DRI テレコムウォッチャー


現実味を帯びてきた長距離通信会社とRHCの合併

2003年11月15日号

 米国経済の好調が伝えられている。2003年第四半期の同国のGDPは年間7.2%の率で伸びたし、一般的に企業業績も向上したという。しかしこういった好況も、長距離通信事業者、地域電話事業者のところは素通りしており、これら事業者は、おおむね減収、コスト削減により辛うじて黒字を保つという状況である。
 3社ともに減収傾向が止まらず、増収に転じる契機をつかむことができない。このような状況に立ち至った事業は、早晩市場から退出するか、他社との合併によりそのシナジー効果により、生き残りを計らなければなるまい。
 長距離通信事業者が他社との合併の方向を模索し始めたことは、最近破談になったものの、AT&TとBellSouth社の3年間にわたる合併交渉によっても明らかである。
 以下、本文では、2003年第四半期の決算の数値を紹介することを通じ、長距離事業者3社(AT&T、MCI、Sprint)の3社の近況について述べる。
 RHC3社(Verizon、SBC Communications、BellSouth)も、固定通信の減少が進んでいるものの、それぞれ携帯電話部門の好調で辛うじて収入減を免れている状況である。同時にこれら3社が急速に携帯分野への傾斜を強めている傾向が進んでいる。この状況については次号で紹介したい。

減収に慣れたAT&T
 次表に示すとおり、AT&Tはコスト管理には一応成功しており、下がっていく収入に応じてコストを切り下げ、かつかつではあるが黒字を維持している。これには徹底した要員削減が寄与している模様である。ほんの2年ほど前、AT&Tの固定通信部門は10万名ほどの従業員を有していたはずであるが、現在は65,000程度まで減少している。しかも今後も減員を進めるという。次項で見るとおり、AT&Tに比し4分の3の収入しかないMCIは55,000人もの従業員を有している。MCIに比べれば、AT&Tの生産性がはるかに高いといえよう(注1)。

表1 2003年第3四半期におけるAT&Tの収入・利益(括弧内は前年同期に対する増減比、単位:億ドル)
項 目
収 入
利 益
ビジネス部門
62.8(-6.2%)営業利益 4.17
住宅部門
23.5(-15.8%)営業利益 5.00
86.3(-8.1%)純利益 4.18

 上表で注目すべき点は、ビジネス部門と住宅部門の営業利益/収入の比率がそれぞれ、6.6%、20.2%と住宅部門の方がはるかに高いことである。これは収入の落ち込みが大きいにもかかわらず、なおかつ住宅部門の収益率の方がはるかに高いことを示す。

 実のところ、AT&Tは項目別の支出数値を発表していないので、個々に同社のコスト節減の状況を調べることはできないが、CFO(最高財務責任者)のHorton氏の言によると、「当社は、フリーキャッシュフローにより、今期に15億ドルの負債を償還した。この結果、年末には、負債は目標値の93億ドルを下回る予定である。他方、将来に備えての投資(当四半期12億ドル)も行っている」とのことである。このように、AT&Tは減収のなかで、徹底したケチケチ作戦を実施に移し、借金の返済も進めている点は注目に値する。

MCI、破産裁判所から再建計画の承認を受ける
 MCIは2003年11月1日、米国破産裁判所から破産法第11章(一定の条件で破綻企業の再建手続きを定めた法律)の適用を解除し、同社が提出していた再建案を承認する旨の判決を受けた(注2)。この判決は、MCIが2003年4月上旬に、同裁判所に対して提出していた申請に対し出されたものである。2002年7月に同社が破産してから、1年4ヶ月にして、同社はようやく裁判所、債権者の厳しい保護観察の地位を脱して、AT&T、SprintFONさらには、Verizon、SBC Communications、BellSouthなどRHC各社と、再び、同等の競争条件の下に競争することを認められたこととなる。ただしこの後、幾つかの案件の処理が残っているため、破産法第11章解除の効力発生は、2004年4月頃になる模様である。
 再建計画が認められたことにより、MCIは破産申告時点で410億ドルあった負債が23億ドルと軽減され、同業者のなかでもっとも軽い負債で再スタートができることとなる。粉飾決算をしでかし、さらには株主にはすべての株式資産を放棄させ、債務者には大半の債務を免除させるという反社会的行動を取ってきたMCIは市場から退場するのが当然であると、AT&T、Verizonなどの競争業者が強く抗議をしたのも一理あるほどの、甘い措置だといってよい。
 当然、MCI再建を認めたのについては、同社の収支状況が、今後、事業継続可能な程度に好調であることが前提であるが、同社が発表している2003年4、5、6月の売上高と営業利益、投資額を見ても、表2のとおり全くの横這い、低水準である。この数字からすると、MCIが将来存続可能な企業であるとは考えられないほどの低業績企業であるといわなければならない。

表2 2003年4、5、6月及び第2四半期におけるMCIの収入、純利益、投資額(単位:億ドル)
項 目
2003年4月
2003年5月
2003年6月

(2003年第1四半期)
売上高20.520.3420.7561.59
営業利益1.141.161.463.75
投資額0.580.900.431.91

 この裁定に対し、2002年12月にMCIのCEOに就任して以来、同社再建のため奮闘してきたCapellas氏は、「本日はMCIにとって素晴らしい日である。われわれはあらゆる困難を克服して、予想よりも早く裁判所からの再建案確認を受けることができた。本日の判決は、勤勉なわが社55,000人の従業員、2000万のわが社ユーザーにとって、またとないはなむけである」と手放しで喜びの意を表している(注3)。
 しかし、MCIの前途は恐ろしいほどに厳しい。
 AT&Tを初めとする他の長距離事業者は、負債が軽くなったMCIが新たに料金引き上げ競争を仕掛けるのではないかと懸念しているが、専門筋の見方によれば、破産法第11章適用を申請した2002年7月以降の85,000名から従業員を55,000名に削減したものの、同社の収入の85%は経常コストに吸収されてしまう状況であって、とても自ら料金引き下げで競争する余裕はないという。また、MCI自らは音声・データのネットワーク改善のための投資に2003年に12億ドル程度の投資を要することを認めているが、表2に示すとおりこの目標は達成できそうもない。ある調査会社の担当者は、「MCIは2001年にはほぼ50億ドルもの設備投資をした。しかし過去15ヶ月間、同社はほぼネットワークの保守の分野だけに投資を絞っている。今のところサービスの低下が起っていないにせよ、他社が行っているほどの未来に向けての投資を行っていない」と述べている(注4、注5)。

携帯部門を加えても事業の収縮が止まらないSprint

表3  2003・2002年第3四半期におけるSprintの収入・利益(注6)(単位:100万ドル)
項 目
2003年第3四半期
2002年第3四半期
増減比(2003/2002)
収入6,7146,798-1.2%
純利益-498519-

 Sprintは、固定通信部門のSprintFON、携帯部門のSprintPCSがあり、上表は両部門の総計を示したものである。固定通信部門が収入が落ちていくのに対し(2003年第3四半期は前年同期に対し7.3%の減)、携帯部門の収入が増加している(2003年第3四半期は5.8%の増)。このため2003年第四半期には、固定部門の収入(35.38億ドル)は、携帯電話の収入(33.40億ドル)とほぼ同程度の規模になった。ついでながら、固定・携帯を合わせた事業規模はでは、SprintがMCIを抜いていることも指摘しておく必要がある。
 上表が示すとおり、Sprintは、赤字を計上しているが、これは固定ワイアレス(MMDS)部門からの撤退に伴う資産償却12億ドルに伴うものであって、これを除外すれば実質的には前年並みの利益を確保していたはずである。したがってSprintは、AT&Tと同様に、コストの管理が良くできている企業であるように見受けられる。

RHC各社から取得の対象として狙われる3社
 すでに述べた最近の決算状況からすると、3社の財務状況は、(1)諸種の経営努力を続けているものの、先行き成長が見込めない(2)少なくともぎりぎりの利益を生み出す程度までコストを削減することにより減収をカバーするというコスト削減策で、ともかく生きながらえている(あるいはMCIのように、少なくとも事業の存続は認められている)という点で共通している。
 こうして、3社ともに独力で将来の事業運営に自信がないため、当然、他社に吸収されても止むを得ないという姿勢が生ずる(SprintのCEO、Forsee氏からは、未だこのような意向は聞かれないが)。
 他方、RHC3社の側からすれば、いずれもこれら長距離通信事業者3社のいずれかを取得したいという欲望がある。現在これら3社は、FCCから長距離通信市場への進出を認められ、現に長距離通話加入者を増やしている段階であるが、住宅ユーザーはともかく、ビジネスユーザーの獲得は難しく、この理由だけでも長距離事業者を狙う誘因があるという。
現に、両社の責任者はノー・コメントであるものの、BellSouthとAT&Tが2年前から合併について話合いを続けてきたというのは公然の秘密であった。ところが2003年10月末になって、両社は価格について折り合いがつかず交渉を打ち切った。  

 以上のような情勢により、これまで噂の段階に留まっていたRHC3社と長距離会社3社の統合(といっても、力関係から実際はRHCによる長距離会社の取得となろうが)の可能性を指摘するアナリストたちの意見がボツボツ出てきた。  アナリストたちの意見を総合すると、合併の可能性は次のようなもののようである(注7)。

  • SBC Communicationsは、今後12ヶ月から18ヶ月で、AT&T取得に向け行動を起こす。
  • Bell SouthはSprintを狙う可能性が強い。

 となると残るのはVerizonとMCIであるが、両社ともに財務不安定の問題を抱えている。最大のRHCであるVerizonは、実は500 億ドルを超える負債を抱えており、他社の買収どころではないのである。またMCIもすでに述べたとおり、2004年春に完全に破産法除外の下での事業運営がある程度軌道に乗った後でないと、とても他社との合併など考えられない。両社が財務上、合併OKの条件が整えば、2002年7月WorldComが破綻した時点に、冗談混じりに、「VerizonがworldComを買ってくれればよいのに」といった話が実現することとなる。
 しかし、上記の話はあくまでも当事者相互の合意ができるカどうかの議論であって、FCC、司法省がこういった合併を認めるかいなかは、また規制上大きな問題となる。正に1996年電気通信事業法が想定していた競争促進の目標からすれば、到底受け入れられない案件の処理をFCCが引き受けることとなり、実際にはそう簡単に合併が認められるものではない。


(注1)2003.10.21付けAT&Tのプレスレリース、"AT&T Announces Third Quarter 2003 Earning"
(注2)2003.11.1付けYahoo!News、"Judge Approves MCI's Chapter 11Plan"
(注3)2003.10.31付けMCIのニュースレリース、"Bankruptcy Judge Approves MCI's Plan of Reorganization"
(注4)例えば、Gartner GroupのMcGee氏。2003.11.1付けYahoo!News,"MCI Clears Hurdle as Reorg.Plan OK'd"
(注5)現在、粉飾を仕組んだ張本人とされたWorldComの元経理責任担当役員、Sullivan氏をはじめ5名が裁判に掛けられている。現在も、粉飾の事実を知らぬ存ぜぬと主張し張続けているWorldComの創始者であり、元CEOのEbbers氏は、その後の調査で、少なくとも十分に事情を知っていたことは確実だと認定されるようになった。また、粉飾の対象となった金額も調査の進展と共に次第に増え、現在では110億ドルの巨額に達することが明らかとなった。ところが不思議なことに、連邦段階では同氏は起訴を免れている。ところが2003年8月末、意外なところからEbbers氏糾弾の火の手が上がった。オクラホマ州の検事総長、Edmondson氏が、Ebbers氏を含む7名の役員を詐欺罪で起訴したのである。同氏によれば、WorldComの粉飾決算により、オクラホマ州の年金ファンドは64,000万ドルの損害を蒙ったことを起訴理由に挙げている。同じ理由を根拠とすれば、他にも起訴を行う州が出てくるだろうと予想されたが、今のところ起訴事案はオクラホマだけに留まっている。
(注6)2003.10.23付けSprintのニュースレリース、"Sprint Reports Third Quarter Results"
(注7)アナリスト、Micael Smith氏の意見。2003.10.30付けAtar-Ledger、"Spurned AT&T remains a likely acquisition target"

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