DRI テレコムウォッチャー


FCCによるRHCに対する自社区域からの長距離電話事業の提供認可、完了に近づく

2003年4月1日号

 FCCは2003年3月19日、Verizonに対しメリーランド州、ウェストバージニア州、ワシントンD.C.からの長距離通話サービス提供を認めた(注1)。Verizonはすでに他の11州の営業エリアからの長距離電話サービスの提供について認可を受けているので、今回のFCC裁定によりすべての自社営業エリアからの長距離電話事業提供を認められたことになる。
 FCCは、昨2002年後半から急ピッチでRHCに対する長距離電話サービス提供の認可作業を進めている。全営業エリアに対しサービス提供を認めたのは、2002年末のBellSouthについでVerizonが第2番目である。
 本文で示す通り、現在ほぼ大部分のRHCの営業地域における長距離サービス提供ができるようになっており、1999年12月から始まったFCCのこの大きな免許付与作業はあと半年ほどで終了するものと見られる。
 そもそも1996年通信法は、電気通信分野において、RHCとCLEC、長距離電話事業者がサービス提供の相互乗り入れ(RHCは長距離電話サービス提供、またCLEC、長距離電話事業者は地域電話サービス提供)に基づく競争を実現することにより、電気通信市場の活性化ひいてはユーザーに対するサービス品質の向上、安い料金を実現することを大きな柱にしていた。
 ところがこれを実現する手段について、特にRHCに対し、どの程度まで自社設備をCLEC、長距離電話事業者に利用させるべきか(いわゆるUNE-P問題)を巡って、FCC、州公益事業委員会、RHC、CLEC、長距離電話事業者間で意見の対立が生じた。最近の大きな事件としては、2003年2月20日、この案件についてFCC裁定が出されたものの、裁定の内容についてのFCC委員間の対立により、パウエルFCC委員長が少数派に追い込まれるという事件があげられる(注1)。
 本文で説明する通り、今回のVerizonに対する長距離通信市場への最終の進出認可裁定も上述のFCC内部における多数派、小数派の対立が大きな影を投げかけている。
 ただ最近の利害関係者の態度を見ると、当初の猛烈な反発は大きく和らぎ、自社にとって裁定の有利な点をできるだけ活用して行こうとの現実的な方向(特に反対の急先鋒だったVerizon)に向かいつつあるようである。パウエル委員長が強調するように、今後この案件について多くの訴訟が提起されることは確実であり、最終的にどのような決着になるかは未だ不透明である。
 以下、Verizonに対する長距離電話市場参入認可についてのFCC裁定、RHCがどこまで長距離電話市場に進出を認められたかの状況、CLEC、長距離通信事業者がどのように安い料金(Terlic料金原則に基づく)による市内電話市場参入を認められているか(AT&Tを例にして)等について説明する。

FCC、Verizonに対しメリーランド、ウェストバージンニア、ワシントンD.C.における長距離電話サービス提供を認める
 今回のFCC裁定で特異と見られる点が2点ある。
 第1点は、Martin(共和党)、Adelstein(民主党)、Copps(民主党)の3委員がそれぞれ声明を発表していることである。これら3委員は、去る2月20日の市内アクセス枠組み改正に関するFCC裁定において、Powell委員長の方針を覆したトリオであったことはわれわれの記憶に新しい(注2)。
 ところで3委員の声明は、UNE(unbundling network element、アンバンドルされた個々のネットワークエレメント)の料金設定のあり方についての見解を述べている点で共通している。つまり前回のFCCにおける場合と同様、3名のトリオはまたしても音声用アクセス回線の開放案件について協同歩調を取った。

 記述がやや詳しいMartin委員の意見を要約すれば、今回の採決についての保留事項は次の通りである。
(1)1996年電気通信法252条は、FCCは個々のネットワークエレメントの料金は、エレメント提供に要するコストを保証すべきであるとも読める(注3)。
(2)しかし252条(d)1項では、エレメントが複数(elements)で表示されているので、FCCには個々のエレメントの料金評価をしないでもよいとの議論もできる。
(3)個別にFCC裁定に反対する異議が提起された場合には、一般的な事実審査により裁定を下したというだけで、通信法遵守の義務を果したと言えるとは考えない。その場合にはFCCは個別の審査をしても、それほど大きな負担になるとは信じない。
 第2点は、これまた前回の裁定の場合と同様に、Powell委員長の名前がいずこにも見当たらないことである。この原因としては、多分Verizonの申請書類の審理に関して、またもや多数派(上記のトリオMartin、Adelstein、Copps)と小数派(Powell、 Abernathy)の見解が対立し、多数派が多数決により少数派を押し切ったと想定するのが妥当である(注4)。

RHCによる長距離通信市場への参入状況
 表1にRHC4社による長距離通信市場への参入状況を示す。この表では、38州とワシントンD.C.において免許付与が行われており、米国51州の3分の2を超える州に免許が提供されている。さらに5州(SBCから2州、Qwestから3州)についての免許申請が為されている。
 また表2に示すとおり、付与された免許の約半数は2002年9月以降に認可されたものである。これは、参入に当たりきわめて慎重であった前FCC委員長のKenard氏に比し、現委員長のPowell氏がきわめて積極的であったことによるものだといって差し支えない。特に、2002年9月におけるBellSouthに対する5社、Qwest Communicationsに対する9社と一括の免許付与が目立つ。Qwest Communicationsに至っては、未だSECによる財務不正に対する調査が完了していないさなかでの初めての申請に対する認可であり、この認可に対してはとかくの批判もあった。Powell委員長は、みずからが強硬な競争、非規制化の推進論者であるうえに、かねてからRHC寄りであると評されていたことが、この大量の免許付与につながったものであろう(注5)。

表1 FCCによるRHCの長距離通信市場への参入の認可付与状況
RHC
認可を付与した州の数
未認可の州の数
Bell South
9
0
Verizon
13+ワシントン地区
0
SBC
7
6
Qwest
9
5

表2 FCCがここ半年間にRHCに対し長距離電話進出を認めた州(2002年9月から)
認可月日
認可を受けたRHC
認可を受けた州
2002.9.18
BellSouth
5州(アラバマ、ケンタッキー等)
2002.10.30
Verizon
1州(バージニア)
2002.12.19
BellSouth
1州(フロリダ、テネシー)
2002.12.20
Qwest
9州(ユタ、ワイオミング)
2002.12.23
SBC
1州(カリフォルニア)
2003.3.19
Verizon
2州(メリーランド、ウェストバージニア)、ワシントン地区

対抗する長距離通信業者の市内通信事業への進出は遅れている
 このように、RHC4社は長距離通信事業への進出を大半の州(2社については全州)において認められ、現に市内通話と長距離通話をパッケージで提供する事業に重点を置いている。もっとも力を入れているのは最大のRHCであるVerizonであり、同社は今では、長距離電話事業者加入者数でSprintを抜き、AT&T、WorldComに次ぐ第3の事業者になったと発表している。
 長距離通信事業者の側からすれば、RHCの市内市場はおおむね開放されている。しかし、州公益通信事業者の規制いかんにより、適用される料金(厳密にはUNE-Pによるアクセス料金)が異なるため、主として料金が安い州に対しての進出を強めることとなる。
 州公益事業委員会がFCCのガイドラインに応じて、TERLIC料金(長期増分コストによる)の適用を始めたのに応じ、2002年の春頃から市内通信事業への進出を積極的に行ってきたAT&Tを例に取って見よう。同社が、料金が安く採算が取れるとして、長距離サービス+市内通話サービスのパッケージ料金を提供しているのは、8州(ニューヨーク、ミシガン、イリノイ、オハイオ、ニュージャージ、カリフォルニア、テキサス)程度に留まっている(注6)。 
 また、長距離と市内通話のパッケージサービスを提供している加入者数は、2002年末の数字で240万である(注7)。
ついでながら、WorldComは最近の資料が見当たらず、正確な数字が不詳であるが、AT&Tに匹敵するほどの市内通話加入者数を有している。またSprintは、その生い立ちからして、市内電話会社+長距離電話会社の企業構造を有しており、700万を超える市内通話加入者を有している。ただRHCであるVerizonの長距離電話加入者数が1社で1000万を超えている点からすると、加入者数では長距離電話会社3社で、Verizonの長距離電話加入者数に見合うことになる(注8)。

RHCと長距離電気通信事業者、CLECは全面競争の実現へ
 米国ではかねてから、RHCと長距離電話事業、CLECの全面競争が叫ばれていたが、実現はしていなかった。
 それは、(1)RHCが長距離電気通信事業の全市場への参入を認められていないこと (2)長距離電気通信事者、CLECが市内通信事業にUNE-P(安いアクセス料金を前提にして)利用による事実上の参入ができることの2条件が整っていなかったためである。
 しかし(1)の条件は、既に説明した通り2003年前半、あるいは、遅くとも2003年中には、実現することとなる。
 (2)についても、2003年2月20日のFCCによる市内アクセスの枠組みを定める規制により、多分大方の州が安いUNE-Pの実施に動くと考えられる方向が定められた(注9)。
 このようにして、1996年電気通信法が理想としたRHCと長距離電話市場の完全競争が実現する規制環境は整いつつある。しかしこの規制の方向が、もたらす効果についての判断は、利害関係者により大きく分かれている(注10)。
 どちらの方向が正しいかは、今後、事態の進展とともに明かとなろう。


(注1)2003.3.19付け、FCCのプレスレリース、"FCC authorizes Verizon to provide long distance service in Maryland, Washington, D.C, and West Virginia"
(注2)2003.3.1付け、テレコムウォッチャー、「FCC、RHCが提供する市内アクセスの枠組みを大幅に改正―パウエル委員長の目指したUNE-Pの廃止は不成功」
(注3)1996年通信法252条(4)dには、「相互接続叉はネットワーク要素を提供する料金は、コストに基づく」等の規定がある。ただ、RHCから安過ぎる料金を設定する根拠になると批判されているTerlic料金原則も「コスト主義」によっている点は、通常の埋没コストに基づく料金と変わりはない。ただ、コストの定義(埋没コストによらず、あるべきネットワークのコスト)が違うのである。不思議なことにMartin氏は、この点に触れていない。
(注4)Powell委員長とともに小数派に属する共和党のFCC委員、Abernaty氏は、2003.2.26に行われた下院商務・エネルギー委員会の小委員会である電気通信・エネルギー委員会に対する声明のなかで、わずか1週間ほど前に下されたFCCの市内アクセスの枠組み改訂に関する裁定が、特にUNE-Pに関し、自ら明確な基準を策定せず、州公益事業委員会に権限をまかせている点を強く批判している(2003.2.2.26付けの同氏のプレスレリース)。
同氏が、今回のVerizonに対する長距離市場への進出を認める裁定案件審理に当っても、同様の見解を強く主張し、アンバンドリングの個々の料金設定についてのFCCの審理の必要性を主張したことが推察できる。
(注5)表1、表2の作成に当っては、おおむねFCCによる各回のRHCへの免許付与の裁定およびRHC各社の2003年第4四半期の決算報告を利用した。
(注6)2003.1.13日付けYahoo!Finance, "AT&T to Offer Residential Local Service in Washington, D.C."
(注7)2003.1.26付けAT&Tのプレスレリース、"AT&T Reports Fourth-quarter and Full-Year Results"
(注8)もちろん市内通話の平均収入は、長距離通話の平均収入よりはるかに高い。また、RHCはTerlic料金ベースでローカル・ループのアクセスを提供することにより大きな赤字を出していると主張している。従って、RHC、長距離通信事業者の相互市場参入を検討する場合、1対1での獲得加入者比較をすることは適切でない。
(注9)本文では、一応このように断言しておくが、Powell委員長が指摘するように、事態がこのように進むかいなかは不透明な要素が大きい。差し当たり、4月中に完了すると見られるアクセス裁定のテキスト(換言すればFCC命令の正文)発表の段階でも、将来の見通が変わることもありうる。
(注10)UNE-Pに関する規制のありかたについての議論は、FCCではおおむねどちらの側が1996年通信法、裁判所の判決によりよく従っているかについて行われた。しかし、FCC委員が、常に双方の路線が利害関係者の将来の事業運営にどのような影響をもたらすかを念頭において為されたことは確かであろう。私見によれば、Powell氏が主張したUNE-P廃止の方向は、長距離通信事業者のViabilityを失わせ、電気通信事業界の再編を促進する。
これに対し、今回採択されたMartin氏が主導したUNE-P存続の方向は、競争激化を促進するが、その結果、長距離通信事業者、RHC共倒れの危険性をも含む。

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