2003年2月初旬までに、米国RHC3社の決算(2002年第4四半期および2002年通期)が出揃った(注1)。
筆者はすでに2002年11月1日付けテレコムウォッチャー「成長が止まったRHC3社―2002年第3四半期の決算報告から」において、これまで不況下にある電気通信事業者のなかでは比較的業績が安定していると見られてきたRHCの経営基盤が意外に脆弱である点を指摘したが、2002年第3四半期および2002年通期の決算は前回の結論を改めて確認する結果となった。
ここで本文の結論を要約しておくと、(1)RHC3社の2002年通年の収入は横這いもしくはやや減少しており、この数字から見る限りRHCが運営する地域電話事業は衰退しつつある。(2)しかも携帯事業の収入を差し引き固定通信のみで比較すると、3社ともに2002年次は減収となっている。つまりRHC3社は、携帯電話、メール、ケーブル電話、IP電話による競争により、恒常的にアクセス回線、トラヒックを奪われており、このため固定事業の増収は望み得なくなっているのである。2002年の後半にFCCにより長距離電話事業への参入が大幅に認められたのであるが、現在までのところこの事実はまだ3社の業績に貢献してはいない。(3)Verizonを除く2社は2003年の事業動向についても厳しい見方をしており、業績悪化歯止めの出口が見えない。
従って、RHC3社はなおも苦難の道を辿ることとなろう。
なおRHCについて語る場合、当然これら3社の最大のライバルである長距離電話事業者3社(AT&T、WorldCom、Sprint FON)についても触れるべきであるが、その実体の解明が難しく、今回は解説を避けた。ただ残念ながら3社とも、業績の悪いのはともかくとして、経営幹部の覇気がいちじるしく衰えており、このままでは案外、2003年のうちに他社への身売り話が出てくるのではないかとも考えられる。つまり長距離電話事業者の状況は、RHC3社に比し、幾層倍も悪い。
以下、上記の点について、さらに詳しく解説する。
RHC3社の部門別収入状況、アクセス回線数
Verizon Communications、 SBC Communications、Bell Southの順に2002年第4四半期・2002年通期の決算報告の資料を基にして、3社の部門別収入を表1から表3に示す(注2)。
表1 VerizonCommunicationsの部門別営業収入(2002年通期と2002年第4四半期、単位:億ドル)
項目 | 2002年通期(括弧内は前年対比) | 2002年第4四半期(括弧内は前年対比) |
総営業収入 | 670.0(0%) | 172.1(+1.5%) |
国内通信 | 407.1(-3.3%) | 100.2(+2.6%) |
国内携帯 | 192.6(+10.7) | 51.6(+16.3%) |
情報サービス | 42.8(-0.6%) | 13.7(-3.8%) |
国際 | 29.6(-6.6) | 7.3(-10.1) |
表2 SBC Communicationsの部門別収入(2002年通期および2002年第4四半期、単位:億ドル)
項目 | 2002年通期(括弧内は前年対比) | 2002年第4四半期(括弧内は前年対比) |
固定通信 | 383.92(-5.6%) | 92.25(-8.1%) |
携帯電話 | 88.36(+2.2%) | 21.94(+0.6) |
電話帳 | 44.51(+0.4%) | 18.49(+5.1%) |
国際 | 0.34(-81.1%) | 9(-25.0%) |
表3 BellSouthの部門別収入(2002年通期および2002年第4四半期、単位:億ドル)
項目 | 2002年通期(括弧内は前年対比) | 2002年第4四半期(括弧内は前年対比) |
総収入 | 284.48(-3.9%) | 71.15(-6.8%) |
固定通信 | 181.8(-3.4%) | 44.41(-6.6%) |
国内携帯 | 58.91(+4.4%) | 14.63(+0.6%) |
ラテン・アメリカ | 22.33(-23.3%) | 4.86(-28.8%) |
国内広告・出版 | 20.84(+0.5) | 709(-0.1%) |
その他 | 0.6(-56.8%) | 0.16(-51.5%) |
さらに、各社のアクセス回線数を表4に示す。
表4 RHC3社のアクセス回線数(単位:1000)
項目 | 2001年末 | 2002年末 | 2002/2001 |
Verizon | 60,225 | 57,974 | -3.7% |
SBC | 59,332 | 57,083 | -4.1% |
BellSouth | 25,422 | 24,603 | -3.2% |
固定通信収入減少の状況
Verizon Communications
Verizon Communicationsの業績は、他のRHC2社に比して好調であった。2002年通期、2002年第4四半期の両期ともに、前年同期に比し収入は上回り、最大RHCとしての面目を保った。しかし、2002年第4四半期にしても、2002年通年にしても、同社の収入が携帯部門(Verizon Wireless)の好調に支えられて、ようやく前年同期並みに保たれていることに注目しなければならない。
Verizonの総営業収入から携帯電話部門の収入を差し引いた数値で比較すると、2002年通期は、前年対比4%、2002年第4四半期は3.4%の収入減となっている。つまり携帯部門のVerizon Wirelessにより、Verizonはようやく収入減を免れたのである。
表4に示す通り、Verizonは2002年通期で実数で約250万回線、率にして3.7%のアクセス回線を失っている。この数字をみると、Verizonが固定通信の分野で収入を失うのは当然とも思える。しかし同社は、長距離加入者の増により大きく収入を戻しているのであり、この面の数字も考慮しなければならない。
周知の通り、Verizonは長距離電話市場への進出にもっとも力を入れているRHCであって、2002年通期で長距離加入者数を300万増やした。同社は長距離加入者数が1000万を超え、最近加入者数でSPRINT FONを抜いて米国第3位の長距離通信事業になったと発表したばかりである。
差引き50万の加入者を増やしたのにもかかわらず、固定通信の収入が減っているのは、(1)アクセス加入者の単金が市外電話利用の加入者の単金より低い(2)料金低下、携帯電話、メール、IP電話への通話の移行が大きいことによるのであろう。
SBC Communications
表2に示すとおり、SBC Communicationsの業績はRHC3社中で最悪である。同社はこの原因について、経済市況の一般的な低調の他、とりわけUNE-P(競争業者に対する安い料金による回線要素の販売)を挙げている。同社によれば、アクセス回線減少、UNE-P架設の状況は次ぎの通りである。
- アクセス回線数は年間4.1%の減少(絶対値で224万)した。第4四半期の減少数は54.5万であった。
- 現在、UNE-P回線の累積提供数は500万を超えた。うち260万は2002年に生じたものである。
- 2002年第4四半期に架設されたUNE-P回線のうち、75%以上がAT&T、WorldComの両社に対するものである。2002年通期を通じて、AT&T、WorldCom両社に対するものである。これら両社のUNE-P回線は、他の業者分がむしろ減っているのに3倍に増えた。
では、SBC Communicationsによる攻めの側、即ち長距離通信市場への進行状況はどのようになっているのか。同社は、2002年に120万の長距離回線を増やし、今や長距離回線数は610万回線に達したとしている。してみると、回線数で比較すると市内回線数の減少分を十分にカバーできるようにも思える。多分、Verizonの個所でも触れたように、RHCにとっては、ローカルループをベースにして、その上に長距離サービスの契約を取るよりも、競争業者からローカルループ(音声サービスの発着を押さえる)を奪取される痛み(収入単金の差)の方が大きいのであろう。
BellSouth
ベルサウスの収入減もSBCCommunicationsに匹敵するほどに大きい。表4に示すとおり、同社のアクセス回線減は3.1%とRHC3社のうちで軽微にとどまっているが、対抗措置としての長距離市場への進出も遅れている。同社は、競争業者からの参入が激しくなかったためもあり、FCCへの長距離電話市場への進出申請も遅れた。ようやくサービス開始を行い始めたのは2002年の5月以来である。2002年末に加入者数はようやく100万に達した。
他の2社に比し、競争業者の圧力はむしろ小さいが、それでも経済市況の低調と携帯、メール等の業務参入を受けて、収入が落ちてしまったということであろう。
自社の携帯電話業務の貢献度
VerizonはVerizon Wireless(米国最大の携帯電話会社、英国Vodafoneと50対50の合弁会社)を、またSBC CommunicationsとBell SouthはCingular Wireless(米国第2位の携帯電話会社、SBC CommunicationsとBellSouthがそれぞれ60%、40%の株式を所有)を所有している。RHC3社は、そのすべてが米国最大の携帯電話会社でもある。
従って、3社ではこれら携帯電話部門の業績が事業全体の業績を左右する状況になっている。
RHC3社についてその状況を一瞥して見よう。
VerizonVerizon Wirelessが大きく事業に貢献
携帯電話事業は、2002年の後半から新規需要が飽和に近づくとともに、新たなタリフに基づく競争がエスカレートしている。このため、大手6事業者は加入者を増やし、売上を増大している勝組(Verizon Wireless、T-Mobile、Nextel、AT%T Mobileの4社)、と負組(Cingular Wireless、 Sprint PCSの2社)に両極化する現象が生じている。
Verizon Wirelessは、2002年第3四半期の80.3万増に引き続き、同年第4四半期には92.9万もの加入者数を増やしており、勝組のトップを走っている。加入者数も3350万(2002年末)とアクセス回線(6022.5万)の50%以上に迫った。収入も固定通信の約半分に迫っている。今後、米国においても携帯電話と固定通信の融合が進むので、Verizonにとって、Verizon Wirelessは必要不可欠な部門となるだろう。このためVerizon は、2002年通期、2002年第4四半期におけるVerizon Wirelessの貢献度合を高く評価している。
勢いが弱まったCingular Wireless―SBC CommunicationsおよびBellSouthに打撃―
対照的なのは、SBC CommunicationsとBellSouthに占めるCingular Wirelessの地位である。表2、表3に明かな通り、Cingular Wirelessの収入はそれぞれ、通年2.2%、4.4%と収入増に貢献したものの、Verizon WirelessがVerizonに対する場合とは異なり、Verizon の収入減を食いとめるまでには至らなかった。それどころか2002年第4四半期でみると、両社においてCingular Wirelessの収入増はわずか0.6%に留まっている。しかも、加入者数においてCingular Wirelessは2002年第3四半期10.7万、第4四半期12.1万と加入者を減少している。この傾向が続けば、早晩Cingular Wirelessが業績面で、親会社、SBC CommunicationsとBellSouth 両社のお荷物になっていく可能性もある(注3)。
2003年について、増収の展望を打ち出せないRHC3社
表5に、RHC3社が発表した2003年の業績見通しを示す。2002年通期および2002年第4四半期の業績の差異を反映して、Verizonのみは収入増の可能性を示唆しているが、SBC CommunicationsおよびBellSouthの両社がともに2002年に引き続く収入減を予測している点が特徴的である。
表5 RHC3社の2003年収入の予想
RHC | 2003年の業績予想 |
Verizon Communications | 収入:0〜2%の伸び |
SBC Communications | 収入:一桁台の減少(注4) |
BellSouth | 収入:下位一桁台の減少(注5) |
なお、FCCによるUNE-Pに関する裁定は2月13日に行われる予定であったがキャンセルとなった。パウエルFCC委員長は当初、きわめてRHCにとり有利な内容(端的に言えば、過渡期間はともかく、長期的にはUNE-P実施は当事者間の契約ベースに移す)の構想を持っていたものの、あまりにも反対が強く、同氏の意図が貫徹できるかいなか、不透明になっている模様である(注6)。FCC裁定に業績回復の願いを込め、大規模なロビーイング活動を行ってきたRHC3社にとって、これは悪いニュースである。
さらに最近、SBC CommunicationsがHuges Electric傘下の衛星テレビ会社、Direc TVの買収に入ったと報じられ、この報道により同社の株式が大きく値が下がるという現象が生じた。これは将来のビジネスプランが描けず、すでに多くの企業が行い失敗し、またバブルの一端を作るきっかけともなった「拡大を通じて問題点を先送りしていく」悪あがきの類であると市場が見抜いたからに他ならない(注7)。
いずれにせよ、業績がまだ良い方だと見られているRHC各社ですら、これほど将来の経営について自信が持てないのが米国電気通信業界の現状である。上記、SBC Communicationsの奇異な行動からしても、2003年の米国電気通信業界は企業のさらなる倒産、M&Aの実施を含め、意外に大きなハプニングの起きる年になるのかもしれない。
(注1) |
Qwest Communicationsは、2002年通期・2002年第4四半期の決算を発表していない。ただこれまでの経緯からして、たとえ発表していたにせよ他の3社より良好であるはずはない。 |
(注2) | 表1、2、3、4はいずれも次ぎのRHC3社の資料を使用した。
- 2003年1月29日付けVerizon Communicationsのプレスレリース、"Verizon Communications Reports Strong Yearly Operational Growth and Gives Outlook For 2003"
- 2003年1月28日付けのSBC Communicationsのプレスレリース、"SBC Reports Fourth-Quarter Earnings Per Diluted Share of $0.71, $0.62 Before Special Items and Expensing Stock Options"
- 2003年1月23日付けBellSouthのプレスレリース、"DSL High-Speed Internet Customers Surpass 1Million Long Distance Approval in All Markets"
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(注3) | Verizon WirelessとCingular Wirelessの戦略、サービスについて次のような評もある。
(2002年11月9日付け、"The Street.com, "Five Things Cell-Phone Providers Donユt Want to know")どうやらCingular WirelessはVerizonに比して評価が低く、これが加入者獲得にも影響しているらしい。
Verizon Wireless:ネットワークのカバレッジ、サービスの安定性、多様性についは定評がある。料金は比較的高いが、料金でなく品質で勝負する基本方針を取っている。
Cingular Wireless:ネットワークの品質、料金とも中庸。2002年第3四半期の加入者数減少のためCEOが交代した。
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(注4) | SBC Communicationsは、自社のプレスレリースでは2003年の収入見通しを示していない。表4の数字は、2003年1月26日付けYaahoo!Finance, "SBC's SalesnFall;Sees 2003 Revs Down" |
(注5) | Bell Southも自社プレスレリースで、2003年の収入見通しを示していない。表5の数字は、2003年1月23日付けForbes.com,"Bell South Disconnects Core Business"によった。 |
(注6) | 2003年2月11日付けFCCのプレスレリース、"Open commission meeting,cancelled"
なお、2003年2月付けFinancial News, "U.S Telecom Regulators Split Over Statre Role" によると、共和党FCC委員のKelvin Martin氏が他の民主党の議員2名に同調し、州公益事業委員会の自主性を尊重すべきであるとの自説を曲げず、FCCのUNE-P改訂に関する規則の採決ができないのが、委員会キャンセル延期の理由だという。20日には委員会が開催され、決着する見通しだとジャーナリズムは報じている。この件については、3月1日のテレコムウォッチャーで取り上げることとしたい。なおUNE-P改訂の狙いの概略については2003年1月1日付けテレコムウォッチャー、「間近に迫ったUNE-P案件についてのFCC裁定、予想される大きなインパクト」を参照されたい。 |
(注7) | たとえば2003年2月10日付けCBS NarketWatch、"SBC seen in talks to buy Dires TV" |
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