今月のMarket Snapshotでは、Power over Ethernet(以下:PoE)がもたらす利点に焦点を当てる。今年6月、米国の標準化団体Institute of Electronical and Electronics Engineers Inc.(通称:IEEE*)より承認された標準規格IEEE802.3afに準拠するPoEは、1本のEthernet UTP(Unshielded Twisted Pair)ケーブルを利用して、電力供給も行う技術である。従来、ネットワーク機器の利用には、データ通信用ケーブルの他に、機器を稼動させる際の電源用配線も必要とされてきたが、PoE技術の導入により、UTPケーブルが敷設されている環境下であれば、別の電源ケーブルを使わずにネットワーク機器を動作させることができる。給電能力については、USBの5V/2.5Wと比較した場合、48V/15.4Wとかなり高いため、さらに幅広い機器への活用が期待されている。勿論、安全な高圧の直流送電を図り、通常のデータ送信機能への影響を回避する上で、いくつかの条件が設けられている。例えば、IEEE802.3af規格においては、LANを通じて送電される電力の雑音およびリップルが最大限100mVと定められており、他の電源に要求される値より低い。また、ワイヤー間における絶縁耐圧も直流2.25kVが条件となっている。
PoEの価値が見出される場面は、企業の規模が大きいほど、つまり社内全体で利用するネットワーク機器の数および設置場所が多いほど広がりを見せる。また、電源用配線やコンセントを省略化することで、導入コストが全体の50%近く削減できるとも謳われている。その主な適用例としては、社内のIP電話、無線LANのアクセスポイント、ウエブを活用した監視カメラ等がある。通常、IP電話の導入にはEthernetの配線と電源ケーブルの両方が必要である。つまり、一般電話用のジャックとは異なり電源供給機能が独立しているため、各機器用に無停電電源装置を設置しておかなければ、停電時に電話サービスが中断する恐れがある。このような理由から、IP電話の利便性と安価なコストに納得しながらも、導入に踏み切れずにいる企業は結構多い。しかし、PoEを導入すれば、基本的にUTPケーブルの接続だけでIP電話環境が整う。また、電源アウトレットの位置に左右されず、電話機本体を比較的自由に配置できる点も今後、企業レベルでのIP電話導入を促進する要素となるであろう。この他、PoEによる電源用配線の省略化は、無線LANアクセスポイントやウエブベースの監視カメラなど、効率面から建物の天井付近に設置するのが望ましい機器にも実用的である。
PoEにおけるもうひとつの利点は、ネットワーク管理業務の簡便化、延いては人件費の削減に言及される。先に少し述べた停電時の対策として、これまでは機器ごとに無停電電源装置を準備する必要があったが、PoE対応の機器を利用すれば、同装置を1ヶ所に設置・集中管理できるため、無線LANの動作を容易に続行することが可能だ。不具合が発生した際でも、ネットワーク管理者が労力と時間を費やし、膨大な数の機器やアクセスポイント間で保守を行う必要はなくなる。
このような利点から、特にIP電話の導入を目的とした大企業を中心にPoEの普及が期待されている。IEEE802.3afに準拠したASIC、モジュール、ハブ等を手掛けるPowerDsine社Igal Rotem氏(Chief Executiveおよび共同創設者)の予測では、PoEポートは今後6ヶ月〜8ヶ月の間に出荷されるEternetポート全体の12%を占め、3年〜5年後には全てのEternetポートに電力供給機能が内蔵される見通しだ。同氏の見通しはCisco、Avaya、Alcatel、3Com、Nortel Networks、Siemen、Mitel各社によるPoE対応IP電話への積極的な取り組みにも裏付けられている。
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