DRI テレコムウォッチャー


Cable&Wireless、新経営陣の下で路線変更へ

2003年6月15日号

  Cable&Wirelessは、前会長Wallace氏の下で過去数年間、IPベースのビジネス企業へのサービス提供に特化する経営戦略を追及してきたが、年々、収入の減少、赤字の増大が続き、ついにCEOのWallace氏は退陣を余儀なくされた。後任のCEO、Caio(Francesco Caio)氏は、すでに会長に就任していたRichard Lapthone氏とともに、早速経営の建直しに着手している。その第1着手が、2003年6月4日に行われた2002年度の決算報告(同社初の部門別収支の内訳公表を含む)と同時に発表された当面の経営再建策であった(注1)。
 その詳細は本文で述べるが、Wallace氏が追及したグローバルなIPベースネットワークの事業展開は廃棄され、Cable&Wirelessは今後、同社が各国で展開している電気通信事業の集合グループとして生き残りを図る旨が宣言された。同社の収入は年々大きく下がってきたが、Caio氏は今後も競争の激化、経済市況の不透明さからして、当分収入は横ばいか1%程度の伸びしか期待できないとしている。しかし、2002年次に巨額の赤字を計上したのは、設備、所有株式の減損処理(Wallace氏が追求した需要に見合わない設備、他企業取得によるバブルの尻拭い)によるものであって、42億ポンドの収入に対し、経常的な営業損益は2.07億ポンドの赤字に留まったのであるから、今後は当面年収35億ポンド、営業利益率2桁の確保を目指し、この結果、経営基盤を固めた後にはまた、さらに事業の拡大を図る戦略を練ると述べている。要はグローバル企業として、他の巨大電気通信事業者と覇権を争うなどという野心は捨て去り、現在展開している地域通信の収支改善に力を入れ、生き残りを図るという方針である。当然、事業部門ごとの収支管理を厳密に行い、採算が取れない市場からは撤退することとなろうが、すでに米国の子会社は将来性に期待が持てず、米国市場からの撤退を定めた。
 Cable&Wirelessが米国最大手のネット・ネットホスティング企業、Exodusを5.8億ドルで取得したのは、わずか1年半前の2001年11月末のことであった。2001年赤字の決算を発表したばかりの同社がなおも強気の拡張路線を走る点については当時から批判が多かったが、同社の路線変更はようやくトップの変更による新たな経営陣の手によって行われることとなった。
 本文では、Cable&Wirelessの新たな事業運営方針、その背景を知るための2002/2003年の同社の決算について解説する。

Cable&Wirelessの新経営方針(注2)

  1. Cable&Wirelessを各国における収益を上げる電気通信事業体の集合体(グループ)にする。
     この目的のため、これまでの「グローバル部門」(Global Division)、「地域通信部門」(Regional Division)の区分を廃止する。これによりオーバーヘッドコストを節減し、企業内の知識、スキルの伝達を効率的にする。
  2. 各事業体の経営方針
    英国事業
     英国における事業はBTに次ぐ規模を有する。しかし業績が低下し、税引き前の利益が赤字になっている状況からして、業務のリストラ、ネットワークサービスの向上、狙いを定めた顧客の市場シェアの確立に努める。また今後、18ヶ月から24ヶ月の間に従業員を1,500名減らす。
    米国事業
     米国における幾つかの諸会社は損失を出している。ホスティング・サービス企業(Exodus、Digital Ireland)およびIPサービス企業はともに、当グループの他社との相互関係が限られており、他社にとって有益であるかもしれないが、当社では維持することができない。
     現にコスト管理の措置は実行しているが、将来米国市場から撤退することとする。その方法についても検討中である。
    旧地域事業部門の事業
     カリブ海諸国、パナマにおける旧地域事業部門の事業は堅実な業績を上げ、成長を続けている。今後、地域の諸国からの電気通信自由化の挑戦を受けるので、マーケティングの強化、効率的なコスト管理によりこの業績を維持することに努める。
     また、専担の部門を設け、携帯電話部門に力を入れる。
    欧州事業
     他の電気通信事業および多国籍事業に対するサービス提供に重点を置く。
     その多くは英国に本拠を置く多国籍企業となろう。また、スエーデン、ベルギー、オランダ、イタリア、スイスでは核とならない事業を整理する。
    Cable&Wireless IDC
    Cable&Wireless IDCは、米国および東南アジアの企業に音声・データのサービスを提供している。その市場はNTTが支配しているが、業績は受容できる水準のものであり、見通しも明るい。
  3. 株式配当の差し止め
     2003年3月31日に終了する1年間の期間に対する株式配当を取りやめる。これは事業再建の過渡期において、財務上の柔軟性を確保する目的のためである。
  4. 新経営陣の行動準則
    迅速にアクションを起こし、規律を重んじ、顧客志向の経営を行う。

Cable&Wirelessの2002/2003年次の決算
 Cable&Wirelessは、2002/2003年次の決算(2002.4.1から2003.3.31まで)で初めて同社の部門別収支を発表した。これにより、旧Regional divisionの業績がよく、これに対し、旧Global divisionの業績が巨額の投資を継続したにもかかわらず、悪化しているのが明確となった。
 以下、表1(Cable&WirelessGroupの収支状況)表2、表3(Cable&WirelessGroupの部門別収支状況)の3つの表により、同社の2002/2003年次(2002年4月1日から2003年3月31日まで)の決算数値を示す。さらに表4にCable&Wirelessのサービス別収入の内訳を示す。

表1 Cable&Wireless Groupの主な決算数値(単位:100万ポンド)

 上表が示すように、Cable&Wirelessは2002/2003年次の決算において、資産、株式の大幅な減損処理を行い、巨額の損失(63.4億ポンド)を計上した。この数字は欧州の同業他社、BT、DT、FTが過去に公表した損失額に匹敵する。しかもCable&Wireless社は、その売り上げ規模が小さいがゆえに、経営悪化の度合いはもっと深刻だといえよう。
 それにもかかわらず、上表の下部の項目には同社の将来にとって希望の持てる数値が2つ含まれている。第1は、収入は24%と大幅に減少したものの、その多くが事業打切り部分から生じたものであり、事業継続分だけで前年と比較すると収入減分は10%に留まっているという点である。第2は、経常的な営業損失で見るとその大きさは3.26億ポンドと比較的小さく(もっとも純損失を計上すればその数字はもっと増えるのであるが)、今後の経営努力いかんで解消にもっていける規模のものであることである。また、同社はキャッシュ16.19億ポンドを有している(同社が幾つもの子会社を売却した金額の残)。それにしても、惨澹たる決算数値であることに変わりはない。

 また、表2、表3に、事業部門ごとの収入、利益(損失)の数字を示す。

表2 Cable&Wireless Globalの収入・利益(単位:100万ポンド)
表3 Cable&Wireless Regionalの2002年次における収入・利益(単位:100万ポンド)

 さらに表4に、Cable&Wireless Regionalのサービス別の収入内訳を示す。

表4 Cable&Wireless Regionalのサービス別収入内訳(単位:100万ポンド)

表2、3、4から幾点もの結論を引き出すことが可能であるが、主要なもの3点を次に示す。
  • Cable&WirelessRegionalとCable&WirelessGlobalの業績の対照が際立っている。 前者は、収入が後者の半分に満たないにもかかわらず、また、収入は暫減しながらも、後者営業損失にほぼ見合う営業利益を収めている。
  • Cable&WirelessGlobalの収入の落ち込み、利益の低落は、「欧州」を除き深刻である。 すでに撤退を決めた「米国」にとどまったものではない。
  • Cable&Wirelessの業績悪化の原因は、1つにCable&WirelessGlobalへの過剰投資とその失敗にある。Caio氏の説明によれば、これまでCable&Wirelessは、Global部門に累計90億ポンドもの投資を行い、それによって得た収入は同社全収入のわずか7%であったという(注3)。

Cable&Wirelessの将来
 今回の決算発表により、Cable&Wirelessの問題点のすべてが率直に数値により示された。
 同社の新経営陣の決断には拍手を禁じえない。しかし、同社がいつ収支均衡ベースに持ち込めるかについてはCaio氏も当初口を噤んでいたが、ダウジョーンズの記者のしつこい質問に応じ、ようやく2006年3月末と答えた(注4)。当該のトップマネージメント自体が、自社の経営の見通しについて自信をもてない状況である。
 たとえばすでに同社の米国からの撤退について幾つもの観測記事があるが、米国の子会社、資産について、電気通信設備が過剰で損失を出している現在、有料で引き取ってくれる買い手が生じるであろうかと疑問を呈する向きもある(注5)。すでに数値で示したとおり、同社が今後核にしたいというCable&WirelessUKにしたところで赤字は大きく、黒字転換は容易ではないことが予想される。
 Cable&Wirelessが前マネージメントの行った大きな宴の後始末をして、新たにゴーイング・コンサーンとしての地歩を固めるのは、容易なことではあるまい。


(注1)2003年4月に、Cable&Wireless のCEOに就任したFrancesco Caio氏はイタリア人で、Omnitel (イタリア第2の携帯電話会社)、Merioni Ellettrodomestici(イタリアの大手家電会社)のCEO、Olivettiの役員を歴任、2000年にISP企業、Netscaliburを創設した。また、新会長(前任者は、Sir Ralph Robin 氏)は、すでに、2003年1月1月に就任。
(注2)事業方針も決算数値もすべてCable&Wireless のプレスレリース、"Cable&Wireless PLC announces results for years ended 31 March 2003 and refocus of group operations"によった。
(注3)Caio氏の発言はプレスレリースで見出すことはできなかったが、幾つものジャーナリズムで引用されている。たとえば、2003.6.4付け、FT.com, "A clear diagnosis but unclear cure"
ただし、このショッキングな比率(7%)はいかにも低く、筆者も算出根拠を知りたいと思っている。
(注4)2003.6.4付けのYahoo!Finance, "Cantos Q&A: Cable&Wireless Chief Executive"
(注5)2003.6.5付けのFinancial Times, "A clear diagnosis but an unclear cure"
なお筆者は、DRIテレコムウオッチャー「C&WのExodus(米国最大のネットティングサービス)取得が意味するもの」(2001年12月15日号)において、バブル崩壊が始まっているさなかにExodusを取得することの危険性を指摘した。この危惧は不幸なことに的中した。

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