DRI テレコムウォッチャー


RHC3社の業績、収入減のなかで黒字基調へ

2003年8月15日号

 2003年7月下旬、RHC3社は2003年第2四半期の決算を相次いで発表した。なおジャーナリズムは、この期間における米国経済は堅調な消費に支えられて好調に推移し、米国政府発表によっても、GDP伸び率は2.4%となったとのことであった。
 しかし、このように有利な経済情勢下においても、2002年に明確となったRHC固定通信における減収傾向は歯止めが掛かっていないことが明らかとなった。3社とも、固定通信部門は減収を続けており、総収入で増収を計上できたのはVerizon(2002年第2四半期対比0.3%)のみである。しかも同社の増収は、幸運にもきわめて好調であった同社の携帯電話部門(Verizon Wireless)の収入増に支えられてのものであった(注1)。
 3社とも、経費、投資の削減により収入対純利益率は優に10%台(二桁)に達しており、ほぼバブル期前の水準となった。総じてRHC3社は、電気通信バブルの崩壊の後始末としての不良投資、不良資産に対する引き当て、損切りを2002年に終了し、ほどほどの利益を確保する程度までに経営体力が向上したことを示した。
 ただ今期は、事業面でもRHCには、(1)2002年後半以来、FCCが推進したRHCによる長距離電気通信部門分野への進出により、特にVerizon、SBC Communicationsの2社は大きく長距離電話加入者数、長距離電話収入を伸ばしていること(2)これまた、特にVerizon、SBC Communicationsの2社は、SDLの架設を進めていること(3)今期、これまで不調であったCingular Wireless(SBC Communications、BellSouthが、それぞれ資本の60%、40%を所有する携帯電話部門)が少なくとも増収に転じたこともあり、携帯電話部門がVerizon、BellSouthの両社の収入には寄与していること等の好条件があった。
 ところがそれでも固定通信部門の減収が止まらないところに、RHCの経営の深刻さがある。それほどまでに、携帯電話―自社参加の携帯電話部門に流れる分は"キャニバリズム"(共食い)になる要素が大きいーおよびケーブル電話会社、長距離電話会社、ISP(メールにより)によるRHCトラヒックの侵食が大きいのである。
 RHC各社の株価がほどほどの水準を維持しながらも低迷を続けているのは、このように成長企業としての実績を示しえないことによるものであって、今後3社とも、持続的減少が明らかとなった音声サービスに代わる新事業の育成、拡大に努めるという大きな課題が残されている。
 2003年第2四半期の決算と関連して、RHC3社の経営方針にもかなりの相違が見られる。新分野への進出にもっとも積極的であるのは、最大のRHCであるVerizonである。同社は2003年の5月から大幅な料金引き下げ、品質の向上により、DSL分野でケーブルテレビ会社と真正面から対決する姿勢を明らかにした(注2)。Verizonに次ぐ規模を有するRHC、SBC Communicationsは、DSL分野に力を入れる点では、Verizonと軌を一にしているが、最近、衛星通信事業会社EchoStarと業務提携して、同社の提供するビデオサービスも同社の料金パッケージに組み込み、忠誠心の高い顧客を選ぶ戦略を選んだ。
 これに対し、規模が小さくさほど業務拡大に力を入れてこなかったBellSouthは、さしたる経営方針を打ち出さず、わが道を行く路線を辿っているかに見える。同社は、Verizon、SBC Communicationsの2社の場合より競争圧力が弱く、この点ゆとりがあるのだろう。
 本論では、RHC3社の決算の概況およびブロードバンドの分野におけるRHC、ケーブルテレビ会社の最新の加入者獲得数等を紹介する(注2)。

SBC Communicationsー減収、減益決算
 次表に、SBC Communicationsの最新の決算における部門別収入・純利益の数値を示す。

表1 SBC Communicationsの2003・2002年第2四半期決算における部門別収入及び純利益(単位:億ドル)
項 目
2003年第2四半期
2002年第2四半期
2003/2002(%)
 固定通信部門収入
102.04
108.43
-5.9
   音声
56.04
62.83
-22.1
   データ
24.91
24.25
+2.7
   番号簿・出版
10.80
10.67
+1.2
   その他
4.17
4.80
-13.1
 純利益
13.88
17.82
-22.1

 上表でSBC Communicationsは、事業の中核をなす音声サービス部門で大きく収入を減らし、データ、番号簿、出版等の他の部門の収入増で補いをつけることができなかったことを示している。
 なお同社は、自社の事業部門としてCingular Wireless(BellSouthとの合弁事業。同社は60%の資本を所有)を有している。2002年の決算では、SBC Communicationsは、Cingular Wireless決算数値の60%を自社の決算数値に繰り込んで報告(現に、今期も後述するとおりBellSouthがこの方式をとっており、妥当な業績表示方法だと思われる)していたのであるが、今回の決算ではCingular Wireless全体の収支(しかも利益段階ではEBITAを示すだけで純利益を示さない)を併記するに留まっている。これは、案外Cingular Wirelessが現在赤字に陥っているのではないかとの疑問を抱かせる。
 次表に、Cingular Wirelessの収入を示す。

表2 Cingular Wirelessの2003・2002年第2四半期における部門別収入(単位:億ドル)
項 目
2003年第2四半期
2002年第2四半期
2003/2002(%)
総収入
35.31
34.92
+1.1
  通話
2.55
2.56
-0.4
  機器
37.86
37.48
1.0

BellSouth―同様に減収減益―ただし減収幅は微小―
 BellSouthの収入・純利益は、次表に示すとおりである。

表3 2003・2003年第2四半期におけるBellSouthの収入・純利益(単位:億ドル)
項 目
2003年第2四半期
2002年第2四半期
2003/2002(%)
 総収入
71.15
72.61
-2.0
   通信グループ
45.04
45.86
-1.84
   国内携帯
15.14
15.00
-0.9
   中南米
5.63
5.97
-5.74
   広告・出版
5.20
5.65
8.0
   その他
14
13</td>
+7.9
 純利益
9.71
9.75
-0.4

Verizon -携帯電話部門(Verizon Wireless)が収入増に大きく貢献-
 Verizonの2003年第2四半期における収入は163.8億ドルで、前年同期の161.5ドルに比し、かろうじて増収となった。
 もっとも次表に示すとおり、これは同社の携帯電話事業部門であるVerizon Wirelessの業績が、2003年第2四半期は異常といえるほど好調であったことに支えられたものであって、固定通信は2002年に引き続き明らかに減少の一途を辿っている。

表4 2002・2003年第2四半期におけるVerizonの収入・純利益(単位:億ドル)
項 目
2003年第2四半期
2002年第2四半期
増減比(%)
 総収入
168.3
165.1
+0.5
   固定通信
99.1
102.5
-3.4
   携帯電話
50.0
44.0
+14.7
 純利益
19.0
-21.0
-

 Verizonの業績は、一見好調のように見える。しかし同社が米国最大のRHCとして、その将来を光ファイバー網の構築とそれに伴うサービスの拡大に賭け、今後10年から15年で莫大な投資(200億ドルから400億ドル)の投資を行うとの壮大なビジョンを掲げている点からすると、実のところ2003年第四半期の業績は、はなはだ不満足なものだというほかない(注3)。

参考1 -主要業者のブロードバンド獲得数-
 米国ブロードバンド業者は、主としてケーブルテレビ業者とRHCとからなっているが、ここでは次表に最大業者8社を加入者数の順に示す。

表5 米国ブロードバンド上位業者8社と加入者数(2003年6月末現在、単位:100万)
業者名
 総加入者数 
2003年第2四半期
増加数(率)
2003年第1四半期
増加数(率)
Comcast
433.8
35.1(8.6%)
41.7(12%)
*AOLTimeWarner
277.6
不明
26.7(11%)
SBC Communications
277.3
30.4(12.3%)
27.0(12%)
Verizon
193.1
10.1(9.0%)
16.0(10%)
Cox Communications
171.6
11.2(7.1%)
15.4(11.0%)
*Charter Communications
127.2
不明
13.4(12.0%)
BellSouth
122.5
10.3(9.2)
10.1(10%)
*Cable Vision
85.3
不明
8.3(11%)

(上表にアステリスクで示したのは、いずれも2003年第2四半期の決算資料で、ブロードバンド増設数が見当たらないか(AOLTimeWarner)、あるいは決算が本論執筆現在、発表されていない業者(Charter Communications、CableVision)である。これら業者の総加入者数は2003年第2四半期の数字を使った。なお本表は、Current Analysis社の表(2003年7月29日付けMarket Watch, "Is the tide turning away from cable?"から孫引き)をベースにして、各事業者の2003年第3四半期におけるブロードバンド加入者数を積み上げ、作成したものである。)

 表3から、おおよそ次の諸点が読み取れる。
 まず、米国のブロードバンドでは、ケーブルテレビ事業者がRHCに比し圧倒的に優勢であるとよく言われるところであるが、RHC3社はSBC Communications、Verizonがそれぞれ3位、4位に、BellSouthが7位に収まっており、結構健闘している。今後のRHCの努力いかんでは、ケーブル業者に追いつき、追い越す可能性も十分にある(注4)。
 次に、全体として2003年第2四半期のブロードバンド架設は低調であった。上表のなかで、資料がある5事業者数だけについてみると、第2四半期の加入者数の平均増率は前期に比し12%も下がっているのである。ブロードバンドの分野におけるRHCとケーブルテレビの競争が喧伝されている折から、これはいささか不思議な現象である。
 さらに、もっともブロードバンドへの転換を呼号し、他の事業者に先んじて大幅な料金引き下げ、品質の改善(スピードのアップ)を行ったVerizonが前期より大きく加入者増を鈍らせ、BellSouth以下の増加数に甘んじたのは、これまたまことに解せないことであった。これにより、従来からブロードバンドの推進に熱を入れていたSBC Communicationsの優位は大きなものとなった。
 もっとも、ブロードバンド料金引き下げの影響がもろに出るのは、第3四半期に入ってのことである。ブロードバンド競争の帰趨を見るのには、もう少しの期間が必要であろう。

参考2 -RHC3社のアクセス回線数、携帯電話加入者数、長距離加入者獲得数-
 次表に示すとおり、RHC3社は2003年6月末までの1年間で、大きく長距離加入者数、携帯電話加入者数を伸ばした。
 長距離電話加入者数が大きく伸びたのは、FCCが2002年後半から、RHCに対する長距離サービス提供の認可を急速に進めたことによるものであり、現在RHCに長距離電話サービスの提供を認めていない州は、ほんの数州に限られている。
 すでにVerizonは、その加入者数においてSPRINTを抜き、米国第3位の長距離通信事業者になっているが、SBC Communicationsも現在1000万を越える加入者を有していることは確実であり、早晩SPRINTから第4位の地位を奪う可能性も十分にある。
 また、長距離電話加入者増に劣らず、携帯電話加入者の増もVerizon Wirelessの場合はかなり大きい。これに比し、Cingular Wirelessはほぼ横這いとなっており、携帯電話事業者間の格差を示すものとなっている(Cingular Wirelessは2003年第2四半期こそ加入者増を示したものの、過去1年間で加入者が減少した四半期もあった模様である。)
 RHC3社にとって最も頭の痛い問題は、これまた2001年から持続的に継続しているアクセス回線数減少の傾向である。ただしVerizon(-3.7%)、SBC Communications(-4.9%)、BellSouth(-3.9%)の減少率は、SBC Communicationsがやや高いが、従来とほぼ変わらず、減少が加速しているとの傾向はない。またこの程度の減少率ならば、米国で従来多かった、2本目の回線数の取り消しが主原因である段階だと見ることもできよう。

表6 RHC3社の長距離回線数等の資料(2003年6月末現在、単位:万)
項 目
Verizon
SBC Communications
BellSouth
長距離加入者数
1460(970)
930(750)
280(195)
携帯電話加入者数
3,460(3,030)
2,220(2,260)
アクセス回線数
5,680(5,900)
4,863(5,324)
2,415(2,514)


(注1)2002年通年、米国RHCの成長が停滞から縮小に移行した事実については、2003年2月15日号付けテレコムウォッチャー、「縮んで行く米国RHCの収入 -2002年第4四半期・2002年通期のRHC3社の決算から」で解説した。本編はいわばその続編であり、この収入縮小傾向は、多分2003年通期にわたっても続くとの予測をも含むものである。
(注2)表1から表4までの作成に当っては、主として2003年第2四半期決算発表時点での各社のプレスレリースを利用した。列挙は省略する。
(注3)2003.8.4付けBusinessWeek, "Verizon's Gutsy Bet" は、Verizonの総帥、Seidenberg氏の人となり、同氏の光ファイバーに賭けるビジョン、さらに壮大な賭けに潜む危険性を分析した好個の論説であるので、是非一読されたい。Verizonの事業運営については、今後幾度も取り上げる場があると考えられるので、今回は説明を省いた。
(注4)2003年7月1日付けテレコムウォッチャー「米国のRHCとケーブルテレビ会社、ブロードバンド分野で本格競争へ」を参照されたい。

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