今から20年ほど前に遡るが、『Psychology Today』誌で米国の成人を対象に「人生の中で最も楽しいと思うもの」をアンケートした結果、一位は音楽であった。以来、現在に至るまで次々と登場する新種のオーディオ関連製品に需要が追いついている事実からも、アメリカ人の音楽に対する関心が依然として高いのが分る。特に、車社会に暮らし、時間の有効利用を重んじるアメリカ人にとって、渋滞からのストレスを緩和し、快適な通勤時間を過ごす手段として音楽を聴くことは、想像以上に重要なのかもしれない。現在、米国内で運転される自動車の数は約2億台で、人口全体の約1億1500万人が一日平均2時間半を通勤時間に費やしている(U.S. Department of Transportation)。その間、大半の運転者が主にラジオから音楽を聴いて過ごすと言われている。FM/AMラジオの利点は、無料で手軽に交通情報や天気予報、スポーツ実況、音楽などを聴けることだが、同時に番組の数や種類に限りがあり、個々人の趣向に合った内容が得られないという弱点もある。また、ラジオ番組の制作と運営は概して広告費に依存しているため、番組の途中で頻繁にCMが入る。ところが、無料であれば諦めもつくこれらの弱点が解決され、好きなジャンルの音楽を高音質で聴きながら毎日快適に通勤できるのであれば、有料でラジオ番組を受信する価値は十分ある。こうした見地から、90年代に始まりホームエンターテインメント分野へ活気をもたらした衛星TV放送(DirectTVやEcoStarに代表される)の基本概念をオーディオの世界で実現したのが、サテライトラジオである。UHFやVHFアンテナを使えば無料でTV番組を受信できるにも拘らず、視聴番組の種類と内容の充実を求め、アメリカ人全体のおよそ8割強がケーブルもしくは衛星TVに加入しており、将来、ラジオについてもこれと似たような状況が期待されている。
現在、米国連邦政府のFCCより認可を受け、サテライトラジオ放送を提供している企業はXM Satellite Radio(Nasdaq:XMSR 本社ワシントンD.C.、以下XM社)とSirius Satellite Radio(Nasdaq:SIRI 本社ニューヨーク市、以下Sirius社)の2社である。近年、Satellite Newsが発表した調査結果では、国内全体で60万人とされるサテライトラジオ放送の加入者数は増加傾向にあり、今年度の第2四半期末までには80万2000人に達するとの見込みがある。さらに各社別の2003年末における加入者数(合計)は、XM社で100万人、Sirius社でも30万人が予測されている。
一家に一台ならず「一人に一台」とも言われる米国の自動車所有率に着眼したサテライトラジオの主要ターゲットは、自動車メーカーである。The Carmel Groupの予測によると、2008年までには米国内でサテライトラジオを搭載した自動車は、総数2億4300万台の10分の1を占めるようになる。現在のところ、自動車向けのサテライトラジオは、顧客のリクエストによってオプションとして搭載されるのが一般的であり、工場出荷時インストールされた市場で本格的に動き出すのは、早くて2005年頃との見方もある(Satellite News)。それまでは、大型家電チェーン店をはじめ携帯電子機器を専門とする小売店を通じ、主にアフターマーケットでの売上を着実に伸ばしているのが現状だ。今後の動向については、(1)自動車メーカーがサテライトラジオの価値をより高く評価し、(2)カーディーラが最適な販売戦略を打ち出す、また(3)屋内専用の製品が充実し、一箇所に数台のシステム導入をすることで受信料の値下げができれば、住宅や法人での利用率が上昇するといった可能性が考えられる。
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