DRI テレコムウォッチャー


FCC、UNEの料金設定規則の見直しに関する調査を開始

2003年10月1日号

 FCCは2003年8月21日、UNE枠組み改定の規則を制定したが、3週間後の9月10日には引き続きUNE(市内回線アンバンドリング要素)の料金設定に関する調査を開始した(注1)。
 市内回線アンバンドリングのあり方については、従来どおりFCCが要求する市内アンバンドリング要素のRHCによるリースを望むキャリア(CLEC、長距離通信事業者)と廃止を望むキャリア(RHC)との激しい対立が続いてきた。FCCは8月制定の新規則において、ブロードバンドのアクセスについてはRHCのリース義務を免除したが、銅線市内回線の提供はほぼ従来通りRHCに義務付けることとなった(注2)。
 実のところRHCは、FCCが7年前にアンバンドリング料金算定のガイドラインとして示していたTELRIC(長期増分方式)の適用を不満としていた。この方法は、実際のネットワークのコストをベースにしておらず、仮想の理想化された最新のネットワークをモデルにしたものであって、とてもコストがカバーできる料金設定ができる代物ではないというのがその言い分である(注3)。今回の調査に当たり、最大の論点となるのはこのTERLIC料金算定方式である。
 このためRHCは、市内回線をアンバンドリングしてリースすることを規制機関(FCC、州公益事業委員会)から強制されることに強く反対し、2002年秋から2003年初頭に掛けて大規模なロビーング活動を展開した。しかしその本音は、州公益事業委員会指定の料金でリースをしたのでは、競争業者に回線接続に当っての手間を掛けさせられた上で採算が取れぬ上、自社の加入回線のシェアを減らしてしまう。このように採算が取れない事業(もちろん競争業者側は採算は十分に取れているはずだと主張しているのであるが)はしたくないということである。RHCがもっとも望むのは、(1)UNEについての規制がすべて撤廃されることであり、(2)次善の解決策は従来どおりリースが強制されても、RHCが十分な利益を上げられる程度まで料金水準を上げてほしいということである。したがって、仮にRHCが充分な対価で市内回線をリースできれば、敢えてアンバンドリング撤廃をしなくてもよいとの考えを有していることは、容易に想定できる。この意味で、市内回線のアンバンドリングのありかたとアンバンドリング料金は密接不可分の関係にあるというべきであろう。今回の料金調査の重要性はここにある。
 以下本論では、本調査の内容、調査発出に当ってのFCC各委員の見解、利害関係者の反応、この調査の見通しについて紹介する。

UNE料金設定についてのFCC調査方針の概要
 この調査は、UNE及び再販料金に関連した幾つもの案件、TELRICの規則を既存通信事業者ネットワークの現実の特性にいっそう近づけたものにする提案についての意見を求める。  特に本調査は、次の諸点の達成を目的とする。

  • UNE料金設定に当り、将来に向けた(forward-looking、これまでに投下したネットワーク資産のコスト回収を考慮にいれるhistoricalと対比される)コスト算出方法を使うことを定めた1996年におけるFCCの決定を再確認する。
  • 効率的な設備投資を促進するもっと適切な経済的シグナルを市場に送ることを目的とする。
  • 州公益事業委員会が一層容易にUNE料金の開発を促進するよう簡単なUNEのコスト設定方法の開発を計る。

 TELRICに基づいたFCCの現在の料金設定方法は、既存キャリアの市内交換ネットワークと同じサービスを提供できる仮想の効率的な電話ネットワークを建設、運用するためにはどれだけの費用が掛かるかという前提でコスト計算をしている。調査においては、これについて次の取り組みを行う。

  • 本調査は、FCCのTELRIC規則は、将来に向けたコストを算定するに当り、一層、既存キャリアのルーティング、地域状況の実際の特性と緊密に関連したものにすべきであると仮に結論を下す。
  • 本調査は、上記の仮の結論との関連から、ネットワークのルーティング、建設、技術、設備の共用等の多くのネットワークの前提についても意見を求める
  • 本調査は、UNE見直しに関する先の命令から生じているアンバンドリングの義務の変化のインパクトについての意見を求める。
  • 米国第8回巡回法廷は2001年に、FCCの旧再販料金規則を無効にする旨の判決を行っている。本調査はこの判決に照らして、FCCは今後どのような再販に関する料金設定規則を採用すべきかについて意見を求める(注3)。

調査発出に当ってのFCC各委員の意見
 パウエルFCC委員長はじめFCC各委員は、本調査の発出に当りステートメントを発表した。その要旨を次に紹介する。

FCC委員
調査発出についての意見
調査結論についての期待等
Nichael K Powell
(共和党)
今回のUNE料金の見直しは、1996年の最初の料金設定に関する調査のとき約束したものであって、本日この措置が取られたことは喜ばしい。1996年電気通信法の大きな目的である設備ベ−スの競争促進を期待する。
この調査により、先に行われたUNEの見直しが競争会社の決定を歪めてしまうとのRHCの申し立てに対する対応になることを信じる。
Kathleen Q.Abernathy
(共和党)
UNE料金の見直しの必要性に賛成してきたので、FCCが今回その措置を取ったことは喜ばしい。UNEの料金設定は仮想的なものでなく、現実により制約を受けるべきだとの本調査の仮決定を支持する。
Kelvin J.Martin
(共和党)
FCCがUNE料金見直しの措置を取ったことは喜ばしい。また、FCCの仮決定を支持する。本調査は、先に下されたUNE規則の制定とともに、既存電気通信事業者のコストを一層反映し、新設備、新サービスへの投資を誘引するTELRIC方式の修正過程の始まりを示すものである。
Michael J.Copps
(民主党)
FCCの料金見直し調査の開始自体には賛成。しかし、仮決定には不賛成。意見対立が激しいこの案件で、全委員が納得する結果は出ないだろう。
審理の過程で、利害関係者が一堂に会する公聴会、フォーラムを実施することを望む。
Jonathan Adelstein
(民主党)
FCCの料金見直しには賛成。また、現規則が現実のデータに基づいていないとの批判は強いので、その限りで仮決定には賛成。現在のTERLIC料金方式は最高裁から支持されたものである。重大な案件であるだけに、十分の資料、関係者との審議の末、期間を掛けて結論を出してほしい。

 上表は、この案件についての各委員のそれぞれ異なった意見を示しているものとして興味深い。特にPowell委員長は、「設備ベースの競争促進を期待する」としてこの調査に大きな期待を賭けている。多分、TELRIC料金の見直しにより大きく料金水準を引き上げ、競争業者にRHCに接続を依頼するよりは、自前設備で競争参入をした方がよいとのインセンティブを与え、間接的に同委員長の持論である設備ベース競争の推進を図ろうという意図を表明したものであろう。
 他の2人の共和党委員は、Powell委員長ほど調査結果についての強い姿勢を示していない。Martin委員は、一見Powell委員長に同調したような意見を出しながら、実は、TERLIC料金の改定は大変だということを匂わせた意味深長な発言をしている。
 これに対し、民主党のCopps氏の態度は大きく異なる。同委員はそもそも、調査開始時に既存キャリアの現実のネットワーク特性に合わせたものにするとの仮決定には、最初から結論を暗示するのはよくないとの理由で反対している。また両委員共に、調査の進行過程に公聴会、フォーラムを開催すべきであるとの意見を提出している。これは、共和党3委員に対し、数の上で太刀打ちできないことを予想し、外部の利害関係者の力を借りたいということであろう。

調査結果に期待するVERIZONとAT&T
 AT&TのロビーストのRobert Quinn氏は、「実際のデータを机上に出すことにより、州公益事業委員会がTELRICに基づき設定した料金により、RHCは充分にコストがカバーできていることが明らかになるだろう」と自信を示している。
 また、VerizonのロビーストのSusanne Guyer氏も、「卸売り料金が実際のコストを反映したものになっているかどうかは長年の懸案である。ネットワークの一部を公正な料金でリースすることにより、病んでいる通信事業が健康を取り戻すこととなろう」と調査結果に期待している(注4)。

この調査の結果予想
 しかし、Powell委員長やRHCのかなり過大な期待にもかかわらず、この調査はさほどのUNE料金水準の変更をもたらすまいと信じるに足る証言がすでにFCC内部から出ている。
 FCCのワイアレス競争局のBill Maher局長は次のように述べて、果たして調査の結果、アクセス料金の水準が上げると判断するのは、時期尚早だとしている。
 同氏によれば、FCCは独占時代に構築されたネットワークをベースにしてコスト計算をすることは考えていないのであって、あくまでも効率的な新ネットワークを仮想して作業することは従来通りである。ただ、競争業者の投資意欲を殺ぐことがないように、河、山、砂漠地帯にケーブルを引き込むための特別のコストを反映することはあるだろうという(注5)。
 本調査は、すでに紹介した各委員の異なった意見からして、アンバンドリング枠組み調査の場合と同様に、調査過程において委員相互で激しい議論が交わされることが予想される。ただ、Powell FCC委員長の人気は、Powell Senior(国務長官)の人気が上がるのと反比例して、最近下がる一方である。多分、この調査は2004年夏頃まで続くと思われるが、調査終了時までPowell氏が現職にとどまるかどうかが危ぶまれる。


(注1)2003.9.10付けFCC News, "FCC to review telephone unbundled network element pricing rule"
(注2)2003年9月1日号のテレコムウォッチャー、「FCC、市内アクセスの枠組み改正についての規則を制定」
(注3)この控訴審判決のフォローアップは、多分Powell委員長じきじきの指示により入れられたものであろう。しかし、多分この控訴審判決の後であろうが、TERLIC料金は同年5月の最高裁判所の判決で支持されている。FCC調査告示はこの事実を故意に見過ごしている。これに対し、民主党のAdelstein委員は最高裁判所判決に触れ、調査結果がこの判決から逸脱するようなことがないよう牽制している。
(注4)2003.9.10付けYahoo!Finance, "FCC Begins Review of Telephone Network Pricing"
(注5)同上

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