Market Snapshotのテーマで米国のWi-Fiネットワーク事情をご紹介してからちょうど一年が経つ(2002年5月号を参照)。その間、随所で見かけるようになった公共のホットスポットは、現在世界全体で約2万拠点と数えられ、2007年までには6倍の12万拠点に拡大すると予想されている。また、これらホットスポットの利用者数は2006年で5,000万人に達するとの見方がある(Gartner Dataquestより)。
公共のエリアに限らず、社内や家庭内においても無線LANの浸透速度は高まっている。こうした現状に着目したベンダ各社では、無線LANを利用した音声通信用の製品開発に取り組み始めた。In-Stat/MDRの調査結果によると、2002年に出荷された802.11b対応型ハンドセットは僅か3万台であり、このVoWLAN(Voice over WLAN)はまだまだ規模の小さい市場である。だが、その売上高は2002年の1650万ドルから2007年には5億700万ドルに増加するとの予測もあり、将来、高い成長性が期待されている。現在のところヘルスケア、高等教育機関、製造業、小売業を中心に市場機会を見出しているが、数年後は、企業がメインターゲットとなるようである。
これまで建物内のカバレッジに弱かった米国の無線キャリアにとって、企業ユーザの獲得は長年の課題であった。建物の外部にマイクロセルやピコセルを設置するのは必ずしも費用効果的でなかったり、仮に建物内のカバレッジに支障がなくても、無線機器より有線電話を好む米国人の嗜好がネックとされてきた。従ってVoWLAN技術の開発には、無線キャリアの頭痛を解消する(企業ユーザの獲得)という使命がある。ここで面白いのは、VoWLAN技術のベンダ各社が様々な市場から進出している点である。例えばVoIPのサプライヤであるCiscoやAvaya等が有線のIPネットワークから無線のそれへと移行したり、無線LANを得意とするSpectraLinkやSymbol Technologies、新興企業のVocera(バッジ装着式のデバイス)やTeleSym(ソフトフォン)も介在している。Ciscoでは最近、新製品を発表したが、これに続く他社の製品実用化にはもう少し時間がかかりそうだ。以下では、各社製品の開発状況について簡単に説明した:
□Motorola、Avaya、Proximの3社が共同で携帯電話ネットワークおよびWi-Fi無線LANに対応した移動体機器を開発。ユーザは、セルラーおよび無線ネットワーク間で移動しながら音声通話を継続できる。2004年の一般出荷を目標に、今年後半から試験運用を予定。
□Cisco Systemでは今年6月より携帯型Wi-Fi電話「7920」の販売を開始する予定。イーサネット接続により音声通話を行う同社製IP電話「7960」の無線バージョンで、社内のWi-Fiネットワークを介して接続する携帯電話が付属する。
□Symbol Technologiesは昨年、トラック運転者を対象にWi-Fi/携帯電話通信システムを発表。運転中にセルラー電話を通じて、各日の配達件数など必要情報を送信したり、Wi-Fi装備のドックではより具体的な情報をアップ・ダウンロードできる。
□Nextel CommunicationsではMotorolaとの連携により、携帯型のWi-Fi電話を開発。プロトタイプの試験運用は2003年Q2に予定されている。
前述した通り、今のところ限られた垂直市場においてではあるが、VoWLAN機器の利用は拡大傾向にある。今後、米国においてその成長を左右するのは、無線キャリアによる企業ユーザへの積極的なサービス提供である。例えば、企業に対してデータ/音声ゲートウェイを提供できれば、サービスを無線LAN環境全体に供給することも可能である。これを実現する上で、キャリア各社はSI企業やハードウエア・メーカーとの提携関係に力を入れていくべきであろう。また、ベンダにとっては、バッテリー寿命の長い携帯型Wi-Fi電話機を開発していくことが、課題のひとつと言えそうだ。
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