DRI テレコムウォッチャー/IT ウォッチング

「IT ウォッチング」シリーズは毎月掲載!!


  Windows XP Media Center Edition 2004のインパクト
  (ITアナリスト 志賀竜哉氏)
2003年10 月25日号

 Windows XP Media Center Edition 2004が日米で相次いで発表された。これは、マイクロソフトの家電市場へのチャレンジが再び行われたことを意味し、うまくいけば人々のデジタルメディアライフに変革を与える可能性がある。しかしその裏でいくつかの懸念も指摘される。また、日本では今ひとつ盛り上がっていない。

■メディアセンターの所以

 Windows XP Media Center Edition 2004(以下WMC2004)とはWindows XP Professionalの上位セットにあたり、これをベースに多くのでデジタルメディアを統合的に扱えるようにしている。かつてFreeStyleのコードネームで紹介されていたものだ。うたい文句としては、テレビ鑑賞/録画、DVD再生/録画、音楽CDの再生/コピー、その他音楽コンテンツのダウンロード、またデジタルカメラのメモリを読み込み写真鑑賞、編集などが1台のWindowsパソコンで統一された操作体系の中で扱えるようになるというものだ。それにゆえに「センター」を名乗っている。
 米国では今回のアナウンスは熱狂的とは言えないが、さすがパソコンの聖地だけに比較的好意的に迎えられている。というのは、これによってデジタル家電製品への価格圧力がかかるとみられているからだ。パソコンのビジネスモデルで経験しているが、水平分業的にソフトウエア供給されると、ハードウエアは価格競争に陥りやすくなる。DVDレコーダ、テレビチューナー、CDプレイヤ、パソコンをばらばらに買うと、おそらく20万円は超えるだろう。ところが、パソコンにすべてモジュールとしてまとめ、Windows XP Media Center Edition 2004でコントロールすれば、10万円もあればできてしまう。これまで家電市場に参入できなかったパソコンメーカーにもそのチャンスは訪れるというわけだ。そういったパソコンメーカーを束ねる意味でも「センター」といえよう。

■盛り上がりに欠ける日本

 ところが日本では今回のアナウンスをめぐっては盛り上がりに欠ける。というのは、すでにテレビパソコンをうたう製品は2002年の日韓ワールドカップサッカーの商戦期に合わせて国内メーカーがWMC2004に先立ち個々に製品化しており、また、ソニーやNECからも音楽を楽しむスペックを充実させたパソコンも市場に出回っている。特にソニーはVAIO向けにGigaPocket といった優れたテレビ録画機能ソフトを発売して久しく、家電王国の日本からみればWMC2004は周回遅れでやってきたに過ぎない。ソニーはWMC2004を採用していないし、NECや富士通も一応は採用するが、自社の独自ラインには売れ筋価格をつけておき、こちらの製品は異なった製品ライン、価格帯を設定し、競合を避ける戦略をとっている。富士通はAMDの64ビットCPU搭載品に採用する予定で24万円前後の価格帯になりそうだ。外野から見る限りあまり熱意は感じられないのが実情だ。

■PCベースか従来型家電の選択肢

 さて、今回のWMC2004だが、これまでテレビはテレビで、音楽はCDで、ラジオはラジオで、といった具合にさまざまなメディアがばらばらにデバイスと1対1対応していたものが、デジタル化されていればまとめてパソコン上で取り扱えるのがミソだ。パソコンで成功した水平分業の仕組みも活用できる。さらにWMC2004自体はパッケージ単体を販売することはなく、すべてプリインストール版として発売される。つまりOEMとしてメーカーの背後に隠れることになる。しかし、名もないハードメーカがブランドイメージが重要な家電市場に参入するために、マイクロソフト・ブランドが使えるという仕組みだ。場合によっては非常に低価格でテレビ、DVD、音楽CD、ホームシアター・サラウンド、といったデジタルAV機能がまとめてWMC2004マシンの名のもとに提供される可能性もある。洗練されたブランドの家電製品と多少無骨だがとりあえずマイクロソフト製品を使った安いパソコンベースのデジタル家電機器のいずれかの選択肢ができることになる。

■気になるP2Pユーザー

 しかし、気になるのはメディアがデジタル化したことでP2P(ピアトゥピア)のファイル交換についてだ。ちなみにテレビ番組コンテンツに2次コピーを防ぐフラグがつけられ、そのパソコンでしか鑑賞できない仕組みが使われるため、テレビのデジタル化が進む米国では抑止力にはなる。しかし、音楽CDやアナログ番組はどうだろう。これまでWinMX、WINYなどのファイル交換は一部のマニア(全世界で推定3,000万人といわれる)にしか普及していないとはいえ、すでに音楽産業に多大な悪影響を与えていると指摘されている。WMC2004がプリインストールして家電的にマーケティングされることでこれまでのパソコンユーザー層の裾野は間違いなく広がるだろう。となるとデジタルメディアを統合的に扱えるため、これまで一部パソコンユーザー層にとどまっていたおそらくは違法なファイル交換の習慣がさらに裾野を広げる可能性がある。ハードウエアの価格も下がる。市場の裾野がひろがる。これがコピー天国の中国などで普及したらどうなるだろう。考えただけでぞっとする。


「DRI テレコムウォッチャー/IT ウォッチング」 のバックナンバーはこちらです


COPYRIGHT(C) 2003 DATA RESOURCES, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.