テレコムウォッチャーでは、これまでRHC3社の業績について幾度も解説してきたが、かっては米国電気通信業界の雄として将来を期待されてきた長距離通信事業者の業績は、RHCより格段に悪い。4月20日に下されたアクセスに関するFCC裁定の内容は、少なくとも市内アクセスについては、RHCによる長距離通信事業者に現状の低料金による提供を約束したものと理解されているが、規則の制定(遅れており、5月末から6月始めになるものと見られている)を待たなければ最終的な判断はできない。事実、RHCと長距離電気通信事業者の力関係からすれば、米国のジャーナリズムがここ1年ほどにわたり大きく報道している通り、FCC規制のあり方変更のいかんにかかわらず、長距離通信事業者3社は、しょせん独立の事業運営が難しい。他社(最有力はRHC各社)への吸収の可能性が強いと思われる。本論でさらに解説するが、ここでは3社が、どのように財務上の深刻な問題を抱えているかについての結論だけを示しておく。
SprintFON:地域電気通信部門(吸収した旧ロチェスター電話会社の地域電気通信部門を中核とする)と長距離電気通信部門とからなる。今回の決算で、SprintFONの長距離部門は減収減益となり、地域電気通信部門の支えがなければ、持続的事業経営ができないことが明らかとなった。したがってこの傾向が続けば、早晩(数年以内に)経営は破綻する。ちなみに最近、Verizonは加入者数においてSprintFONを抜き、米国第3位の長距離通信事業者になったと主張している。SpritnFONは、収入においてまだ第3位を維持していると主張しているようであるが、ジャーナリズムはすでにおおむねSprintFONを第4位の長距離電気通信事業者として紹介している。
AT&T:今期は前期に引き続き黒字決算を計上した。新CEO、Dorman氏の堅実経営による業績向上を高く評価する向きもある。しかし、本文で紹介するとおり成長路線への展望を切り開くことはできず、RHCによる吸収の時期が早まっただけではないかとの見方も出ている。
MCI:現在、破産法第11章に基づく債務者管理の下にある。最近提出された再建計画案のうち2004年、2005年の収入がそれぞれ増収になるとされている部分が、特にアナリストたちから批判されている。
2002年12月にCEOに就任したCapellas氏は、「月々の収入は安定している。またキャッシュフローは増え続けている(再建計画案の文言)」と強気の姿勢を強めているが、2003年末までに、破産法第11章からの拘束を脱した後、収益を生み、負債(360億ドルから45億ドルないし55億ドルに減免されると見られる)を償還していくビジネス計画を策定することは難しいと見られる。依然として、MCIの将来は2003年末から2004年にかけて、長距離通信業界のみならず、米国電気通信業界の台風の目となるだろう。
AT&T
次表にAT&Tの最新の収入・利益の数値を示す(注1)。
表1 2003年第1四半期におけるAT&Tの収入・利益(単位:億ドル)
項 目 | 収 入 | 利 益 |
総収入 | 90(-5.9%) | 5.71(純利益、前年同期は−9.75) |
ビジネス部門 | 64(-1.4%) | 6.0(営業利益、利益率は昨年の13.3%から9.3%) |
住宅部門 | 25(−17.8%) | 6.32(営業利益、利益率は昨年の26.6%から24.9%) |
(なお上表で、収入の欄の括弧内の数字は前年同期対比の減少率を示す。)
表1により、おおよそ次の事実が読み取れる。
- 収入の減には歯止めが掛かっていない。住宅部門の減が大きいが、ビジネス部門も減少ベースを脱し切れていない。
- それにもかかわらず、昨年同期の大幅な赤字から、利益率はまだ低いながらもそこそこの利益を上げている(2002年第4四半期から黒字を回復した)。
- 営業利益では、住宅部門の営業利益がビジネス部門を上回っている。これは、住宅部門の収縮が著しく、同部門売り上げが総体の30%しか占めていない点からして特異な現象である。AT&Tは両部門の純利益を発表していないが、多分純利益への貢献度合いも住宅部門の方が高いと推測される。
- 要約すれば、AT&Tは競争の激化(AT&T自体は、収入減少の最大の要因として携帯電話、メールからの競争をあげている)による収入の大きな落込みに対し、徹底したコスト、投資の削減で対処しており、当面、成果を収めているということができる。
AT&Tは、2003年次の総収入は2002年次に比し10.4%落込む(第1四半期の落込みが表1に示したとおり5.9%であるから、さらに倍近くの落ち込みを予想していることになる)と予想している。
AT&Tの発表の後、同社の株価は3.2ドル上がって17.01ドルとなった。皮肉なことにこの株価の上昇は、同社が早晩他社に売却されるのではないかとの思惑によるものである。つまり、(1)利益を上げ得る段階まで業績が回復してきていること(2)それに対し株価は低く、買収の費用が安く済むこと(AT&Tは先に5株→1株へと株式の統合を行ったが、その後も株価の下げはとまらない。統合前の水準に直せば、同社株価の水準は2ドル台であって、不況業種企業の最下限である)。(注2)
SprintFON
米国第3位の長距離電話事業者のSprintCommunicationsは、長距離通信事業の他、地域電気通信事業も運営している。また携帯電話事業も運営している。組織としては、持株会社Sprint Communicationsの下にトラッキング株を発行するSprint FON Group(固定通信)とSprint PCS Group(携帯電話)が所属するという構造である。ここではSprint FONの財務について見ることとする(注3)。
表2 2003年第1四半期におけるSprintFONの収入・利益(単位:億ドル)
項 目 | 2003第1四半期 | 2002第1四半期 | 2003第1/2002第1 |
総営業収入 | 35.81 | 39.04 | -8.0% |
営業利益 | 45.4 | 3.97 | +14.0% |
純利益 | 18.50(1.79) | 2.86 | (-6.2%) |
上表で注意しなければならないのは、純利益に2002年秋に実施した番号簿部門売却の収入13.13 億ドル、会計規則変更に伴う収入増分2.58億ドルが含まれていることである。表の純利益の括弧の数字17.9億ドルは、この分を差し引いて計算した数値(一時要因分の除去)であって、2002年第1四半期との比較のため、筆者が計算の上、挿入したものである。
すなわち2003年第1四半期におけるSprintFONの総営業収入は、前年同期に比し、8%減少した。また純利益は、番号簿部門の売却等一時的な理由から大きく上昇し、これにより同社のキャッシュフローは潤沢になったものの、実質的には利益は前年同期に比し6.2%下がっている。
SprintFONの決算発表当日、同社の株価はこの業績悪化を反映して、11.27ドルから10.69ドルへと大きく下がった。
次に、SprintFONを構成する2部門(地域通信部門およびグローバル市場部門)の収入、利益をそれぞれ検討する。
表3 2003年第1四半期におけるSprint地域通信部門の収入・利益(単位:億ドル)
項 目 | 2003第1四半期 | 2002第1四半期 | 増減比(%) |
総営業収入 | 15.36 | 15.65 | -1.9 |
市内サービス | 7.65 | 7.61 | +0.5 |
ネットワークアクセス | 5.23 | 5.18 | +0.1 |
市外サービス | 1.44 | 1.68 | -14.3 |
その他 | 1.04 | 1.18 | -11.9 |
営業利益 | 4.60 | 4.91 | -6.3 |
またSprintは、年間のアクセス回線の減少率が1.9%であったと述べている。
表3が示すとおり、SprintFONの地域通信部門は営業収入、営業利益ともに前年同期を下回った。同社は、コスト節減が意外に少なかった点については、年金、退職者手当ての増(0.24億ドル)の影響もあったと指摘している。
表4 2003年第1四半期におけるSprintFONグローバル市場部門の収入・利益(単位:億ドル)
項 目 | 2003第1四半期 | 2002第1四半期 | 増減比(%) |
営業収入 | 20.42 | 23.42 | -12.9 |
音声 | 12.91 | 15.36 | -16.0 |
データ | 4.61 | 4.84 | -4.7 |
インタネット | 2.43 | 2.45 | -0.8 |
その他 | 0.46 | 0.77 | -40.3 |
営業利益 | 0.06 | -0.75 | |
グローバル市場部門(実体は、長距離・国際通信分野)は、総収入が2桁台の落込みを見せ、コスト節減により営業利益の段階でようやく黒字を計上した。
観測筋は特に、Sprintが宿敵WorldComの破産申請というチャンスをとらえられず、特に音声部門で大きく収入を減らした点を重く見て同社の評価を低めている。あるアナリストは、「この絶好のチャンスすら利用できなかったのだから、今後なにができるというのか」と厳しい判断を下している(注4)。
表2から表4を通して、SprintFONはきわめて低い利益率の黒字を示しており、しかもその低い利益率を支えているのは、地域通信部門(主体は市内通話)であって、長距離通信部門の赤字が地域通信部門の黒字で辛うじてカバーされているとの構造が読み取れる。
SprintFONは、2003年通期についても悲観的な見通しを発表した。収入は、前年対比6%から7%ダウン(グローバル市場部門で8から10%のダウン、地域電気通信部門は横這いもしくは多少の減少)するという。
MCI
周知のとおり、MCI(旧WorldComは、最近、社名をMCIに改称した)は2002年7月に米国破産法11章に基づき破産し、以来、法的には債権者所有Debtor in possession)の立場にある。この法律の規定に従い、所定の手続きを踏まないことには、通常の会社としての営業活動を認められないのである(注5)。
MCIは破産申請以来、財務諸表を発表していないが、破産裁判所の命令により、月別の収入、利益を報告している。次表に、その報告から得られた数値を示す(注6)。
表5 2003年1、2、3月および第1四半期におけるMCIの収入、純利益
項 目 | 2003年1月 | 2003年2月 | 2003年3月 | 計(2003年第1四半期) |
売上高 | 21.6 | 20.3 | 21.0 | 62.9 |
純利益(損失) | 1.55 | -3.32 | 0.45 | -0.43 |
また、ウォールストリート・ジャーナルによれば、MCIは2003年、2004年、2005年通期にそれぞれ247億ドル、258億ドル(前年対比4.5%増)、275億ドル(前年対比6.5%増の収入を見込んでいるという(注7)。
しかし表5から明らかな通り、2003年に入って以来のMCIの収入が横這いであり、しかも今後ますます競争が激しくなり、競争業者のAT&T、Sprintの両社がともに将来について弱気であるのに、MCIのみが増収を期待できるという根拠はきわめて薄弱である。
すでに幾人ものアナリストが、この目標設定に疑問を投げ掛けている(注8)。
(注1) | 2003.4.23付のAT&Tのプレスレリース、"AT&T Announces First Quarter 2003 Earnings" |
(注2) | もちろんAT&Tは否定しているものの、BellSouthはAT&Tとの合併に熱心であって、すでに両社は話し合いを進めているという。 |
(注3) | 本稿の財務データはすべて2003.4.21付けのSprintのプレスレリース、"Sprint Reports First Quarter Results and updates Guidance for 2003"を使用した。 |
(注4) | 2003.4.21付けYahoo!Finance、"Sprint Posts Higher Net On Gains"に引用されたDavid Wills(META Groupのアナリスト)の発言。 |
(注5) | 粉飾決算の責任を取って、昨年6月末に辞職した元CEO、Ebbers氏の後を受けてCEOに就任したのはSidgmore氏であった。しかし内部調査により、ますます粉飾決算額が増え、当初の350億ドルから900億ドルにも達することが明らかにつれ旧執行部の1員であった同氏もCEOの地位に留まることができず、2002年12月に辞職し、Capellas氏(前Hewlett-PackardのCOO)が、WorldComの再建に当ることとなった。
同氏は精力的に事務をこなしており、2003年4月14日、ニューヨーク破産裁判所に対し、同社の再建計画案を提出した。今後、債権者の承認を得た上、破産裁判所裁判長の審理を得た後、WorldComは、破産法11章の拘束から解放されることとなる。
なお不正経理を調査しているSECも司法省も、不正経理に関与した一部役員、職員(すでに起訴されている)の処罰以外にはWorldComを追求しない姿勢を強く示しており、また債務者の90%までが、WorldCom解散に追い込むより、再生を待った上で幾分かの債務を回収した方が得策であるとの考えに傾いているといわれる。
そこで、今後もっとも問題となるのは、果たしてWorldComが再建できるだけの利益を上げているかいなかである。本文では、主としてこの問題のみについて論じる。
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(注6) | MCIホームページの"Restucturing Information" |
(注7) | 2003.4.14付けMCIのプレスレリース、"What Happens Next" "What Have We Already Done?" |
(注8) | 例えば2003.5.7付けYahoo!Finance, "WorldCom calls 2003 revenue outlook conservative" |
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