今月の Market Snapshotでは、米国のInstant Messaging市場に焦点を当てる。IMと いう略称でも広く親しまれるインスタントメッセージングは、同種のソフトウエア ユーザ間でチャットを行ったり、ファイル転送するシステムである。インターネット 接続時には、PCのデスクトップ上に、事前登録した交信相手のからのメッセージ受信 通知や、オンラインチャット可能な状態である等のステータスが表示される。ユーザ は交信相手のステータスを確認しながら、リアルタイムでメッセージやファイルの交 換、チャット等ができる。同技術の歴史は1996年、イスラエルのスタートアップ企業 Mirabilis社が発表したICQ(読み:I seek you−英語では「相手探し」の意味合い) に遡る。以来、1998年にAOLがMirabilis社を買収(2億8700万ドル)したのを契機 に、現在、世界中で1億8000万人がAOL Instant Messengerを利用している。これに次 いでICQサービスが1億3000万人、1999年にスタートしたMicrosoft MSN Messengerで 7800万人、さらにYahoo! Messengerでは2100万人のユーザを抱える。Osterman Researchが2003年2月に発表した報告書によると、現在、企業内での利用割合は20% 程度であるが、2007年までには90%を上回るとの予測がある。
このような浸透率の高さと速度の背景には、ブロードバンドの普及によってインター ネットの常時接続ユーザが増加したことが考えられる。また、簡単にインストールで きる点も主な理由であろう。私的なコミュニケーションツールとして家庭用PCに無料 でダウンロードしたサービスは、会社の同僚や社外の人同士での利用へと発展して いった。その浸透度は加速の一路を辿り、2003年に入ってからはIT管理者の知らない 間にMSNやYahoo、AOLなど公衆網を通じ、米国内では2500万人のビジネスユーザへと 拡大していった(Yankee Group)。
社内におけるIM利用には、賛否両論の声がある。企業にとってのマイナス面は、IT管 理者の目に届かないため、企業ネットワークにおけるセキュリティの脆弱性が増大す る可能性がある、または仕事の生産性が劣るといった点が指摘される。かといって企 業がIM利用を禁止すれば、社員の労働意欲を損なう恐れもある。また、金融サービス やオンラインリテール業界においては、顧客との効率的で迅速な通信手段としての利 用価値を無視できない。事実、IM利用の環境として企業の占める割合は年々増加して おり、ビジネスユーザ数は2002年の3500万人から2006年には世界全体で1億1800万人 に達する見込みである(Radicati Group)。従って、昨今の企業にとってIM利用の是 否は、重要かつ複雑な問題なのである。
前述した通り、社員の個人的な判断によるIMサービス利用は、企業のセキュリティに 影響を与えかねない。例えば、証券会社ではSEC(The Securities and Exchange Commission:米証券取引委員会)の規定に則して、全ての電子メッセージについては 過去3年まで遡った記録を保存するよう義務付けられている。ところが、前述した業 界トップ3社が提供する従来のIMサービスには、CIOによるロギングおよび監視機能が 欠如していたため、ウォール街の大手証券会社5社に対し、SECの規則に反するとして 総額825万ドルの罰金が課せられた。このような経験からも、金融業界に留まらず各 界の企業では、ここまで浸透してしまったIMサービスを一掃する代わりに、プラス要 素を向上させ利益に繋げていくよう、管理とトラッキング作業を徹底する必要性を実 感し始めている。Gartnerの調査結果によると、2005年までには全体の50%に相当す る多数の企業がIMソフトウエアを導入するものとされている。企業におけるニーズに 対応するよう、ベンダ各社では充実したIMシステムの構築を本格始動するようになっ た。YahooのMessenger Enterprise EditionやAOLのAIM Enterprise Gatewayをはじ め、MicrosoftでもWindow Server IM Platformを今年の年末に発表する方針である。 また、業界アナリストらの予測では、これらキープレイヤーの他にも現在、米国には 約50社のベンダがIM市場に介在しており、エンタープライズを対象とした製品・サー ビス開発に取り組む企業の割合は増加傾向にある。
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