DRI テレコムウォッチャー


DT、2002年決算で巨額の欠損(246億ユーロ)を出す

2003年3月15日号

 DT(ドイツテレコム)は2003年3月10日、民営化以来の拡張路線遂行による赤字経営を批判され2002年の12月に辞任したSommer前会長の後を受けて会長に就任したRicke新会長による初の年次仮決算(2002年次)を発表した。
 当然予想されていたところであるが、今回の決算は3G免許料、米国の携帯電話会社Voice Streamの取得に伴う損切り分(それぞれ84億ユーロ、96億ユーロ)を主とした資産減額分を計上した結果、246億ユーロという莫大な赤字決算となった。この赤字は、ドイツ企業が第2次大戦以降に計上した最大の金額である。
 5日前の2003年3月5日、FT(フランステレコム)はすでに同社の決算を発表していた。FTもMobileCom(ドイツ第3位の携帯電話会社)に対する出資等の損切りのため、207億ユーロの欠損を出した。FTは規模がDTより小規模であるので、両社の負債の規模は同程度とみてよい。
 このためそれぞれ欧州第1位(DT)、第2位(FT)の電気通信会社は、本年、2003年には、いずれも巨額の債務を返済して、財務を軌道に乗せることが最大の経営目標となった。両社とも、資産の売却、不採算分野からの撤退、コスト削減等の諸施策を講じ、経営体質の改善に努めている。
 FTではBonn氏の後を受け、2002年10月に会長に就任したBreton氏が同年12月に、かなり細かい年次ごとの改善目標を織り込んだ「経営3ヶ年」計画を発表した(注1)。これに対しDTのRicke新会長は、特に財務立て直しのための年次計画を現在のところ用意していない。
 DTの方針は、同社の基幹4部門(固定通信のT-Com、データ通信のT-Systems、携帯電話のT-Mobile、ISP業務のT-Online)はそれぞれが大きな成長性、収益性を有する事業であるから、地道に経営改善に努めていけば巨額の借金もそのうち償還でき、DTは再び収益性の高い企業に復帰できるとの信念に基づいたものである。しかし2003年末の債務償還額の数値が示されているとはいえ、641億ユーロ(2002年末)の巨額の債務を(1)いつまでに(2)どの程度まで減少させるかとの年次ごとの目標が設定されていない(FTは設定している)ため、経営陣の姿勢がいささか消極的に過ぎるとの批判を受けている(注1、注2)。負債償還に取り組む両社の姿勢の差異が、株価にも反映されているようである(FTが昨年前半の底値から脱し、10ユーロ台の半ばを維持しているのに、DTの決算発表時、遂に10ユーロを割ってしまった)。
 以下、DTの2002年次決算(2001年次と比較して)、DTの負債返済計画の概要について解説する。

DTの2001、2年通期および2001、2002年第4四半期の決算
 まず表1に、DTの2001、2002年の収支状況を示す(注2)。

表1 DT決算の主要内容(単位:億ユーロ)
項目
2002年第4四半期
2001年第4四半期
2002年通年
2001年通年
総収入
145(9.0%)
133
537(11.1%)
483
国内
93(3.3%)
90
353(1.0%)
351
国外
52(20.9%)
43
184(39%)
132
EBITDA
44(14.6%)
38
163(7.8%)
151
欠損
1
25
245
35
負債
  
641(年末)
679(年末)
(表中、括弧の数字は前年同期に対する増減比を示す。表2、3についても同様)

 本表から以下の諸点が明かとなる。
 まず、総収入が年間11.1%も伸びたのにもかかわらず、欠損が前年の35億ユーロから246億ユーロへと7倍にも増えてしまった。これは既に述べた通り、その大半がVoiceStremと3G免許料の損切りに伴うものである。いわば2000年当時のモ携帯電話バブルモの付けの大きさが改めて顕在化したものと言えよう。
 第2に、DTの収入の伸びを国内と国外にわけるとそれぞれ1.0%、39%と圧倒的に国外の伸びが大きく、DTは国外収入の伸びにより支えられているといってよい。
 第3に、EBITDA(税引き前、償却前利益)において、DTは堅実な伸びを示しており、特に2002年第4四半期において、15%近くの大きな伸びとなっている。この数字は、DTが収益を今後向上して行ける潜在力を有していることを示す。
 最後に引き続く欠損と関連の深い負債の件であるが、ともかくもDTは懸命の努力をして、1年間で35億ユーロの負債を減らした。このためには多くの不動産を売却したし、同社傘下の欧州最大のISPであるT-Onlineの株式1億2000万株を売却もした。 しかし、これで負債のうちやっと5.6%が償還されたに過ぎない。"Too little, too slow"と批判されても仕方がないだろう。

 さらに表2、表3でDT主要2部門(T-Com、T-Mobile)の収支状況を見ることにする。

表2 T-Com(固定通信部門)決算の主要内容(単位:億ユーロ)
項目
2002年第4四半期
2001年第4四半期
2002年通年
2001年通年
収入
79(7.9%)
74
302(2.6%)
294
EBITDA
26(2.9)
26
102(0.4)
101
税引き前利益
9(−5.2%)
9
35(−23.3%)
46
負債
  
152,846(年末)
148,247(年末)

 固定通信部門は、全収入の過半(2002年で56%)を占めるDT最大の部門であるが、DT決算での説明によると、国内の収入はすでに減収に転じている。即ち2001年に比し、2002年における国内固定通信の収入は3億ユーロの減収であったという。つまり総体の収入がわずか(2.6%)ながら伸びたのは、ひとえに国外固定通信の収入増に支えられてのことであった。特に東欧における電気通信収入は、年間28億ユーロから39億ユーロへと大幅な伸びを示した。
 支出面でも2000年に税引き前利益が大幅に減少したことにも示されているように、DTは競争が激化する固定通信分野で苦戦を強いられている。

表3 T-Mobile(携帯電話部門)決算の主要な内容(単位:億ユーロ)
項目
2002年第4四半期
2001年第4四半期
2002年通年
2001年通年
収入
55(22.8%)
45
197(34.8%)
146
EBITDA
12(24.4%)
10
50(60.6%)
31
税引き前利益
−2
−32
−23.7
−6.4
従業数
  
38,949
30,124

 T-Mobileでは収入は大きく上昇している。またEBITDAの伸びも大きい。ただ2002年には税引き前の段階で2001年を大きく上回る赤字(その大半は例のVoice Streamと3G免許取得の損切りによるものであるが)を計上している。  成長は確かに著しいが、コスト管理を徹底して早急に黒字経営に持って行くことが、最大の課題であろう。

負債償還のための諸施策
 UDTのRicke新会長は、就任後、会長名での総合的な負債償還対策を打ち出していない。多分、2003年5月に予定されている株主総会の機会に、報告を予定しているのであろう。
 DTの方針は、Ricke氏が会長に就任して日が浅い2002年11月に発表されたプレスレリースに示されているので(この方針の1部はRicke氏の前任の暫定会長Sieler氏の見解とされている中途半端のものではあるが)、以下、主としてこの資料に基づき、この時点でのDTの考え方、多少の実績を紹介する(注3)。

負債償還のための諸施策
 2003年末までに、負債額を495億ユーロー523億ユーロの範囲(2003年末のEBITDAの3倍)まで縮小する。

非戦略的業務、不動産の売却
 DTは、戦略的4部門(T-Com、T-Mobile、T-System、 T-Online)を除く非戦略的部門、不動産の売却を進める。
 この分野での交渉、成約は着々と進んでいる。最近成約した大きな事例は、長期間を要したケーブルテレビの売却であった。2003年1月末、DTは米国のコンソーシャム(Apax partners、 Goldman Sachs、 Providence Equity Partnersよりなる)に17.25億ユーロでケーブルテレビ6システムを売却する取決めを行った。先にもケーブルテレビを売却しているので、DTは今後、ケーブルテレビ事業(かっては世界有数)から撤退することとなる(注4)。
 なおDTは、同社の電話帳部門DeTe Medienも売却を希望しているが、未だ買手がつかない(注5)。

投資の削減
 2003年の投資額を62億ユーロー85億ユーロに削減する。

株式配当を無配に
 2003年の株式配当を取り止める。

従業員の削減
 2005年までに54,700人(新規採用11,300名を予定しているので純減は43,400人)の従業員を削減する。

鼎の軽重を問われるRicke 会長
 新会長のKwi-Uwe Ricke氏は、Sommer元会長にベンチャー通信会社(Talkline)からスカウトされDTの経営陣に加わり、T-Mobile社長、DTのCEO(最高執行責任者)を歴任して、2002年11月にDTの会長に就任した。氏は10年ほど前、DTが公社時代に会長(1990年から1994年)であったHelmut Ricke氏の御曹司である。この点、部内での職歴がなく、直接会長となったFTのBreton氏とは異なる(注6)。
 Ricke氏はDTの財務改善に当り、次ぎの点で困難に直面するものと見られる。
 第1は、ますます激化する競争のなかで、どのように利益を拡大して行けるかということである。特に2003年7月からこれまでのコールごとの参入のほか、予め指定した業者選択の方式(わが国でも数年前に採用されたマイライン方式)が始まるので、DTは本格的な長距離通信事業の競争に直面することとなる。未だ、収入の太宗を占める固定通信分野での一層の売上の減少、利益の低下が生じれば、負債の償還計画に支障をきたしかねない(注7)。
 第2にDTは、既に紹介した表2、3でも明かな通り、基幹事業部門での従業員の合理化が進んでいない。40%の従業員が公務員の資格を有し、さらに組合の力が強いDTにおいて、どのようにして5万人もの従業員の削減を行っていけるか。いわば、部内のクラウンプリンスから会長に就任しただけに、Ricke氏は苦しい対応を迫られることはないかが危惧される(注8)


(注1) FTの負債減らしに向けての努力については、2003年2月1日付けテレコムウォッチャー、「FT、新会長ブレトン氏の下で経営再建3ヶ年計画実施に乗り出す」を参照されたい。またDTの経営努力に対する批判については、例えば2003年3月10日付けYahoo!Finance, "DeutcheTelekom Had Modest 4Q Loss, Huge Loss for 2002"
(注2)3つの表も含め、DT決算の内容は2003.3.10付けのDTのプレスレリース、"T-Online setzt profitablen Wachstumskurs fort"によった。
(注3)2003.11.14付けDTのプレスレリース、 "Deutche Telekom counting on debt reduction and growth"
(注4)2003.1.27付けFT.com,"DT agrees to sale of cable companies"
(注5)2003.2.13付けYahoo! Finance, "Yell Not Interested In Deutche Telekom Directories Unit"
(注6)2003.11.9付けファイナンシャルタイムズ、"Ricke shapes up as the perfect inside solution"
(注7)2003.2.21付けファイナンシャルタイムス・ドイチュランド、"Telefonie: Die Konkurrenz erreicht das Ortsnet"
(注8)最後の予想の部分は資料に基づいたものではない。筆者の私見であることをお断りしておく。

テレコムウォッチャーのバックナンバーはこちらから





<< HOME  <<< BACK  ▲TOP
COPYRIGHT(C) 2003 DATA RESOURCES, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.