米(ベイ)エリアIT通信


WNP制度で維持できる携帯電話番号

2003年11月号

 今月のMarket Snapshotでは、米国内約100箇所の大都市圏を皮切りに11月24日より施行されるWireless Number Portability規制(以下WNP)に焦点を充てる。今後約6ヶ月の間に全国展開を目指すWNPは、米国内の携帯電話利用者が他の携帯電話事業者に切替える際、現行の電話番号を維持利用できる制度として、FCC(米連邦通信委員会)が1996年に提案して以来、議論と施行日の延長を繰り返した結果、携帯電話事業者に義務付けられた新規制である。これまで、携帯電話番号を変更してまで事業者を切替えるほどのメリットが無かったため、利用者は選択の余地をほとんど持っていなかった。しかし、WNP制度の施行によって、他社からの鞍替えと共に、主導権もキャリアから利用者へと移行することになる。

 利用者が他の携帯電話事業者へ切替える場合、電話機の機能性、使い易さ、サービスプランの料金設定や種類など理由は様々である。実際、大手の携帯電話事業者は、ここ数年の間に各社とも独自の特典(週末の通話時間を制限しないサービスや、ファミリープランとして2台目の電話機が無料提供されるなど)で差別化を図り、鞍替えする利用者の関心を惹こうと躍起になっている。営業分野は然ることながら、携帯電話事業者らが最も大規模な投資を行ったのは、自社ネットワークの拡大と改善の領域であった。主要携帯電話事業者らのネットワークに対する投資額を合計すると、1998年から2002年の間で300億ドルにも達している(Business 2.0誌)。しかし、単純に利用者の立場を考えた場合、今回のWNP制度を切欠に(利用者が)ある意味、自由な選択肢を以って解放された未知の状況下では、技術面でのサポートを含めたカスタマーケアの充実こそが、新たな事業者を選択する大きな要因となるのではないだろうか。特に、同制度の施行時期が年末のホリデーシーズンと隣接していることや携帯電話事業者にとって第4四半期は売上のピークに当るため、利用者からの質問に対する確実な応答、混乱の回避を目指し、携帯電話事業者ではコールセンターにおける人材確保、研修プログラムの徹底など顧客対応策に取り組んできた。Convergysによると、ユーザ全体の3割近くが事業者の切替えを検討しており、その手続に関連した問合せだけでも、同制度の施行から最初の4ヶ月間で1億件に達するものとの予測がある。こうした事態に備えるよう、米国内の主要携帯電話事業者6社(AT&T Wireless、Verizon Wireless、 Sprint、Nextel、T-Mobile USA、Cingular Wireless)では各社ともWNPコールセンターを設けており、エンタープライズポート向けのコールセンターを設置した事業者Sprint、Nextel、Verizon、Cingularのうち、現時点ではSprintとNextelがエンタープライズ対象のWNPガイドラインを打ち出している。

 上述の現状からも分るように、WNP制度に対する事業者らの準備態勢は、大きな収益源であるビジネス顧客に注力したものだ。In-Stat/MDRの調査結果によると、現在、米国の通信経費におけるワイアレスサービスは全体の22%を占め、その40%がビジネス目的で利用されている。特に2003年で見ると、国内のビジネスユーザによる携帯機器での音声通信には、363億ドルの支出が見込まれている。売上の鍵を握る法人顧客が事業者の切替えに乗り出せば、携帯電話業界に新たなレベルの競争が促進される。そのため、キャリア各社の法人顧客、ビジネスユーザに対する勧誘の波は高まる一方だ。では、キャリアの切替えを以前から検討してきた法人顧客は、それを即実行に移すべきだろうか?これに対する業界関係者の見解は、あまり積極的なものではない。その背景には、大手携帯電話事業者間における手続上、技術面でのコミュニケーションが未熟な状態にある点が指摘されている。例えば、施行日が近づくにつれ、他社間でのサービスレベル合意が次々と発表されてきてはいるものの、11月初旬の時点で、肝心な他社間でのポーティング実験を完了した事業者はまだ存在しない。従って、企業のCIOやIT管理者らは、疑問点への確実な回答が得られるまで、施行日に左右されることなく、慎重に各社のベネフィットを比較検討することが賢明というのが、一般的な見方である。企業が明確にすべき疑問点には、例えば:(1)ポーティングが完了するまでの期間、(2)ポーティングの手続き中でも、携帯電話をいままで通り使用できるか、(3)重複などないように課金手続が円滑に処理されるか、(4)音声通信に限らず、テキストメッセージングやアプリケーションアクセスもポーティングに含まれるか等が考えられる。全体的には、法人顧客が事業者に対し、ポーティングに関する正式的な提案書の提出を依頼するのは、2004年中盤あたりと予想されている。

(c) 2003 KANABO Consulting


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