DRI テレコムウォッチャー


新市場を求めて苦闘するBT

2003年10月15日号

 BT(ブリティシュテレコム)は、FT(フランステレコム)、DT(ドイツテレコム)と同様過大投資の清算に苦しみ、自社携帯電話事業の売却、海外における幾つもの資産の売却等の対応に取り組んだ。ただ、その対策着手は両社より1年ほど早く、2000年が山場であって、2001年にはほぼ終了した。
 2002年2月にはこれまで、BTの実力者(同時に同社の過大投資、経営悪化の責任者でもある)であったボーンフィールド氏がCEOの地位を退き、フェアヴェーエン氏が新体制(会長はブラント氏)の下でBTの新路線を推進することとなった。
 比較的競争が厳しいと見られている英国市場において、成長が見込まれる携帯電話部門を売却し、BTが固定電話部門中心のやりかたで事業経営を行っていけるかについては多くの関係筋から懸念が表されていたが、同社は2001年次、2002年次の決算をいずれも増収増益ペースで乗切ってきた(注1)。
 しかし2003年7月30日に発表された同社の2003年第1四半期の決算からすると、BTは増益を計上したものの収入は横這いであった。固定電話部門を主体とする同社が息切れをし始めたのではないかという兆候が出ている。同時期に決算を発表したFT、DTがともに増収増益基調であったのとは対照的である(注2)。
 BTは新市場を開拓するために懸命の努力を続けている。その第1は、ブロードバンド(DSL)の拡大である。同社は、DSL回線を片や卸売りするとともに、片や自社のRetail事業部門で小売し、双方の収益により、この新サービスを同社の事業の大きな柱に育てようとしている。最近BTは、DSLの分野で自社独自のアプリケーションが組めず、ISP事業(これまでOpenworld事業部門で通常のインターネットアクセス、DSLによるアクセスの双方を実施してきた)の運営を9月1日から米国のYahoo!社と合同で行うこととした。
 BTは、携帯電話市場への再参入にも力を入れている。この分野では同社は、DT傘下の携帯電話会社のT-Mobileと提携した。同社は最近、T-Mobileの回線により、家族に対する携帯通話を無料(端末のレンタル料は徴収)にするBT Mobile Homeサービスを開始した。このようにBTが携帯電話事業に関心が強いため、一頃、BTはmmO2(もとBT所有のCellnetであった)を買い戻すのではないかとの噂も流れたが、同社は今後も他社の回線を利用していく模様である。またBTは9月には、同社のホットスポットのネットワークを他の競争業者に開放すると発表している。
 しかしBTの最近の事業運営については、競争業者、欧州委員会、OFTEL(英国の規制機関)からいろいろ批判を招いている。これまで市場シェアの維持のため、かなり強引な営業活動、料金政策を取ってきただけに、今後競争がますます著しくなると、同社が増益はおろか、収支均衡させるのも難しくなる事態が生じないとも限らない。
 要は、強力な携帯電話、ISPの部門を有していないこと、長期にわたりケーブル・テレフォニーの提供の実績を持ち、今またブロードバンド(ケーブルモデム)の分野で有力な競争業者となっている2大ケーブルテレビ会社(NTL、Telewest)からの挑戦を受けているだけ、BTはDT、FTに比しハンディを負っている点が悩みとなっている。
 以下、本論では、上記の点をさらに詳しく説明する。

利子負担の節減により、増益となった2003年第1四半期(2003年4月1日から6月30日)の決算(注3)

表1 2003年第1四半期におけるBTの収入、利益(単位:100万ポンド)
項 目
2003年第1四半期
2002年第2四半期
2003/2002(%)
総収入4,5864,587横這い
 BT Retail3,3323,345-0.4
 BT Wholesale2,7692,748+0.8
 BT Global Service1,3451,284+7.7
 その他6 2,790 -
 部門間調整-2,866
税引き後利益502322+55.9%

 BTが先に発表した2002年次の決算(2002年4月1日から2003年3月31日)では、収入が前年の18,447 百万ポンドから18,727百万ポンドへと1.5%増加した。また税引き前利益は、不良債務を徹底的に明るみに出した2001年次の2,493百万ポンドの赤字から大きく好転して3,157 百万の黒字になった。
 2002年次を好調な決算で終えたBTが、2003年次に少なくとも同程度の業績でしのいでいけるかは微妙なところである。
 フェアヴアーエン会長は決算の発表に当たり、「われわれが重点を置いたのは財務規律であって、中核となる事業(筆者注:小売、卸売りの音声・データサービス)を保持するとともに新規事業を立ち上げることである。横這いの収入の下で利益を向上していけたことは喜ばしい」と述べた。
 しかしBTの発表によれば、中核となる事業が3%減少し、これを新規事業の増分22%で補ったのが今回の横這いの収入であった。また、利益の増には、年間、4億ポンド減少し、2003年6月末に90億ポンド未満となった負債の利子負担の減少及び経費節減が貢献しているとのことである。ついでながら、90億ポンドの負債はFT、DTが抱えている負債に比すれば数分の1であって、この点はBTの強みである。
 金融筋は成長性の見込みのない企業を好まない。たとえばメリル・リンチのアナリストたちは、「BTが英国通信市場で競争力があるかいなかについて、またBTの中核である音声電話サービスに一層のプレシャーが掛かることを懸念している」と述べている(注4)。

ケーブル会社2社とともに、ブロードバンド市場を支配
2003年6月、100万加入者数を達成 - 支配的事業者の地位は揺るがず -
 BTは、2003年以来、DSLの販売を最大の新規事業に据え、回線の卸売り、自前のDSLサービスの提供に努めている。
 BTのDSL回線数の販売は、2003年6月現在、ようやく2003年同期の十数万加入から100万加入に達したが、昨年同社が設定した本年末の目標、300万加入者数の達成は難しいものと思われる。
 ちなみに、OFTELが発表した2003年6月に発表した報告書によると、BT以外の主要なブロードバンド業者は、NTL、Telewestのケーブル会社2社によるケーブルモデム利用のDSL加入者であって、この加入者数が計100万とBTに拮抗している。しかし、両社の営業ケーブル加入者数は、英国の45%程度であり、今後さしたる迫力ある追撃をBTに加える力があるとも考えられない。
 ちなみに、わが国のヤフーがNTTから利用しているような、市内回線からビット部分をリースするライン・シェアリングの方式による加入者数はわずか4,600回線であって、取るに足らない。OFTELはこの分野で競争業者が出現しない理由を「BT構内でのコロケーションそれに伴う手数等を嫌うためだとしており、競争に開放した結果、こういう数字になったのだから止むを得ない、BTはケーブル会社2社と十分な競争状態にある」とのBTに好意的な態度である。本年、ライン・シェアリングの方法により、競争業者と既存提供業者との競争によるブロードバンドサービスの進展を希望する欧州委員会から、今後叱責を受けそうな現象ではある(注5)。
 BTは、ブロードバンドの卸売り料金を下げてきている。現在はようやく他の欧州諸国並になっているが、Energis、Tiscali、Your Communicationsといった競争業者は、未だ料金が高すぎるとして、追求の手を緩めない。2003年9月1日、BTはATM Data Stream(専用線ATM、ISPがインターネットアクセスにも使う)の料金を値下げした。(注6)。

BT、自社のインターネットアクセスサービス提供について、Yahoo!と提携
 BTは、従来から、事業部門のOpenworldを通じ、インターネットアクセスサービスを提供してきた。もっともFreenet、AOLUK等の大手ISPに比し、Openworldは2番手の業者であって、これまで黒字になったことがなく、利用者からの苦情がもっとも多いとしてOFTELから要注意の事業者としてマークされる状況であった。
 BTは2002年12月、Openworldを独立事業部門の地位から外し、同社のRetail部門に繰り込む措置を取った。また、2003年6月中旬には米国の大手ポータル会社のYahoo!と提携し、9月1日から同社のブロードバンドインターネットサービスをBTYahoo!のブランド名で販売することを決定した。現在、ブロードバンドインターネットはスピードの速さだけではユーザーが付かない状況になっており、ソフトの優劣をめぐっての競争が進展している。従ってソフトに弱いBTに取り、Yahoo!との提携は賢明な選択であると考えられる。
 両社の協定によれば、BTはネットワークの提供、管理を行い、Yahoo!はユーザー用のコンテントを提供する。
 Yahoo!Europe!の長のOptzhoomer氏は、『わが社はこの提携により、世界のどの地域でも見られないような一連のソフト、アプリケーション、コンテントを提供する』と意欲的であり、できるだけBT、英国に合わせたテイラーメイドのサービス実施を構想している模様である(注7)。

T-Mobileと提携し携帯電話サービスを提供、ホットスポットにも力を入れる
 BTは2003年7月末、同社の加入者に対し家族向けの携帯電話サービスを無料(端末には月額固定リース料を課する)で提供するBT Mobile Homeサービスを発表した。このサービス提供に当っては、T-Mobileと提携し、同社から回線をリースする。
 通話ができるのは、夫婦、父母、両親相互であり、端末は5個まで貸し出す。
 このサービスは、利益を狙ったというよりも、固定電話加入者が携帯電話加入者に流出する傾向に歯止めを掛ける効果を狙ったものと見られる。
 同社はまた、固定電話、携帯電話の融合を進める「革新的なモーバイル・ソルーション」を実施に移すためのテストを、差し当たり自社職員を対象として実施すると発表した。
 このテストは、(1)自宅、オフィスでは固定端末を(2)外出中は携帯電話を(3)さらにホットスポットがある場合はWI-Hi利用によりデータの送受も行えるようにするというものであって、BT外の回線はすべてリースによって(簡単な説明ではBTの狙いがよく判らないが)これらすべてのサービスをパッケージで提供するということのようである(注8)。
 また2003年9月、BTはOpenZone(同社のホットスポット)を競争業者(携帯事業者、固定通信事業者、ISP等)に開放(つまりネットワークの卸売り)すると発表した。これにより、インターネットユーザーは、携帯端末を利用して、外出中も自分のインターネットを利用できることとなる。現在BTは、空港、国鉄の駅、喫茶店などに多数のホットスポットを有しており、今後、自社の公衆電話もホットスポットに利用するという。
 BTは、2005年までに携帯事業分野での収入を5億ポンドに増やす計画を立てている。
 従って、今後も諸種のアイディアを駆使した携帯電話サービスの提供がなされることとなろう。


(注1)2002年上半期までの状況については、2002年6月1日付けテレコムウォッチャー、「新3カ年計画推進で生き残りを図るBTグループ - 2002年次決算は黒字を計上 -」を参照されたい。
(注2)2003年9月15日付けテレコムウォッチャー、「復調に転じたFTとDT」
(注3)2003.7.31付けBTのプレスレリース、"First Quarter Results to June 30, 2003"
表1は、この資料に掲載された二つの表を組み合わせて作成した。表中、2002年第2四半期の「その他」と「部門間調整」が統合されているのは、それぞれの数字がなく、総収入から逆算したためである。
(注4)2003.8.16付けYahoo!News, "BT rings in 56-percent profits boost, but revenue stalls"
(注5)2003.6.13付けZDNet News, "Unbundling still stuck in the broadband mire"
(注6)"BT's rivals play the competition card"
(注7)2003.6.23付けMedia guardian, "A marriage of convenience"
(注8)2003.7.29付けのBTのプレスレリース、"Keep it in the family with BT Mobile Home Plan"及び同日付けMedia Guardian, "BT links up with T-Mobile"
(注9)2003.9付けBTのプレスレリース、"BT opens up the public Wi-Fi Sites"

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