2003年7月下旬、RHC3社は2003年第2四半期の決算を相次いで発表した。なおジャーナリズムは、この期間における米国経済は堅調な消費に支えられて好調に推移し、米国政府発表によっても、GDP伸び率は2.4%となったとのことであった。
しかし、このように有利な経済情勢下においても、2002年に明確となったRHC固定通信における減収傾向は歯止めが掛かっていないことが明らかとなった。3社とも、固定通信部門は減収を続けており、総収入で増収を計上できたのはVerizon(2002年第2四半期対比0.3%)のみである。しかも同社の増収は、幸運にもきわめて好調であった同社の携帯電話部門(Verizon Wireless)の収入増に支えられてのものであった(注1)。
3社とも、経費、投資の削減により収入対純利益率は優に10%台(二桁)に達しており、ほぼバブル期前の水準となった。総じてRHC3社は、電気通信バブルの崩壊の後始末としての不良投資、不良資産に対する引き当て、損切りを2002年に終了し、ほどほどの利益を確保する程度までに経営体力が向上したことを示した。
ただ今期は、事業面でもRHCには、(1)2002年後半以来、FCCが推進したRHCによる長距離電気通信部門分野への進出により、特にVerizon、SBC Communicationsの2社は大きく長距離電話加入者数、長距離電話収入を伸ばしていること(2)これまた、特にVerizon、SBC Communicationsの2社は、SDLの架設を進めていること(3)今期、これまで不調であったCingular Wireless(SBC Communications、BellSouthが、それぞれ資本の60%、40%を所有する携帯電話部門)が少なくとも増収に転じたこともあり、携帯電話部門がVerizon、BellSouthの両社の収入には寄与していること等の好条件があった。
ところがそれでも固定通信部門の減収が止まらないところに、RHCの経営の深刻さがある。それほどまでに、携帯電話―自社参加の携帯電話部門に流れる分は"キャニバリズム"(共食い)になる要素が大きいーおよびケーブル電話会社、長距離電話会社、ISP(メールにより)によるRHCトラヒックの侵食が大きいのである。
RHC各社の株価がほどほどの水準を維持しながらも低迷を続けているのは、このように成長企業としての実績を示しえないことによるものであって、今後3社とも、持続的減少が明らかとなった音声サービスに代わる新事業の育成、拡大に努めるという大きな課題が残されている。
2003年第2四半期の決算と関連して、RHC3社の経営方針にもかなりの相違が見られる。新分野への進出にもっとも積極的であるのは、最大のRHCであるVerizonである。同社は2003年の5月から大幅な料金引き下げ、品質の向上により、DSL分野でケーブルテレビ会社と真正面から対決する姿勢を明らかにした(注2)。Verizonに次ぐ規模を有するRHC、SBC Communicationsは、DSL分野に力を入れる点では、Verizonと軌を一にしているが、最近、衛星通信事業会社EchoStarと業務提携して、同社の提供するビデオサービスも同社の料金パッケージに組み込み、忠誠心の高い顧客を選ぶ戦略を選んだ。
これに対し、規模が小さくさほど業務拡大に力を入れてこなかったBellSouthは、さしたる経営方針を打ち出さず、わが道を行く路線を辿っているかに見える。同社は、Verizon、SBC Communicationsの2社の場合より競争圧力が弱く、この点ゆとりがあるのだろう。
本論では、RHC3社の決算の概況およびブロードバンドの分野におけるRHC、ケーブルテレビ会社の最新の加入者獲得数等を紹介する(注2)。
SBC Communicationsー減収、減益決算
次表に、SBC Communicationsの最新の決算における部門別収入・純利益の数値を示す。
表1 SBC Communicationsの2003・2002年第2四半期決算における部門別収入及び純利益(単位:億ドル)
項 目 | 2003年第2四半期 | 2002年第2四半期 | 2003/2002(%) |
固定通信部門収入 | 102.04 | 108.43 | -5.9 |
音声 | 56.04 | 62.83 | -22.1 |
データ | 24.91 | 24.25 | +2.7 |
番号簿・出版 | 10.80 | 10.67 | +1.2 |
その他 | 4.17 | 4.80 | -13.1 |
純利益 | 13.88 | 17.82 | -22.1 |
上表でSBC Communicationsは、事業の中核をなす音声サービス部門で大きく収入を減らし、データ、番号簿、出版等の他の部門の収入増で補いをつけることができなかったことを示している。
なお同社は、自社の事業部門としてCingular Wireless(BellSouthとの合弁事業。同社は60%の資本を所有)を有している。2002年の決算では、SBC Communicationsは、Cingular Wireless決算数値の60%を自社の決算数値に繰り込んで報告(現に、今期も後述するとおりBellSouthがこの方式をとっており、妥当な業績表示方法だと思われる)していたのであるが、今回の決算ではCingular Wireless全体の収支(しかも利益段階ではEBITAを示すだけで純利益を示さない)を併記するに留まっている。これは、案外Cingular Wirelessが現在赤字に陥っているのではないかとの疑問を抱かせる。
次表に、Cingular Wirelessの収入を示す。
表2 Cingular Wirelessの2003・2002年第2四半期における部門別収入(単位:億ドル)
項 目 | 2003年第2四半期 | 2002年第2四半期 | 2003/2002(%) |
総収入 | 35.31 | 34.92 | +1.1 |
通話 | 2.55 | 2.56 | -0.4 |
機器 | 37.86 | 37.48 | 1.0 |
BellSouth―同様に減収減益―ただし減収幅は微小―
BellSouthの収入・純利益は、次表に示すとおりである。
表3 2003・2003年第2四半期におけるBellSouthの収入・純利益(単位:億ドル)
項 目 | 2003年第2四半期 | 2002年第2四半期 | 2003/2002(%) |
総収入 | 71.15 | 72.61 | -2.0 |
通信グループ | 45.04 | 45.86 | -1.84 |
国内携帯 | 15.14 | 15.00 | -0.9 |
中南米 | 5.63 | 5.97 | -5.74 |
広告・出版 | 5.20 | 5.65 | 8.0 |
その他 | 14 | 13< |