これは前年同期にTDF(フランスの放送会社)、Casema(オランダのケーブルテレビ会社)の株式売却があり、その影響を受けたものである。この影響を除去し同等の次元で両期を比較すると2003年第3四半期は3.3%の増収であった。
 FTの収入の特色は、伝統的な電話サービスのかなり大幅な落ち込みを携帯電話、ISP、ブロードバンド等の新サービスにより十分に補い、成長につなげている点である。収入規模の点でも、Orange(携帯電話)とWanadoo(ISPとブロードバンド)の収入は、携帯電話総収入の50%近くに達している。これは、経営の軸足を電話から新サービス分野に移して行くというFTの戦略が成功しつつあることを示すものであろう。ブロードバンド(ADSL)加入者数は、2003年9月末で250万に達した(フランスではFTに対抗する有力なブロードバンド業者はいない)。
 FTは最近、利益を示す指標として、他社の株式・資本取得分を控除した減価償却、債権償却前の営業利益を使っているが、この利益は2003年第3四半期には前年同期の25億ユーロから36億ユーロへと大幅に向上した。2003年9月末までのこの利益の数字は累計99億ユーロに達し、キャッシュフローは順調に増えている。同社の負債の償還も順調に進んでおり、2003年6月末には493億ユーロ(2002年末には680億ユーロ)となった。

将来について自信を持つFTと高まる外部のFT評価
 第3四半期の業績発表とともに、FTは次のような2003年の業績見通しを発表している。

  1. 比較できる形(つまり、実績ベースでなく項目を同一次元に合わせる)での前年対比収入増3%から5%
  2. 170億ユーロ超のEBITA
  3. 92億ユーロ超の営業収入
  4. フリー・キャッシュ・フロー(資産売却分を含まない)40億ドル

 この4項目の業績見通しは、FTが第2四半期の業績を発表したときと同様のものであるが、第2項目は168億ユーロ→170億ユーロへと修正されており、同社が期を追うに従って楽天的な将来予想をしていることを示す。

 FTがこのように、前期の第2四半期に引き続いて、好調な決算を報告したことからこれまで同社の将来について懸念を持っていた証券アナリストたちも、おおむね同社株式の“買い”を推奨するようになっている。FT自身も述べているが、減収を続けている固定電話収入についても、多分フランス政府がFTの電話料金使用料の値上げ申請を認めてくれるだろうとの思惑もFT株人気を支えている。昨年、1昨年は、一頃10ユーロ台を低迷したFTの株価も、最近では20ユーロ台を上回って強含みである(注3)。

T-MobileとT-OnlineがDT成長の牽引車

表2 2003年各四半期のDT部門別収入(単位:100万ユーロ)
 
第1四半期
第2四半期
第3四半期
第3四半期の
前年同期比(%)
総収入
13,618
13,598
14,077
4.9
T-Com
7,490
7,153
7,104
-5.2
T-Mobile
5,310
5,557
5,920
16.0
T-System
2,560
2,567
2,617
1.1
T-Online
445
449
453
18.3
T-Online
445
449
453
18.3
DT本部
1,093
1,071
1,056
-15.5
部門間調整
-3,280
-3,204
-3,393
9.4

表3 2003年9ヶ月間(第1四半期-第3四半期)DT収入と前年同期比較(単位:100万ユーロ)
 
2003年Q1-Q2
2002年Q1-Q2
増減比(%)
総収入
41,288
39,177
5.4
T-Com
21,747
22,532
-3.5
T-Mobile
16,787
14,245
17.8
T-System
7,744
7,667
1.0
T-Online
1,347
1,121
20.2
DT本部
3,220
3,173
1.5
部門間調整
-9,557
-9,567
 

 上記の数字は、この後のDTに関する基礎的経営数値も含め、おおむねDTのプレスレリース、“Quarter Report III 2003”から取ったものである。

 上記の2つの表から、DTにおいては、固定通信部門(T−Com)の収入減にもかかわらず、携帯部門(T-Mobile)とインターネットアクセス部門(T-Online)が20%前後の年間成長力を示し、同社の業績を牽引していることが明らかである。同社は、欧州最大のブロードバンド(DSL)業者であり、現在、加入者数は400万を越えている。すでに見たようにFTの場合も同様であるが、牽引の程度はより強く、これにより2003年第4四半期の対前年度成長率は4.9%(FTは3.3%)とFTより高かった。
 収支差額、負債減少の面でも、DTは2003年第3四半期、大きな進展を見た。2002年春、リッケ新会長が就任したとき、2003年の収支均衡の目標を公約したのであるが、それまでのあまりにも大きな業績の悪化と巨大な債務から、その実行を危ぶむ向きが多かった。ところが同社の収支は2003年の3期にわたり黒字であり、9ヶ月間の純益は7億ユーロに達した。これにより年間の黒字確保は確実になった。また、負債も2002年第3四半期の643億ユーロから492億へと大幅に改善された。
 DTは、このような好調な業績を背景として、次のような2003年の財務見通りを発表した。

  • EBITDA:182億ユーロ(前回見通しの167億ユーロから177億ユーロを上方修正)
  • 投資:投資額は70億ユーロ未満

 また同社は、2004年のEBITAの目標を192億ユーロとし、また2003年より15億ユーロ投資金額を増やし、利益の上がる分野への投資活動を行っていく予定である。

酷似するFT、DTの事業運営のやりかたと両社成長回復の原因
 第3四半期の業績発表とともに、FT、DTは次のような2003年の業績見通しを発表している。

表4 FT、DTの事業規模等
 
FT
DT
携帯加入者数(単位:100万)
57.7
53.6
インターネット加入者数(単位:100万)
12.9
10.7
収入(単位:100万ユーロ)
13,618
11,641
負債(単位:億ユーロ)
492
489
(上記の数字のうち、収入のみは2003年第1四半期の数値、他の項目は2003年9月末の数値である)

 この表で注目されることは、FT、DTの事業規模が極めて似通っていることである。もちろん、人口からしても、国力からしても、ドイツの方がフランスより大国であるが、両社とも国際投資により、他国での電気通信事業に大きくコミットしておる。従って、今後の成り行き次第では、FTがDTの事業規模に追いつき追い抜くことがあってもおかしくはない。
 事業規模だけではない、経営のやりかたも両社は酷似しているといってよい。
 第1に、両社ともにDTグループ、FTグループというファミリー企業である。伝統的な音声サービスから、新規分野の携帯電話事業、インターネット事業をすべて傘下に収め、しかもそれぞれ、ドイツ、フランスにおいて最大の事業展開を行っている。この点、一見、わが国のNTTの経営形態と類似性があるようであるが、NTTは(1)固定通信分野が東西両社に分かれていること(2)持ち株会社制の下で、事業会社相互の取引に厳しい制約があること(3)インターネット・プロバイダーとしてのシェアが薄いことなどの点でDT、FTと大きく異なる。
 このように電気通信・ITのあらゆる分野を包括し、自社の経営リソースを自在に移動させて、経営を行なうことができる点に最大のDT、FTの強みがあるといえるだろう。
 第2に、政府、規制機関が、表面上はFT、DTに競争業者に対する市場の開放を迫っているように見えながら、その実両社は、自国政府、規制機関の強い支援を受けていることも指摘する必要性がある。言い方を代えれば、強大な競争業者が育つ基盤が整備されておらず、両社の市場シェアが事業各分野で大きいのである。
 EU諸国に対する電気通信市場開放を指導しているのは欧州委員会であるが、上記のドイツ、フランスの政府、規制機関の態度は、常に欧州委員会との間で摩擦を起こし、今日に至っている。
 欧州委員会が2002年7月から10月に掛けて発出した電気通信のIP化に対処するために出した総合的な指令(いわばEU通信市場開放に関する最後の指令ともいうべきもの)に対するフォローアップをめぐっての両社間の最近の対立はその典型的な例である。
 欧州委員会は、他の7国も含め、フランス、ドイツを名指して同委員会の指令を国内法に取り込んでいないとして、2003年10月欧州裁判所に提訴した。また、DTとWanadoo(FTのインターネット・アクセス提供部門)は2003年初頭、高速インターネットアクセス提供の分野で競争業者を妨害したとして罰金を課した(注4)。
 要するに、FT、DTはそれぞれ自社に自国最大の音声・携帯・ブロードバンド提供部門を擁し、しかも政府、規制機関の支援の下に、バブル崩壊後の危機を乗り切り、再び収支均衡に成功しつつある。ただ、バブル前の成長、高収益路線を追及できるかいなかは疑わしい。
 最後に、業績の好転はDT、FTだけに見られる減少ではない。ひところは規模が小さいにもかかわらずグローバルな事業展開を行い、バブルの影響を大きく受け、事業破綻をうわさされたオランダのKPNも最近は業績が大きく向上している。欧州全域にわたり、通信事業者の復調が著しい。

 これに対し米国、日本の競争のタイプは、欧州、狭くはドイツ、フランスにおけるのとは少し異なった様相(より激しい競争)を呈しており、それだけに既存の事業者にはより厳しい試練を課している。
 米国でも、日本でも、他産業の業績が軒並み大きな回復を見せており、電気通信と強い親縁関係にあるITの目覚しい復調がみられるのにもかかわらず、電気通信分野は万年不況業者に位置づけられつつある状況である。
 片や欧州、片や米国、日本におけるこの際立ったコントラストは、電気通信分野における適正な規制政策は果たしてどうあるべきかを反省させるキッカケを与えてくれるものかもしれない。


(注1)2003年9月15日付けテレコムウォッチャー、「復調に転じたFTとDT」
(注2)2003.10.29付けFTのプレスレリース、"Consolidated revenues increase 3.3% on a comparable basis in Q3 2003"
(注3)例えば、2003.11.13付けThe Wall Street Journal, "France Telecom 'buy' "
(注4)2003.11.21付けIDC.com.sG、"EC urges member states to pass telecom package"

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