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  ホームサーバーが市民権を得る条件とそのインパクト  (ITアナリスト 志賀竜哉氏)
2003年4月25日号

 2002年からパソコンメーカーや家電メーカーからホームサーバーなる製品が登場してきた。“ホームサーバー機能を備えたxxx”や“xxx機能を持ったホームサーバー“など、各社とも我田引水的な解釈で製品化しているが、いまのところ一括りに出来ず、まさに “進化の途上”にある製品と言える。それはさておき、ホームサーバーとは一体どのようなもので、今後我々の生活に欠かせないものになってゆくのだろうか。またインターネット社会、ユビキュタス社会にどのような影響を与えるのかなどを考えてみたい。

■ホームサーバー出現の背景

 ホームサーバーが出現してきた背景は、まず第一にADSLやケーブルTVなどのブロードバンドの普及がある。家庭でもネットワークを組んでファイルやコンテンツをやり取りすると便利であることが知られてきた。つぎに、パソコンとテレビの融合。パソコンメーカーは新たなアプリケーションとしてDVDを搭載しテレビ録画機能をアピールする一方、ビデオ機器メーカーはハードディスクやDVDで録画する新しいモデル発売するなど、パソコンやビデオが実はテレビにとってサーバーとして位置付けると便利であることが分かってきたことが上げられる。きっかけはメーカー側が2002年のワールドカップ・サッカーを商機ととらえ製品の発売が集中したためだ。パソコンもビデオも“追いかけ再生”などと言ったハードディスクとメモリを駆使したパソコンで言うマルチタスク機能を使うことで、パソコンとビデオが急接近してきた。そこで「2002年はホームサーバー元年」と言われたが、今年になってもやはり「2003年こそホームサーバー元年」と言われているところをみると、まだ市民権を獲得したとはいえないようだ。
 まだ認知度が低い理由の一つに、ホームサーバーの良い日本語訳が見当たらないために、一言で説明できない悩ましさもある。複数メーカーが様々なアプローチをしていることからもお分かりいただけるだろう。しかし、ここにきて概ねホームサーバーの基本的な機能は徐々にまとまってきたように思える。まず第一に、家庭内のパソコンを複数接続し1本のブロードバンド回線をみんなで使うルーター機能、第二にプリンタやファイルを共有するプリント/ファイル・サーバー機能、第三にビデオ録画機能を中心に巨大なハードディスクに映像や音楽を蓄える機能、さらには第四にテレビ放送やDVD再生を他のパソコンに配信するメディア・サーバーとしての機能と、この四つの機能がホームサーバーの基本的な機能に収斂しているようだ。いうなればユビキュタス時代における家庭の情報センターと言えるかもしれない。

■各社のホームサーバーの出自

 ここで各社から出されている“ホームサーバー”を自認する製品を見ていこう。まずパソコンをベースとしたものは、NEC、富士通、東芝、ソニーなどが製品化しているパソコンの最上位機種で、各社とも多少の差はあるが概ね、TVチューナー内蔵、ビデオ録画編集機能、DVD録画、無線ルーター機能で映像、音楽、各種ファイル配信ができるパソコンだ。テレビとパソコンとDVDとネットワーク機能を纏め買いするようなもので価格も30万円前後と安くない。
 2番目が家庭内LANを構成するルーターに種々の機能を付加したもので、無線LANルーターにハードディスクを内蔵させ、ファイルサーバーとしてファイル共有をしたり、TVチューナーを内蔵させTV番組を録画したり、TV番組をネットワーク内のパソコンに配信したりするものだ。これは無線LANルーターとハードディスクビデオをまとめたものなので5〜6万円で買えるが、パソコンの周辺機器としてパソコン関連メーカーから発売されいるだけに、操作感覚はまだコンピュータ的だ。2003年3月にシャープから発売されたHG-01S、愛称“ガリレオ”と言う製品が出ているが、無線LANにビデオ録画、さらにサーバー内にホームページも作成でき外部のパソコンや携帯電話からコントロールできるなど最も統合が進んでいる。3番目がビデオをベースにしたもので、ハードディスクビデオにブロードバンド接続機能と無線LAN機能を付加したものでパソコンへ映像配信も出来る。この製品は家電メーカーからビデオの上位機として出されているだけに家電的な操作感覚で、リモコンでビデオを操作するように扱えるのが特徴だ。
 ここまでくるとお分かりのように、要するにそれぞれの違いは、ブロードバンドとの接続、家庭内LAN、映像/音楽配信機能などに異なる皮をかぶせているだけであり、共通面は、デジタル・コンテンツ、デジタル・ファイルをまとめて取り扱い、家庭内に存在するコンピュータやTVに情報サービスすることだ。
 となると、ホームサーバーは様々な機能をまとめることがミッションであるため、今後おそらくはオールインワン型というか、ハイブリッド型というようにとにかくどんどん機能を統合することが宿命付けられる。

■我々の生活はホームサーバーでどう変わる?

 さて、ホームサーバーが普及すると我々のライフスタイルはどのように変わるのだろうか?最も大きいのは、TVとパソコンの相互配信が可能になることから、我々はインターネットのWeb情報とTV番組をもはや区別しなくなるだろう。特に2003年から試験的に始まる地上デジタル放送が普及すれば、双方向型番組やとにかく録画しておいてあとから好きなときに視聴する蓄積型放送などが一般化し、その傾向は加速するだろう。次に、手元のTVやパソコンに情報をサーバーから配信してもらうスタイルが一般化すると、二つの変化が起こる。1つはコンテンツを「所有」することはナンセンスで「利用」すべきものだという考えが浸透し、レンタルビデオ店が普及したように、個人向けのデータセンターが普及する。もう1つは、端末の形が変わる。サーバーからコンテンツ、データを受ければいいだけだから、パソコンの機能は限りなくシンプルでよくなるわけだ。改めて最適なクライアント・パソコンはどのようななものか、最適な形のホームサーバーはどのようなものかが議論されるだろう。最後に、コンテンツが映像コンテンツや音楽ファイルをスイスイやり取りできるより強力なブロードバンドが必要になり、光ファイバの普及に拍車をかけることになるだろう。ホームサーバーが市民権を得るのはこのようなときであると考えている。


データリソース社では、「ホームネットワーキング」関連の下記のレポートをお取り扱いしています。

ホームネットワークの利用状況
Ethernet Today, Wireless Tomorrow: A Look at End User Home Network Adoption Trends(米国 インスタット社)   など、「Residential Connectivity」サービスのレポート。

Broadband Access @ Home III (米国 パークスアソシエイツ社)

Primary Perspectives: Profile of Today's Home Network Owner (米国 パークスアソシエイツ社)

欧州のホームネットワーク市場
Understanding the Market for Home Networks in Europe(米国 パークスアソシエイツ社)

家庭向けエンターテイメント市場:機器、技術統合、ネットワーク
Residential Entertainment Technologies - Device Forecasts, Convergence and Networking (米国 アライドビジネス社)

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