DRI テレコムウォッチャー


間近に迫ったUNE-P案件についてのFCC裁定、予想される大きなインパクト

2003年1月1日号

 現在、米国電気通信事業の規制案件では、UNE-P(unbundled network element-Platform)が最大の焦点になっている。UNE-Pとは、市内電話会社が競争業者に対し、自社の市内回線設備を各エレメントごとに料金を付して、競争業者に販売することを意味する。競争業者が市内通信市場に参入するに当っては、(1)自前の設備による(2)設備を丸ごと借りる(3)所要設備の各要素を借りる(この要素を単独にあるいは組合わせてサービスを提供する、UNE-P方式)の3方式がある。3方式のうち、UNE-PはもっともRHCに負担の多い方式であり、RHC側は長期間にわたり、これに反対の立場を表明してきたものである。
 FCCは1990年代後半以来、市内通話分野での競争を促進する目的で、RHCに対し、自社設備をコロケーション(競争通信業者との接続を行うため、自社構内への回線の引き込みを認めること)によって競争通信業者により利用することを認める方式(UNE-P方式)を推進してきた。
 この方式は、FCCからすれば競争業者に市場参入に当ってのインセンティブを与えようというものであって、いわば競争促進を行うために規制をすると言うべきものであった。しかし、既存通信業者のRHCからすれば、過大な自社の負担の下に競争業者にハンディを与えるものであるとの不満が強く、最初から訴訟に訴えることともなった。
 1996年電気通信法においては、アンバンドリングによる競争業者へのRHCからの回線設備提供についての規定が整備された。この規定を具体化するFCC規則においては、アンバンドル料金の設定方法について、通常のコスト主義によらないTELRIC料金原則を州公益委員会に推奨した。2002年5月の最高裁判所の判決がこの料金原則の合法性を認めたこともあり、かなりの数の州公益事業委員会がこのTELRIC料金を各州において、RHCに対して実施を義務付けている。TELRIC料金原則によれば、歴史的コストによらず、限界コストによるため料率はかなり安くなる。
 このため上記判決以降、市内通信市場への参入をここ数年間あきらめていたAT&TがUNE-P方式により市場参入するとか、CLEC(競争的市内通信事業者)によるUNE-Pの利用が増加するとかの現象が生じ、RHC各社は規制環境(つまりUNE-P体制の改変)が変わらなければ、事業の運営が困難になるとのPR、FCCへの働きかけを強力に行っている。

 2000年2月にFCC委員長に就任したパウエル氏は就任以来、FCCの規制のありかたについて、一層の規制緩和の推進、競争市内通信事業者のありかたとしては、自前設備による市場参入を強調している。従って、のびのびになってはいるものの2003年の2月末から3月初めには予想されるFCC裁定には、同氏の政策が反映された内容が折り込まれるものと予想される。
 この案件は、(1)米国の通信事業者の力関係に大きく影響すること(2)FCCの裁定は、片やアンバンドリングを法定した1996年電気通信法の枠組みおよび、TELRICの合法性を認めた最高裁判決(2002年5月)の内容との関連で定められなければならず、例えばFCCが事実上アンバンドリングの実施を行えないようにする裁定を下した場合には、通信法違反あるいは将来に向けての通信法改正の議論につながること(3)アンバンドリング、TELRIC料金原則は、欧米、わが国でも1部もしくは全部が実施されておりFCC裁定の中身いかんによっては国際的な影響も大きいことなど、それがもたらすインパクトはきわめて大きい。

 この重要案件についてはFCC裁定が出た後に再論することするが、本項ではFCC裁定が出る前の段階における利害関係者の動き、見解を中心として第1回目の紹介を行う。

関連する両裁判所の判決
1、米国最高裁の判決(2002年5月)―FCCによるTELRIC推進政策を支持―
 2002年5月14日、米国最高裁はTELRIC (長期増分コスト)による料金原則は違法であるとのRHC数社からの訴えに対する最終判決を下した。この訴訟は6年越しの長期にわたるのもであったが、最高裁はRHCの主張を退け、次ぎの2点についてFCCの見解を支持した(注1)。

  • FCCが州公益事業委員会に採用を勧奨しているTELRICの料金原則(注2)は合法である。
  • 市内通信設備を部分々々にわけ、それそれのエレメントを切り売り(アンバンドリング)をRHCに義務付けるFCC命令も合法的である(注3)。

 この判決は州公益事業委員会にきわめて大きいインパクトを及ぼしている。この判決を契機として、これまで係争中であるためその実施が躊躇されていたTELRIC料金原則を幾つもの州公益事業委員会が採用し、これをRHC各社に強制し始めたからである。TELRIC導入によりアクセス料金が下がったため、長距離電話会社、CLEC(競争的市内電話会社)によるアンバンドリング利用の市内通信市場参入が急速に進展し、2002年第2四半期におけるRHCの業績低下をもたらす要因となった(注4)。

2、ワシントン控訴裁の判決(2002年5月24日)−FCCに競争通信事業者の回線提供に抜本的見直しを求めるー
上記最高裁判決のわずか10日後の2002年5月24日、ワシントン控訴裁はRHCに対し、市内回線の個々のエレメント(たとえば交換部分とか、回線部分とか)をアンバンドリング(即ち、個々に料金を設定して)して、個別に販売することを義務付けている現行のFCC命令を根本的に見直すよう求める趣旨の判決を下した。  

 最高裁はアクセス問題のうち、その料率(TELRIC料金計算方法という形で)について合法であるとの判決を下したのに対して、このワシントン控訴裁の判決は、FCCのアンバンドリングのやり方について抜本的な見直しを命じたものである。両判決は、その対象を異にするから相互に矛盾するものではないが、最高裁判決は現行のアンバンドリング提供制度(その大きな要素としてTELRIC料金原則を含む)を容認し、ワシントン控訴裁判決は現行のアンバンドリングのやりかたについて見直しを命ずるという意味で対照的である。
 FCCは、ワシントン控訴裁判決について不服があれば控訴できたのであるが、これを行わなかった。この態度は、予め定められている3年ごとのアクセス制度見直しの機会(次回の見直しの期限は、2002年12月末)にワシントン控訴裁判所の判決に対する対応をも勘案の上、FCCが新たなUNE-P見直しの裁定を下すことを予想させるものであった。

FCCのUNE-P裁定が近づくにつれ、ますます激しさを増す利害関係者のFCCへの働きかけ

 最近の情報によれば、FCCは当初2002年末に予定していたUNE-P裁定を2003年の1月末から、2月初めに延期する模様である。
 UNE-P裁定に対する利害関係者の態度は、(1)UNE-Pを提供する側にあり、TELRICをベースにした料金では採算割れになるので、強く料金のアップを求めるRHC各社(2)UNE-Pを受ける側にあり、TERLICの継続適用を強く求める長距離電話会社(AT&T、WorldCom、Sprint等)およびCLEC(競争的市内通信事業者)および州公益事業委員会に2極化し、双方ともに激しくFCCに対し働きかけを行っている。
 表1にTERLIC料金計算法の破棄を求めるRHC3社の意見要約を示す。最も積極的なのはSBCCommunicationsであり、同社が実利を求めて具体的かつ斬新的な解決策を提示している点(後述)は注目に値する。

表1 アンバンドリング、TELRIC料金原則に対する利害関係者の見解
利害関係者
見解・提案
改革派
RHC4社
Verizon、SBCCommunications、Qwest Communications、BellSouthのRHC4社はいずれも、アンバンドリングによるサービス提供の廃止もしくはTELRIC料金原則適用の廃止を求めている。
その理由は、採算が取れないこと、即、競争業者にシェアを取られることを意味するため、加入者数が減少していること、投資の抑制を余儀なくされるためDSLの発展が遅れ、また機器メーカーの不振を増大させていること等を上げている。 なお、もっとも改革に積極的なのはSBCCommunicationsであり、同社は後述する通り、段階的にアンバンドリング料金をアップしていき、最終的にはアンバンドリングを廃止する具体的な提案を行っている(注5)。
現状維持派
長距離通信事業者、CLEC
アンバンドリング、TELRIC料金原則の廃止で、最大の打撃を受けるのはCLECであるが、最近CLECは、思惑はともかく、現行アンバンドリング体制の維持の目的を同一にする州公益事業委員会と事実上の共闘体勢に入った(注6)。これに対しAT&T、WorldComなどの長距離通信事業者は、現状維持を強烈に主張しているものの大きな行動を起こしているとの記事は見受けられない。
州公益事業委員会
州公益事業委員会は、FCCが定めるFCC規則を実施する責務を有する。ようやく2002年の5月の最高裁の判決により、TELRIC原則に基づくアンバンドリングを軌道に乗せつつあるさなかであるため、今後、FCCの方向転換により、アンバンドリング制度の廃止に向かうとなると、理念の点からしても方向転換に伴う労力の大きさからしても、厄介な問題である。しかもアンバンドリング方式によるそれぞれの地域での地域通信の競争の促進によって、経済の活性化が計られるというメリットの大きい場合もあろう。
このような事情から、州公益事業委員会の統合組織であるNARUCは2002年11月20日にUNE-Pを維持するに当り、州公益事業委員会の柔軟性を確保するやり方を行って欲しい旨を要請する書簡をFCCに送付した(注7)。

FCCパウエル委員長の見解と予想されるアンバンドリング制度の見直し

 パウエル委員長は、FCCができるだけ市場の動きに任せ、規制機関は市場に委ねた結果、事態が円滑に進展しない場合にのみ介入をすべきであるとの信念を有している(注8)。
 最近のパウエル委員長の発言として注目されるのは、氏が2002年10月2日に行ったコミュニコピア第11回会合における講演である(注9)。
 危機に直面している米国の電気通信事業を蘇生させるための対策を論じたこの講演の細部を理解することは、婉曲な表現があるためやや難しいが、講演の第iii項「規制改革―政府は経済の生産性を促進できるかー」の結論部分を読む限り、パウエル氏が1996年電気通信法の適用に当り、これまでFCCがRHCによる競争通信事業者へのアンバンドリング提供の施策を失敗であったと断定し抜本的な規制の変革を考えていることは間違いない。氏は次のように、競争業者が自前で建設した設備によりサービスを提供することの有利点(裏返せばリース方式による競争政策導入の批判)を列挙しているからである。

  • 自前設備の競争によってのみ、通信事業者の機器への支出が増大する。
  • 自前設備の競争によってのみ、競争業者は数多くの方策を講じて市場参入を妨害しようとする既存通信事業者への依存を少なくすることができる。
  • 自前設備の競争によってのみ既存事業者を完全にバイパスでき、これら業者に卸売り収入全額喪失を償うための革新を強制できる。
  • 自前設備による競争によってのみ、わが国は保安目的、国家緊急事態に対処し得るためのネットワークの余裕を一層多く持つことができる。

SBC Communications 、UNE-P廃止を前提とし、経過措置を提案

 これまで、UNE-P実施に伴う損害をもっとも声高に主張してきたSBCCommunicationsは、11月20日、UNE-P廃止を前提とするものの、住宅用加入者に対しては充分な過渡的切り換えのための期間を置く旨の次の過渡的措置をFCCに提出した(注10)。

  • FCCがUNE-P裁定(Triennial Reviewに関する)を行った当日から、ビジネス用加入者に対するUNE-P要件を廃止する。
  • 現在のUNE-P顧客が新たな料金制度に切り替えるための経過期間12ヶ月を設ける。
  • 住宅用顧客に、月額26%の料金(RHCにとっては利益の見込めない料率)により、実質的にはUNE-Pと同等のサービスを提供する過渡的期間、2年間を設ける。

 しかし、現状維持を強く主張するCLEC、長距離通信事業者の側は、SBC Communicationsによる上記提案に反対している。
 実のところ、UNE-Pに関する問題のほとんどは、アンバンドルされた各サービスエレメントの料金水準を巡る対立なのであって、ここに枠組みの見直しに立ち入らないでも、激しく対立するRHCと長距離通信事業者、CLECとの利害を調整するカギがあると主張する意見も数多く見られる(注11)。
 ただ、すでに紹介したように、パウエル氏がこれほど強く自前設備による競争の利点を強調(裏返せば従前のFCC通信政策の批判)している以上、あと1、2ヶ月のうちに迫ったFCC裁定が料率調整に留まる可能性はあり得ないと考えられる。
 しかもその後に引き続くのは、相も変らぬ当事者(長距離通信事業者、CLECだけでなく、多分管轄権を侵害されたとの理由から州公益事業委員会からも)からの訴訟であろう(注12)。


(注1) 2002.5.14付けウォール・ストリート・ジャーナル、Supreme Court Rules Against Bells
(注2)Teleric料金原則とは、長期増分コストに基づきアクセス料金を算定するものであって、設備を有する事業者がその設備を利用させる場合に生じる限界コストにより、料金を課する方式である。埋没コスト(それまで行われた投資コスト)の回収を意図する通常の料金設定に比し、料率は低くなる。
(注3)2002.5.28付けエイシャン・ウォールストリート・ジャーナル、"U.S Court Orders Overhoul Of Rules for Network Sharing"
(注4)2002年11月1日号のDRIテレコムウォッチャー、「成長が止まったRHC3社―2002年次第3四半期の決算報告からー」
(注5)4RHCの意見に関する資料は数多いが、大同小異であるため代表的な事例として次の資料を挙げるにとどめる。
2002年9月26日付けCBSMarket Watch、"BellSouth CEO pleads for relief"
(注6)2002.12.1付けTelecommunications Report, "CLECs Get State Backing In Fight to Keep UNE-P: Some See Seeds of deal"
(注7)同上の論説
(注8)パウエル氏はこれまで幾つかの講演会の場等において市場重視の見解を発表しているが、FCCにおける公式の場でその旨を発言したのは、2002年3月、FCCがブロードバンドサービス規制緩緩和について、調査告示を發出したときであった。2002年4月1日付けテレコムウォッチャー、「FCC、ブロードバンドサービス規制緩和についての2件の調査告示を發出」
(注9)2002年10月2日付のFCC配付資料、"Remarks of Michael K.Powell at the Goldman Sachs Communicopia XI Conference"
(注10)2002.11.20付けYahoo!Finance,"SBC Proposes Transition Plan To a Viable Wholesale Model"
(注11)2002.12.13付けTelecommunications Report,"Clecs Get State Backing in Fight To Keep UNE-P; Some See Seeds of a Deal"
(注12)米国の多くの論評のなかで、1996年米国通信法の規定との関係についてふれるものが見当たらないのは、筆者にとっては不思議である。通信法第251条(c)、(3)では、RHCはアンバンドルベースでのアクセスサービス提供の義務が定められている。パウエル委員長が来るべき裁定で、事実上アンバンドリングを廃止に導く内容を折り込んだ場合は、この条文に違反する行為を行ったことにならないだろうか。言葉を変えれば、アンバンドリング制度の廃止のためには1996年電気通信法改正の措置が必要なのではないかとの疑問を禁じえない。

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