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FT、新会長ブレトン氏の下で経営再建3ヶ年計画実施に乗り出す

2003年2月1日号

 FTは民営化後、相次ぐM&A、資本参加により業務を拡大してきたが、これに伴い年を追って抱える負債も多くなった。このため同社のボン前会長は、2002年9月にこの責任を取って辞任に追い込まれた。
 2002年10月、Thomson Multimediaの会長からFT会長に就任したブレトン氏(Thierry Breton)は異色の経営者である。同氏は1997年当時、破産に瀕しており韓国の大宇社に捨値で売却される寸前にあったフランス大手家電メーカのトムソンの再建に成功し、一躍その経営手腕を高く買われることとなった。約700億ユーロという法外な負債を抱えたFTの再建はこうして再建実績を持ち、電気通信分野は素人のブレトン氏(47才)の双肩に委ねられることとなった。
 ブレトン氏の出足は快調であった。2002年12月初旬、氏はFT再建の3ヵ年計画(FT2005)をFTの役員会に提出しその承認を得た。FT2005は、企業努力による負債削減150億ユーロ、財務体質強化のため150億ユーロの増資、債務借り換え150億ユーロをそれぞれ実施することにより、当面の3ヶ年間の巨額債務の支払に応じる対策(いわゆる"15+15+15")である。またフランス政府が増資分として90億ユーロを拠出し、増資前からFTの利用に供するとの決定を行った意義も大きかった。ブレトン氏個人に対する大きな期待、フランス政府のバックアップ姿勢を好感し、2002年末から2003年初めに掛けて、これまで大きく下がっていたFTの株価も大きく回復している。
 ただ当初から懸念されていたことであるが、FTもフランス政府もEU(欧州委員会)に対する見方が甘かった。問題はフランス政府出資分90億ユーロ分のFTへの前払いが、政府による民間企業への援助になるかどうかという点にある。2003年1月30日、欧州委員会はこの問題について、不当な政府援助に該当しないかどうかを詳細に調査するとの決定を下した。従ってフランス政府が予定していた早期の90億ユーロの資金注入は実施できないこととなった。
 EUの調査がFTに及ぼす影響については楽観説、悲観説の双方があり、現段階では判定が下しがたい。FTはすでにフランス政府のバックアップを得て高まった信用を軸にして社債の発行を成功に導き、株価も上がったのであるから、増資前の政府資金はもう必要としないという楽観説が強い。EUの調査開始発表後、FTの株価はさほど下がっていない。
 ちなみに欧州における大手電気通信事業者の再建計画としては、2001年から2002年に掛けて、経営再建を完了したBTの計画が最初のものである。今、FTがBTに続き再建過程に入ったわけであるが、純粋の民間企業であるBTの場合、政府資金注入が得られなかったために、携帯、ISPなど本来BTにとって、事業の根幹をなす重要な部門を売却しなければならなかったともいえる。FTは政府が最大の株主である点を利用して、増資資金90億ユーロの拠出を得たのであって、この点BTより再建条件は有利である。FTはフランス政府との結びつきが強いため、他業者との競争上、不当に有利な立場にあるとの批判(今に始まったことでない批判)が、今後ますます強まるだろう。
 FTは、Orange(携帯電話)、Wanadoo (ISP)、フランスの固定電話、フランス外の諸国における固定電話を4主要部門と位置付けており、3年間の負債返済に当ってはこれら4部門がそれぞれ応分の資金拠出をすることが前提になっている。従って、仮にこれらの部門の1つでも欠けることがあれば、再建計画自体が大きく崩れてしまうことになる。EUの調査開始により、この基幹部門の1部売却という最悪のシナリオが進行する可能性があると論じる者もいるが、そうなるとFT2005の1大修正を迫られることになろう。
 いずれにせよ、1企業として未曾有の負債を抱えたFTの事業再建は容易なものではない。

FT2005の概要
背景

 最初に、過去7年間(1995―2001)のFTの主要な経営指標の変遷を表に示す(注1)。

表 過去7年間のFTの主要経営指標
 
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
売上(単位:億ユーロ)
225
279
234
246
272
336
430
負債(単位:億ユーロ)
133
163
154
131
146
609
697
従業員数(単位:万人)
15.2
16.4
16.5
16.9
18.3
20.3
22.7

 この表からだけでも、(1)フランステレコムの負債が特に2000、2001年の両年に大きく増えたこと、(2)売上も確かに伸びてはいるが、とても負債の伸びには追いついていないこと、(3)従業員も暫増しており、より生産性向上の余地があると見られることなどの点が伺われる。
 FTのブレトン新社長が「FT2005」計画を策定したのは、上表に見られるような経営悪化に対処するためであった(注2)。

「FT2005」の主要目標

  • 財務再建計画の根幹は、"15+15+15"である。これは次ぎの3分野からの対策により、2005年末までにそれぞれ150億ユーロずつの負債返済あるいはその他の面での財務強化を図ることを意味する。
    • TOP計画(経営内部から生み出したキャッシュフローによる負債返済計画)により150億ユーロを調達
    • 増資により150億ユーロを調達する。増資は、株主に対し持株数の比率で出資を求めるが、フランス政府(FTの56.4%株式を有する最大株主)からは90億ユーロの出資を求める。
    • 選択と集中の戦略:顧客の満足を満たし、またそれぞれの主導的な地位を保てる部門(FTの国内、国際固定通信部門、Orange(携帯電話部門)、Wanadoo(ISP)、Equant(ビジネス用國際通信部門)に重点を置き、戦略的、財務的な地位が弱いか、あるいは多数株を有していない資産は切り離しを検討する。
  • 2003年は配当を見送る。
  • 定年退職、早期退職を中心に、2005年末までに2万名を削減する。

TOP計画の概要
 FTの経営努力により、3ヶ年間に150億ドルの資金を生み出そうというTOP計画の概要は次ぎの通り。

  • 年別の基金の割当て
     2003年:20-25%、 2004年:35-40%、2005年:35-40%
  • 各部門別の資金割当て
     2003年の基金は投資減より生み出される部分が多くなる。投資節減分以外の資金の割当て比率は次ぎの通り。
       国内:固定通信:40-45%、Orange:35-45%
       外国における固定通信:12-17%、Wanadoo:3%弱

 なお、上記のTOPプロジェクトは、控えめな収入見積もりと多くのプロジェクトの積み上げ計算によって積算されたものである(注3)。

フランス政府増資資金の前払い計画
 ところでフランス政府は、FTによる増資資金のフランス政府分90億ユーロを事前に払い込み、これをFTの資金繰りを容易にする手段として利用させるようにする決定を行った。90億ユーロのFTへの振り込みはフランス政府から直接ではなく、EPIC(enterprise oublique a caractere industriel)を通じて行われる。これは政府資金の民間企業への投入を規制している欧州委員会の審査を考慮した措置であった。

EU、フランス政府のFTに対する資金提供問題について正式調査を開始
 2003年1月30日、EUはフランス政府によるFTへの90億ユーロの資金拠出がEU法に触れるかいなかについての正式調査を開始した。調査は最大18ヶ月の間、継続する。
 調査の焦点は、この拠出が政府に対し、政府の支配下にある企業の支援を禁じるEU規則に抵触しないかどうかであって、これまでフランス政府が提出した資料により行った初期調査では、まだ疑惑が晴れていないという点がEUが正規調査実施を開始した理由とされている。
 FTがFT2005を策定した2002年12月初旬頃には、EUは初期調査だけでフランス政府拠出を承認するだろうとの見通が支配的であった。しかし12月の末から1月に掛けて、EUの競争担当のMonti委員がこの件に強硬な意見を有しており、最近ではEUは正規調査に持ち込むものと見られていた。従って1月31日のEU発表は至極、冷静に受け止められている。
 フランス政府、FTはともに、EUに対し調査に協力する旨の声明を発表した。また、フランス政府は声明発表に当り、計画しているFTに対する信用供与は市場における私的投資家としての性格のものであり、政府援助としての色彩はない点を強調している。
 しかしアナリストたちは、EUがこの正式調査の結果、どのような結論を出そうと結論が出た頃には結論の実施自体の意味がなくなっているという事態が生じるので、EU調査の効果は大きなものではいと見ている。
 つまり、フランス政府が90億ユーロをFTの増資に振り込んでしまえば(これ自体はEUに関連無く行える合法的な行動である)、その時点からこの90億ユーロを事前に他の目的に使うことはあり得なくなるからである。
 FTにとって幸いなことに、2002年12月以降の段階で、フランス政府の強力なFTの支援行動が明らかになったため、市場のFTに対する評価が大きく高まり、この流れに掉さして、FTは85億ユーロに及ぶ社債の発行を成功裡に成し遂げることができた。従って今回、政府からの90億ユーロの融資は使えなくなったものの、FTは政府融資に頼らないでも充分再建計画の実行ができるというのである(注4)。


(注1) 2002年12月4日付けLes echos.fr, "Thierru Breton met France Telecom sous tension"の"FT sous la presidence de Michel Bon"の表及び図を基にして作成した。
(注2)「FT2005」の計画内容については2002年12月5日付けFTのプレスレリース、"France Telecom launches FT2005 to regain control over the future"によった。
(注3)果してFTの各部門から予定通りの負債返済のための資金が得られるかどうか首を傾げたくもなる。しかしこの計画の背景にあるのは、欧米の他の一般電気通信事業者とは異なり、FTの各部門の成長率、国内の固定通信部門を例外として、未だ充分に高いことである。最近FTは2002年通年の決算を発表したところであるが、それによると各部門の全期(2001年)に対する成長率の伸び率は次ぎの通りであった。
 Orange:12.8%、Wanadoo:32.4%、国内固定通信(-5.7%)外国固定通信(34%)
(注4)この部分は2003年1月30日Yahoo! Finance, "EU deepens probe into France Telecom"によった。

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