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全面実施が始まった米国電気通信分野の番号持運び制

2003年12月1日号

 米国の電話番号持運び(ナンバー・ポータビリティー)は、1997年から固定電話相互について実施されているが、FCCは2003年の後半、この分野における規則制定に大きな努力を傾注、ついに同年10月24日から、携帯電話相互間、携帯電話から固定電話、固定電話から携帯電話に対しても持運びを義務付ける裁定を下した。このため電気通信事業者間の加入者獲得競争は、ますます激化することが予想される。新分野での電話番号持運び制の開始は、当初大幅な申し込みの増加等による混乱が予想されたものの、FCC、通信事業者、業界団体等により、「業者の変更は期間を掛けて慎重に行ってほしい」とのPRが大規模に行われたこともあり、24日(月曜)から始まった初週は予想を大きく下回る申し込みで終始し、ほぼ平穏に終わった。
 FCCが固定電話間だけでなくその他の分野にも電番持込みを推進したいというのは、ここ数年来の念願であったが、当初、固定電話会社、携帯電話会社ともにこの動きには積極的でなかった。米国では、現在契約している通信事業者に不満はあるが、改番をすると手数、経費が掛かるので我慢するという加入者(特に携帯電話の加入者)の数は非常に多かったという。しかも、オーストラリア、オランダ、スウェーデンなど幾つかの国が、携帯電話事業者相互での番号持運びをすでに実施している。幸いこれまで番号持運び制反対で一致していた6大携帯電話事業者のうち、Verizonが2003年9月ごろから急に戦略を変えて電話番号持ち運びの賛成を主張し始めたのが、FCCには転機となった。言うまでもなく、Verizonはいまや米国最大の固定電気通信事業者兼最大の携帯電話事業者(60%資本所有のVerizon Wirelessを通して)である。FCCはVerizonが他の反対する5社から脱落(5社から見れば裏切り)したのを見極めて、今回の2回にわたる裁定を準備したと見られる。
 焦点は、この番号持運びの拡大によって、どれほどの加入者数の移動、ひいては業者の力関係の移動が生じるかということである。携帯電話相互の加入者の移動により、これまでもアナリストたちにより議論されていた携帯電話大手6社(Verizon Wireless、Cingular Communications、AT&T Wireless、SprintPCS、Nextel Communications、T-Mobile)の両極化がますます進み、これも前々から可能性が指摘されてきた業界の統合が実現する可能性が強まった。また、固定通信の分野では、携帯電話による固定電話の侵食がますます進み、電気通信分野において、携帯電話の地位が固定電話を上回るだろう(現在のわが国におけるように)。
 この案件についてFCCは、電話番号の持運びはユーザーに多大の便宜を与えるから、事業者は多少の苦労を甘受してもこのプロジェクトの推進に協力すべきであると、反対を押し切ってもしゃにむにこの施策を実行に移す構えである。現にこのサービス実施の前日にも、Century Tel(独立系地域電話会社)とUSTA(米国電気通信協会、固定電気通信事業の業界団体)は、固定電話から携帯電話への移行は、携帯電話から固定電話への移行は技術上の問題があり実施できる加入者が限られているのに実施を強制するのは、競争平等の条件に反するとして裁定の延期を求めたが、FCCはこれを拒否した。
 この施策の実施にはまだ幾点もの隘路があり、実際に定着するまでには多分1、2年の期間を要すると識者は指摘している。
 本文では、この案件についてのFCCの裁定、携帯電話各社の準備状況、どの携帯電話会社が有利に立っているかについて、さらに本文で論じる。

電話番号持運びに関するFCCの裁定

表1 携帯電話会社相互および携帯電話会社から固定電話会社への電話番号持運びの条件
項 目
実施条件
基本精神
番号を持ち運んだまま事業者を変えようとするユーザーは、現在改番により事業者を変えようとするユーザーの場合と同等の便宜が与えられる。例えば、料金の未払い、早期解約の場合のペナルティーを定めた契約等があるからといって、事業者は他の事業者へのユーザーの移行を妨げてはならない。
相互接続協定との関係
事業者相互間の接続協定は、電話番号持ち運びの前提ではない。電話番号持ち運びの条件について、契約を解除するユーザーの事業者と受け入れる事業者相互間に協定がない場合であっても、真正のものと認定されたユーザー申請(認定は第3者機関が行う)の電話番号は、無条件で持ち運びができるものとしなければならない。
実施期日
電話番号持運びの実施は、次の2段階に分けて行われる。
1、最大MSA(Metoropolitan Area)100地域については、2003年11月24日から。
2、その他の地域に属する携帯電話会社のユーザーは、2004年5月24日から。
ただし、技術的に実施できない場合は、延引も止むを得ない。
また固定電話→携帯電話の場合は、別途調査により期日を定める(2003.11.20の調査告示による)。
申請から実施までの期間
1、携帯電話相互の場合
2.5時間未満とするよう勧告する。
2、携帯電話→固定電話および、固定電話→携帯電話の場合
4作業日未満になるよう期待しているが、別途調査により定める(2003.11.20の調査告示による)。

 FCCは、2003年10月7日および11月20日に、それぞれ携帯電話会社相互間および固定電話会社から携帯電話会社に対する電話番号持運びの実施を義務付ける裁定を下した(注1)。
 両裁定の骨子は表1に示す通りである。表の中でも示したが、(1)固定電話から携帯電話への番号持運び(2)固定電話と携帯電和相互間の番号持運びについての申請から実施にいたるまでの所要期間については、2003年11月20日のFCC裁定発出と同時に出された調査告示により、別途検討されることとなった。

電話番号持運び実施がもたらすインパクトと携帯電話各社の取り組み
 米国の携帯電話加入者数は、現在約1億5200万程度であり、このうち電話番号持運びでどれだけ加入者移行が増加するかについてはさまざまの推計がある。昨年、改番を伴った3400万の移行件数があったという。この数字に1000万上積みされた4400万の移行が生ずるという推計があるが、他の幾つかの推計に比し控えめなこの数字がまずまず妥当なところであろう(注2)。ここで注意すべきなのは、携帯電話会社から見て加入者引抜きの効果が大きいのは、住宅用加入者よりビジネス用加入者であることである。幾百、幾千もの携帯電話を異なった携帯電話会社と契約している事業体は数多い。これらの事業体に働きかけ、この際一挙にすべての加入者を自社に誘導できれば、携帯電話会社から見ればその利益は大きい。また、事業体の側からしても、単一の信頼できる携帯電話会社にすべての契約を一元化できれば、コストを削減(大口契約として割引交渉もできるし、料金管理も集中)できる。従って、事業を狙っての加入者争奪戦はもっとも熾烈なものになろう(注3)。
 固定電話から携帯電話にどれだけ加入者が移行するかの推計値は見当たらないが、米国でもわが国同様に、固定電話を頼りにせず携帯電話のみで通信の用を果たしているユーザー数が増えており、現に700万程度に達しているという。さらに現在、携帯電話に移行したい加入者数は1700万人ほどいるという(注4)。実は、USTAからの固定電話→携帯電話の電話番号持運びの要請を拒否した際、FCCも指摘している通り、少なくともRHCの一部は現に番号持ち運び(多分自社傘下の携帯電話会社のみに)を実施している模様である。従って、今後すでに進行している固定電話→携帯電話への移行の動きは大きく進展し、携帯電話主導の時期が近々到来するだろう(注5)。
 このような状況の下で、携帯電話会社は実施日の2003.10.24以前から、またその後も引き続き多額の労働力、経費を投じて、自社加入者の維持、他社加入者争奪のための施策を講じている。その主力は、自社の加入者に対し、自社サービスが良好であるから、他社に移るのは不利だと説得し、他者加入者に対しては自社への移行を勧誘する内容である。携帯電話会社によるその状況をVerizon Wireless、SBC Communicationsの2社について示す。
 Verizon:同社はすでに述べたとおり、他社にさきがけて固定電話→携帯電話についても番号持運びの導入に賛成した。この戦略転換は、CEO、Seidenberg氏の将来は固定電話より携帯電話という時代を先取りにした読みに基づいているという。目先だけを考えれば、固定電話の単金は携帯電話の単金を2倍上回っており、例え傘下の携帯電話会社のVerizon Wirelessに加入者が移っても損失となるはずである。しかし、携帯電話加入者数の伸び率が年間2桁で伸びており、固定電話加入者数が年間3から4%減少しているという現実からすれば、いち早く、方針変更により、固定電話加入者数を保持しようと無駄な努力をするより、他社の携帯電話加入者を獲得してきた方が経営戦略上有利だとの考え方を取っている。
また同社は、サービス品質が優れている点では顧客からも評価が高く、競争には自信がある模様であり、加入者の保持、新規加入者の獲得のためだけに、特に料金を下げるとか、特別のマーケティング施策を行うつもりはないと余裕のあるところを見せている(注6)。
 Cingular Communications:同社は4.6億ドルの経費を掛け、番号持運びを自社に有利に遂行しようと努力している。同社の施策の特徴は、できるだけ他社の顧客を有利な条件で自社に引き込む努力をしていることである。
 他社から移る加入者には、2年間の契約をしてくれれば500分の通話が無料になる。またFast Forwardのオプションにより、携帯電話に掛かってくる通話を自分の自宅、オフィスの固定電話に転送するサービスも提供している。
 また、11月24日から、ネットを通じ、クリックだけで契約手続きが完了できるようにした。他の携帯電話事業者はこのサービスを行っていないようであり、案外このサービスは多くの持運び顧客を引き付けるかもしれない(注7)。

分極化する携帯電話事業者、遅れて現れる固定電話事業者への影響

表2 米国6大携帯電話事業者と加入者数(2003年9月末現在)
携帯電話会社
加入者数(単位:万)
Verizon Communications
3,600
Cingular Wireless
2,340
AT&T Wireless
約2190万(推計)*
Sprint PCS
1,930
Nextel
1,230
T-Mobile
1,210
* AT&TWireless自体が発表した数字ではなく、調査時点不明。

 表2に示すように、米国では、全国にサービスを提供する大手携帯電話事業者が6社あり、激烈な競争を続けている。加入者数で層別化してみると、固定電話会社が所有するVerison Wireless(Verizonと英国の携帯電話会社、Vodafoneがそれぞれ60%、40%の株式を所有)とCingular Wireless(SBC CommunicationsとBellSouthの両者が株式を折半)が最大手2社、この2社に次ぐのがAT&TWirelessとSprint PCS、さらにここ1、2年でようやく加入者数が1000万台に乗った携帯電話会社がNextel、T-Mobileの2社である。
 サービス品質、新サービスの実施等による評価で上位にあるのは、Verizon Communications、Nextel、T-Mobileの3社である。Verizonは、回線の近代化がもっとも進んでおり、最近売り出した同社の写メールも評判が高い。Nextelは、独自の加入者呼び出しサービスでビジネス分野において確固とした加入者基盤を有している(最近、同社サービスをVerizon 、SBC Communications、Sprint PCSが提供して加入者を奪われているとの報道も見られるが)。さらにDT傘下のT-Mobileは、全国的なWI-Fiサービスの展開で顧客を吸引している。これに対し、第2の携帯電話会社、Cingular Wirelessはさほど特色がなく、可もなく不可もないとの評価のようである。
 AT&TWirelessとSprintPCSの2社は、いずれもサービス品質に問題があるようで評価は低い。ところで、TSI Telecommunication Services INC(大手6大携帯電話会社からユーザー申請の確認を請け負っている企業)の発表によれば、切り替え当日のユーザーよりの切り替え申請数は、推計8万件であって、切り替え前の大方の推計数100万前後よりはるかに少なかった。そのほとんどが携帯電話会社相互のものであって、固定電会社から携帯電話会社に対するものは少なかった。またFCCは、申請から切りかえ完了までの時間を2.5時間以内と指定しているが、この基準は守れていないようであり、翌日に繰り越しているものもかなりあった模様である(注8)。
 また当日、どの携帯電話会社に人気が集まったかについては、米国各地の新聞が販売店を歩いたり、ユーザーの意見を聞いたりした報道が多く流されている。予想通り、Verizon が他社のユーザーを順調に吸引しているとの記事が多く、同社の優位は確かであるようである。引き抜かれる加入者が出ている携帯電話加入者としては、幾つかの箇所で回線故障のため、ユーザーの切り替えがうまくいかなかったためもあり、AT&TWirelessが多くあげられている(注9)。


(注1)2003.10.7の 「Memorandum Opinion and Order in the matter of Telephone Number Portability」および、2003.11.10の「Memorandum Opinion and Order in the matter of Telephone Number Portability and Further Notice of Proposed Ruling」
この2件の裁定にはそれぞれFCC委員のコメントが付いているが、ここではタイトル名の掲載を省略した。
(注2)2003.11.23付けYahoo! News、"Wireless Sector Braces for Phone Number Moves"
(注3)2003.11.24付けForbes.com, "The Battle Over Cell Phone Business Account"
(注4)Management Network Groupの意見。2003.11.10のYahoo!News,"FTT OKs Home-To-Cell Phone Number Switch"の記事による。
(注5)現在、米国における携帯電話の加入者数は約1億3000万、これに対し固定電話加入者数は約1億8000万ほどである。前者が急増、後者が減少していくため、数年後にはかならず、まず数の上で携帯電話数が固定電話加入数を追い抜く。もっともこれまで、米国が例外的に携帯電話の伸びが鈍かったのであって、すでにグローバルに見て、携帯電話数は固定電話数を上回っている。
(注6)主として、2003.11.13付けYahoo!News, "Do You Fear Me Now?"を参照した。
(注7)2003.11.23付けYahoo! News, "Carriers say they're ready for local number portability"
(注8)2003.11.26付けWashingtonpost.com, "Only 80,000 Switched Telephone Numbers"
(注9)1つのニュースとして、2003.11.29付けThe Detrioit News, "AT&T Wireless May be losing users; Verizon gains"

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